50.テンプレ的に、男爵邸をパニックに陥れる俺。
シンジ君、いつの間にか男爵家に溶け込むの巻。
一家だんらんを破壊するシンジ君の明日はどっちだ!(チガ)
その晩、男爵邸に戻ったシンジは、男爵一家が揃った夕食に再び招かれた。メインはオークナイトの肉だった。うまうま。
食後の一服となり、かぐわしい紅茶の香りに包まれる中、家族の語らいが始まる。
「じゃ、アイリスさんは無事に叙爵の準備が終わったんですね。おめでとうございます」
「それが、この子ったら、ドレスが嫌だから騎士隊の鎧で式に臨むとか言い出したのよ」
「お母様! それは秘密にしてくださいと!」
あはは、と一同が笑う。誠に健全な貴族一家の微笑ましいひと幕である。
「で、シンジ君は今日冒険者ギルドに行ったのだったね。依頼は受けたのかね?」
男爵は、だいぶシンジに打ち解けたらしい。君付けで呼ばれるようになった。
「ええ、採取をいろいろしてきました」
「ほう、どんなものを採ったのかね?」
シンジは、ひとつひとつ採取したものを挙げていった。
最初はニコニコと聞いていた男爵だったが、だんだん顔が引き攣るのがシンジにも分かった。
「いや、シンジ君、それはちょっと、またすごいものばかりを採って来たね……?」
「あ、ご存じでしたか?」
「一応これでも冒険者をしていたこともあるからね」
男爵が、引き攣った笑みを浮かべた。
「そ、それだけの物を持ってきたら、薬師ギルドが黙っていないんじゃないかい?」
「いやあ、でも俺、薬師ギルドに知り合いいないですし」
今回シンジが採ってきたものが、薬師ギルドに納品されたら、多少の騒ぎにはなるだろう。最後のモノは騒ぎでは済まないだろうが。
「えと、それでですね、最後に採取したモノは受け取り拒否されちゃったんですよねー。で、ギルドの方からぜひアンリ様か男爵様に相談した方が良いと言われまして」
「受け取り拒否? その上私に相談かね? ……正直、聞くのが恐ろしいのだが」
男爵の頬にツツーと汗が滴った。
「ぶっちゃけ、コレです」
シンジは、袋入りの例のブツをひとつ取り出す。シンジが袋を開けると、途端に甘い果実の香りがたち込めた。
男爵が噴き出し、ゲホゲホ咽た。紅茶を口に含んでいなかったので、貴族の尊厳は辛うじて守られたようだ。
「ちょ、シンジ君ッ!? コレまさかッ!!?」
「あら、これは? 桃の香り、ですわね。キノコのように見えますが?」
男爵夫人が首を傾げた。
「え? 桃の香りのキノコ? えッ!? まさかッ!!?」
アンリが何かに気付いたようだ。
「アンリ様正解。これ、仙桃茸です」
数瞬、部屋に沈黙が流れていった。
「し、シンジさん? 今、仙桃茸って言いました?」
その沈黙を破り、アイリスがちょっと震える声で聞いてきた。
「うん、言ったよ?」
「「「はあぁぁッ!!?」」」
あっけらかんとしたシンジの返答に、男爵以外の4名の目が見開かれた。
「シンジ君……私に相談されても困るよ?」
「と言われましてもねえ、他に相談できる方いないですし」
「いやそうかもしれんが……」
頭を抱える男爵。
「伯爵様にパスするってのはどうでしょう? 俺的に、せっかく採集したので、とりあえずお金になれば良いんで。どうせ数ありますし」
「いやちょっと待ってくれ。シンジ殿、それだと複数あるように聞こえるが?」
嫡子のアルフィーが、なかなか鋭い指摘をしてきた。
「ありますよ、ほらほら♪」
シンジは9個の仙桃茸を取り出して見せた。全員絶句した。
「だから、多少伯爵様にパスしても無問題♪」
全員が机に突っ伏した。
◇
「そ、それじゃあ、7つは伯爵様に献上し、その中から恐らく王家にいくつか献上されるだろう。その判断は伯爵様にお任せする方針で」
男爵が伯爵に丸投げする結論を出してきた。
「しかしシンジ君、これを王家にまで献上したら、いろいろな功績を合わせて間違いなく騎士爵どころか、諸侯騎士爵家に叙爵されてしまうぞ?」
要するに、個爵ではなく1発家爵になってしまうという事だ。
「それは困るなあ。しばらく冒険者やりたいんですよね」
シンジは、腕を組んで考える。
「……別に良いのでは?」
嫡子のアルフィーが、考えながらつぶやく。
「嫡子様、どういうことでしょう?」
「別に家爵持ちだったとしても、冒険者は続けられるという事です。現に、父も爵位を継いだ後でもしばらく冒険者として活動されていましたし」
「確かにそうだが、領地を持ったからにはそれを経営しないといけないだろう。私の時は、祖父も父も元気だったから、自由が許されていた側面がある」
男爵がアルフィーに反論した。
「そう、街や村を貰えば、その経営をするのが普通です。が、もし領地に人が住んでいなければ?」
それを聞いて、全員が首を傾げる。
「はじめから、仙桃茸が採れるような魔の森に近く、村を作れそうな草原地帯に、領地だけ確保してしまえば良いのです」
「ほう、面白いアイデアだな」
男爵が感心したようにつぶやく。アルフィーは、そのまま話をつづけた。
「それであれば、領地経営の必要はなく、自由に冒険者として過ごせば良い。伯爵様も、国としても、開拓した村を分け与えるよりも、よほど条件を飲みやすいでしょう。そこで報奨金を高めにいただくとともに、広めの用地を確保することが出来るでしょう」
一同も感心して聞いている。
「シンジ殿は優れた土魔術の使い手だと聞いています。ある程度冒険者としての活動に満足したら、領地に城壁を作って村を建築することが可能です。領地が魔の森に近かったとしても、城壁に守られた場所であれば、人を集めることは可能でしょう。国としても、魔の森近くを開拓出来て、喜ばしいはずです」
「つまり、新しい村を自由に設計できるって事だよね?」
「それは、はっきり言いますが、シンジ殿の力量次第ですね。ただ、話に聞いた土魔術の力があれば、成功の確率は高いと思います」
「嫡子様、すごいですね。俺もそこまでは考えなかったなあ」
正直、シンジは感心した。文官として辣腕を振るっていると聞いてはいたが、この嫡子なら男爵家をより発展させるだろう。
「そっか、そうすると、辺境開拓テンプレも実践できるのか。乗るしかないな、このビッグウェーブにッ!!」
シンジは、こぶしを握り締めた。
「しばらくは冒険仲間集めも必要ですしね。すっごくいいアイデアです。男爵様、その方向は可能でしょうか?」
「うむ、伯爵様にはその旨伝えるようにしよう。シンジ君は、依頼を受けても良いが、しばらくはこの館に滞在してほしい。呼び出しがあるかもしれないからな」
「承知しました。それでは、もうしばらくご厄介になりますね。よぉーしッ、燃えてきたぁ!! 折角だから、他にも珍しいものを見つけて、頑張って採取してきますねー」
「「「「「いや、それはいいから」」」」」
「えー」
「「「「「えー、じゃないッ!!」」」」」
シンジは、全員から突っ込まれた。
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