10.テンプレ的に、くっ殺さんに出会う俺。
みんな大好き、女騎士さん登場です!
定番ですよね、女騎士さん。
しばらく馬車の方向とは逆に街道沿いの森の上を飛んでいくと、シンジの目は、何やら眼下に見える動く影を捉えた。
「え? また事件?」
よく見ると、オークが10匹くらい群れている。半円状になっていて、何かを囲んでいるようだ。
ちょっと高度を下げて、枝の隙間から様子を見てみる。
どうやら鎧を着た騎士が、大木を背にしてオークどもと対峙しているらしい。
でも、ちょっと騎士の様子がおかしい。いや、様子というか、鎧が。
何故か、腰辺りの鎧が無くて、鎧の中に着ているシャツっぽい鎧下だけになっている。ちょうど、ミニスカート状態だ。
チラチラ太ももが見える気がする。
オークの方を見ると、ひと廻り大きいオークが囲いの中央でよだれを垂らしてこん棒を掲げている。
どうやら、上位種のオークリーダーっぽい。の、だが。
「気のせいか? 見間違いか? ……あのオークリーダー、おっ勃ててねーか?」
よく見ると、オークリーダーの股間が異常に盛り上がっている。どう見ても欲情中だ。
「いやまさか……そんなことって」
「くっ、殺せ!」
そこで騎士が、言ってはならないセリフを言ってしまったのが聞こえた。
(声を聴く限り、紛う方なき女騎士さんです。本当にありがとうございます)
「って、今度はそっちのテンプレかよッ!? 幼女ホントいい加減にせーよッ!?」
『盗賊に襲われる貴族馬車』と『オークに襲われる女騎士』は、襲われ出会い系のテンプレ四天王だ。少なくともシンジはそう確信している。
ちなみにシンジの中では、後のふたつが『魔物に襲われる村娘』と『奴隷狩りに襲われる別種族娘』だ。異論は認める。
「まさか、これ解決してもあとふたつ連続解決がノルマですとか無いだろうな!?」
あの幼女の事だ。十分にあり得るとシンジは思った。
(とりあえず、現状を何とかしなきゃね。このままだと、女騎士が酷いことされちゃう。薄い本みたいに。薄い本みたいに!)
大事なことなので繰り返してみた。
「……いや、ちょっとナマで見てみたいとか、思ってないよ? ホントだよ?」
シンジの言い訳は誰にも届かず、森の中にむなしく消えていく。そうこうしているうちに、事態が動いた。
「くっ、無念……」
女騎士が悔し気につぶやくと、体力が尽きたように座り込んでしまった。それを見たオークたちが、喜びの咆哮をあげる。
「んー、ヤバいか?」
シンジは飛行魔法を解いて、ちょうど女騎士を背に隠すように、オークたちの前に降り立った。
突然の登場に、オークどもから驚きの声が上がる。
「はいはーい、下がって下がって。踊り子さんには手を触れないでくださーい」
シンジはしっしっ、と左手を払うように振る。それを見たオークどもが、ぶぎゃああッ! と怒りの声をあげた。
ちらりと後ろを振り返ると、女騎士は気を失っているようだ。ぱっと見ではあるが、ケガはしていない模様。
それをシンジの油断と見たのか、オークリーダーがこん棒を振り上げるのが横目に見えた。
シンジは落ち着き払って、左手を鞘に添えた腰の剣を抜き打つ。
ギャリン、という、金属を削ったような音が響いた。
オークリーダーが、こん棒をふり降ろす。が、すでにこん棒は半分の長さになっていた。
その勢いで、こん棒の頭半分が明後日の方向に飛んでいき、斜め後ろにいた下っ端オークの顔に突き刺さった。声も出せずに仰向けで倒れる下っ端オーク。
周りのオークが、動揺したような呻りをあげた。
そこへ、オークリーダーが一喝するように鋭く吠えた。そのまま怒りをぶつける様に斬られたこん棒を地面に叩きつけ、隣のオークからこん棒を奪い取った。
そのままオークリーダーは、再びこん棒を振り上げてきたが、まるで録画を再生したかのように斬り飛ばされた。
