山での出会い 不思議な少女
〈次の日、山の中〉
木々や植物が生い茂る山を、エリスは歩いていた。そしてその後ろを、ジーク、ランス、そして数名の騎士たちが続いていく。
「いやー、それにしても楽だな!やっぱり凄いよな、姫様の魔法!」
ランスは、後ろを見ながらエリスの魔法を絶賛する。一行が歩いた後には、何故か何も生えておらず、一本の道が出来ていた。
「ランス様。そんなに褒めても、何もあげませんよ」
その様子を見て、エリスはクスッと笑いながら手を前にがざす。すると、目の前にある木々が動き出し、左右に割れる。そして一行は、新たにできた道を歩き出す。
「そういえば、お兄様、ランス様。光の球はどうなったのですか?」
ふと思い出したのか、エリスは二人に尋ねる。二人は、それぞれ首にかけてある首飾りを見せ答える。
「それがよー。光の球がうろちょろして鬱陶しいから、捕まえようとして手で触ったら、これに変わってな」
「私のもそうだな。一緒に選ばれたギルもそうだった」
その首飾りは、ジークが金色、ランスは赤色の宝石がついていた。
「何か変わった事はありましたか?」
「さあ?でも、これを持ってると、体が軽くなって力が湧くんだよ」
「私も同じ感じだ」
二人の言葉を聞き、エリスは考える。
(大掛かりな儀式をして、効果がこれだけなんて有り得ない)
「……なるほど、他にはどんな効果が?」
その言葉に、ランスはニヤリと笑い、
「ちょっと持ってみろよ」
エリスに首飾りを渡そうとする。しかし、エリスが掴もうとしても、手がすり抜けてしまう。
「これは……どういう事ですか?」
「面白いだろ。研究者も触れなくて、他にどんな効果があるのか、調べられなかったんだ」
「おそらく、選ばれた本人以外は触れないんだろう」
二人が面白半分で説明していると、エリスはふと気づく。
「ギル?いつの間に、そう呼ぶ様な仲になったんですか」
「昨日の夜、訓練場で偶然あってな。選ばれた者同士だから仲良くしようって言って、名前で呼び合う事になったんだ」
「そうだな。それで、三人で模擬戦したりして、結構強かったぞ」」
「そうなのですか」
話をしながら、三人と騎士たちは山を歩いていく。
「本当にこんな所に四人目がいるのか。誰もいないじゃないか」
ランスの言葉通り、森の中を進んで行くが誰一人見当たらない。
「しかし、光は確かにここに飛んでいった。きっと誰かいるはずだ」
ジークがそう言うと、騎士が何かを発見したのか、声をあげている。そこへ向かうと、結界に囲まれた小さな木の家があった。
「マジか。もしかして、これが魔女の家か?思ったより小さいな」
「そうだろうな。しかし、この結界は一体なんだ?」
「分かりません。侵入者防止用の結界……という訳ではなさそうですね」
各々が意見を言い、エリスが結界を触って確認しようとするも、実体がないのか手がすり抜けてしまう。
「中に入れそうですけど、どうしますか?」
「……今のところ、これが唯一の手がかりだ。入ってみるしかないだろう。何が出てくるかわからん。全員気を引き締めろ」
エリスの提案に、ジークは少し考え決断する。他の者たちも賛成し、慎重に結界の中に入っていく。
何事も無く、全員が結果の中に入ることができ、そのまま家の前まで歩いていく。
「誰かいないか。聞きたいことがあるのだが」
ジークが、ドアをノックして呼びかける。しかし、返事はない。
「どうする?入っちまうか」
「……そうだな。誰もいなくても、何か手掛かりぐらいあるかも知れない。お前たちは、何かあった時の為に外で待機していろ。ランス、エリス行くぞ」
ランスが提案すると、ジークは少し考え騎士たちに指示を出し、三人で家の中に入っていく。
家の中は、家具が一通り揃っているが、床には散らばった本や紙が足の踏み場もないほど散乱している。
「うわっ!魔女は片付けが出来ないのか?」
ランスは、思わず声をあげながら、部屋を見渡す。しかし、手掛かりになるようなものは見つからない。
「ランス、そんなことより人が住んでいるかどうか、痕跡を探してくれ」
「痕跡って言われてもなぁ……。あーもう、分かったよ」
ジークに急かされ、ランスは部屋の隅にある机の下などを覗いていく。
「姫様も手伝ってくれよ!」
「仕方ありませんね」
ランスが頼むと、エリスも床にある本などを拾い始める。
「私は、奥の方を見てこよう」
ジークはそう言いながら、奥の部屋に入っていく。
その部屋は、窓際にベッドがあり、その隣にクローゼット、床は同じ様に散らかっていた。
