118.テンプレ的に、鬼コーチになる俺。
シンジ、コーチになるの巻。
コーチと言えばアレですよね。(ヲイ)
「で、10日で城壁が完成したと」
あきれ果てたような口調で、オリバーがつぶやいた。
「まだ完成ではありません。壁部分が出来たという事です。それでも驚異的ですが……」
遠い目をしながらアルフィーが報告する。
「それにしても、早すぎだろう……」
この会議室には、オリバーをはじめ、子爵となったアーサー、騎士隊総隊長であるアンリ、いつの間にか出世してしまったアイリス、そして今回の責任者であるアルフィーことアルフレッドがいる。もちろんシンジも同席させられている。言わば、チェスター領最高幹部会議である。
アイリスは自分が場違いとばかりにキョロキョロしている。女子爵となってしまったので、一介の騎士隊小隊長から、いきなり領最高幹部の一席を与えられてしまったのだ。もちろん諸侯になってしまったので、領政を学ばせるためである。
今回が会議初参加なのだが、いきなりシンジのやらかし対策会議に出ることになるとは、よほど深い縁なのであろう。
「まあシンジさんですから」
キョロキョロしながら、ひと言挟んでくるあたり、シンジ慣れしていると言えるのだろう。
「しかし、困った事ですね」
「アンリ、何が困るんだ?」
アンリの発言に、アーサーが首を傾げる。城壁が早くできて、困る事は無いだろうに。
「いや、シンジさんのあまりの魔術に、魔術士団の土魔術士が自信喪失気味でして……」
ため息交じりのアンリの発言に、シンジを除く全員が、ああ、という言葉を漏らす。
「……まあシンジさんですから」
アイリスが再びつぶやく。
「だいたい、自分とシンジさんを比較するとか、自分から人間を辞めるって言っているようなものですよね」
「アイリスさん、それどーゆー意味かな? かな?」
シンジが青筋を立てて言うと、アイリスが目をぱちくりさせた。
「え? シンジさん自分の事を普通の人だと思ってます? ……本当に? 普通の人はドラゴンを無傷で倒せないんですよ?」
「アイリスさんだって、ドラゴン倒したじゃん」
「脳天一刺しとか無理です」
どキッパリそう言われると、シンジも反論できない。
「う~……うんわかった! なら、その土魔術士たち、俺が鍛えちゃるッ!!」
「「「「「はい?」」」」」
シンジを除く全員の心がひとつになった。
こいつ、何を考えているんだ? と。
「うん、鬼コーチにッ! 俺はなるッ!!」
どーん!! という効果音が聞こえてきそうである。
「そしてッ! エースをねらったり、トップをねらったりするんだッ!!」
何故かサングラスをかけるシンジ。
「……狙ってばっかりですね」
アイリスの冷静なツッコミが冴えわたる。
ともかくも、シンジの弟子たちが決まった瞬間である。
◇
そこに並んだ魔術団員は、男性が3名、女性が3名である。
「全員整列!!」
シンジの掛け声とともに、8人が整列した。
「……アンリさん、アイリスさん、何してんの?」
「シンジさんが魔術を教えると聞いて、これほどの見ものはないかなと」
「隊員たちが心配で監視に」
魔術士団は騎士隊の一部門である。よって、確かにアンリの部下だったのだから、このセリフは正しい。
「せめて本音と建て前を身に着けろ女子爵。それにアンリさんも、セリフと顔が一致していない」
隊員への心配を語るアンリの顔は、期待にワクワクし過ぎていた。
魔術団員たちの顔が引き攣っている。無理もない。どう見てもアイリスもアンリも止めてくれそうにないのだ。
「ところでシンジさん、その恰好は?」
シンジは、黒灰緑色の襟を立てたジャージを着ていた。
「コーチと言えば、このコーデでなきゃいけないのです。そして、血を吐くまでがセットでジャスティスです」
「……ワケが分かりません」
「まあ、とにかく訓練だよ! はい、まず石レンガを作ってみてね、サンはいッ! ……うん、みんな二段くらいかな」
どうやらシンジ、訓練は真面目にやるらしい。
「ひと目で良くわかりますね?」
アンリの疑問に、シンジが答えた。
「そりゃね、魔力の練り具合とレンガの生成スピードと硬度、材質変換力を見たら、到達段位くらいはすぐ分かるでしょ?」
「……無茶言いますね」
普通の人は分からない。
「んー、大体分かったかな。よし、じゃ皆、鉄下駄はいて」
「何でですかッ!?」
それこそ様式美である。
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