104.テンプレ的に、文字通り迎撃の地均しをする俺。
シンジ君、畑を耕すの巻。(チガ)
そこは、話に聞いた通り、木が伐採され、50m四方ほどに開けた場所だった。
「何でこんな中途半端な場所を伐採しているんだろ?」
シンジが不思議に思って口に出すと、アンリから答えが返ってきた。
「この辺の木は、森の周辺に比べて丈夫で腐りにくい特徴があるんです。恐らく、森の魔素が滞留してるんでしょう。これより奥になると、トレントが発生している可能性が高くなるので、ここが限界のラインなんです」
なるほど、生活の知恵だ。それにしても。
「アンリさん、現世への帰還、おめでとう」
「いやお恥ずかしい……」
いやまことに。
「まあ、おかげで戦える場が出来ているのはありがたいですがね。ちょっと切り株が邪魔ですが」
確かに、巨木の切り株なので、人には不都合、竜の巨体なら関係ないだろう。つまり、シンジたちに不利である。
「うん、邪魔だね。躓いたら痛いし、整地しちゃおう」
「え?」
アイリスがきょとんとした声と表情を見せる。シンジはギャップ萌えに近い感覚を覚えるが、とりあえず置いておく。
シンジが地面に手をかざすと、巨大な切り株の周りの土が細かく振動を始める。
「あ……埋まっていく……」
アイリスのセリフ通り、巨大な切り株が振動に合わせて、バラバラになりながら土の中に沈んでいった。
「うん、これも土魔術の応用だね」
シンジは、薬草の畑を作るときにも土魔術を使っていた。もちろんチュートリアル中の話である。
「おい、あれ土魔術らしいぞ? お前あんなの出来るか?」
「出来る訳ねーだろうが」
騎士隊の中で魔術を使えるらしい男たちの会話が聞こえる。
「ねえねえ、アイリスさん。騎士隊には魔術士もいるの?」
「ええ、もちろん。彼は『魔術士小隊』のメンバーですね。『魔の森』偵察業務の場合、必ず魔術士も数名同行することになっていますので」
「ほむ、そうなんだ」
確かに、魔術士が同行することで、水補給の問題や簡単な陣地の構築が可能になるだろう。特にこの『魔の森』であれば、それは有事の生存確率を上げることになる。
イメージ的に、魔術士隊と騎士隊は仲が悪そうに感じるが、そうでもないのだろうか?
「魔術士隊と騎士隊って、仲良いの?」
「ええ、それはお互い協力して領地を守っているわけですし、仲が悪いのは利敵行為ですよね?」
どうやら、某帝国陸海軍のような状態ではないらしい。
「ん? でも、アイリスさんひとりで偵察していなかった?」
「ああ、『偵察』と『巡回』は違うので。森の伐採場以上まで入る場合は、『偵察』任務になっています。危険度が跳ね上がりますので。本来『巡回』エリアには、オークの群れなんて出ることはなかったのですが、あの時は魔物暴走でしたし、運が悪かったと思っています」
なるほど、運の悪さにいろいろな陰謀が重なってあの状態になったという事か。
「ん、とりあえず、地均ししちゃうね。そこから下がって」
シンジは、話を掘り下げるのを止め、作業をしてしまうことにした。
「じゃ、一気に行くよぉッ!」
騎士たちが全員下がったのを確認すると、シンジは地面に手を付いて、勢いよく魔力を土に染み込ませた。広範囲に行う場合、こちらの方が効率が良い。
シンジの手に近い切り株がブルブル震えだす。周りの土まで震えだした。切り株だらけの50m四方が、ドミノ倒しの様に一気に崩れ落ちていく。
そこに出来上がったのは、木や落ち葉が拡散され、畑の土のようになった広場だった。
魔術士らしい男の隊員が、地面に中てられたかのように震えると、顔を真っ青にしてシンジを指差す。
「ど、ど、どれだけの魔力使ってんだ……? あ、あれが、ク、クロス卿……」
男が震えるのも無理はない。常人には理解できないレベルの魔力で、訳の分からない魔術の使い方をしているのだ。
「土魔術使うの? 研鑽あるのみだよー」
しれっとシンジがのたまう。
その時遠くから、シンジが起こした極局地型地震とは別の地響きを感じた。同時に、犬の鳴き声も。
「あ、リルが帰って来たかも。アンリさん、アイリスさん、剣に練った魔力を流して準備して。他の人は退避して」
シンジの声掛けに、全員の緊張が一気に高まった。
準備万端、ドラゴンを迎え撃つ体制が整った。
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