12.テンプレ的に、くっ殺さんと再合流する俺。
シンジ君、テンプレに引っ掛かるの巻。
魔物暴走は基本ですよね。事の重大性は作品によってまちまちですが。
警告が表示されているステータスボードを消すと、シンジは思わず頭を抱えてしまった。
「頭痛がする……。いやまあ、警告出してくれるのはありがたいけど」
それが何でこの表示なのか。いや、これも幼女の仕込みなのだろうが。
その時、森の奥でブワッと魔力がほとばしった。
「何だ? ……って、今のはどう考えても、魔物の気配だよね。それもかなりの数。もしかしたら、この気配がさっきの警告と関係している……んだろうなあ、たぶんきっとめいびーぱはーぷす」
であるならば、この発生した気配はオークロードと眷属1000体となる。すなわちそれは、オークの大部隊が現れたという事だ。
なら、これが襲われ出会い系テンプレ四天王ふたつ分の反動という事になる。シンジのチュートリアルでの経験上、魔物暴走としては軽い方だ。反動としては、まだましなレベルと言えるだろう。
「ワンペアでこれか。もし4つ揃っていたら、キングかエンペラーが出ていたのかもな」
この世界の初実戦で、いきなりオークエンペラーと対峙するとか罰ゲームだろう。先ほどの盗賊はともかく。
「あの幼女ならやりかねんが。まあ、とにかくこの反動を切り抜けなくちゃいけないよね」
まずは女騎士と合流するのがいいだろう。この地での魔物暴走の扱いや、対処法などを確かめておく必要もある。
シンジは、先ほど覚えた女騎士の気配を探し、方向を定めるとそちらへ飛んだ。
◇
「くッ! 殺すッ!!」
(テンプレも、ちょっと変わるだけでいきなり物騒だなオイ)
シンジの眼下には、またオークどもに囲まれた女騎士がいた。ただ先ほどと違うのは、結構互角以上に戦っており、4匹くらいのオークが斬られて死んでいるところだろうか。
女騎士の周りをオーラが覆っている。どうやら身体強化の魔術が使えるらしい。道理で怪力のオークに引けを取らない訳だ。
(うん、くっころ(す)さんだね)
これもテンプレと言うものだろう。
「おーい、女騎士さーん」
呼びかけながら、その右隣に降り立つ。
「またオークが来たみたいだね。今回は危なくないようだけど」
「おかげさまで、準備は万端でしたので」
そういう女騎士の腰回りをチラリと見ると、ちゃんと鎧が装着されていた。
「4匹も倒したんだ。結構強いじゃない。さっきはどうしてやられそうだったの?」
「さすがにあの恰好では、足に力を入れるのが難しく……」
女騎士は、ちょっと顔を赤らめて呟くように言った。
「うん、アホなこと聞いてすみません」
シンジは、軽く咳払いして仕切りなおした。
「まあいいや。これからオークロードが来るから、ちょっと手伝ってくれない?」
「は?」
女騎士の動きが止まった。その瞬間をチャンスと思ったのか、オークが1匹飛び込んで来た。
「ジャマ! どけッ!!」
シンジはそのまま1歩縮地で踏み込んで、オークのぷっくり膨れた腹を右ストレートで殴りつける。ズドンと太鼓にバチを叩きつけたような腹に響く低い音。
ブギャァァッ! とドップラー効果付きの叫びをあげながら、オークは4mほど後ろに飛ぶ。そのまま大木の幹に打ち付けられ、五体バラバラにちぎれて飛んだ。
周りのオークが凍り付いたように止まる。
「あ、やっちゃった」
シンジは、話の邪魔をするオークにイラっと来る。シンジは、普段は温厚なのだが、重要な考え事をしているときや、大事な話の邪魔をされると、一瞬で怒ることがある。
特にチュートリアルを熟してからというもの、手が出るようになってしまった。
まとわりつくような空気の中で、誰も声を発しない。いや、発せない。
「……汚ねえ花火だ」
シンジは突然、これを言わなければならない使命感に駆られてしまった。
「……はッ! これが強制力……? 幼女、恐ろしい子ッ!!」
「え? ちょっと何今の? オークが飛んだ?!」
女騎士がこんらんした。
「プギッ!?」
先に我に返ったオークが、こん棒を振り上げた。
「はッ!?」
女騎士はとっさに剣で弾いたものの、受け流しに失敗したのか、その衝撃で剣が折れた。
「あッ!」
それを見て、こん棒を振りかざしたオークがニヤリと笑みを浮かべた。
「だから! ジャマすんな!」
