127.テンプレ的に、調査に乗り出す俺。
シンジ君、探偵気分で事件調査に乗り出すの巻。
そんなに簡単に見つけられたら、ケーサツは苦労しないのだが。
やっとの思いで手術を終えたシンジたちは、他のシスターに後のケアを任せ、一旦休むことにした。
飲まず食わずだったから、さすがに喉が渇いた。商館の人間が気を使ったのだろうか、お茶とお菓子が用意されていた。
差し出された紅茶に蜂蜜のような黄金色の液体をスプーンで掬い、ティーカップに溶かし込む。
ユラユラと解けるように溶けていく蜜を眺めていると、隣のドアが開き、フレディとロバートがバタバタと入って来た。
「ど、どうでしたか?」
勢い込んでロバートが聞いてくる。シンジは、大きく肯いて答える。
「大丈夫です。成功しました」
それを聞き、フレディとロバートは、手を取り合って喜びだした。
出してもらったお茶で喉を潤し、菓子をつまんでほっと一息つくシンジ。
「まあ、それは良かったで済むんですけど、俺の要件が済んでないんですよね」
もともとは、家のことをやってもらう奴隷を探しに来たのだ。まさかこの怒涛の展開は、シンジの目をもってしても読めなかった。……元々ふしあなさんだし。
ロバートが、こちらを振り返る。
「そこでですね。どうでしょうクロス卿、あの2人にするというのは」
「あ、やっぱりそう来ます?」
この展開は予測済みである。だが、尋ねねばなるまい。
「あの2人を何で薦めるんですか?」
「まず、クロス卿に救われているので、忠誠心を期待できることですね」
それはそうだろう。ただし、あの2人はそのことをまだ知らないのだが。
「2点目に、2人とも家が商売をやっていて、計数に明るく読み書きが出来る教育を受けていること」
これもわかりやすい。貴族に仕えるなら、必須技能だろう。
「3点目に、あの2人に身寄りがなく、係累も縁を切っているので、都合よく言い寄る者がいないこと」
「なるほど、それも大事だね。新興の貴族家なんて、狙い目だもの」
納得するしかない理由である。
「4点目に、これは彼女たちのメリットでもありますが、2人バラバラにならずに、住み込みで働けること」
「うんうん、唯一残った家族だからね。それを分けるのは忍びないよね。うん分かる」
「5点目に、彼女たちが若くてきれいなこと」
「んん?」
「6点目に、そういう諸々の状況から、クロス卿が手を出しても問題ないこと」
「ちょっと待て」
それでは、シンジは弱みに付け込む最低男の称号を得てしまうだろう。……幼女によって。
「まあ、実際能力も高いですし、彼らの家の商売が上手くいっていたのも、彼女たちの力も大きかったと聞いています」
「じゃあ、何で売られたのさ?」
ロバートは、そこでため息をつく。
「そこが、私が疑う要素になっているのですが」
普通、こういう場合は親類が手助けをするものだし、緊急とは言え、高額すぎる医療費もちょっと不自然である。その割には治し方も杜撰に見えたらしい。実際、シンジが見たときも疑問に思ったものだ。
ロバートも、同様に疑っていると見た。
「今回の火事は……放火ではないと思うが、火が出たタイミングもピンポイント過ぎる。だが、警備隊の調べによっても怪しいところはなかった。だから、単なる失火として処理された、という事です」
その言葉から感じられるように、フレディも疑いの目を持っているようだ。
「ほむ、では、失火の原因として、残された彼女たちが金銭的責任を負って、奴隷になったと」
「先ほども言いましたが、そうしなければ生きていられなかったという事もあります」
それはそうだろう。あのガラスのような目は、完全に生きる気力を失っていたのだから。
「そんな事もあり、今後の彼女たちを考えると、クロス卿にお任せするのが最も良いと考えたのです」
「なるほどね。でも、何か気になるね。ロバートさん、その火事の現場、案内してくれる?」
「構いませんが、何ででしょう?」
「分かるか分からないか、一応現場を探ってみようかと」
何か見つかれば御の字である。
「あ、でもちょっと寄り道。リルを連れて行くから」
屋敷で食っちゃ寝をしているはずのリルなら、何か見つけられるかもしれない。
ほんのちょっとだけシンジは期待していた。ほんのちょっとだけ。
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