107.テンプレ的に、勝利に浸らせる俺。
シンジ君、盛り上がる周りを煽るの巻。
シンジ君にとっては、中級竜種は良く使った素材なのです。(ヲイ)
シンジは、感動の場面を横目に、せっせとアンリたちが倒した地龍の血を風魔法で集めてこっそりビン詰めにしていた。
竜の血は、色々な錬金術に使えるから。流しっぱなしはもったいないのだ。
リルも水魔術で血を集めてくれた。
「あ、リル。ありがたいねえ。うん、こっちの竜も血抜きしちゃおうか。リル、手伝って」
おん、と答えたリルを連れ、自分たちが倒した方の竜へ近づく。シンジは氷の剣で、倒れている竜の首、ちょうど頸動脈が走っているあたりに傷をつける。ピュッと飛び出す血潮。
シンジは吹き出る竜の血を水魔術でコントロールし、どんどん血を抜いていく。
死んだ地竜に魔力防御はない。だから、外部からでも血液をコントロールできる。もし地竜が生きていれば、当然魔術は跳ね返されるのだ。
シンジはアイテムボックスからガラスの瓶を大量に取り出すと、集めた血をどんどん収めていく。4リットルは入る瓶が、次々と満杯になっていく。
「これだけあれば、しばらく錬金術には困らないねえ。というか、ちょっと多すぎ?」
せっかくだから、また伯爵に献上するのが良いだろう。
「そー言えば、竜の血に葡萄酒合わせて仙桃茸を溶け込ませて、あといくつか材料足したら出来ちゃうね。神酒」
いや待て。中級竜の血だから、葡萄酒より蒸留したブランデーの方が効果が高いはずだ。
「うん、10年モノが造れそうだ。後で造っておこう。そうしよう」
この場合の10年物は、酒を寝かした年数ではない。1杯飲むことで起こる、延びる寿命の長さだ。ただし、1度飲んだら5年は置かないと、強すぎて毒になる。
普通はどんなに優れた物でも3年モノが最高で、それすら国宝級以上のモノである。材料が材料なだけに、簡単に造れるものではないし、造り出せる錬金術師も、世界中を見ても片手で余るだろう。
(まあ、造っておけば、そのうち取りに来るだろう。幼女が税金として。ちくせう)
ありがたくいただくぞ―との声がシンジの頭に響いたが、アーアーキコエナイ、と無視する。
「もともと神の酒というくらいだからねえ。仕方ないけど」
あの幼女はウワバミである。
(どうせなら、幼女が気に入った『カミーュ』と『レミーたん』を使ってやろう)
それを使うなんてとんでもない! と聞こえた気がしたが、アーアーキニシナイ。
◇
シンジたちが頑張ってこぼれた血をだいたい回収した頃、雄たけびを聞きつけたのか、仲間の騎士たちが戻ってきた。
「総隊長ッ! 小隊長ッ! ご無事ですかッ!?」
どうやら、アンリの雄たけびを聞いて、援護のために戻ってきたようだ。
だが、騎士たちはそこで固まってしまった。倒れている巨大な地竜を見て、さらにこぶしを握って喜びを噛みしめるアンリと、疲れ切って座り込んでいるアイリスを見て、ボーゼンとしてしまったのだ。
「アンリさんたちが地竜を倒しましたよー。すごかったですよー」
シンジは宣伝を始めた。ワン、ワンとリルも同調するように吼える。
それを聞いた騎士たちが、シンジの方にぐるりと首を向けた。シンジとリルは、答えるようにうんうんと同じタイミングで肯いた。
やっと理解できた騎士たちの顔が、笑顔になり、叫び声となってアンリとアイリスを取り囲んだ。
騎士の皆が、感極まったのか突然アンリの胴上げを始めた。アイリスは、それを見てやっと人心地付いたのか、フラフラと立ち上がった。
リルが胴上げの周りをまわっている。戦った後だというのに元気なものである。
ふと、何かひと回りリルの体が大きくなった気がする。もしかして、戦い終わって『風』を受けたので、急激に成長したのだろうか? 普通なら起きないが、ノアの件があったし、元々リルはフェンリルなのだ。何があっても不思議ではない。
ひととおり胴上げが終わったのか、アンリとアイリスがシンジの方へ戻ってきた。
「シンジさん、本当に感謝します。あなたから剣を貸していただけなければ、私たちは死んでいたでしょう」
「あ、その剣は約束通り、おふたりに進呈するねー。ドラゴン倒せる剣がないと、今後大変でしょ」
「本当にいいんですか!?」
アンリは喜びを、アイリスは驚きを隠せない様子。普通に国宝級の剣なのだから、当たり前である。
「良いんですよー。剣は使ってこそ剣だからねー」
……これで権力者の警戒心が分散されるなら、シンジにとっては安い投資である。
アンリたちは、剣を自分の持っていた布で拭って鞘に納め、いたわるように腰へ納めた。その様子を、騎士たちがうらやましそうに見ている。が、さすがにこれ以上ばらまくことは出来ない。
そこでシンジは、皆に問いかける。
「で、この竜どうやって持っていきますか?」
あ、と騎士たちが止まった。こんなデカいの手では運べない。もちろん馬車だって無理だ。
「じゃあ、この地竜は、俺のマジックバッグに入れておくから。街へ戻ったら渡すねー」
シンジは特大サイズのマジックバッグをふたつ出すと、それぞれに竜の身体を収納する。
騎士たちが、おおッという声を上げる。これだけ巨大な容量のマジックバッグを見たことが無いのだろう。もちろんシンジ謹製である。
「では、新たなドラゴンスレイヤーであるおふたりに拍手ー!!」
騎士たちから一斉に拍手が沸き起こった。
「いやいやいや、シンジさんだって倒したでしょーがッ! しも我々より早くッ!!」
アンリからすかさずツッコミが入った。
(ち、なし崩しにふたりがやったことにしたかったんだけど、アンリさんたち真面目だからなあ)
「……まあ、それは良いとして、伝令出したんですよね? なら、早く戻らないと領都がパニックになっているかもよ?」
騎士たちの顔が真っ青になった。
全員、慌てて領都に馬を飛ばしたのだった。
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