「……誰もいないな。寝室か」
部屋を見渡し、ジークが呟くとクローゼットを開ける。中には、黒いフード付きローブが複数入っていた。
「…埃は溜まっていない。誰か住んでいるようだな、留守か。」
そう言って、クローゼットを閉め今度はベッドの方を探す。よく見ると、ベッドの上にある布団が、不自然に膨らんでいることに気がついた。
「何か隠しているのか?」
ジークはベッドに乗り、布団をめくった。そこでジークは驚く。
「なっ⁉︎」
そこには、銀髪の少女が眠っていた。とても気持ちの良さそうに寝ているのを見て、ジークは声が出そうになったが、咄嗟に口を手で押さえた。
(なぜ少女がここに?それに、この髪の色…)
ジークは混乱しながら、もう一度少女を見る。すると、少女は布団が無くなった事に気付いたのか、
「ん〜、ふぁ〜」とあくびをしながら、目を擦り起き上がる。起きたばかりで、寝惚けているのかボーっとした表情で周りを見渡している。そして、ジークが視界に入ったのか、綺麗な紫眼を半目にして、見つめてくる。
(寝惚けているのか?それに、髪に続いて眼の色も…いや、今は光の手掛かりだ、だが…)
ジークは、戸惑いながらも自分がどうするべきか、必死に考えるが上手くまとまらない。
二人がしばらく見つめあっていると、
「おーい、ジーク。そっちなんかあったか?」
そう言って、ランスが部屋に入ってくる。そして、部屋を見渡しジークを見つけ、声を掛けようとするが、
「あ、いたいた。ジーク…はぁ⁉︎えっ女の子⁉︎それに、髪⁉︎いや、眼も⁉︎」
少女を見つけ、ランスは家に響き渡るほど大きな声で驚く。
ジークは、ランスの方を振り向き何か言おうとすると、
「うるさい」
声と枕が後ろから飛んでくる。
「うおっ!……痛ッてぇー」
投げられた枕は見事にランスの顔に命中し、ランスは後ろに倒れ込む。
ジークは、驚いて枕が飛んできた方向を見ると、さっきまで寝惚けていた少女が、不機嫌そうな顔でベッドの上に立っていた。
「人が気持ちよく寝てるってのに、つーかお前何ベッドの上に乗ってんだ。さっさと下りろよ」
「あ、ああ。すまない」
ジークは、戸惑いながらも少女の言葉に反射的に謝り、ベッドの上から下りる。
すると、
「何かあったんですか!っえ⁉︎」
ランスの驚いた声や、倒れ込む音を聞き付けたのか、エリスと外で待機していた騎士たちが、部屋の中に入ってきた。そして、少女に驚く。
「お前たち、その……」
ジークは、何をどう言えば良いのかわからず、言葉が続かない。
「次から次へと、人様の家に勝手に入ってきて、どういうつもりだこの不法侵入者ども。さっさと出ていかねーと、埋めるぞこの野郎」
少女は、物凄い剣幕で、睨み付ける。
「ま、待ってくれ。私たちは怪しいものではない。探し物をしていただけなんだ」
ジークは、慌てて説明しようとするが、少女はそれを無視する。
「そんなもん知るか、さっさと出ていけ」
「ま、待ってください」
そう言って、聞く気を持たない少女を、エリスが止める。
「あなたは、この国の王女である私を知っていますよね?」
「知らん」
「なっ⁉︎」
即答だった。あまりの事に、エリスは一瞬思考が停止する。
「勝手に家に入ってきた事は、すまないと思っている。しかし、私たちにも譲れないものがある。この通りだ、話だけでも、聞いてくれないだろうか」
ジークは、そう言いながら頭を下げる。それを見た他の者たちも、同じように頭を深く下げた。
「……ちっ、話は聞いてやる。だから、さっさと家から出ろ」
「感謝する」
出ていく気がないと感じたのか、舌打ちしながらも少女はそう言った。そして、周りを見渡して、
「はぁ、お前らがぞろぞろ入ってきたから、部屋が散らかったじゃねーか」
と文句を言い出した。
「いや、それは俺たちのせいじゃないと思うけど」
ランスが、ボソッと呟くと、少女はギロッとランスの方を見る。
「あ?なんか言ったかコラ」
「いえ、何も!」
(理不尽だ)
ランスが心の中で思った事を読み取ったのか、少女が睨んでくる。
「とりあえず、ほらさっさと出ろ」
少女がそう言うと、ジークたち三人や騎士たちは、家から出て少女も、後に続いていく。
家から出たジークたち三人は、改めて目の前に立つ少女を見る。
