122.テンプレ的に、屋敷を検分する俺。
シンジ君、家を買う。ではなく貰うの巻。
いや、シンジ君この前まで冒険者という名のフリーターみたいなもんだったし?(チガウ)
「私がセバスです。クロス卿」
そこには、胸に白手袋の手を当てた、絵に描いたような執事が立っていた。
オールバックにされたつややかな黒髪に、ひと房だけ金髪が混じり、一筋の後れ毛もなく整えられている。服装もチョッキと蝶ネクタイ、スーツに身をつつき、一部の隙も無い。
見た目は若いが、20代後半だろうか。落ち着き払った無表情である。
「ほむ、貴方がセバスさんですか」
「私のような者にさん付けは必要ありません。呼び捨てで結構です」
そう言って15度に腰を曲げ、奇麗に一礼するセバス。筋金入りの執事のようだ。
「では、早速屋敷へご案内いたします」
そう言って、辺境伯の屋敷を出て案内される。馬車に乗って。
馬車が動き出し、中にはシンジとセバス、そしてちょこんと座っているリルしかいない。箱馬車なので、小窓を閉じている限り、御者には会話は聞こえない。
シンジは、この機会にセバスに質問することにした。
「セバス=チャン、答えにくかったら言わなくていいけど、チャンさんの弟なんだよね?」
「はい、その通りです」
「商売の方へ行きたいとは思わなかったの? それとも、させてもらえなかったの?」
いきなり核心を突くシンジ。シンジとしては、推薦されたは良いが、本音で語れない方がやりにくい。それに、もしセバスとチャンの仲が悪ければ、シンジの都市計画上支障が出てしまう。
だったらこの質問を真正面からすることで、覚悟と内情を探ることが出来ると思ったのだ。
「いえ、兄たちからは店を持たせるという話もあったのですが、私は母の血のせいか人に仕えて世話をするのが性に合っているようで、辺境伯様をご紹介いただきました」
シンジの目には、嘘や無理をしている様子は全く見えなかった。
「母の血?」
「ええ、母は元々体調を壊してしまった大奥様に仕えるために、この国で雇われた侍女でした。大奥様が亡くなった後で、父である大旦那に見初められて後妻に」
下級貴族から嫁いできた正妻のもとに生まれていた兄弟を、事実上乳母として育てていたらしい。
「ふうん。兄弟は仲良いの?」
「そうですね、兄たちは何かと気を使ってくれます。私としてはありがたい限りです」
これも本音のようだ。
そんな話をしていると、すぐに馬車が止まった。
「え? もう着いたの?」
「はい、着きました」
馬車を降りると、いくつかの屋敷の頭越しに辺境伯邸が見える位置だった。
「馬車で来る意味無くない?」
「男爵家のご当主であり、子爵でもあるクロス卿が徒歩で屋敷まで歩くなど、とんでもない」
「……そういうもんなの?」
「そういうものです」
どキッパリと言うセバス。シンジも圧されて納得するしかなかった。
「まずは玄関から入りましょう」
セバスが先陣を切って正面玄関を開ける。そこに広がるのは吹き抜けの玄関ホールと、左端の2階エントランスに上がる階段だ。
「ほむ、広いねえ」
「格としては騎士爵家屋敷の上級と言ったところでしょうか」
確かに、ランチェスト男(現子)爵家の屋敷と比べると、1/3のサイズだろう。しかし、住むのが現状シンジとリル、そして採用すればセバスだけなのだ。使わない部屋だらけだろう。
実際に、部屋を一通り見てみる。それぞれ豪華な部屋や、広めの客室、お付き用の小部屋、部屋だけで15室以上ある。これに厨房や、室内訓練室や鍛冶や錬金にも使えそうな広間など、まさに貴族の屋敷といった風情だった。
庭も芝のような草が植えられ、高い塀で囲われている。
ただ、これだけ広いと困ったことがある。
「困ったねえ。いきなり屋敷を貰っても、維持できないよなあ」
そう、家の掃除などの維持活動にどれだけの人数が必要か、という話だ。
シンジが頭を抱えると、セバスから助言が飛んでくる。
「そうですね、辺境伯閣下からも聞いていますが、必ず秘密が守れる人材が必要でしょう」
「俺には心当たりないよ? セバス=チャンは?」
シンジの中では、セバスは『セバス=チャン』呼び一択である。
「良い方法があります」
ニヤリともせず言い放つセバス。だがシンジは、ニヤリと笑ったように感じ、ちょっと不吉な予感を覚えた。
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