129.テンプレ的に、ふたりを買っちゃう俺。
シンジ君、人身売買に手を染めるの巻。
だってしょうがないじゃない、テンプレだもの。(マテ)
シンジたちが商館に戻ると、2人が目覚めているという。
2人のいる部屋に戻ると、頭に布を巻いた状態で2人が立っていた。そのまま膝をついて礼をとる。
「クロス卿、本当にありがとうございます」
「命を救われました。身体も肌も元通りになりました」
だが、ちょっとふらついている。筋力が完全には戻っていないからだろう。
「感謝は後でいいから、無理しないで。ベッドにそのまま腰かけていいから」
シンジは2人を座らせた。よろつきながらも、周りの職員の手を借りて座る2人。
「しばらくは手足の力を戻す訓練がいるから、そのままこの商館いるといいよ。それとも、神殿の方がいいのかな?」
最後はロバートを見て確認する。
「こちらで大丈夫です。そういう施設もありますので」
奴隷もいろいろな状態でここに来るのだろうから、当然と言えば当然か。シンジは肯く。
「ならお願いね」
「さてクロス卿、奴隷購入の件ですが、今回の治療費込みで、2人の借財が金貨1000枚となりました」
シンジは吹きだした。
「はいーッ!? ちょーっと高すぎないッ!!?」
「仕方ありません。四肢も皮膚も治療していただき、人として完全な姿にしてもらったわけですから」
シンジは、その言い方に引っ掛かりを感じた。
「ちなみに、俺の治療費抜いたらお幾ら?」
「2人で金貨60枚ですね」
それでも約6千万である。
「俺の治療費金貨940枚ッ!?」
使徒による治療と考えれば、妥当なのかもしれない。
「でも、それって現実問題として返せるの?」
「そうですね、教育を施して貴族向けの高級娼婦として売り出して、孫まで借金奴隷の高級娼婦にすれば何とか」
2人の顔が、めちゃくちゃ暗くなった。
「……それって、俺が買えばその分チャラだよね?」
「いえ、お待ちください。あなた様にそのようなご負担を掛けさせるわけには。私たちが一生かかっても頑張りますので」
恐らく姉の方が、毅然とそう言った。妹も涙をこらえながら、うなずいている。
シンジの良心が、ヤスリを掛けられたように軋んだ。こういう所は、100年以上経っていても擦り減らないようだ。
「……じゃあ、まあ、金貨60枚ということで」
シンジは、カードを取り出してロバートに見せた。
「いえ、あの、金貨940枚ですよッ!? そんな価値が私たちに……」
言いながら暗くなる姉。
「それより、名前教えてくれるかな? 実はまだ聞いていないんだよね」
シンジの問いに、ハッとした表情になる姉妹。
「わ、私は姉のエリーと申します。こちらが妹のミリーです」
「エリーとミリーね。何ができる?」
「あ、あの、私は店の経理をすべてやっていました」
「あ、あたしは、父と一緒に店で料理を担当していました」
「そっか。まあ、しばらくはここで治療する感じで良いよね? ロバートさん」
「ええ、それはもちろん」
「ま、安心して。ちゃんと仕事はしてもらうから。それで良いよね、ロバートさん」
「はい、それはもちろん」
2人とも、安心したような、申し訳ないような、複雑な表情をしている。
「ちなみに、俺も料理するからね。いろいろ教えるよー」
シンジが教えるのは、変態日本の偏執的料理とか、調味料作りとかである。
「まあ、これもかなりのテンプレかな?」
借金地獄で身を沈める姉妹を救う転移者。まさにお約束である。
ともかく、これはセバスに報告せねばならないだろう。シンジは、フレディとセバスが待つ神殿へと急いで戻ることにした。
◇
「ふたりを雇うことに、ですか」
シンジが神殿に戻ると、すぐにフレディとセバスの待つ部屋に通される。
「うん、勝手に決めて、セバス=チャンには悪いけどね」
「いえ、シンジ様でしたら、そうなさるだろうと思っておりましたので」
セバスの謎の信頼である。
「そうなりますと、男爵家のメイドにふさわしい教育をしなければなりませんね。もちろん回復してからですが」
「うーん、その辺はお任せできるかな? かな?」
「辺境伯様のお屋敷でしばらく鍛えるのが一番良いかと思いますが、それではシンジ様のお屋敷に人手が全くない事になってしまいます」
セバスが顎に手を当てて考える。
「俺はしばらく宿暮らしでも問題ないけどね」
シンジがそう言うと、セバスが首を横に振る。
「いえ、そういう訳には参りません。……逆に、辺境伯様のお屋敷から古参のメイドをお借りして、屋敷を整えながら鍛えてもらうのが良いかもしれません」
シンジは、ちょっと驚く。
「え? それ迷惑にならない?」
「辺境伯様からも、早急に屋敷を整えるように言われておりますし、問題ないかと思います」
「そっか。じゃあセバス=チャンに任せた」
「承知いたしました」
セバスが、胸に手を当てて一礼する。執事の見本のような礼だった。
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