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アタシは二代目大地の魔女だ!  作者: アイン
第一章 ルーベン王国と魔物の大量発生
2/6

選定の儀 光の行方

〈現在〉

世界で三大国と言われている国の一つ、ルーベン王国は今、滅亡の危機に遭っていた。魔物の大量発生である。

 

それは、年に一度や二度起こる事であり、王国も十分対策をしていた。しかし、通常の大量発生なら魔物の数は約五百体なのに対して、今回の大量発生は、六千といつもの十倍近い数の魔物がおり、魔物の上位種である魔獣も五十体確認されている。更には、魔獣の中でも最強格のドラゴンが一体いることが分かった。


王都には避難してきた国民達が溢れている。その中に、親とはぐれたのか泣いている少女がいた。それを見た一人の少年が駆け寄る。

「どうしたんだ?もしかして迷子?」

「うん……」

「そっか……僕が一緒に探してあげるよ!」

そう言い少年は少女の手を取り歩き出した。少女は歩きながら少年に聞く。

「ねぇ、私たち死んじゃうの?」

少年は一度視線を下げた後顔を上げ、

「大丈夫さ!この国の王子様は最強なんだってみんな言ってる。それに騎士団や冒険者だって。何よりも、この国には最高位冒険者がいるんだ!だから、きっと大丈夫」

励ます様に、自分に言い聞かせる様に明るい声で言うと、騎士や冒険者が集められている王城を見上げた。


〈王城、玉座の間〉

「よく集まってくれた!我が国の勇敢なる戦士達よ!!今日皆を集めたのは、この国に迫り来る脅威についてだ!!」

王座の前に立った男が大声で叫ぶ。その男の名はアルフリート・ヴァイス・ルーベン。ルーベン王国の現国王である。そして、集められた騎士や冒険者はその言葉を聞き一層気を引き締めた。

「魔物の数はおよそ六千!そのうち魔獣は約五十、更にドラゴンも確認された!はっきり言おう!状況は絶望的だ!ゆえに私は、選定の儀を行う事を宣言する!」


それを聞いた人々は、言葉を失う。選定の儀とは、王族の中でも膨大な魔力を持つものが自らの血と魔力で、未来の英雄に加護を与える代わりに、儀式を行なったものは永遠に魔力を失ってしまう。それを王はやると宣言した。


「お待ちください王よ!それはあまりにも無謀すぎます!確かに成功すれば、国は救われるかもしれません!しかし、過去には英雄の資格を持つ者がおらず、ただ魔力を失っただけの王もいました!それに、今アルフの魔力が失われてしまえば、それこそ終わりです!」

一人の男が立ち上がり、アルフを必死に止めようとする。動揺し、呼び捨てした事に気づいていないこの男は、アルフの側近であり、親友でもあるダスト・フォン・ノックスだ。そんな男の叫びにも似た言葉に、アルフは笑って返す。

