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私の砂が落ちるまで ⑤

 アドレスを交換した後で、バスローブを処分しようと冴に声を掛けたら


「持って帰るよ。あかり!私の部屋に遊びに来て! またお揃いで着よ!」

 って言ってくれた。


 寝覚めに、腕の中の私にキスをくれて

「あかりに恋した」って私をギュッ!てしてくれたのは、本当だったんだ。


 私の事を『お客としてじゃなく』好きになってくれたんだ!!


 涙が零れそうになる。


 嬉しくて嬉しくて嬉しくて

 このままずっと冴と居たくなる


 私の中の砂時計をひっくり返して冴との未来を夢見たくなる。


 でも……


 でも!!


 それはダメなんだ!!!


 私は唇をキュッ!と結んでから、顔いっぱいの笑顔を作ってみせた。


「うん!! 連絡する!!」


 その途端、冴はガバッ!と私を抱いて熱い熱いキスをくれた。


 私も、冴の全てをこの身に焼き付けようとカノジョを貪った。



 私はあなた、あなたは私。


 あなたが自分の心を割り砕いて繭を紡ぐ事もこの身にすっかり取り込んだよ。


 これであなたの“業”と私の“業”をしっかり抱き合わせて粉々に砕いてしまえる。


 あなたを……本来のあなたへ戻してあげられる。



 私よりずっと年上の冴


 でも私は

 あなたの母になります。

そして、これからのあなたが生きやすい様に……私が持っているものの全てをあなたへ引き写します。


 あなたを遺して逝くのはとても辛いけれど

 あなたのお陰で私は自分の生の意味を知ったのです。


 だからどうか、それを全うさせて下さい。


 今まで生き延びて良かったと思わせて下さい。



 キスをした後、「見送られると、行きたくなくなってしまうから」と、冴を先に行かせようとしたのに

 袖を掴んで引き留めてしまった。


「もう一度」

 私は涙が流れ込まない様に必死に我慢しながら、冴と長く長く熱いキスを交わした。



 名残惜しさの糸をようやく絶ち切って二人 身を分けた後……キャップの後ろで揺れる冴のポニーテールを見送った。


 そしてドアが

 ゆっくりと閉まると

 私は床に突っ伏して泣いた。



 しばらく泣き伏した後、私はテーブルに向かって遺書の続きを書き始めた。


 最初はしゃくり上げながらだったけど、写真の裏へ一文字一文字書いていくうちに落ち着いて来た。



 全てを消去して……今はこの1曲を奏でるだけのプレーヤーと化したスマホは私の傍でずっと唄っていてくれる。



 ≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁


 あなたからアドレスを交換しようって、ウチへおいでって言われて、

 嬉しくて嬉しくて嬉しくて


 決心が揺らぎました。


 あなたのところへ今すぐ飛んでいきたい!


 でも、私はきっと、もうすぐ、壊れます。

 そしたら、自惚れかもしれないけど

 あなたも

 壊してしまう。


 だから、行きます。


 ≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁



 ここまで書いて、私が死んだ後の事に思いを馳せた。


 この遺書は冴の元に届いて欲しいけど届いて欲しくない。


 冴の元に届くという事は、カノジョに迷惑を掛ける事だから……


 私との事は、『所詮、客がやってしまった“遊び”の範疇だった』と思わせるのが冴の為だし、ホテルも偽名で泊まって現金の入った封筒をこうやってテーブルの上に置いてある。


 でもきっと、警察はこういう事には優秀だから冴に行き着くのだろう。


 だから間違っても冴が“容疑者”にならないよう、遺書を書く意味があるんだ。



 ≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁


 あなたにたくさん迷惑をかけてしまいます。

 ごめんなさい。


 でも、あなたの壊れたものも一緒に持っていきますから……


 だって私はあなたの鏡だよ

 ふたつからひとつになって

 またふたつになって

 ひとつになるの


 ≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁



 書きながら私は……もう離れてしまった冴に語り掛ける。


 冴! 私の冴!


 あなたの幸せを心から願います。

 いや、そうじゃない!

 あなたの幸せがどこにあるのか、まだ私には分からないけど



『まだ』


 って言葉が使える気がする。


 あなたの傍に居続ける事が

 できる気がする。



 ≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁


 幸せってなんなのか、私もわからないけど、

 あなたの幸せはきっと叶います。

 私が叶えます。

 だから心配しないで

 愛するあなた

 愛しいあなた

 いつもそばにいて

 守っているよ


 ≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁



 書き終えて……もうどうでもいいはずなのに油性ペンのキャップをキュッ!とはめた。


 たった今、書いた言葉が私の胸に鳴り響く。


『愛するあなた』

『愛しいあなた』



 ああやっぱり……

 逢いたい!

 冴に逢いたい!!


 私は油性ペンのキャップをもう一度外した。



 ≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁


 P.S. もし生まれ変わりがあるなら

 色々考えてみたけれど、あなたの子供になりたい

 もちろん 女の子で





 Have You Ever Seen The Rain ♪


 ≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁≁



 そう、メロディは……


 今流れているこの曲の乾いたのがいい。



 書き終えた遺書を手に取り、ひっくり返して“可愛い冴との”写真を見る。


 確かに私 この時、幸せだった。


 写真をテーブルに戻し、上からそっとストローハットを被せる。


 ホテルのカードキーもテーブルの上。


 開かない扉は少しの間くらいは、写真と帽子のハネムーンを保ってくれるでしょう。



 私の砂時計の砂は

 ほぼ落ちた。


 後は

 ガラスの内側に僅かに取り残された物を

 コツンと弾いて落とすだけ



 私は唄だけ連れて部屋を出た。


 静かな廊下を渡って


 鉄の扉から外階段に出る。




 良かった。風も無くよく晴れている。


 スマホの音楽を止め

 空虚な画面を指で撫でる。


 かつて冴がくれた

『OK』のスタンプを思い出す。


 もう消してしまったけど。



「あっ!!」


 頬を撫でたそよ風が私の目を青空の向こうへ導いた。


 今まで流れていた唄を口ずさみ、私は手すりにつかまった。


 そして大きく深呼吸すると



 この身を青空へと勢いよく投げた。






 。。。。。。



 イラストです。



 外階段でのあかりちゃんです。


 大人っぽくなるように心掛けました。




挿絵(By みてみん)







この後のお話が私達姉妹の代表作 


『こんな故郷の片隅で 終点とその後』

https://ncode.syosetu.com/n4895hg/


となります。


一所懸命書きました(未完ですが本編は終了しています)


併せてご一読いただければとても嬉しいです!!



ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!


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― 新着の感想 ―
あかりさんの死に、もう他人の私が、どうという事はありません。 ただただ心の中に『Have You Ever Seen The Rain』の曲が流れ続けました。
[良い点] やっぱりラスト、哀しいですね。 あかりさんはきっと、望みうる最高に幸せな形で死を迎えたのでしょう。 正直な話、幸せを感じる一瞬に死にたくなる気持ち、私も凄く良くわかります。 あかりさん…
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