132.テンプレ的に、意味深にキノコを食べさせる俺。
シンジ君、アノきのこを食べさせるの巻。(ヲイ)
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すっかり間が空いてしまいスミマセン。
もうちょっと頑張ります。
石鹸づくりが始まった以上、シンジの方も領地のことを後回しには出来なくなってきた。
そこでシンジは、とりあえず領地(の予定地)を直接見て回り、領都の位置を定めることにした。
今回は、リルだけを連れて行く。シンジは空を飛んだり瞬間移動したりするので、他の者が付いていくことが困難なのだ。
実際、アイリスやアンリと動いた時もそうだったが、機動力が馬レベルになってしまうし、瞬間移動はさすがに公開する気が無いシンジだった。
その点、リルであれば身体が小さいので、腕で抱えれば空も飛べるし、質量的に瞬間移動に魔力もそれほど負担は掛からない。
今回は魔の森も探索したいので、元々魔の森にいたリルが役に立つのでは、とシンジの勘がささやいたのだ。そう、もっとかがやけと。
「んじゃあ、飛べる場所をっと」
まずは、マーキングした仙桃茸の採取場に跳ぶ。そこから、地脈の流れを追いながら飛んで草原に出れば、無駄なく良い場所が見つかるはずだ。
シンジは辺りを見回す。建物の裏手に廻れば、ちょうどどこからも死角になる場所があった。シンジは、リルを抱いたまま素早く身体を滑り込ませ、そのまま跳んだ。
次の瞬間シンジが降り立った場所には、以前マーキングした木のテントがポツリと立っていた。以前、仙桃茸を採取した場所だ。
「そう言えば、ここでリルと出会ったんだっけ」
シンジがふと思い出すと、リルがオン、と鳴いた。
今にも死にそうになっていたリルを助けた場所でもあるのだ。ちょっとだけしんみりしてしまう。
「……まあ、今は元気になっているんだから、問題ないない」
シンジは抱えていたリルを下ろすと、木のテントに近づいた。そして、木に手を掛けると、丁寧に外し始める。
「さて、どんな状態かな?」
宝箱を開けるような気分で、シンジはちょっとワクワクしていた。
「おおッ! 出来てるッ!!」
そこには、小さ目ながらも仙桃茸が3つ、ちょこりと顔をのぞかせていた。それを摘まんで掘り出すシンジ。
「これは、新しく作ったテントも見回る必要があるねえ♪」
上手くいっていれば、そこにも仙桃茸が出来ているかもしれない。
盛り上がるシンジの胸元で、リルがくぅん、くぅん、と声を出してきた。
「ん? リルさんや、どったの?」
仙桃茸をひょいひょいと摘まんで採取したシンジの手元を、リルがじっと見つめている。
「もしかして、これ欲しいの?」
シンジの問いに、リルはあんっ! と返事した。
「んー、まいっか。じゃあ、ボクのキノコをお食べ?」
ほれほれとシンジがリルの鼻先に仙桃茸をひとつ差し出すと、リルはそのままパクリと一気に食べた。
「おいしい? こっちもいる?」
リルがおんッ! と鳴いたので、シンジは残りふたつもリルに差し出した。リルは素直にパクリと食べると、大きくあくびをした。
「あら、リルさんおねむ? ちょっと休んどく?」
リルは小さく、おん、と鳴くと、シンジの胸元から降りて、仙桃茸の生えていた穴に身を沈め、そのまま伏せて目を閉じた。
「……え? あれ? おーい、リルさん? 背中にキノコ生えちゃわない?」
冬虫夏草ではないので、その心配は無意味である。
リルは、そのまま眠りの体勢に入ったようだ。
「疲れていたんかねえ。……まあ、俺は俺でやることあるし、ゆっくりしていってね♪」
シンジは、器用に顔を丸くしながらその場を立ち去った。
◇
「むはは、豊作豊作♪」
シンジが設置した木テントには、それぞれ仙桃茸が芽生えていた。
ひとつの仕掛けに1~2個ではあったが、6か所設置したすべてのテントでひとつ以上採取出来たので、理論は実証された事になる。
「うーん、上手く市場に流せれば、それでも稼げるだろうけど、これ使って薬造った方が良いかな? かな?」
シンジは上機嫌で、仙桃茸でお手玉しながら最初の木テントへ戻ってくる。穴を見ると、リルがまだ眠っていた。
「あれ、リルさんまだおねむ?」
シンジの声に気付いたのか、リルが片目を開いた。そのままゆっくりと首を伸ばし、シンジの手にある小さな仙桃茸の匂いをクンクンと嗅ぐ。
「おや、もしかしてまだ食べたいの?」
リルがくぅん、と返事をした。
「んー……、ま、栽培できることが分かったし、良いよ。またボクのキノコをお食べ♪」
シンジが、手の中の仙桃茸をリルに差し出す。それをひょいぱくひょいぱくと食べるリル。
「おー、良い食べっぷり。って、生で食べて大丈夫なのかな?」
これだけ無造作に食べているのだから、大丈夫なのだろう。たぶん。
すべての仙桃茸を食べ終えると、リルはひとつあくびをして顔を伏せた。完全に寝の体勢だ。
「リルさんや、まだ寝るのね。……まあいいや、俺は草原の方に探索に行くから、後で迎えに来るよ。お休み」
リルが答えるようにくぅん、と鳴いた。
シンジは、それを聞くと静かに森を後にした。
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