想い人は私の時を止めた ③
最後に乗ったのは大観覧車だ。
平日の午後で……観覧車は拍子抜けするくらい空いていた。
青空の中に、観覧車のカゴが浮かぶ。
対面で座っているあかりは空を見上げている。
「こんな空の日に、飛びたいなあ」
その言葉で彼女の目を覗き込んだ私にあかりは言葉を続けた。
「空を飛ぶ夢を見たことはありませんか?」
私は……無いかも……
「私はこんな青い空の中、飛んでる夢を見たいかな…… あ、あれ、ちょうど真横のあのホテルに部屋取ってます。だから私は手ぶらなので~す」
あれは五つ星ホテルだったな……ぼんやり考えていると今度は彼女が私の目を覗き込んだ。
「ハイ!告白タイムです!」
「えっ?! 何?」
「二人っきりの観覧車は告白する場所なので~す」
「いやいや決まってないって」
そんな私を無視して彼女は手を挙げる。
「まず私から! 冴子さんの嫌いなロリータファッション、実は私も好きではありません」
「なぜ?」と目で問い掛ける。
「あれは私にとって仮面と鎧です」
「?」
彼女はすぅーっと息を吸って私に言葉を投げかけた。
「3年前のコンパの席で、私は強姦されました。 マワされました。 でもその最中、感じてしまいました。何度もイキました。しかもそれをビデオに撮られました。
そのせいで刑事事件として立件されませんでした。
どうしようもない、ホントどうしようもない、女です。私は
だから仮面と鎧で、オトコを遠ざけてま~す!」
明るい口調でこんな事をぶつけられて、私はなんて返していいか分からなかった。
すると彼女は自分のスマホを取り出した。
「嘘ではありません。そのビデオ、このスマホの中にもあります」
それからウィンクして私ににじり寄った。
「次は冴さんの番ですよ」
「私は……無いよ」
「嘘です!丸わかりです」
「ホント無いったら!」
「嘘をつきとおすなら」と彼女は私の隣にグイッ!と座ってスマホを立ち上げ、
「私のビデオ、見せますよ!」と私の目の前にスマホのサムネイルをかざした。
私は観念してため息をついた。
「分かったよ。
私は……援交かな。
それはもう、果てしなくやった。
怖い目にも何度かあった。
一番酷かったのはどこかのジュニアの絡みでボコボコに殴られて……鼻も歯も折れて、あごも砕けて半年以上、顔がまん丸に腫れたこと。
でもこういう相手の時にやるいつもの用心でビデオカメラを仕込んでおいたので、その一部始終をネタに顔もIDも別人の自分を手に入れた。
せっかくただれた自分からクリアになれるチャンスだったのに…… いつの間にか自分の故郷であるここに戻ってきて、相変らずな事をしている」
ふと彼女をみると目からいっぱい涙を落としている。
ちょっと違うだろ! 私なんかの為でなく、自分の為に泣くべきだ。
「無理に聞いて、ごめんなさい でも……」
と彼女は私の手を取り、“恋人繋ぎ”をした。
「私達って鏡みたい」
観覧車のカゴは頂上まで来て、青い空から降り注いでくる光をまんべんなく受け止めていた。