117.テンプレ的に、壁に挑む俺。
シンジ君、自分の前に壁を作るの巻。(イミチガウ)
「シンジ、屋敷の件なのだが」
伯爵邸改め辺境伯邸に戻ると、オリバーから早速声がかかった。
「実はいったん決まった屋敷があったのだが、子爵邸にするには格式が足りなくてな。城壁を拡大してから、建て直す必要があるのだ」
チェスター家が辺境伯家に陞爵するにあたり、今まで王都で使われていた黒竜の魔石が褒賞として与えられた。つまり、今回狩った竜2頭の魔石とバーターしたようなものだ。
これにより、チェスタニアは倍レベルの城塞都市に拡張が可能になった。
今までは傘下の男爵家がランチェスト家ひとつで、後は準男爵家、騎士爵家、法士爵家がいくつかという体制だったのだが、急に傘下に男爵家が4家になったことになる。
当然今までの屋敷の数と規模では足りなくなる。このため、急遽都市計画を見直す必要が出てきたのだ。
「ん? でも、俺ひとりだし、そんな贅沢な建物いらんですよ?」
シンジとしては、ある物を利用できるならそれで十分だし、開拓に費用が掛かるだろうから、あまり金を使いたくない。竜の素材もそんなに売れなかったので。
「一応貴族にも格式があるからな。男爵家ともなれば、それなりの建物でないと格好が付かん。ランチェストの屋敷にいただろう? 歴史ある男爵家だから、そのままの格式は求められんが、近いものは必要だぞ?」
「でも、城壁を大きく作り直して、その上で民家を移転させて、空間を広げてから屋敷を建てるとなると、相当時間かかりますよね?」
「確かに土魔術士を動員しても、城壁だけで2年越しの工事になるだろう」
これだけの規模の城壁を作り、土地を広げるのだ。魔術を使っても早々終わるようなものではない。ただし、シンジは除く。
「んじゃ、腕鳴らしに城壁、俺がやりましょーか?」
「……は?」
……そう、シンジを除けば。
「んで、浮いたお金、ウチの領の開発費にちょっとくださいな♪」
◇
「ここが境界線なんですね」
その場所は、領都の城壁から優に1kmは離れた草原だった。どうやら、ここに引かれたラインが新しい結界の最大値らしい。
「そうですね。一度発動したら、その跡が残りますから」
今回は、男爵家嫡子のアルフィーが着いてきた。アルフィーは相変わらず敬語だ。シンジは敬語は要らないと言ったのだが、自分は子爵家でも単なる嫡子で、自身は法士爵でしかないからと敬語は止めてくれなかった。中々堅い男である。釣られてシンジも敬語になってしまう。
「クロス卿、本当にそんなに簡単に城壁を造れるのですか?」
「ま、何とかなるなるですよ」
「はあ、そうですか」
シンジはラインの手前に立った。
「嫡子様、このラインの手前で良いんですよね。高さはどのくらいが良いですか?」
「クロス卿、嫡子様は止めてください。今では貴方の方が高位なんですから。アルフィーと呼んでください。あ、高さは今の城壁と同じくらいが良いです」
「じゃあ、アルフィー殿と呼ばせてもらいますねー。厚さはどのくらいが良いです?」
「敬語もいりませんよ。アンリと同じように呼んでください。厚さは……そうですね、どの位なら可能ですか?」
「んー、可能と言えばどこまででも可能だけど、目的によるかな」
アルフィーは顎に手を当ててしばらく考え、顔をあげる。
「辺境伯様に言われているのは、城壁からの攻撃が可能な厚みは必須との事でした。ですので、現在が3ルート半程なので、それより厚みがあれば、武器の搬入なども楽になると思います」
シンジの記憶によると、たしか1ルートは1mほどだったはずだ。ならば、数人がすれ違っても問題ないようにするなら4m半程度あれば良いだろう。そう言えば、万里の長城の厚さがそんなものだったはずだ。
「じゃ、ちょっと試しに作ってみるね」
シンジが地面に手を当てる。
「いっくよ~♪ ちょいさっと!」
ちゃぶ台をひっくり返すように腕を上げ、一気に魔力を立ち上げた。
低く地鳴りの音がして、森側の地面が斜めに凹んでいく。それと同時に、土の壁が、ジャッキで持ち上げられたようにせり上がっていく。
さらに、土の壁を包むようにじわじわと土が石化していき、1枚岩で作ったような壁が上に6m、横に5mほど連なった。
「おおお……」
アルフィーと護衛の兵士たちが、驚きの声を上げた。
「ちょっと階段付けるねー。だんだんだんッと!」
壁にくっつくように手前の土が盛り上がり、石段が積み上がっていく。やがてそれが上まで達すると、立派な石の階段が出来上がった。
「みんな登ってみようよ」
シンジを先頭に、アルフィーと兵士たちが連なって石段を上る。壁の上に立つ。道の横は手すりも何もない状態で、巨大な平均台の上のようだ。
「ああ、これだと身を隠せないねえ。敵に飛び道具があったら危ないか」
やっぱり作ってみないと分からないことも多い。
シンジは西洋の城を思い出し、50㎝ほどの厚みでもう2m土を積み上げた。それに凸凹をつけて矢狭間替わりにした、これで大丈夫だろう。
「アルフィーさん、こんな感じでどう?」
「ええ、これなら矢も射やすいと思います」
「じゃあ、こんな感じで作っていくね」
シンジは階段を降り、そのまま走って左側の端へ向かう。
後はこの繰り返しをするだけだ。途中、一定距離を空けて監視台を付けるのも忘れない。
シンジは、とりあえずその一日、壁作るマシーンとなって頑張るのだった。
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