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想い人は私の時を止めた ⑤

「そうなんだ… 冴は()()()()()()とお腹いっぱいになるんだ……」


「うん……」


「そんな感じ方って、冴自身が男の子みたい」


 あかりは枕に半分顔を埋めてクツクツと笑う。


「今は?」


「全然いっぱいにならない」


「でも、冴、さっきはすごくなってたヨ」



 いったい私はどうなってしまったんだろう

 自分でも訳が分からない。


 と「クゥ~」って、お腹が鳴った。


「あ、冴の()()()空いてる」

「ホントだ!」


 二人同時に吹き出して


 ケラケラ笑って


 またキスをして


 またケラケラ笑って


 こんな遊びを繰り返した。


 二人一緒にお風呂に入って

 色んな話をして

 またシて

 洗いっこして

 また色んな話をして

 結局、またシて

 また

 洗いっこ!


 幸福は尽きることなく


 クタクタになって


 ようやく二人抱き合ってベッドに入った。



 。。。。。。。。。。


 一夜にして、どっぷり恋に落ちた私は

 今まで味わったことのない切なさに取り憑かれた。


「アドレス交換しよ!」

 QRコードを出してあかりとアドレス交換する。


「冴! バスローブ紙袋に入れてもらっていい? 処分するから」


「持って帰るよ。あかり!私の部屋に遊びに来て! またお揃いで着よ!」


 あかりは唇をキュッ!と結んでから、顔いっぱいの笑顔を作って頷いた。


 いよいよお別れの時が来て……

 キスをした後、「見送られると、行きたくなくなってしまうから」と、私を先に行かせようとしたのに

 あかりは私の袖を掴んで引き留めた。

「もう一度」


 長く長く熱いキスを交わして 二人 身を分けた。



「うん!! 連絡する!!」

 それがあかりがくれた最後の言葉……


 けれども……

 ずっと待っていたのに、

 あかりからの連絡は

 無かった。



 --------------------------------------------------------------------


「やっぱり私は金で買われただけだったのだろうか?」


 鳴らないスマホを眺めている時だけでは無く、機械を抱きかかえながら修理をしている時にも、不意にこの言葉が現れる。


 当たり前の事じゃん。

 それが私の生業(なりわい)だったでしょ?


 なのに、今の私は、悲しくて悲しくて

 泣いてしまっている。


 なんて弱い私


 これから先、こんなんで生きていけるのかなあ


 とりあえず、住むところは持っている。

 慎ましくしていれば、何年かは食い繋げる。


 でもそれは生存の可否の話


 幸せってなんだろう?

 縁のないことだったけど


 知らない方がいい事はあるけど、知ってしまった事が幸せだったのかどうか、分からない。


 やっと鳴ったスマホに飛びついたら

 マネージャーからだった。



 --------------------------------------------------------------------


 重い足取りで事務所に来てみると、

 マネージャーは赤で囲んだ新聞を放り投げて寄こした。


『ロリータ“少女”死のダイブ』


 全身の血の気が引いた。


「?!!?!!?!!!」



 ()()()()にボコられた時のように、私の中の()()()()()()が動作し始めた。


 マネージャーの言葉と活字を拾う。


『マッポ』『丸く』『伏せる』『新聞沙汰』『ホテル』『裏階段』『飛び降り』『裏取り』


「裏取りで呼ばれてる。まあ却って簡単だよ。金つながりなだけだから……」


「……で、いつですか?」


「今から! ここへマッポが来られちゃマズいからサツまで送って行ってやる。あと、ウチとの契約は終了な。お前もしばらくは大人しくしてな!」



 --------------------------------------------------------------------


 警察での事情聴取は、確かに裏取り程度のものだった。

 私にとって、悲しい“証拠”があったから……


 うらぶれたサラリーマンみたいな捜査官がホテルの紙袋から、1枚の写真とストローハットを取り出した。

「ま、あんたへの遺品という事らしい。写真はコピーを取らせてもらった。証拠だからな。まあこれ以上の事件性が無ければ提出する必要は無い」


 ストローハットはあかりが被っていたもの。そして写真は、あのジェットコースターの時のだ……


 裏に、あかりが書いていた。


 最初で最後の彼女からの自筆のメッセージ。

 そう思うだけで、悲しみの淵に落ちそうになるのを必死に堪えた。


 警察を出て、一番最初のコンビニに飛び込んで、イヤホンを買った。


 歩いて歩いて、観覧車に辿り着いた。


 カゴが私を青い空へ持ち上げて行く。


 私は、写真の裏に書かれた、最後の文字をスマホで検索する。


『Have You Ever Seen The Rain ♪』

『今はスマホですぐ曲が買えるんです』というあかりの言葉が耳に残っていて、私は涙を落としてしまう。


 ダウンロードした曲をPLAYにして、歌詞も表示した。


 それからもう一度最初から、写真の裏に書かれたメッセージを読み始めた。



 --------------------------------------------------------------------


 ずっと眠れなかった私が、少しの間だったけど、あなたの腕の中でまどろむことができました。

 目が覚めて、あなたの顔が見られたのがとても幸せで、キスをしました。

 あなたの寝顔、とてもかわいいんだよ。あなたの腕からそっと抜け出して、今、これを書いています。

 たった1日のお付き合いだったけど

 心からあなたを愛しています。


 あなたが寒そうにしているので、腕の中に戻りますね。



 あなたからアドレスを交換しようって、ウチへおいでって言われて、

 嬉しくて嬉しくて嬉しくて


 決心が揺らぎました。


 あなたのところへ今すぐ飛んでいきたい!


 でも、私はきっと、もうすぐ、壊れます。

 そしたら、自惚れかもしれないけど

 あなたも

 壊してしまう。


 だから、行きます。


 あなたにたくさん迷惑をかけてしまいます。

 ごめんなさい。


 でも、あなたの壊れたものもまとめて持っていきますから

 だって私はあなたの鏡だよ

 ふたつからひとつになって

 またふたつになって

 ひとつになるの


 幸せってなんなのか、私もわからないけど、

 あなたの幸せはきっと叶います。

 私が叶えます。

 だから心配しないで

 愛するあなた

 愛しいあなた

 いつもそばにいて

 守っているよ


 P.S. もし生まれ変わりがあるなら

 色々考えてみたけれど、あなたの子供になりたい

 もちろん 女の子で





 Have You Ever Seen The Rain ♪



 --------------------------------------------------------------------


 カゴの外にあのホテルが見える。

 あかりが飛んだ、裏階段が

 見える

 晴れた青い空の中


『こんな空の日に、飛びたいなあ』

 というあかりの言葉と歌詞のフレーズが重なる。

 鍵が開いた。


 誰もいない青い空の中


 私は

 私は!

 慟哭した。

 空が割れて、

 あかりが戻って来られることを

 ただ

 ただ


 祈りながら




 。。。。。。。




 イラストです。



 冴子


挿絵(By みてみん)



 あかり


挿絵(By みてみん)







こうして冴子の前からあかりは消えました。


明日はあかりの目から見た“風景”を書きます。



ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!

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