想い人は私の時を止めた ①
この物語は私達姉妹の代表作『こんな故郷の片隅で 終点とその後』https://ncode.syosetu.com/n4895hg/
の前日譚となります。
いつもはスマホでのやり取りで終始しているので……実際に事務所に顔を出すのは久しぶりだった。
で、出されたお茶も飲まずにマネージャーとテーブルをはさんで押し問答をしている。
内容は……すぐ隣で経営している、表向きの看板はエステクラブの『百合関係』のお店の顧客の件でだ。
「私は“女”はダメだって!」
「お前ならできる!」
「なんだよ!それ」
「百戦錬磨だろ」
「女はゼロ戦だ」
マネージャーは茶をすすって私を説得にかかる。
「そう言うなって!お前をご指名なんだよ」
私はタバコの煙を吐き出す。
「“向こう”の客なんて、会ったことない」
「心当たりあるはずだ!目立つお客だから。ロリータファッションの」
あぁ! エレベーターで乗り合わせた。
レースやフリルが盛りだくさんのワンピースに、賑やかに造花のくっついたストローハット、エレベーターに充満する喧嘩腰の強く甘い香り。
「あの時の私、ほぼ作業着だったよ。副業の。店の女の子の雰囲気じゃない」
「所属の女の子と分かったのはお客様の眼力じゃねえのか?」
「ふざけんなよ」
テーブルに上にはかなり厚めの銀行の封筒が2つ置かれている。
こいつ、現金前払いで既に仕事請けてやがるな。
「条件は?」
「昼間デートして、ホテルで1泊」
「私、常識的な事しかできないけど」
マネージャーはお茶を吹きそうになってむせた。
「常識的って!お前、何よ、それ」
「人を非常識の塊みたいに言うな!」
「まあ、あちら基準でのアブノーマルな事はしないよ」
「あと、ロリータファッションはダメだ! 勘弁してくれ! 無理!」
「分かった」とマネージャーはスマホをいじる、と即レスで返事が来た。
スマホの画面を私に見せる。
『服の件、了解しました。 いつデートしていただけるか、ご都合をお伺いしたいのですが』
私は機器メンテナンスのバイトのカレンダーと体調のカレンダーを頭の中で広げてみた。
「なるだけ早い方がいいかな……今週の土曜日くらいまでで、できれば平日で」
『木曜日はいかかでしょう?場所は“港街ゆうえん地で”』
遊園地かよ…… ま、いいか
私はマネージャーのスマホから『OK』のスタンプを送った。
「よし!契約成立な!!」
とマネージャーは封筒の一つを私に渡した。
「良かったよ。“向こう”の女の子、みな怖がっててさ!どんな理由かは言わんのだけど……」
「そんな事今更言うか??」
「大丈夫!お前逞しいから」と軽口を叩いたマネージャーはふと真顔になる。
「でも、カードとかは、気をつけてな」
「ああ」
このお話には以前、プロのマンガ家であられるサトミ☆ン様から超美麗なFAを頂戴いたしましたが、今回は掲載いたしておりません。
本編 https://syosetu.com/usernoveldatamanage/top/ncode/1884707/noveldataid/22511635/
でご鑑賞ください<m(__)m>