125.テンプレ的に、奴隷商館で本気になる俺。
シンジ君、お医者さんになるの巻。
シリアスです。決してごっこではない。(コラ)
微グロ注意。
そこには、ベッドに寝かされて、全身包帯を巻かれた人体らしきものが2体。
「これは……」
2体には片腕がなく、両膝から下の足もなかった。両者とも片眼は表に出ていたが、ひとりはガラス玉のように何も映してはいないように見え、もうひとりは固く閉じられたまま、涙の後だけがあった。
その姿は、生きているようにさえ見えなかった。
「声を掛けても、もう、何も反応しないのです」
ロバートが悔しそうに言った。
「確かに法的には借金奴隷として、隷属の魔術を掛けています。が、もし掛けなければ、食事も何もせず、そのまま死んでしまいそうなのです」
辛うじて、隷属魔術によって食事を取らせ、生かしているという事なのだろう。
「使徒様、なにとぞ、二人をお救いください……」
力なく膝をついて祈るロバート。
セバスの目がショックを受けたようにシンジを見つめた。フレディもシンジを見つめる。
「やります」
(……なあ幼女よ。これで出来なきゃ、チートでテンプレじゃねーよな?)
シンジは、心の中でつぶやきながら腕をめくった。
「フレディさん、シスターの中で、聖魔術が使えて最も度胸がある人を助手にしたいです。ロバートさん、清潔な布をいっぱいください。セバス、お前も手伝え」
シンジがフレディとロバート、そしてセバスに指示を飛ばす。
「は、すぐに連れてまいりますッ! ロバート! 布だッ! 早くしろッ!!」
「はッ!!」
3人が動き出した。
それまでに準備と実験をしておく必要がある。シンジとしても、これから行うことは未経験だ。チュートリアルでも。
まずシンジは、過去の知識をもとに、部屋全体に洗浄魔術と、念入りに殺菌魔術を掛ける。手術室に殺菌処理は絶対だ。
さらに、空間を操れる空魔術を使い、空気の断層を作って、ふたりが横たわるベッドを包みこむように展開する。
「うん、これを組み合わせれば、手術室なみの滅菌処理は出来そうだね」
シンジは、空気のバリアを見ながらひとり肯いた。
そしてちょうどいい高さの台を寄せると、アイテムボックスから取り出して滅菌した盆を出し、その上にハサミやピンセットを取り出し、洗浄と滅菌を行う。
こちらは、チュートリアルの時に作ったものだ。
幼女による鍛冶の課題ではあったが、こうしてみるとあの幼女は、この事態を予測していたのだろうか?
……いや、きっと『こんなこともあろうかと』とか言いたかったんだろう。
そこで、扉が開かれた。見ると、ロバートとセバス、そして職員らしき女2人が、両手いっぱいに布を抱えて入ってきた。
「かき集めてきましたッ!」
「うん、これだけあれば足りると思おうよ、ありがとう。この布、使い切っても?」
「もちろんです。では、私どもは外へ出ています」
そう言って、すぐに外へ出て行った。
数分ほどでまた扉が開くと、今度はフレディが入ってきた。
「使徒様、連れてまいりました」
「初お目見えします。アメリアと申します」
フレディが連れてきたのは、初老のシスターだった。
「アメリア準祭司は、私がいない間に聖魔術で彼女たちを看たシスターで、戦場も経験しています」
準祭司は、小神殿を統括できる資格を持つ祭司の補助を行う位階だ。教会や孤児院の責任者にもなれる、それなりに高い地位である。
単に聖魔術が達者なだけではなく、戦場帰りのシスターだからこそ、この負傷を見ても退かなかったのだろう。
「アタシが治しきれなかったこの子たちを治せるなら、何でもお手伝いいたします」
アメリアは、力強くシンジを見て、深々と頭を下げた。
その際に、シンジはアメリアを鑑定する。……聖魔術も水魔術も三段だった。
「ん、よろしい。フレディさん、後はまかせて」
フレディも部屋を出て行った。
「アメリアさん、今から見るものは、たぶん貴女の常識から外れたものです。説明しながら施術しますので、覚えてくださいね。たぶん、これからいろいろな治療に使えると思うので」
シンジとしては、フレディひとりに頼る治療体制よりも、複数人の治療従事者を段上げ出来た方が良いと考えた。ゆえに、助手を頼むことにしたのだ。
敬虔なシスター相手だからか、シンジの口調も丁寧である。
「まずは、ふたりを深い眠りにつかせます」
シンジは、水魔術と聖魔術でふたりに麻酔を掛ける。ふたりは身じろぎもしなくなる。
「い、今のは?」
「脳からの太い神経を一時的に遮断したんだ。これで、痛みも感じないよ」
脊髄をマヒさせることにより、麻酔の効果を出す。これにより、無意識に痛みを感じても動くことはない。もちろん普通なら危険すぎて出来ないが、今は緊急だ。麻酔もない以上、こうするより他に手がない。
「これは真似できないと思うので、後で麻酔薬の調合を教えますね」
「次に、ふたりを空気の膜で包みます。これは空魔術の応用だから、自分で手術やるときは出来る人にやってもらって」
鑑定の結果、アメリアは空魔術を持っていないので、これは仕方ない。
「で、空気全体に洗浄と滅菌」
言いながら再度部屋全体に洗浄魔術と殺菌魔術を掛ける。
「空気? それに滅菌というのは?」
「あ、そこからか」
シンジは思い至る。今の世界のレベルを考えれば、空気や菌の概念が乏しいのは当たり前だ。
「空気は、俺たちが息を吸って吐いてますよね? それは、生きていくのに必要な風を取り込んでいるんですよ」
シンジは単純化して教えることにした。このくらいの説明でないと、理解はされないだろう。
「菌と言うのは、物を腐らせたりする、空気にも入っている、小さすぎて目に見えない悪魔みたいなものです。これを殺す魔術ですね」
「そんなものがあるんですか……」
「戦場で、血とかで不潔にしていると、傷とかが腐ったり、膿が出たりしましたよね? それの原因ですよ」
「あれは、そういう理由だったんですね……」
アメリアさんの顔が暗くなった。戦場で、色々見たのだろうとシンジは推測した。
「安全な手術には、無菌状態が絶対に必要です。この処置が終わったら、この魔術は教えます。今はそういうものと思ってください」
「わかりました」
さらに、持ってきてもらった布に洗浄、それから滅菌。これをマスクにしたり、手術服替わりに簡単な加工をする。といっても、1枚布を貫頭衣にしただけだ。
そして、アイテムボックスから薄い手袋を取り出す。これは、スライムの皮から作ったものだ。これにも洗浄と滅菌を行い、2人とも着用する。
「では始めます」
シンジは、ハサミを手にした。
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