11.テンプレ的に、くっ殺さんに出会う俺つー。
シンジ君、思えば悲しい事故に遭う、の巻。
ラッキースケベはテンプレですよね?
シンジの頬には、秋の紅葉が満開になっていた。
「大変申し訳ないッ!!」
そして、シンジに向かって深々と頭を下げる女騎士がそこにはいた。
肩までで切られたストレートの金髪は、木々から漏れた光に照らされ、数本の束になったアホ毛を金糸のように輝かせている。
深々と下げられた頭から飛び出るアホ毛は、シンジのことを指差すかのようにユラユラ揺れている。
もちろん、紅葉を作った犯人だ。
「いやまあ混乱してただろうし、しょうがないから」
思えば悲しい事故だった。
目が覚めた女騎士は、オークに抱えられたと勘違いしたのかめちゃめちゃ暴れた。
その拍子にお姫様抱っこから転げ落ち、すぐさま左手で体を起こす。
騎士らしく、そのまま即座に片膝立てて立ち上がろうとし、こちらを睨んできた。
だが、そこにいたのはオークではなくシンジ。気付いた女騎士は一瞬何が起こったのか分からず、ボー然とした。
ただ不幸なことに、体勢を立て直そうとして片足胡坐状態で片膝を立ててしまったのだ。
結果、あっぱれ御開帳。
そこでシンジが、思わず漏らしたひと言。
「……あら、縦スジ」
真っ赤になった女騎士が、シンジに往復ビンタ。
そして我に返った女騎士がシンジに謝罪中。これが現在の状況だった。
(うん、俺悪くないよね。ひと言余計だっただけで)
それがすべての原因と言えなくもない。
(ラッキースケベはテンプレだしね? 怒ってないよ?)
「まあ、見学料?」
「それは言わないでいただきたいッ!」
女騎士の凛々しいお顔が真っ赤に染まった。同時に、鎧下を必死に下げる仕草が、鎧姿とのギャップがあって非常にチャーミングに見える。だが、さすがにこれ以上は可哀想だから突っ込まずに置こう、とシンジは思った。話が進まないから、と言う説もあるが。
「で、騎士さんは何でこんな森の中でひとりでいたの? しかも、オークに囲まれるとか」
「それが、あまりにトラブルが重なり過ぎまして」
女騎士が言うには、本来森の巡回は騎士2人と兵士5人の7人で行われるらしい。
だが、今日はたまたまスケジュールがブッキングし、兵士が回れなくなった。騎士ふたりで行こうとしたが、2人とも急に腹を壊して行けなくなった。
「なら中止すればいいのに」
「それが出来なかったのです」
それは、不幸な巡り合わせと言うべきだろうか。中止する権限のある者が、急な姫の外出のため護衛で出なくてはならず、このトラブルが発覚したのは。もう出発した後だったらしい。
「ん? 姫の外出?」
シンジの頭を、先ほどの光景がよぎる。もしかしたら、先ほどの馬車がそうだったのだろうか。
話が変なところで繋がった気がするのは気のせいだろう。そういう事にしておきたい。
「とにかく、その時間帯ちょうど休憩に入っていた私が対応することにしたのです。皆からは止められたのですが」
「何で止められるの? 一緒に行く騎士や兵士がいないからとか?」
「いや、それが変な噂話がありまして」
その噂話とは、女騎士がひとりで森に行くと、高確率でオークの群れに襲われるというものらしい。女騎士は、そんな噂を一笑に伏して、ひとりで森に出掛けたようだ。
「そうしたら、急に、その、ですね。お花を……」
急に女騎士が顔を伏せ気味にして、モジモジとした。
(何だかちょっとカワイイ)
そのしぐさを見て、シンジの頭ではティンと鈴が鳴った。
「ああ、お花を摘みたくなっちゃったんだね」
「いやそんなはっきりと……」
そう指摘された女騎士は、ますます顔を伏せてしまった。
なるほど、こちらにもそういう言い回しがあるのか。というかしゃがむわけだから、体の構造が一緒なら表現も一緒か。
「……ああ、なるほど、で、腰の鎧を外してた時に、オークが現れた、と。そりゃタイミングが悪かったねえ」
「まさか噂話が本当になるとは思わず、気が動転してしまいました。思えば、女騎士だと何故かオークやゴブリンに襲われやすくなるとか、本来の力が発揮できなくなるとかの噂もありましたが、あれも本当だったんですね」
「いや、それについては幼女の影の臭いがする」
「何かおっしゃいましたか?」
「いや、気にしないで」
女騎士が反応したが、すかさずシンジは受け流した。
「それで、もうダメかと思ったときに貴殿の助けが入ったというわけです。本当に感謝します」
女騎士は、そう言うと再び深々と頭を下げてきた。
(そんなに頭下げると、後ろから丸見えになっちゃうよ?)
何なら、後ろに廻ってあげても良いのだが。
「まあ、それは良いから、脱いだものを探しに行った方が良いんじゃない?」
「はッ! そうでした! しばらく失礼ッ!」
女騎士は、しゅぴっと良い音を立てて森の奥へ入っていった。
「うん、また襲われないといいね。じゃあ俺はっと」
シンジは飛行魔術を使ってふわりと宙に浮く。どうせ待ち時間なら、幼女の罠で四天王が出てこないか、空中から探索した方が良いだろう。
「この飛行魔法で浮くのって、強い風が起こっているわけでもないのに不思議だよね。どちらかと言うと、重力コントロールで浮いて、風で方向性を持たせている感じがするなあ」
シンジは木の枝に注意しながら宙を進み、100mほど上空までふわりと浮き上がる。木に覆われてはいるが、一応見渡せる。
どうやら、大きな魔力などの動きは見られない。
「他の四天王は出てこないみたいだね」
その時。
ピコーン、ピコーンと謎の電子音が頭の中に響いた。
「はぅあッ!?」
一瞬、驚いたためにシンジはユカイな声をあげてしまう。その拍子に体勢を崩しかけて、慌てて空中で手足をバタつかせ、バランスを取る。
目の前にいきなりステータスボードが開いた。
「何じゃこりゃッ!?」
シンジは思わずのけ反った。
六角形で装飾された枠の中は黒く塗られている。ど真ん中には点滅する文字があり、それがやたらと強調されている。しかも、意味なくL字に折れて。
『反動敵接近中』
と極太明朝体で書かれている。しかも、白字なのに何故か『敵』の字だけ赤字になっている。
「どこかで見たようなデザインだ。女王蜂? 新世紀? ……っていうか、そこに凝るのか幼女っ!?」
幼女の高笑いが聞こえた気がした。
仕方ないので、そのまま画面を指で押す。すると、文字が割れて上下にスライドし、表示が変わる。
いきなり文字がスロットのように回り始めた。ドラムロールの空耳さえ聞こえる。
「なんか回ってるっ!? 幼女ッ! やりたい放題過ぎだっ!!」
そして、ジャンッ! という音とともに、回転が止まった。
パラーッパッパラー♪ というファンファーレとともに、文字が表示された。
『発生:オークロードと眷属1000体』
「オークロード?」
そこに表示されていたのは、シンジがこの世界に来て、たぶん初めてのテンプレ反動だった。
反応ないのが寂しくなってきた今日この頃。
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