私の砂が落ちるまで ②
彼女に初めて会ったのは雑居ビルのエレベーターの中。
作業着に身を包んだお姉さんだったけれど、匂いが違った。
彼女は彼女で……あからさまに私を拒否っていた。シャットアウトしようとしていた。
いったいなぜ??
私の感性のアンテナの先は、彼女の繭に触れてオジギソウの様に緩やかにしなだれているのに。
彼女は自分のガラス片の繭にビリリ!と電気を流して、私の“オジギソウ”をパシン!と弾いた。
裂けた感性の傷口が彼女の繭の切っ先に触れた刹那、激しく彼女を感じた。
私の“業”が蠢いたのか……激しい渇きに襲われて、潤んだ瞳でそっぽを向いた彼女のポニーテールを凝視する。
どうしても
どうしても
彼女に
“触れたい!!”
エレベーターのドアが開いて、下りて行った彼女からは……ザラッとした機械と油の匂いに混じって吐息のピーチの香りが微かにした。
例え自分自身をフレグランスで押し固めていても、違った香りは捉えられるし、それだけで、勘の鋭い私には察しがついた。
『彼女の“時間”はお金で買う事ができる』
早速現金を用意して“あの”マネージャーに交渉しよう!
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握りしめたスマホに私は願いを込めていた。
ブルッ!と震えてメッセが表示される。
『OK ロリータファッションはNG』
撮影のお仕事がもう始まってしまう。急がねば!!
私は大急ぎでメッセを入れる。
『服の件、了解しました。 いつデートしていただけるか、ご都合をお伺いしたいのですが』
日時と場所のやり取りの後、たぶん“あの人”からの『OK』のスタンプに、私がスマホを抱きしめた時
「あかりちゃ~ん!! お願いいたしま~す!!」
と声が掛かった。
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約束の前の日からホテルにチェックインしていそいそと準備した。
時計を何度も眺めて約束の時間を心待ちにしている。
まだ時間には早いのだけど、待ちきれなくて
今日の自分を鏡の前でもう一度チェックする。
前髪パッツンはそのままだけど髪には緩くウェーブを掛け、オレンジのワンピースに大ぶりのピアスで、シンプルなストローハット。
背の高い“あの人“となるだけ視線を絡めたいから、いつもより踵の高いサンダルを履いた。
随分前に待ち合わせ場所に来たのに、程なく“あの人“はやって来た。
白シャツにケミカルウォッシュのジーンス、キャップにポニーテールで……
ああ!!
好き!
大好き!!
“あの人“の元に早く辿り着きたい気持ちと履きなれないサンダルとがギクシャクして、踵を擦ってしまい、駆け寄った“あの人“の手に縋ってコッソリとニヘラした。
「あのさ!サンダルは慣れたのを履かなきゃ!」
と優しく叱ってくれてサンダルを脱がすその指が触れてピクン!と感じた。
けれども……せっかくのデートで絆創膏は辛いなあと、少ししょんぼりしたら
「なるだけ目立たない大きさのを貼るから」となだめてくれた。
その手に育んでくれたサンダル履きの足をそっと地面に置いて微笑むと
あの人は自己紹介をした。
「初めまして、冴子です。あなたは何とお呼びしますか?」
「あかりです。あかりちゃんと呼んでいただけると、嬉しいです」
こうして私達の“デート”は始まった。