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40.テンプレ的に、伯爵邸にドナドナされる俺。

シンジ君、伯爵邸に向かうの巻。

権力者に会うって緊張しますよね。でも、シンジ君だし。(ヲイ)

 昨晩は魔剣に酔った男爵(アーサー)を必死になだめつつ、久々のふかふか布団で体を休めたシンジは、目覚めの良い朝を迎えた。


 「知らない天井だ」


 (こな)せるテンプレ(もの)(こな)さねばならない。それがシンジの正義(ジャスティス)だった。


 「おし、今日も絶好調♪」


 朝の儀式を終えると、寝ていたベッドの縁に腰かけて、急すぎる展開を思い返す。いろいろあった。いろいろ、あり過ぎた。


 「しかし良いのかねえ」


 シンジは独り言を吐く。ここで大貴族に会うのは、予定していなかった。もっと地味に、冒険者としてコツコツと地歩を固めていくつもりだったのだ。だが世の中は、それが許されない人間もいる。


 「まあ、そういう運にされている可能性はあるわなあ」


 創造神の使徒(おもちゃ)らしいし。確か、そのようにステータスボードには書かれていたはずだ。


 「あ。こちらに来て、ステータスボード見てなかったな」


 あまりにバタバタ過ぎて、完全に記憶から飛んでいた。


 久しぶりにステータスボードを開こうと思ったその時、寝室のドアをノックする音が聞こえた。


 「シンジ様、起きていらっしゃいますでしょうか?」


 メイドが起こしに来たらしい。


 「はいはい、起きてますよー」


 今日は、予定なら伯爵との面会になる。そのために早めに起こしに来たのだろう。


 仕方ない、確認は後でしようとメイドに入ってもらい、身支度する。


 素早く着替えて案内されるまま昨日の食堂に通された。そこには、昨日と同じく男爵家一同が勢ぞろいしていた。


 「シンジ殿、朝早くから済まぬな。伯爵様の空き時間が、朝しかなかったのだ」


 「いえいえ、急にお会いいただくのですから、お気になさらずに」


 権力者が時間を空けてくれたのに、文句を言おうものなら後が怖い。権力とはそういうものだ。


 揃って軽い朝食を取り、すぐに伯爵の城館へ向かうことになった。


 「え? 馬車なんですか?」


 「まあ、貴族街で貴族が馬車に乗らないというのは、常識的にちょっとねえ」


 500mもない距離を馬車で行くことに驚くシンジを、アンリが苦笑しながらたしなめる。


 「なるほど、郷に入っては郷に従えと言いますしね」


 「へえ、面白い格言だね」


 この世界には、こういった格言はないようだ。まあ、幼女も完全に元の世界をコピー出来ているわけではないだろうから、当たり前なのだが。


 「そう言えば、ノアさんは?」 


 「ああ、今回馬車を曳くのはノアの予定だ。マジックホースになったノアも、伯爵様に報告する予定だからね」


 シンジの問いに、男爵(アーサー)が答える。


 話をしているうちに、ノアが馬車を曳いてきたようだ。


 「……何度も見ているが、さすがだな」


 アンリの独り言が耳に残った。


 ノアが牽いている馬車は、コーチと呼ばれるタイプの貴族用馬車である。本来最低2頭牽きだ。6人乗りの大型馬車だから、4頭牽きでもおかしくない。


 だが、ノアは1頭で軽々牽いている。とんでもないパワーである。


 首には、シンジが貸したアイテムバッグが掛かっていた。ノアも伯爵に献上する一員ということだろう。


 「ノアさんノアさん、オークは献上するけど、角砂糖はちゃんとアイリスさんに預けてあるから、安心してね」


 シンジが呼びかけると、ノアはうなずくように2、3回首を縦に振った。


 「よし、全員馬車に乗るぞ」


 アーサーの声に、全員が馬車に乗り込み、静かに出発した。




 ◇




 「思ったより揺れないな」


 シンジが馬車の揺れを評すると、アイリスが答える。


 「そうですね、最新式のサスペンションが入っていると聞いています」


 どうやら、サスペンションは発明されているらしい。


 「そのおかげで、馬車も早く走れるようになって、街中の流通も良くなっているようです。が、事故も増えているようです」


 「ほむ、交通事故かあ。馬車が速く走るようになれば、そうなるよねえ」


 馬車の中で、隣に座ったアイリスと雑談する。すると、馬車が止まった。扉が開き、まずアンリが先に出た。次にシンジが下りて、アイリスは長兄のアルフィーが、アーサーは妻のジョセフィーヌをエスコートして馬車を降りる。


 「ほー、さすがは伯爵邸。大きいねえ」 


 目の前には、4階建てに見える巨大な城館が聳え立っていた。さすがはこの巨大な街を統括する伯爵の居城だ。


 「まずは閣下に挨拶をしよう」


 兵士に先導されて、一行は城館の中に入る。大きなエントランスと、2階のホールに繋がる2つの螺旋階段。絵に描いたような大貴族の城だ。


 シンジたちは、そのまま3階まで案内された。大きな扉の前には兵士が2人、直立不動で立っている。


 「ランチェスト男爵アーサーである。閣下に目通りを願いたい」


 「畏まりました」


 兵士がベルを鳴らすと、扉の中から執事らしき姿をした初老の男が出てくる。アーサーの顔を見ると、一礼して扉を開けた。


 「お待ちしておりました。お入りください」


 執事に促され、シンジもアーサーたちの一番後ろに並んで付いていく。


 広い室内は様々な装飾が施されている。その奥の中央には大きな執務机が置かれ、そこには中年になりかけといった男が座り、書類にサインをしていた。


 「閣下。お呼びにより参上しました」


 アーサーの呼びかけに、男が顔を上げた。


 「アーサー、よく来たね。ご家族もご足労ありがとう」


 柔らかい中に芯の通った低めの声で、男が微笑みながら話しかけてきた。


 この男こそ、チェスター伯爵領のトップであり、伯爵位を持つ領主、オリバー=チェスターだった。

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