119.テンプレ的に、熱血コーチに転身する俺。
シンジ君、熱血コーチした結果の巻。
暑さで筆が進まない今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。(ヲイ)
シンジが鬼コーチになって、再び10日間が過ぎた。
修行を積んだ魔術団員たちの顔は引き締まって、歴戦の勇者に見える。見え過ぎる。
「……で、何で皆、額と顎に影線が入っているんですか?」
アンリの疑問が、むなしく響く。
「うん、みんな修行ガンバったら、妙にシリアスになっちゃったんだよね」
「私たちがいない間に、一体、どんな修行を?」
アンリとアイリスは、他の仕事もあるために後半5日間はこちらに来ていない。
「普通にコーチしたよ。血を吐きながら」
「血ィッ!?」
シンジ的に、コーチが血を吐くのは譲れないのだ。だってコーチだから。
「おかげで、みんな段位が上がったよ」
シンジの鑑定によれば、全員二段から三段以上に上がっている。四段になった者もいる。
「いや、団員の段位が上がったのは喜ばしいですが……。何で全員肩パッドに棘とげを付けているんですかッ!? ヒャッハーとか騒いでいるしッ!!?」
「……様式美?」
絶対違う。
◇
「あー、それで土魔術士たちは大丈夫なんだろうな?」
オリバーとアーサーが執務室で頭を抱えている。……どうも、この姿勢がデフォになりつつある。
「うん、大丈夫ですよー。指導が終わったので、徐々に元に戻ると、思うけど、たぶんきっとめいびー」
全く安心できない。
「俺も、血を吐きながらの指導は苦しかったので、早めにモノになって良かったと思いました」
「何で血を吐くんだッ!?」
様式美である。たぶん。
「……しかし閣下、チェスタニアの城壁がここまで早く完成したとなると、王都から土魔術士の貸し出し依頼が来てしまうのでは?」
アーサーが懸念点を挙げる。確かに、鍛えた土魔術士は優秀で、四段になったリーダーを始め、全員が三段に上がった。単純な比較は出来ないが、剣術でアイリスが上位だったことを考えると、四段は国内でも上位に入るのだろう。
「それは困るなあ。俺としては、都市の地下上下水道の構築について、彼らから教えてもらいたいんだよねえ」
シンジとしては、せっかく手間暇かけて彼らを育てたのは、実地で都市構築計画を教えて欲しいからという側面がある。
シンジは自分の土地で構築する都市は、最高の環境に仕上げたいと思っていた。それこそ我が使命であると。要は、『ぼくのかんがえたカッコイイ都市』が造りたいのである。
知識面だけならチュートリアル中に学んでいる。が、所詮は『中途りある』である。本当の現場で都市計画を学び、知識と擦り合わせをしたいのだ。
「ならば、新城壁の内地の整備、明日から一緒にやってくれるか? 王都から依頼がある前に、進められるだけ進めておきたい」
オリバーが決断した。
「ラジャりましたッ! ビシバシ逝きます!」
シンジがサングラスをかけて敬礼で答えた。
「しかし、そうすると魔術団員が、あの顔から戻らなく……」
頭を抱えるアーサー。
「んじゃ、コーチを変えましょう」
シンジがサングラスを取り、拳を握った。
「限界までやって、そこから先がまだ頑張れる! できる! できる! 修造になるんだよッ!! ……こんな感じで」
美形なのにやたら暑苦しい顔になるシンジ。顔芸である。
「何なんだシューゾーってッ!?」
「ポジティブと熱血指導は、移動するたびに現地を晴れにするんだよ?」
「意味が分からん……」
アーサーが机に突っ伏した。
なお、シンジの熱血指導により、今度は顎の影線やトゲトゲ肩パッドではなく、さわやか暑苦しい集団となったようだ。
オリバーとアーサーが再び頭を抱えたのは言うまでもない。どっとはらい。