私の砂が落ちるまで ①
二日目の今日はあかり視点となります。
まずはプロローグ的にあかりの“人となり”を書きます。
長い『津島家の歴史』の中で、おそらく、こういう節目がいくつかあって……その順番が回って来たのが私。
私は種を育てるべき畑
畑は肥沃で無ければならず
その資質が私にはあった。
それが私の“業”だ。
小学校の頃は分からなかった。
ただ『書道』はあっという間に段を取ったし、ピアノの発表会は同世代ではいつもトリだった。
だって、いつの間にか私のまわりが居なくなってしまったから。
人並みに『王子様がやって来る将来』を夢見ていた小学校時代はそんな感じで済んでいたのだけど……中学生になって憧れの先輩ができた。
竹田センパイと前橋センパイ
前橋センパイは釣り部でちょっと無理そうだから、竹田センパイが男子部の部長をやっている軟式テニス部へ入部した。
活動自体は男女別々だっだけど指導は3年の部長クラスがしてくれる事もあり、私は竹田センパイに“食らいついた”
結果、大会で準優勝になった。
でも私は準優勝と言う結果にトロフィーを抱いたまま悔し涙にくれた。
そして更にテニスにのめり込んだ。
竹田センパイを巻き込んで……
次の大会で私は優勝したけれど、竹田センパイはクラブを辞め、高校では引きこもりになった。
次に誘われたのは美術部
半年後にはアートクラブグランプリで文部科学大臣賞を獲ったけど、誘ってくれた結花ちゃんはアニ研へ行ってしまった。
私の部屋に賞状やトロフィーが増えるたびにお友達や憧れの人は遠ざかっていく。
理由が分からなかった
自分の“内なるモノ”に目を背けていたのかもしれない。
周りの大人たち……お父様やお兄様までもが私をもてはやす中、お母様だけは私の“何か”に気付き始めた。
それが決定的になったのは……
偶然覚えてしまった“秘め事”を夜ごと繰り返してしまう様になり、“後始末”をしようと廊下を忍び足で歩いていて、お母様と鉢合わせした時。
お母様は私の顔に驚いて手に持っていたお盆を取り落とした。
物心ついてから、そんなお母様を一度も見た事が無かったのに……
津島家では子息は公立の学校に通う事が暗黙の決め事だったけど、お母様だけがそれに強く反対して、何度も話し合いを重ねた上で、私は私立の女子高へ通う事となった。
お母様はきっと、女子だけの空間なら少しは私の状況が変わるのかもと思ったのだろう。
でも、私の……納得しかねる心の内から来るお母様への反抗と体の中に確実に芽吹いている“業”とが絡み合って、この“女子高生活”に根を生やした。
私、灯子は“誘蛾灯子”
最初は先輩、それからクラスメイト、ついには後輩と……
イケナイ遊びに耽り、彼女たちの“才能”をも食い尽くした。
何をやっても“出来てしまう”私の表の顔は優等生で学校の華
でもその実態は“ウツボカズラ”で“冬虫夏草”だ!
その正体に私自身がハッキリ気付いたのは
後輩と泊まったホテルで、夜中に見た鏡に写った自分の顔。
かつてお母様が私に感じた恐怖を私も感じて悲鳴を上げ、手元にあったT字カミソリで、下腹部をガリガリに引っ搔いた。
そこから先、色んな理由で私の下腹部は傷だらけだ。
大学に入って……
どうしても参加しなければならなくなったコンパの三次会で男達に襲われた。
それなのに!!私は恥ずかしげもなく狂い、乱れてしまった。
その様を取られたビデオを証拠にされて刑事事件として立件すらされなかった。
どんな種が蒔かれても、大きく育て、大輪の花を咲かせる。
それが善だろうと悪だろうと
それが“畑”の役割
畑はそれが毒だろうと薬だろうと“耕す者”を素養として取り込み種を育てる養分にする。
この事が“津島家”という大木を永遠に存続させる源となる。
それが私に課せられた“業”
だから私は“津島灯子”と言う名を棄て、行方をくらませた。
周りの人々の才能や能力を容赦なく食い尽くし取り込む己の“業”から逃れる為、家を名を捨て自分の命まで捨て去ろうとする灯子は、この後、どうなってしまうのか……