そのままオークの横っ腹に右フックをかます。くの字に折れたまま、横に吹っ飛ぶオーク。そのまま木の幹に衝突し、手足が折れ曲がって力なく崩れ落ちた。
「まったく、躾がなってないオークだよホント。人が話をしようとしているのに、横入りしようとか」
それを見た残りのオークは、一目散に森の奥へと逃げ出していった。
「あのー……」
プンスコという文字が見えるくらいシンジが怒っていると、恐る恐るという感じで女騎士が声を掛けてきた。
「あ、ごめんね。ちょっと躾のなってないオークだから、懲らしめてました」
「いやあの、それは良いんですが、オークロードって?」
「ああ、もうすぐオークの魔物暴走が来るよ。1000と小規模だけどね。で、その頭がオークロード」
女騎士は、目をパチパチとさせて、一瞬何を言われたか分からない感じ。が、目を見開いた。
「はあぁぁッ!? オークロードぉ~ッ!!?」
絶叫する女騎士。無理もない。
「い、いや、確かにここは魔の森ですが、オークロード程の存在はかなり奥でないと出ないはず」
「でもさっきから、オークだらけだよね。魔物暴走ならあり得るんじゃない?」
とシンジは言いつつ、反動がオークなのはたぶん女騎士さんのテンプレのせいだよね、どー考えても、と心の中では思っていた。表情にカケラも出ないのは、厳しいチュートリアルのせいである。
「で、どうする?」
ここで時間を使っても仕方がない。何より対処を考えないといけない。
もちろん、たかがオークロードと1000匹のオークどもなら、シンジひとりでも対処は可能だ。
だが、この地の常識が分からない。
もし、何の後ろ盾もない状況で、魔物暴走をひとりで退治してしまったとき、どういう目で見られるか? その点が心配なのだ。
どの世界でもそうだが、強過ぎる力を持つ者は異端視されるのが普通だ。
ましてや、王侯貴族のいる世界である。権力に付随していない暴力は、排除されるのがオチだ。裏切られる勇者のテンプレなんか、掃いて捨てるほどある。
シンジとしては、この世界で捨てられ勇者のテンプレに嵌まるとか、真っ平ご免である。あの幼女なら、さぞかし壮絶な裏切られテンプレを用意することだろう。力任せでも乗り越えられるだろうと思って。
「……はッ! そ、そうでした! まず事実を確認して、報告に戻りますッ!」
そんなことを考えているうちに、騎士は再起動したようだ。
「うん、わかった。お手伝い要る?」
「貴殿ほどの腕前なら、ぜひお借りしたいです」
「はい、りょーかい。でも、お礼は弾んでくれると嬉しいな」
「あ、そうですね。無事に解決したら、兄、いえ上司に掛け合います。もし難しいようでも、そんなに高額じゃなければ何とかしますので」
(ん? 今、兄って言ったよね。すると、女騎士さんのお兄さんがお偉いさんなのかな? だとしたら、期待できるかな? かな?)
シンジの脳裏に、偉大なる下心が奔る。
何しろシンジは、こちらの現金を持っていないのだ。持っているのは、チュートリアルで手に入れた素材や宝石、自分で鉱石から抽出した貴金属のインゴットだけだ。
チュートリアル中に、現金を稼ぐようなイベントはなかった。と言うか、人と接したこともない。会話したのは、幼女と五色の龍たち、或いはちゅうとりある中の関係者くらいだ。
最悪、女騎士に街へ連れて行ってもらえさえすれば、冒険者ギルドに行って登録ついでに換金できるだろう。
礼と言っても、そこまでのつなぎの資金があれば良い。だから高額請求するつもりもない。
(だってそんなに高額にならないでしょ。所詮オークロードだし?)
シンジの中では、オークロードはその程度のものだ。
「じゃ、商談成立という事で。まずは、上空から様子見ようか」
シンジはそう言って、女騎士を再びお姫様抱っこする。異論反論できないスピードで。
「えッ!? あのッ!? そのッ!? 何でッ!!?」
再びパ二クる女騎士。
「だーいじょーぶ、まーかせて。じゃあ、行くよー」
シンジは、そのまま飛行魔術で浮かび上がり、森を抜けて木々の上まで浮かんだ。
「と、と、と、飛んで、るッ……!!?」
女騎士が呆けたようにつぶやいた。
打算大事ですよね。
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