「確かに、お前の言う通り俺が魔力を失うだけになるかもしれない。だがなダスト、俺は王として民を守らねばならないのだ!これは王としての責務であり俺の意志だ!」

「あなたと言う人は……もう何も言いません」

アルフの飾らない言葉を聞き、昔からの幼馴染であるダストは、もう覆す気が無いと確信して肩を下ろした。


「それに、俺には確信がある。少なくとも二人、ここに未来の英雄がいる。そうだろう!ジーク!ランス!」

アルフがそう言うと、二人の青年が前に出る。一人は金髪碧眼、もう一人は赤髪黒目の男だった。二人はアルフの前に立つと頭を下げる。


「はっ、仰せのままに父上。我らが命に代えても民を守り抜きましょう」

アルフを父上と呼ぶ金髪碧眼の青年、ジークフリート・ヴァイス・ルーベンは冷静沈着に応え、

「お任せください王よ!魔物も魔獣もドラゴンも、まとめて俺が叩っ斬って見せます!」

反対に、赤髪黒目の青年、ランス・フォン・ノックスは、アルフの父である王に向かって威勢良く答えた。

二人は共に切磋琢磨してきた幼馴染であり、十七歳の学生でありながら、すでに騎士団でもトップクラスの実力を持っている。


「この二人以外にも、騎士団や冒険者には才能溢れた若者が大勢いる!期待しようではないか!ではこれより、選定の儀を始める!」

そう宣言すると、一人の騎士が古びた聖杯と短剣をアルフの前にある台に置く。そして、アルフは短剣で自分の手首を切り、血を聖杯に垂らす。

「我が名はアルフリート・ヴァイス・ルーベン!王家の血を継ぐ者なり!我が血と全ての魔力を糧に、未来の英雄に加護を!」

そう叫ぶと、アルフから溢れ出した魔力が聖杯に吸い込まれていく。

「うぐぅ!…………これが魔力がなくなる痛みか…」

苦悶の表情を浮かべるアルフを見て、周りの者達は息を飲む。やがて、アルフの魔力が全て聖杯に収まると、聖杯は輝きを放ち始め、周りが光に包まれる。


光が収まると、そこには四つの光の球が浮かんでいた。

「ふー、成功したか。しかし、四つも出るとは、いい意味で期待が外れた」

アルフは、青白い顔で安堵する。

「おお!なんと美しい光だ!」

「さすがは王だ!」

「これでこの国は救われるぞ!」

騎士や冒険者の中から歓声が上がる。

「静まれ!まだ選定の儀が成功しただけだ!誰が英雄になれるかは、これから決まる!気を引き締めよ!」

アルフが一喝して黙らせる。そして、玉座に座り直すと話を続ける。

「この光は、未来の英雄の元に飛んでいき、力や加護を与えると言われている。つまり、未来の英雄は四人だ!」

アルフの言葉に、またも大きな歓声が上がった。


すると、二つの光がジークとランスの元に、一つが冒険者の方に飛んで行く。

「よっしゃー!俺たち、未来の英雄だってさ、ジーク!」

「良かったな、ランス。これで私たちは、もっと国の役に立てる」

「やはり二人には、資格があったか。それで、残る二つは一体誰の所に行くのか、埋まっていた英雄が見つかるのは良いことだな」

アルフは喜ぶ二人を見守りながら、二つの光の行方を追う。


冒険者の方に行った光は、壁にもたれかかっている少年の前で止まった。しかし、少年は下を向いたままピクリとも動かない。

「なんだ?こいつは、寝ているのか?」

「おいお前!起きろ!選定の儀が終わっているぞ!」

周りの冒険者たちは、大声で呼びかけるが、反応がない。

すると、一人の男が少年に近づき、

「起きろ!この馬鹿が!」

と拳を頭に叩き込んだ。ゴンッと鈍い音が響く。

「痛った~!何すんだよオッサン!」

「大事な話の時に寝てるからだ!」

目を覚ました少年は、頭を抑えながら抗議する。

「魔物をぶっ殺しに行こうとしたのに、オッサンが止めたから暇だったんだよ!オッサンが少し話を聞きに行くって言うから聞いてたのに、全然少しじゃねーじゃん!眠くなるわ!」

「逆ギレするな!周りをよく見ろ!」

逆ギレした少年にまた拳を振り下ろす。少年はかわしながら周りを見渡し、

「あぶないだろーが!それに、周りを見ろって……何この光?」

ようやく光に気がつく。


周りの人が呆然としている中、アルフは少年を殴っていた男に尋ねる。

「支部長よ。この少年は冒険者なのか?」

「すいません、お見苦しいところをお見せしました。こいつはギルベルトといいまして、こう見えて一応Sランク冒険者でして、若手で一番の有望株なので連れてきたんです。おいギル。挨拶」

ギルベルトは、黒髪黒眼の目つきの悪い少年だった。十六歳という若さでありながら、最高位の一つ下のSランクにまで上り詰めた、優秀な冒険者である。背中に槍を背負い、腰のベルトに小袋を四つと短剣を差した、少し変わった装備をしていた。


ギルは、アルフに向かい挨拶すると、

「どうもっす。で、この光何?」

支部長に質問した。支部長は呆れながら応える。

「まったく、お前はもう少し礼儀というものをだな……まぁいい。それは選定の光だ。未来の英雄として選ばれし者の所に、飛んでくるんだそうだ」

「へー、そうなんだ。で、俺は英雄に選ばれちゃったわけだ」

ギルは、どうでもいいかの様に言う。

「そういう事だ。さっきからそう言っているだろうが」

「ねー、王様。俺、魔物ぶっ殺せればどうでもいいんだけど」

ギルは、支部長の言葉を無視してアルフに質問する。

「英雄になれば、加護や力を得られるから、魔物を倒しやすくなるかもしれないぞ。それと、できれば国の為にその力を使ってくれると嬉しい」

「え~、めんどくさいなぁ。まあ、魔物ぶっ殺すのは、全然いいけど。だけど、それ以外は俺冒険者だから、依頼出してくれたら考えるかな」

ギルは、面倒臭そうに答える。

「分かった。では、ギルドを通して依頼を出すとしよう。それでどうだろうか?」

「ん~、それならいっか」

アルフは、ギルとの取り引きを終わらせると、最後の光を見る。


最後の光は、あちこちを迷子の様に彷徨った後、凄い勢いで城の外に出ていく。

「おい!急いで方向を確認しろ!」

アルフがそう言うと、騎士達は急いで窓の外を見る。そして、声を震わせながら報告する。

「王様、…あの、…大地の魔女の山に…その、飛んでいきました」

「何!あの山にか!」

騎士の報告に、アルフは驚いてしまう。大地の魔女とは、二百年近く生きており、自分勝手でその昔、大地を操る力で、いくつもの国を滅ぼしたといわれている。

そんな魔女が住む山には、恐ろしくて人は誰も住んでいないはずである。


「あんな所に、何で光が…」

アルフは、どうするべきか考える。

「仕方ない。最後の光は諦めよう。英雄は三人もいるんだ。あとは…」

「お待ちください!」

アルフの言葉を遮る様に、一人の少女が発言する。少女の名は、エリスフィア・ヴァイス・ルーベン。長い金の髪を後ろに纏めた美しい顔立ちの少女である。彼女は、国王の娘であり、王女であった。


