83.テンプレ的に、早朝訓練をする俺。
シンジ君、暇に任せて早朝訓練するの巻。
この場合、早起きは得になるのか?
神殿を辞したシンジたちは、伯爵邸へと戻った。
神殿では結構時間を使ったが、まだ日は高い。
「アンリさん、アイリスさん。一応、俺は依頼を受けているから、チャンさん達と一緒に領都まで戻るつもりだけど、おふたりはどうするのかな?」
「予定通り、明後日には伯爵様や大司祭長様と一緒にこちらを出る予定です」
「ほむ、そうすると、俺の方が1日遅れて出ることになるのか」
そうなると、早めに宿を探しに行った方がよさそうだ。
「アンリさん、そうしたら、良さそうな宿を紹介してほしいかも」
「え? こちらでお泊りでは?」
「いやあ、さすがに伯爵様もいない屋敷に居座っちゃダメでしょ」
「いや、それは逆です」
アンリから変な指摘をされた。
「本来であれば、伯爵様が寄り親としてシンジさんを王都に連れて来る必要があったのです。ですので、寄子のシンジさんの面倒を見ないのは、伯爵様の失点になってしまいます」
つまり、子分の面倒を見ない親分は恥をかくという事だろう。
「ほむ、納得した。そういう事なら、お世話になった方が良いね」
シンジは残りの日数、伯爵邸に泊まらせてもらうことにした。
◇
「「はッ! はッ! はッ!」」
早朝、目覚めたシンジが、少し体を動かそうと裏庭に出ると、そこではアンリとアイリスが木剣を振るっていた。
「おや、アンリさんとアイリスさん、精が出ますね」
「はッ! あ、シンジさん、シンジさんも訓練ですか?」
シンジに気付いたのか、素振りを中断したアンリが挨拶がてら聞いてきた。
「うん、ここ数日動いていないから、体が鈍っちゃってね。ちょっと体を動かそうかなーって」
「ああ、我々も一緒ですよ。王都だと、訓練の機会が少ないですから」
「邪魔になっちゃいけないから、俺はこっちの端でやるね」
シンジが庭の端に寄って、木刀を構える。実はこの木刀、シンジが自ら削り出したものだ。決してチュートリアルで使った最初の武器ではない。
シンジは、まず正眼に構える。そこから、軽く振りかぶり、気合も音もなくゆっくりと下ろす。ピタリと留め、さらに横に薙ぐ。右、左、逆袈裟、切り上げ。繰り返し冒頭を振るう。だんだん速度が増していく。伴って風を斬る音。足が動く。右、左、振り向いて薙ぐ。殺陣の様に振るわれる木刀。最後に横に薙ぐと、ピタリと止まる。
「ふう」
呼吸ひとつ。シンジが構えを解いた。
そこへ、拍手の音が聞こえる。
「シンジさん、珍しい剣術ですね。その木剣も見ない形ですし。片刃ですか?」
木刀に興味が出たのか、アンリが近寄って来た。
「ああこれ? 剣じゃなくって、『刀』って言うんだよ。最近刀術の稽古してなかったから」
シンジは、西洋剣も使うが、刀術も使う。もちろん、シンジが鍛えた剣の中には刀もある。
日本刀は、切れ味は良いが西洋剣と打ち合えば折れてしまうし、耐久性に難があり扱いが難しい。だから、鎧や鱗のある敵には向かない。反面、鎧を纏わない人型の魔物であれば相性が良い。シンジは、その時々で使い分けている。
アイテムボックスを使って、即座に武器を交換できるシンジの強みだろう。
「シンジさん、ちょっと模擬試合やりませんか?」
アンリが提案してきた。
「良いけど、この木刀じゃだめだね」
「どうしてですか? せっかく珍しい剣術なので、それを使って欲しいのですが」
「この木刀の素材がね、ちょっと特殊だから、普通の木剣ならすぐ折れちゃうよ」
アンリが不思議そうな顔をする。
「素材って、何ですか? 木じゃないんですか?」
「うん、木だよ。ただし、世界樹の枝だけどね」
「「はああッ!?」」
兄妹そろって大声を上げた。早朝から近所迷惑である。
「ちょっと持ってみる?」
「はあ。うわッ!?」
アンリが恐る恐る受け取ると、想像外の重さに取り落としそうになる。
「これ、むちゃくちゃ重いですよね? え? さっき振り回していませんでした?」
「慣れれば出来るよー」
本来刀は鉄の棒である。非常に重いものだ。だから、ある程度の腕力は必要である。だが、それだけではなく、振ったときの遠心力や、力の方向性をコントロールする必要がある。刀の重さに振り回されない力と技が要るのだ。
西洋剣は、どちらかと言えば『叩きつける』剣術である。それに対し、日本刀は『引き斬る』剣術である。当然、扱い方は違う。
シンジは、世界樹の枝を使う事で、木刀に真剣と同じ重さと使い心地を付与したのだ。
「同じ材質の剣を使った方が良いよね。こっち使って」
そう言って、同じく世界樹の枝製の木剣を取り出し、木刀と交換する。
「アンリさんの剣術は、まだ見たことなかったからね。ちょうど良いからそれ使ってやろう。魔力を流すと、普段使っている剣と同じように使えるよ」
「こうかな? あ、本当だ。これ良いですね」
真剣で訓練するとケガも多いので、これは便利だと喜ぶアンリ。
「んじゃ、始めよっか」
シンジは木刀を構えた。
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