表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

想い人は私の時を止めた ③

 最後に乗ったのは大観覧車だ。


 平日の午後で……観覧車は拍子抜けするくらい空いていた。


 青空の中に、観覧車のカゴが浮かぶ。


 対面で座っている()()()は空を見上げている。


「こんな空の日に、飛びたいなあ」


 その言葉で彼女の目を覗き込んだ私に()()()は言葉を続けた。


「空を飛ぶ夢を見たことはありませんか?」


 私は……無いかも……


「私はこんな青い空の中、飛んでる夢を見たいかな…… あ、あれ、ちょうど真横のあのホテルに部屋取ってます。だから私は手ぶらなので~す」


 あれは五つ星ホテルだったな……ぼんやり考えていると今度は彼女が私の目を覗き込んだ。


「ハイ!告白タイムです!」


「えっ?! 何?」


「二人っきりの観覧車は告白する場所なので~す」


「いやいや決まってないって」


 そんな私を無視して彼女は手を挙げる。


「まず私から! 冴子さんの嫌いなロリータファッション、実は私も好きではありません」


「なぜ?」と目で問い掛ける。


「あれは私にとって仮面と鎧です」


「?」


 彼女はすぅーっと息を吸って私に言葉を投げかけた。


「3年前のコンパの席で、私は強姦されました。 マワされました。 でもその最中、感じてしまいました。何度もイキました。しかもそれをビデオに撮られました。 


 そのせいで刑事事件として立件されませんでした。


 どうしようもない、ホントどうしようもない、女です。私は


 だから仮面と鎧で、オトコを遠ざけてま~す!」


 明るい口調でこんな事をぶつけられて、私はなんて返していいか分からなかった。


 すると彼女は自分のスマホを取り出した。


「嘘ではありません。そのビデオ、このスマホの中にもあります」


 それからウィンクして私に()()()()()()


「次は冴さんの番ですよ」


「私は……無いよ」


「嘘です!丸わかりです」


「ホント無いったら!」


「嘘をつきとおすなら」と彼女は私の隣にグイッ!と座ってスマホを立ち上げ、

「私のビデオ、見せますよ!」と私の目の前にスマホのサムネイルをかざした。


 私は観念してため息をついた。


「分かったよ。

 私は……援交かな。

 それはもう、果てしなくやった。

 怖い目にも何度かあった。 

 一番酷かったのはどこかの()()()()の絡みでボコボコに殴られて……鼻も歯も折れて、あごも砕けて半年以上、顔がまん丸に腫れたこと。


 でもこういう相手の時にやる()()()の用心でビデオカメラを仕込んでおいたので、その一部始終をネタに顔もIDも別人の自分を手に入れた。


 せっかく()()()()自分からクリアになれるチャンスだったのに…… いつの間にか自分の故郷である()()に戻ってきて、相変らずな事をしている」


 ふと彼女をみると目からいっぱい涙を落としている。


 ちょっと違うだろ! 私なんかの為でなく、自分の為に泣くべきだ。


「無理に聞いて、ごめんなさい でも……」


 と彼女は私の手を取り、“恋人繋ぎ”をした。


「私達って鏡みたい」


 観覧車のカゴは頂上まで来て、青い空から降り注いでくる光をまんべんなく受け止めていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