124.テンプレ的に、奴隷商館へ連れられる俺。
シンジ君、奴隷商館に連行されるの巻。
奴隷……ファンタジー物の基本ですが、いろいろ種類があるようで。
「ま、まあ、とにかく、セバス殿。同じ創造神様からの加護を持つ同士として、また使徒であるシンジ様の家臣として、これから一緒に動くことも増えると思います。よろしくお願いします」
胸で聖印を切り、深々と敬礼するフレディ。
それを受けて、深々と頭を下げるセバス。
「それで、奴隷の件なのですが」
頭を上げてセバスが切り出した。
「ああ、その件でいらっしゃったのでしたな。すぐに奴隷商館へ向かいましょう。
フレディに先導される形で、神殿を出る3人。だがフレディは、すぐ隣の建物に入る。
「え? ここなの?」
「はい、色々な事情もありますので」
シンジの驚きの声に、フレディが淡々と答える。
それはきれいな商館、といった建物だった。シンジの前世知識とイメージによる奴隷商館とは、似ても似つかない。
さすがに神殿傘下の奴隷商というところだろう。いくらテンプレであっても、イメージ通りの奴隷商館だったら、シンジはすぐに幼女にクレームを入れていただろう。
玄関に立つ2名の男性は、フレディを見るや深々と頭を下げた。
「これは大神殿長様、本日はいかがなされました?」
「ああ、ロバートは居るか?」
フレディの問いに、右側の年配の男が答える。
「はい、館長は執務中です。すぐに呼んで参りましょう。おい」
年輩の男が顎をしゃくると、若い方の男が走って館内に消えた。そしてすぐに、中年で細身の、上品なチョッキとスラックスに身を包んだ、口ひげの紳士を連れて来た。
「これはフレディ枢機卿様、昨日の件でしょうか?」
「そう、それもあって来たのだが、その前に紹介しよう。こちらはシンジ=クロス子爵様と、セバス殿だ」
「シンジ=クロスと申します」
「セバス=チャンと申します」
「クロス卿、こちらはこの商館の責任者で、ロバートです」
フレディは、男性を紹介してきた。
「子爵様にはご機嫌麗しく」
そこで、フレディがこちらに向き直る。
「クロス卿、彼は神殿関係者ですし、秘密も守れる男です。彼には明かしてよろしいでしょうか?」
フレディがそう言うのなら問題ないだろう。シンジは了承した。
「ロバート、魔術、技術の段位認定の話は聞いているか?」
「ええ、先日神殿から通達のあった、創造神様からもたらされたという新しい仕組みですね。それが何か?」
「それを神と交渉されたのが、このクロス卿だ」
ロバートの目が限界まで見開かれた。
「え? え? す、すると、聖痕をお持ちで……?」
残念ながら、シンジの背中は踏み踏みされていない。はっぱも。
「いや。クロス卿こそが、神からの使いとして降臨され、この私に聖痕をもたらした、偉大なる使徒様なのだ」
「へへーっ!!」
ロバートが、いきなりシンジの目の前で土下座してきた。使徒の肩書には、印籠並みの権威があるようだ。
「それでな、君が昨日相談に来た件だが、クロス卿なら治せるかもしれんと連れてきたのだよ」
「ん? 治せる?」
シンジは、聞き流せないひと言を耳にした。
「そ、それでは、すぐにあの子たちのところへ!」
ロバート氏は、ガバッと立ち上がると、俺の手を取り、すぐに奥の部屋に引っ張った。
◇
「その事件は4日前に起こりました」
歩きながら、ロバートが話し出す。
「1件の商店が、いきなり火事になったのです。原因は失火だと言われていますが、私は疑っています」
疑う要素があるという事だろうか?
「その商店は、店舗を大きくするため、新しく店舗となる店を買い取ったばかりでした。商売の上手い店主で、新店舗ではこれから大きくなるだろうと思われていたのです」
よくある成功者の話ではある。
「ですが、すべての契約が終わり、改装も終わり、新店舗での営業準備を始めようとしたその夜に、店舗は火事になりました。店主夫婦は焼死、助け出された娘は重傷で、手足を切断せねばならない状況でした」
なるほど、タイミングが悪すぎる話だ。
「営業準備前だったため、商品は前の店舗に残されていました。が、改装費用や土地代などで少々の借金があったのです。このため、新店舗の土地も、前店舗の商品もすべて取られ、娘2人は残った借金とケガの治療代で奴隷に落とされました」
「少々の借金で、奴隷に落とされるの?」
「医者は水魔術しか使えませんし、腕はそこそこレベルです。その割に緊急だという事で、かなりの高額費用を請求されたようです」
聖魔術ほどの効果はないが、水魔術も治療に使うことが出来る。シンジは、深いケガや病気、呪い関係は聖魔術を使い、軽いケガは水魔術で治す。何故なら、聖魔術は魔力を大量に使うからだ。
シンジはチュートリアルで戦いながら傷を治す必要があった。だから、魔力の節約のためと、集中が必要な聖魔術は戦いの後に使うケースが多かったのだ。
「事情が事情ですので、大神殿長様は不在でしたが、神官の皆様と相談し、奴隷として引き取ることにしました。が、時間が経っていたこともあり、やけどの跡と切断された手足はどうにもならず……」
そこでフレディも話に加わる。
「私も昨日話を聞き、聖魔術で出来る限りやってみましたが、腕と足を完全に喪失して数日経ってしまっているので、どうにもなりませんでした」
魔術は万能ではない。フレディの聖魔術は四段だったらしい。フレディ以外は三段の者までしかおらず、対処できなかったようだ。
そして、部屋の扉の前に着いた。
「ショックを受けられませんよう」
ロバートは、小声でそう言いながら扉を開いた。
奴隷持ちたい! という方は……(ヲイ)