112.テンプレ的に、伯爵からキッチンを借りる俺。
シンジ君、ポーションを作るためのキッチンを借りるの巻。
やはり、錬金術はテンプレの宝庫だからして。(ヲイ)
「国に早馬で報告を出したのが昨日だから、正式な通達が王都の屋敷に届くのが10日後だろう。もっとも、それを見越して先に王都へ出発しておくから、今度の王都行きは、恐らく3日後出発になるだろう。大丈夫か?」
オリバーから告げられたスケジュールを考えると、用意したいものを作る余裕はありそうだ。
シンジは残り日数を計算し、実行に移すことにした。ただし、そのためには清潔な場所が必要だ。
「伯爵様、出発までに、ちょっとした調合をしたいんですが、良い場所はありますか?」
シンジの問いに、オリバーは首をひねる。
「調合? 何か薬でも作るのかね? いや、その前に薬を作れるのかね?」
「ええ、まあ、一応それなりには。ただ、ある程度広い場所と清潔な環境が必要なんですけどね」
道具類は、以前チュートリアルで手に入れたものをそのまま使う。新しく揃えるより、その方が確実に性能が上だ。
シンジとしては、ある程度この国とこの領に貢献して、確実に居場所を作りたいと考えている。
どうも、これまで付き合ってきて今の国王や伯爵は、為政者としても優秀で、無茶な要求はしてこないだろう。その下の代は、まだ見ていないので何とも言えないが。
なので、ひとつ切り札を切ることにした。将来居心地が悪くなるようなら、他の国、或いは他の大陸へ行けばいい。
「シンジが薬を作れるとは……。君は冒険者だよな? ポーションとかは買うのが普通だと思うのだが」
冒険者は、薬草を採ってくることはしても、自分でポーションは作らない。普通なら。
「趣味ですよ、趣味」
シンジは笑う。確かに趣味だった。元々モノを作るのは好きなのだ。その気持ちは、チュートリアル中に遺憾なく発揮され、シンジに『技術』という名の果実をもたらしたのだ。
「本格的に行うなら、薬師ギルドの調合室を借りるのが一番良いと思うが、ギルド員でなければ借りれないな」
「ほむ、登録は出来るのかな? かな?」
「私かアーサーが推薦状を出せば可能だろう。もちろん、薬師としての技術を見せる必要があるがね。それは可能なのか?」
シンジとしては、あまり技術を他人に見せたくない。
「んー、それだとちょっとイヤかな」
シンジの技術は刺激的すぎるのだ。今の段階で、何やらすごいモノを作って、錬金術版『あ、俺なにかやっちゃいました?』テンプレをしてみる気はない。
……イヤもちろんそれも楽しそうだが、まだ慌てる時間じゃない、という事だ。
「しかし、道具が無くては調合が出来んだろう? 薬師ギルド以外に器具が揃っているところは無いぞ?」
「道具は自分のがあるからダイジョーブですよー。だから、それなりに広くて水場があって清潔な場所なら」
「閣下、それならばサブキッチンがよろしいのでは?」
アーサーが横から助言してきた。
「そうだな。あそこは今使っていないはずだな。よし、シンジ。サブキッチンの使用許可を出そう。アーサー、念のため料理長に話しておいてくれ」
アーサーが一礼して部屋を出た。さすがに相手が料理長であれば、家宰である彼から直接話を通すのが良いのだろう。
それを確認すると、オリバーがシンジの方へ向き直った。
「さてシンジよ。薬師ギルドにも見せたくないという事は、何か特殊なものを作るのだろう? 私の胃の健康のため、先に聞かせておいてくれ」
ニヤリと笑いながら言うオリバーの軽いジョークに、シンジはにっこり笑った。
「いえ、せっかく竜の血が手に入りましたし、仙桃茸も良いお酒もあるので、いっちょ『神酒』か『霊酒』でも作ろうかなと♪」
オリバーが笑みのまま凍った。
痛いほどの沈黙が流れる。
「……冗談、だよな?」
「アハハ! そりゃもちろん」
「ははッ! そうだな、そうだよなッ!!」
ふたりで爆笑する。……ただし、どこか笑いが乾いている。
「ま、まずは腕鳴らしにテキトーにポーション類を作りますよ」
「ほう、良いのが出来たら持ってくると良い。モノによっては買い取ろう」
「毎度ありっす!」
「閣下、料理長に話を通しました。……閣下?」
ちょうどそこへ、アーサーが戻って来た。少しだけ不思議な乾いた空気を感じ取ったのか、首を傾げている。、
「ああ、そうか。シンジ、期待しているぞ」
「まーかしてくだっさい♪」
シンジは、戻って来たアーサーに指示された執事に案内されながら、サブキッチンに向かった。
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