68.テンプレ的に、調子に乗って失敗する俺。
シンジ君、定食で嵌まるの巻。
飯テロは奥深い。(ヲイ)
「な、な、なんじゃこりゃぁ?」
「何って、カツ定食豚汁付き?」
そういう問題ではない。
「見たことがない料理だね。この白いのは何だい?」
「それはご飯、米だよ」
この世界、さすがに西洋風テンプレだけあって、米が全く普及していない。当然、味噌も醬油もない。だから、シンジは作った。これぞ転生あるあるだ。もちろんチュートリアルでだ。
もちろん普通の高校生が、味噌醤油の作り方なんて知ってるわけがない。異世界転移を本気で心配していない限り、事前にそこまで調べている中高生などほとんどいないだろう。……ほとんどと言う所に、現代日本の業の深さを感じてほしい。
シンジの場合は、異世界大百科を頼りに試行錯誤したのだ。コウジカビは幼女に用意してもらったし。赤白八丁信州なんでもござれだ。その分税金徴収は厳しかったのだが。
「パンは無いのか?」
「パンねえ。まだ仕込みが足りないから、今日はご飯で食べてみて」
嘘である。シンジのマジックボックスには、パン屋レベルでパンが貯蔵されている。しかも、天然酵母パンだ。もちろん、種からシンジが作った。だが、カツレツにトン汁と来て、パンは無い。絶対にだ。シンジの中の日本人が、そう主張している。
第一この世界のパンは、トレンチャーパンに近い平べったいパンである。さすがに皿替わりにはしてないようだが。
「ま、いいからいいから、これつけながら食べてみてよ」
シンジは、すりごまが入った小さな器に、壷から小さな柄杓でソースを注ぎ入れ、全員に手渡す。
「これは?」
「これはソースって言うんだけどね。これをつけて食べてね」
シンジは、自分でやって見せようとして、ふと気づく。
「あ、チャンさん箸の方が良いなら、箸出すよ?」
「箸あるネ? 貰うアル」
チャンさん親子には、割り箸を渡した。
「これは?」
「割り箸って知らない? これ、真ん中で割れる箸」
シンジが、奇麗に割って見せた。
「初めて見たアル。便利アルね!」
リンシャンが喜んでいる。割り箸は、この世界では普及していないらしい。
「ま、冷めないうちに食べてよ」
全員、恐る恐るカツをソースにつけてひと口。一斉に目を見開く。同じタイミングで口がモグモグと動き、ゴクリと飲み込む。
「「「「「「うまッ!!?」」」」」」
シンジもひと口食べる。さくッとしたパン粉の層を歯が超えると、一瞬弾力が押し戻そうとする。が、すぐに抵抗がなくなり、中央がピンク色の肉本体が、甘い油を滲ませながら崩れるように切れていく。
上あごにパン粉の層が触れる感触とともに、舌で切れたカツを受け止める。ソースと油の甘みが混然一体となり、シンジの味覚中枢に、肉食の原始的快楽をもたらした。
「うん、良い出来」
シンジが満足して肯いた。そのままご飯をひと口。口の中で米と肉が一体となり、咀嚼することでハーモニーを奏でる。
「で、ご飯も食べてねー」
シンジがそう言うと、全員箸とフォークで器用にご飯を食べる。
「こっち、あんまり味がしないな」
「ボーブさん、一緒に食べるとおいしいよー」
「ほふんはふほふ」
「スナーブさん、何言ってるか分かんない」
チャンが、じっくりと米を見て、シンジに向いた。
「米は久しぶりアル。こっちではほとんど見ないアルが、シンジさん、どこで手に入れたアルか?」
「それはひみつー」
「ただ、私良く知る米と違うアルね。私知ってるの、もっと長細いアルよ」
「ああ、インディカ米かあ。チャーハンや粥にするとおいしいよねー」
「チャーハンも知ってるアルか? シンジさん物知りネ」
シンジが物知りと言うより、日本人の食が深すぎるだけである。
「いや、しかしこのカツと言ったか? これ旨いなあ。オークだよな?」
「そうそう。オークナイトのロース肉。柔らかいから、カツはイケると思ったんだけど、予想通り♪」
シンジは、豚汁にも箸を付ける。根菜が良い具合に煮込まれ、味噌が甘く感じる。
「これも変わったスープだな。不思議な味だ」
「豚汁って言ってね、体が温まるよ」
「そうだな」
そこでシンジはある事に気が付いた。どうも、皆一品ずつ食べている感じがする。そのせいか、米とキャベツが残ってしまっている。
「おや? みんなご飯とキャベツが残ってるね?」
「いや、これはあまり味がしないからな」
「そりゃ、カツだけ先に食べたらねえ。って、あ、そうか! しまったッ!!」
シンジは今になって気が付いたが、口中調味は日本人以外は難しいのだ。和食が世界的に見ても特殊な料理になった原因に、口中調味文化がある。
定食はその最たるもので、残念ながら日本食初心者に出すには、選択が間違っていたというべきだろう。
海外の日本食が寿司やラーメン、丼ものから広がっていったのも、この口中調味が関係なく、食べやすかったからだという説もある。
今までテンプレに成功してきたシンジには珍しく、テンプレの日本食ばんざいが失敗した瞬間だった。
「くッ、殺せ!」
「お前は何を言っているんだ?」
シンジは、この失敗はカツ丼で取り返すと誓ったのだった。
なお翌夜は、カツ丼が大受けだったため、シンジが泣いて悔しがった。合掌。
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