想い人は私の時を止めた ②
待ち合せの場所へ自分の足で行くときは、私はかなり早めに到着して、実は様子を見ている。
なのに私が“港街ゆうえん地”へ行ってみると……いったいどれくらい前から来ていたのか、エンランス脇のちょっとした植え込みの前で彼女は立っていた。
オレンジのワンピースに大ぶりのピアスで、シンプルなストローハット。
ただ、緩くウェーブを掛け、流してはいるが前髪パッツンと姫カットの名残りがあるのと
風に乗って、あの甘い香りがしたので、それと分かった。
私はと言えば、彼女の“お好み”に合いそうな白シャツにケミカルウォッシュのジーンス、キャップにポニーテールだ。
と、待っている彼女と目が合った。
彼女の表情全体が、パーっと明るくなったのが遠目からでも分かった。
『なんだ。普通にしてれば、可愛いじゃない』
それが彼女の第一印象だった。
駆け寄ろうとしてちょっとギクシャクした彼女を私はベンチに座らせた。
「あのさ!サンダルは慣れたのを履かなきゃ!」
との私の言葉に舌を出す彼女へ
「テヘペロはいいから」と返して
背負っていたリュックを下ろし、仕事用の絆創膏セットを出す。
彼女のサンダルを脱がして親指に触れると、足がピクン!と揺れる。
「動くと貼れない。踵にも貼った方がいいね。もちろん両足とも!」
彼女が少し悲しそうな顔をするので
「なるだけ目立たない大きさのを貼るから」となだめた。
ベンチに座ったままサンダルの具合を確かめる彼女に聞くべき事を……私は思い出した。
「初めまして、冴子です。あなたは何とお呼びしますか?」
肩に小さなショルダーバッグを掛けただけの彼女は、その肩紐に両手でつかまったまま小さく答えた。
「あかりです。あかりちゃんと呼んでいただけると、嬉しいです」
「ん、あかりちゃんね! さて、あかりちゃん何から始める?」
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コーヒーカップのグルグル回るやつ。
私は苦手だ。
なんだか自分が洗濯機に放り込まれている気がする。
それから次はジェットコースター。
彼女はノリノリで叫んでいるが、私は安全バーが冷や汗でじっとりするほど握り締める始末だ。
散々な目に遭った後、降り口のモニターに満面の笑みのあかりと情けない表情の私が写っている。
どうやらこのモニターの映像を記念写真にするらしい。
「それ!買うの?」
すっ飛んで行く彼女を引き留めようとしたが、さっさと写真を買われてしまった。
「冴子さんは買わないんですか?」
「誰が! あの顔は私の黒歴史!」
彼女はクスクス笑って、私の腕につかまって来る。
「そうなんですか~? 見たくなったら言って下さいね」
と憮然とした私を見て面白がった。