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115/135

115.テンプレ的に、焼肉親善大使を務める俺。

シンジ君、焼肉に命を懸けるの巻。

さあ皆さんご一緒に。「焼肉サイコー!」(ヲイ)

 「さてとだ、陞爵はそれでよいとして。シンジよ」


 ジョセフが、顔をずずずいッとシンジに寄せた。思わず仰け反るシンジ。


 「な、なんざんす?」


 あまりの迫力に、言葉遣いがおかしくなる。


 「オリバー達に、ドラゴンの肉を調理したそうだな」


 「しましたが何か?」


 「余にも食わせろ」


 「……ぱーどぅん?」


 「だから、余にも食わせろ。オリバーに聞いたぞ。この世のものとは思えぬ美味であるとな」


 思わずオリバーの方を見てしまうシンジ。そこには、頭を抱えるオリバーの姿があった。


 「……伯爵様?」


 「すまん、シンジ。陛下はこういう方なのだ」


 「人聞き悪いなあオリバー」


 「だったら新任子爵に肉たからないで下さいよ……」


 なかなか面白い人間関係である。傍から見ている分には。巻き込まれたシンジとしては、堪ったものではないのだが。


 それを見ているジョージは、腹を抱えて笑っていた。


 「ま、りょーかいです。叙爵式が終わったら出来るようにしますけど。……せっかくだから、派手にやりません?」


 シンジがニヤリと危ない笑いを浮かべた。




 ◇




 「こちらが3名が退治した竜の一頭となりますッ!」


 大きな布が外され、シンジが退治したほとんど完全体と言える地竜が姿を現す。大広間の天井に頭が付くかという程の迫力に、集められた貴族のざわめきが治まらない。


 「そして、こちらがもう一頭の竜から出た魔石ですッ!」


 そこには、アンリたちが退治した方の魔石が、サテンのような光沢をもつ布の台に置かれ、魔石で造られたシャンデリアの光を浴びて、アメジストのような光沢を放っていた。


 でかい、すごい、という感嘆の声が会場を包む。


 「この魔石は、王都を守る魔術結界の要石として使われる予定ですッ!」


 儀典官の解説に、再びどよめきが起こる。


 今の王都を守る結界の要石は、70年前に退治された黒竜の物が使われている。これを、後日この魔石と交換するのだ。


 これにより、王都の結界は広がり、城壁の増築が可能になる。これは、限界に近かった王都の面積が、さらに大きくなることを意味する。暫くは土魔術士の需要がひっ迫することになるだろう。


 力ある魔石は、国にとって重要な宝である。特に巨大な魔石は、国力そのものと言っても良い。なぜなら、魔石のサイズと質は、蓄えられる魔力と比例する。


 魔力を使った結界は、都市の防御壁に被さるように展開される。つまり、強力な魔物による魔物暴走(スタンピード)を、一時的とはいえ魔力が続く限りは耐えられる。


 常時展開することは出来ないが、都市としての防衛能力は非常に高くなるのだ。それがふたつも手に入った。つまり、王都クラス以上の都市を二か所造ることが出来るという事だ。


 無論、都市の建設には金も時間もかかる。だが、それを差っ引いても余りある功績と言えよう。


 そして、そのまま叙爵式に移る。


 「諸侯騎士爵シンジ=クロスは、魔の森にて地竜を直接退治し、神よりドラゴンスレイヤーの称号を賜ったものである。この功により、臣一同、子爵に推挙し、並びに男爵家への陞爵を推挙するものなり」


 国王が玉座から立ち、羊皮紙を読み上げた。


「騎士爵シンジ=クロス、汝に男爵家への陞爵を許し、子爵に封ず」


 儀典官の手により、シンジの背中に深緑のマントが掛けられる。この瞬間、シンジは子爵になった。


 拍手に包まれながら、シンジは以前と同じく、マントを翻して席に戻った。


 アイリス、アンリの順に陞爵が進められ、すべての儀式は終わった。




 ◇




 ここはパーティー会場。その一角に設置された鉄板の前にシンジは立っていた。調理帽とコックスーツにエプロンを身に纏って。


 シンジは、早速肉を焼く。


 城の料理人と一緒に焼肉を焼くことになったのだ。子爵だが。


 「まあ、料理好きだし?」


 シンジはまったく気にしていない。というか、ジョセフとの話し合い後、料理長に紹介してもらい、そこで焼肉のたれを出したところ、えらく気に入られてしまったのだ。ちなみに、料理長も男爵の個爵持ちである。


 それを遠巻きに見る授与式の観覧者。何をしているのかさっぱりわからないといった雰囲気に包まれている。


 もちろん、事前に用意されたパーティー料理は並べられている。が、注目を集めているのはシンジが立つ一角だ。もっとも、集めるのは注目だけで、誰も近づこうとしていないが。


 シンジは、良い具合に焼けた(そだてた)肉をタレの皿に移す。そのまま横の箸で口に放り込んだ。


 「ん~、でりしゃす♪」


 先ほどからひょいぱくひょいぱくと口に運んでいる。もちろん、ドラゴン肉だ。


 「やっぱ、この肉は焼肉が一番だねえ」


 そこへ、オリバーが近づく。


 「シンジ、一皿所望だ。……陛下が」


 国王ともなると、迂闊に焼き場に近づいて皿を貰うという真似が出来ない。取ってくるように命じられたオリバーが、ニヤリと笑いながら皿をシンジに渡した。


 もちろん毒殺用心のためである。そのためにシンジが食べて無毒を証明し、オリバーが貰った皿の肉をフォークでひとつ摘まんでさらに毒見をする。

 肉の味にオリバーの頬が引き締まるように口角が上がった。旨味が爆発すると、誰でもそういう反応になるものだ。


 オリバーが皿を持ったままジョセフに近づき、恭しく皿を差し出すと、側近が重々しく受け取り、国王ジョセフが座るテーブルへと乗せた。


 ジョセフはナイフとフォークを手に取り、上品に口へ運ぶ。暫く咀嚼すると、突然目が見開き、動きが止まった。


 数秒間の沈黙。ジョセフの身体がフルフルと震えだす。


 「へ、陛下ッ!?」


 側近が驚いたように焦りの声を上げた。貴族たちが一斉にジョセフを見つめる。


 「う」


 「う?」


 「うまッ!? 何だこれはッ!!?」


 国王の叫びとともに、シンジのもとに貴族が殺到した。


 あらゆるところで感動の声が上がる。


 「うまいでしょー? これがドラゴンの焼肉だよー」


 私は焼肉親善大使、といったスマイルを浮かべ、シンジがどんどん肉を焼いていく。


 「焼肉サイコーッ!!」


 シンジが右手を天高く突き出すと、その場の全員が同じく右手を突き出した。


 この時、すべての派閥を超えて、その場にいた全貴族の心がひとつになったのだ。


 シンジと料理長が用意したドラゴン肉は、あっという間に貴族たちの胃袋に収まったのだった。

最近忙しくて焼肉に行けていない作者を憐れんで、★とブックマークをお願いいたします。(マテ)

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