113.テンプレ的に、ヤバめの薬を渡す俺。
シンジ君、ヤバ目の薬を生産しちゃうの巻。
タイーホ案件である。(ヲイ)
ついに故障受付まで来ました。(チガ)
「でーきたっと♪」
シンジの目の前には、赤い液体の入った小瓶と、青い液体が入った小瓶が10個ずつ並んでいた。
言うまでもなく、『神酒』と『霊酒』である。
調合している最中、『そんなにレミーたん使うんじゃないッ!』とか、『カミーュがッ!! 遊びでやってんじゃないよ!』などと、幼女らしい声が響いた気がするが、アーアーキコエナイ。
「どっちも安定して造れるのは5年モノかあ。うん、腕は確実に落ちているねー。全盛期の7割くらい? それでも戦闘力よりマシか?」
調合と戦闘能力は違うのだろうか。その辺はシンジにもわからない。まあ、戦闘力はチュートリアル空間が上がりやすく調整されていたとも考えられるし、調合の腕は筋力やレベルは関係ないので、この世界でもある程度は能力を持ち越せたのかもしれない。
それはともかく、5年モノである。
神酒なら、5年若返る。霊酒ならば、どんな病気でも治るし、健康状態で飲めば一定期間病気に罹らない。今回は5年間だ。
このふたつに、どんなケガも治すと言われる神薬を組み合わせることで、問答無用で寿命を延ばせるのだ。
ただし、この3つは同時に飲むことが出来ない。ひとつを飲んでから最低2年は置かないと、体内に毒素が発生して必ず死ぬ。同種の薬なら3年経たないと飲むことが出来ない。
そのため、この3種のポーションに、『聖酒』と呼ばれる最上級聖水を加えて、『聖薬酒』シリーズとも呼ばれている。
ちなみにこの世界では、どれほど性能の良い聖薬酒でも、10年モノは現存しない。たまにダンジョンから発掘されるもので、2年モノがたまに、3年モノがまれに出る程度だ。歴史に残る錬金術師が、最後に創り上げたのが10年モノを超えていたと言われているが、現物はなく、その制作方法も残っていなので、真偽は定かではない。
もちろんシンジは真相を知っている。その伝説の錬金術師も転移者であり、その死に至った一件も、実は幼女ブチ切れ案件であったと。
かくしてシンジは制作方法を知り、それを再現して見せたのだ。チュートリアルでは。
「んー、こっちの時に使ったのが、上級竜種の血だったってのもあるだろうけどねえ。でも、あの時は葡萄酒を使ったから、ブランデーで実験した今回よりも酒の質では劣っていたはずなんだけどなあ。……やっぱり腕の劣化かな? かな?」
シンジは、右手に今回出来た神酒を。左手にチュートリアル中に制作した神酒を持ち、両方を近づける。遠目には差異が
あまりない、美しい深紅の液体だが、左手のピジョンブラッド・ルビーのような液体に比べると、右手のモノは若干だがオレンジ色が混じって見える。
「まあ、一応自分の腕も確認できたことだし、これで良しとしようか。さて問題は、これを見せるかどうかだよねえ」
シンジは一瞬、錬金術師の末路を思い返した。今回の『聖薬酒』シリーズを伯爵に見せたら、同じようになるのではないかと。だが、そうはならないだろうと思い直した。
シンジと件の錬金術師とは、決定的な違いがある。それは、本人の直接的な戦闘力だ。
ドラゴンを倒せる錬金術師。それを襲おうとするだろうか? 普通なら絶対にしない。敵対して戦闘になったとき、どう考えても被害は甚大だ。
それよりも、懐柔してこの国から自主的に出ないよう仕向けて来るだろう。アホ貴族でもない限り、普通ならそうする。そして、実際に会ったこの国の国王は、カリスマもあれば気さくな面もある、実績面を見ても名君と言っても良い存在だ。
だから、基本的にシンジの身が危うくなるようなことも、敵対して国に被害をもたらすようなことをすることは無いだろう。周りの取り巻き貴族や、王族の次世代には会ってないのでわからないが。
その場合でも、この薬により現国王の治世が延びれば良いだけの話でもある。
ある意味、開き直ったとも言う。
そういう訳で、シンジは早速伯爵にアポを取るのだった。
◇
……そしてシンジの目の前には、頭を抱えたオリバーとアーサ-がいるのであった。
「……冗談だって言ったよな?」
地の底から這い出るような声で、オリバーが唸った。
「えーっと、『冗談だよな』、と聞かれたので、『もちろん(冗談なわけないですよ)』とお答えしたかと」
どう聞いてもシンジ、確信犯である。
シンジの返答を聞いたオリバーとアーサーが崩れ落ちた。
「そっちか……そっちだったのか……ッ!! 確かに確認していなかったがッ!!」
オリバーが嘆く。
「まあ、出来ちゃったものはしょーがないですよ。うん。ですので、どうするかを決めましょ」
シンジ、どこまでもお気楽極楽である。
「そうだな、無かったことには出来んよな。……仕方ない。これも陛下に報告だ」
「あ、伯爵のお手元に何本か残した方が良いですよー。折角ですから♪」
「……そうだな、そうさせてもらう。アーサー、お前も1本ずつ持っておけ」
「わ、私もですかッ!?」
そこでキラーパスが出されると思っていなかったのだろう。アーサーが動揺しまくった。
「いやさすがに金貨積んでも買えないような薬を、一介の男爵がいただく訳には」
「だーいじょーぶ、まーかせて。まだ材料よゆーであるから! アンリさんやアイリスさんの分も合わせてあげるから♪」
それを聞いたオリバーとアーサーが、再び崩れ落ちた。
とりあえずオリバーが、10本全部を国王にダイレクトキラーパスすることにしたのは言うまでもない。
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