「考え直してください、お父様!今は国の危機なんです!仕方がないと妥協する余裕なんてありません!最善を尽くす必要があるんです!」

エリスがとても頭が良い事を、アルフはよく知っており、今まで多くの政策にエリスの考えが取り入れられてきた。故に、一理あると思い、

「そうだな、今は国の危機。最善を尽くすべきだ。騎士の中から何名か山の調査に…」

「それもダメです!他に適任がいます!」

騎士に命じようとするも、娘の提案を聞き、

「適任か、その様なやつがいるのか」

「います。魔物達が王都に辿り着くまで、あと三日ぐらいしかありません。あの山は、木々が生い茂り迷いやすいです。

一度迷ってしまえば、絶対に間に合いません」

「ならば、誰が行っても同じだろう。…いや、…まさかお前」

「はい。私が行きます。私の固有適正を使えば、迷わず最速で辿り着けます」

話の最中で、薄々まさかと周りは思っていたが、エリス本人の言葉に絶句してしまう。


この世界には、魔法という力がある。貴族、平民問わずほとんどの人に魔力があり、魔法を使える、魔法には、火、水、土、風、雷の五つの属性魔法があり、生まれた時から一つだけ使える属性がある。それを魔法適性といい、もちろん他の属性も覚えれば使える様になるが、相性の問題もあるため、一つの属性を極めるのが一般的だ。


しかし、ごく稀に魔法が使えない人が出てくる。その人は、代わりに固有適正と呼ばれるものがある。それは、その人だけが使える特別な魔法である。

例にするなら、エリスがそうだ。エリスの固有適性は植物である。植物を生やしたり、自由に操れる。その力を最大限活用すれば、エリスは、まよわずに最短ルートで魔女のいる場所に向かう事ができると考えたのだ。


「駄目だ!お前が危険を犯す必要は無い!」

アルフは、エリスの身を案じて反対する。確かにエリスは優秀だが、娘のことが可愛いアルフは、危ないことをして欲しくなかった。

「いえ、行かせてください!私は王女です!民を守る義務があります!私にも命をかける覚悟があります!」

エリスは必死になって説得する。十五になったばかりの少女とは思えない程の気迫でアルフに迫る。

「だが、……」

「お願いします!お父様!」

「…分かった。だが、決して無理はしないでくれ。ジーク、ランス、すまんがエリスについて行ってくれ。」

アルフは、娘の頼みに折れるが、代わりに頼れる男たちを同行させる。

「分かりました」

「ああ、まかせろ!」

二人の青年は力強く答える。


「四つ目の光は、三人に任せるとして、支部長よ。冒険者の戦力はどうなっている」

「はい。SからBランクの冒険者は、全員参加を表明しました。C以下の冒険者もちらほらといます。ただ…」「なんだ?」

「…最高位ランクの[名無し]が来ていません」

「何⁉︎どういうことだ!」

「それが……」

支部長は、少し汗をかきながら説明を始める。

「[名無し]は月に一度ぐらいしかギルドに来ないんです。それで…五日前に来たばかりでして……」

「そんな事があってたまるか!この国は、今危機にさらされているんだぞ!今すぐ連れてこい!」

支部長の言葉を聞いてアルフは激昂するが、

「その…[名無し]は、どこに住んでいるのか誰も分からなくてですね、あと…顔もフードで隠していて、探そうにも……一応、ギルドカードで連絡はしたんですけど、気分でしか出てくれなくて…」

「…どうして、そんな奴を最高位ランクにしたんだ?」

「実力だけは、本物ですから」

悲しそうに言う支部長に、アルフは頭を抱える。それでも、最高位ランクなら強さは本物だ。


「分かった。だが、戦力は多い方がいい。一応、連絡は続けてくれ」

アルフは、支部長にそう言い一度目を閉じる。気持ちの整理がつくと、

「皆、聞け!魔物が王都に到達するのは、今日より約三日後!今からできる限りの準備を整え、皆で迎え撃つ!そして、この国を守るぞ!」

『おおー!』

アルフの言葉に全員が賛同する。こうして、王国の存亡をかけた戦いが始まるのであった。


〈同時刻、とある山にある家〉

昼間から、ベッドの上で毛布に包まり幸せそうに寝ている人物がいた。

すると、外から光る球が飛んできて、寝ている人の周りを飛ぶ。その動きはまるで、迷子の子どもが親を見つけて喜んでいる様に見える。

更に、床に置いてある小さな黒い物体が、音を出しながら震え出す。

そんな状況に、幸せそうに寝ていた顔が、どんどん険しい顔に変わり、遂に我慢の限界に達した。

ゆっくり起き上がり、光の球と音の元凶を睨みつけ、指を鳴らす。そして、暗く静かになったのを確認し、再び眠りについた。

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