歳はエリスと同じくらいだろうか。銀髪に紫眼という珍しい容姿をしている。それに、とても可愛らしい顔立ちをしていて、身長はエリスよりも少し低く、華奢な体付きだ。だが、どこか不思議な雰囲気を感じさせられる。ドレスでも着れば、どこかのお姫様と言われても信じてしまいそうだ。しかし、着ているのはクローゼットで見た黒いフード付きローブなのが、少し残念に思った。
「で、話って何のことだ。と言いたい所だが、この道は何だ?」
少女は、腕を組み無愛想な顔で尋ねる。
「この山に、道なんかなかったはずだが」
「私の固有適正で作りました」
エリスが応えると、少女は興味を持ったのか話を続ける。
「へぇー、珍しいな。何の属性だ?」
「植物です。こんな感じに植物を生やしたり、操ったり出来ます」
そう言って、エリスは地面に手をかざすと、蔓が生えくる。蔓は、どんどん伸びてエリスを一周する。
「なるほどな。それで、その魔法でここの道を作ったわけか」
少女は、納得したように言う。
「固有適正の魔法は、あまり見れないからな。良いもん見せてもらったお礼に、話を聞いてやるよ」
「ありがとうございます」
エリスは、嬉しそうにお礼を言う。
「まずは自己紹介からですね。私は、この国の王女であるエリスフィア・ヴァイス・ルーベンといいます。エリスとお呼びください。この二人は」」
「私は、ジークフリート・ヴァイス・ルーベン。ジークでいい」
「俺は、ランス・フォン・ノックスだ。俺は二人と違って普通の貴族だな。ランスと呼んでくれ。後ろの騎士たちは、俺らの護衛みたいなもんだ」
三人はそれぞれ名前を名乗る。すると、少女も名乗る。
「アタシは、アイリスだ。で、王族、貴族がわざわざこんな山に、何しにきたんだ?」
アイリスと名乗った少女は、そう尋ねてきた。
「私たちがこの山に来た理由は、人を探しているんです。そこに、あなたの家を見つけまして。この山にいるといわれている、大地の魔女なら何か知っているのではと思い…」
「ばあちゃんなら今いないよ」
「「「え?」」」
エリスが説明していると、アイリスの言葉に、一同は少し時間が止まった。
「だから、ばあちゃんいないって言ってんの。どこに行ったのか知らんけど、そのうち帰ってくるだろう」」
聞き取れなかったと思ったのか、アイリスは面倒くさそうな口調で言う。
すると、意識が戻ってきたのか、ランスが大きな声を挙げる。
「はぁー⁉︎ばあちゃん⁉︎お前の⁉︎えっじゃあ、お前、大地の魔女の孫⁉︎」
「うるせーな、お前。さっきからそう言ってるだろうが」
アイリスは耳を押さえながら、不機嫌そうに応える。
ランスの声で、エリスも戻ってきたのか、驚きつつも話を続ける。
「…あの、大地の魔女なら何か知っているかなと、探している人は、また別の人で…」
「じゃあ、無駄足だったな。この山には、今アタシたちしかいないから」
「そ、そんな……ん?」
(昨日、この山にはこの人しかいなかったってことは…)
エリスは落胆して下を向いてしまうも、ふと気がつき質問する。
「あの、アイリスさん。最近光の球を見ませんでした?」
「光の球?ああ、昨日見たぞ。寝てるアタシの頭の上に浮いてた」
「本当ですか!」
それを聞くと、エリスは嬉しそうにするが、ジークが疑う様な目を、アイリスに向ける。
「待て、エリス。本当に見たのか?君の周りには、光の球は見えないが」
「はぁ?なんでアタシが、お前らに嘘つかなきゃいけないんだよ。眩しいし、うっとうしいから仕舞ったんだよ。ほら」
アイリスは、苛ついた表情で指を鳴らす。
すると、空間に穴が空き、中から光の球と黒い物体が落ちてくる。そして、光の球は宙に浮かび上がり、アイリスの周りを回り始める。
「これで信じたか?」
「何だ⁉︎魔法か⁉︎」
「いや、違う。これは……」
ランスは、その光景を見て驚く。それは、ジークも同じ様で、驚いた様子を見せる。
エリスは、困惑した顔を浮かべるも、すぐに気を取り直し、アイリスに話しかける。
「アイリスさん。あなたも、固有適正を持っているんですか?」
「ん?まぁ、似た様なもんだな」
エリスの問いかけに、アイリスは、はぐらかす様に答える。
「で、結局この光の球何?探している人と何か関係あるのか?」
「はい、関係あります。それに、探している人も、たった今見つかりました。」
「ふーん、そうなのか。良かったな。……ん?たった今?」
アイリスは興味なさげに返すが、最後の言葉に引っかかった。
「はい、探していた人は、アイリスさんです。」
「…………は?」
「さっそくですが、私たちと一緒に来てください」
「断る」
「「「え?」」」
即答され、3人は固まる。