110.テンプレ的に、肉を薦める俺。
シンジ君、肉を食すの巻。
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ついに110話です。おまわりさんコイツです。(ヲイ)
いかんなあ、ペースを戻せない……。
シンジは、周りの大騒ぎに我関せず、良い焼き具合の肉を、小皿に入れたタレに浸けてそのまま口に入れた。
「ん~、でりしゃすぅ♪」
とっても良い笑顔でシンジがのたまう。
「し、シンジさん、それ、やっぱり竜の肉、なんですか……?」
アンリが恐る恐る聞いてくる。
「うん、とってもおいしーよ?」
「ええー……?」
アンリ、ドン引きである。
「と言うか、魔物の肉はみんな食べているよね? オークとかボアとか。魔力が高い上級種の方が美味しいでしょ?」
「まあ、それは確かに」
「だから、当然中級竜の肉は美味しいの」
「その理屈はおかしい」
アンリが人差し指を立てて指摘してきた。
「何でさッ!?」
「それなら、オークよりオーガの肉の方が美味しいはずです。ですが、オーガ肉は固くて食べられません」
確かにオーガ肉はゴブリン肉と並んで、食べられない肉の代表格である。
だがしかし、そんな常識はシンジに通用しない。
「確かにそのままだと食べられないけど、玉ねぎのすりおろしに一晩漬ければ柔らかくなるよ?」
「あなた、どこの料理人ですか……」
アンリが呆れたように言う。他の皆も、ウンウンと肯いている。
普通は、オーガの肉を調理しようという発想そのものが無いのである。
だが、シンジの場合はそれをしないと生きていけなかった。チュートリアルで。
オーガしか出ない谷で、延々と戦い続けたからだ。オーガを食わなければ、食うものが無かったのだ。
人は工夫する生き物である。何とかオーガを食えるようにと、玉ねぎを使ったのだ。
シンジは昔アルバイトで料理をしていた記憶から、玉ねぎを使えば肉が柔らかくなることを知っていた。が、普通の肉なら15分程度で十分なところを、オーガの肉のみ一晩必要になる。
苦労しただけあって、一晩漬けこんだ肉は赤味肉の旨味に溢れていた。
この肉の旨味を励みに、オーガと戦い続けたのだ。それが無ければ乗りきれなかっただろう。
だが、竜種の肉は違う。何もしなくても霜降りで、とにかく美味いのだ。
「ええいッ! 四の五の言わずに食うべしッ!!」
シンジは、竜の肉をアンリの口の中に突っ込んだ。
「むぐッ!? むあッ?! ふむッ?? ふまッ!!? ……あれ?」
アンリは驚きに何か言おうとしたのだろうが、急に不思議そうな声を上げた。
「に、兄さんッ!? 大丈夫ッ?!」
アイリスが呼びかけるも、アンリは呆けて口を半開きのまま動かない。
「……兄さん?」
「溶けて無くなった……」
「え?」
「口の中の肉が、溶けたんだ。フッと」
竜の肉は、天然の霜降り肉である。霜は単なる脂肪ではなく、魔力を多分に含んだものだ。ゆえに、非常に美味く感じるうえに、溶けるように吸収されてしまう。
シンジ特製のタレの力もあり、無二の味、と言っても良いものになっていた。事実、このタレは幼女も嵌まった。チュートリアルで狩った下級龍の肉と、このタレで行った焼肉では、幼女は100人前をペロリと食べてしまったほどだ。
「ほう、挑戦してみるか」
オリバーが横から覗き込み、ぽつりと漏らす。
「ん? 男爵様食べます? はい」
シンジがタレ皿にフォークと肉を乗せて、オリバーに差し出した。そのままオリバーは肉をフォークで刺し、口に運んだ。
モゴモゴするアーサー。そのまま、目を閉じて俯くと、動かなくなった。
「か、閣下? どうしました?」
ちょっと心配そうにアーサーが呼びかける。それに反応したのか、オリバーがカッと目を見開いた。
「こ、これは素晴らしいッ! まったりとしてしつこくなく、溶けるように消えてなくなる脂身は、淡雪に似て口を潤す。このような肉は初めてだッ! 私もいろいろな美食を経験したが、これは食したことのない肉だ。まさに肉の宝石だッ! このタレも素晴らしい。様々な香辛料と、ニンニクと、この濃く、甘辛い味がベースなのか? わからないな、ブイヨンでもなく、野菜のソースでもない。穀物のソースなのか?」
突然凄まじい食レポが始まった。
「……伯爵様は、こだわりの食通なのだ。普段は節制されているのだが、気に入ったものには、ものすごく反応するのだ……」
アーサーが頭を抱えた。まあ、この上司にこの部下なのだろう。剣を見るときのアーサーと反応が一緒である。
「いやまあ、この肉なら仕方ないと思いますが」
アンリが肯きながら感想を述べる。そう、それほど魅惑の味なのだ。竜の肉というのは。
「んじゃ、せっかくだから皆で焼肉ぱーりーする? する?」
シンジが提案すると、全員が賛成に回った。
「よし、誰か料理長を呼んで来いッ! シンジ、段取りは任せる。アーサー、ワインの準備を。アンリ、今回同行した騎士隊も参加を許す。ドラゴン討伐の祝いとしよう!」
オリバーの声に、おおおッ! と騎士たちがどよめいた。
シンジは、焼き肉用の炭とコンロ、金網を取り出し、土魔術で大量の机とイスを作り出した。
その夜は、大量のワインと焼肉で、全員練兵場にマグロの様に転がったのは言うまでもない。
ただし、それでも竜の肉は、1頭の1/5も消費していなかった模様である。
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