さすがにオークリーダーもまずいと思ったのだろうか。一歩二歩と後ずさった。
シンジは、剣をオークリーダーに突き付けて、ニヤリと笑った。
「はい残念。じゃ、肉と睾丸置いてけ? イイ感じに捌いてあげるから」
オークもリーダー以上なら睾丸が売れる。精力剤の原料としてだ。
「これこそオークのテンプレだよね。幼女はトー〇キン先生に感謝すべきだ」
もちろん、オークにはテンプレ通りのランクがある。
下から、オーク、オークウォーリアー、オークリーダー、オークアーチャー、オークメイジ、オークナイト、オークビショップ、オークジェネラル、オークロード、オークキング、オークエンペラーだ。
これは、幼女に貰った本からの知識だ。
ちなみに、ただのオークはただの食肉だ。ご家庭で魔物肉と言えば、だいたいコレである。それに比べてオークナイト以上は『ハイオーク』とも言われ、その肉は大変旨い。
もちろん、オークジェネラル以上は軍団を率いる。この辺も定番というものだ。これも幼女の本に書いてあったし、実際にチュートリアルではエンペラー率いる大軍団にひとりで挑まされた。
(……1対1万って、酷くない? リアルで無〇シリーズする羽目になると思わなかったよ。そりゃ確かに中途現実だけどさ)
そんな訳で、シンジにしてみればオークリーダー率いるオーク10匹なんぞ、どうという事はない。
だが、あまり魔術で派手にやると環境破壊になるし、女騎士さんを助けるという事は、少なくとも街まで一緒に行動することになるわけで、先ほどのように空を飛んで逃げるようなことは出来ない。その意味でも、あまり派手なやり方は禁物だ。
(女騎士さんには街へ連れてってもらって、冒険者ギルドまで案内してもらった方かいいしね)
そのために、普通の剣技一択で相手取ることにした。確かに今、女騎士さんはお約束通り気絶しているとはいえ、油断はできない。
「じゃ逝くよ~」
シンジは予備動作なく一歩踏み出すと、同時に最高速に達する。これが足技の極意『縮歩』だ。反応できないオークリーダーの右横をすり抜け、その瞬間に剣を一振り。すぱーんと、良い音でオークリーダーの首が飛んだ。
「ほいほいっと」
シンジはそのまま、縮歩を継続しながらオークどもの間を駆け抜け、剣を振り振り。すぱぱぱーんとオークの首を全部飛ばしと同時に、
動作を止め、静かに剣を鞘に納める。
「またつまらぬものを斬ってしまった」
一応、これは言っておかねばなるまい。出来るだけ渋い声で。
◇
シンジはオークをマジックボックスに収納すると、気絶している騎士の方へ歩み寄る。とりあえず、本当にケガが無いかどうか見なくてはならない。
「騎士さん騎士さん、大丈夫?」
シンジがゆすっても目覚めない女騎士。鎧胸部が膨らんだ構造で、髪は金髪。まつ毛が長い。残念ながら目の色はわからないが、顔立ちはかなりの美人だ。
「仕方ない。お姫様抱っこでもして森を出ますか」
シンジは、女騎士の脇と腿に腕を差し入れ、あらよっとばかりに抱え上げる。鎧の分、ちょっと重く感じる。が、ふと違和感を感じた。
「太もも素肌?」
太ももを支える右手に感じる感触が、生肌の滑らかで温かいものだ。はっきり言って、気持ちいい。ずっと触れていたい。
そこで鎧下が、揺れた拍子にひらりと腹側へめくれ上がった。思わず見てしまう。
「……あら、つるっつる」
女騎士は、パンツを履いていなかった。
「けが無くて良かったね。いっつOYAJIジョーク。HAHAHA」
さすがに100年以上17歳やっていたら、このくらいでは動揺しない。そういう事にしておきたい。
「つーか、何で脱いでいるんだろう? それとも、オークに脱がされたのか?」
なるほど、オークリーダーがいきり立つわけだ。まさに据え膳状態だったのだ。
「……ホントーに危なかったんだねえ。まさに間一髪ってヤツ? まあ、間に挟む毛がないけど。やだお下劣。おほほ」
などとひとり漫才をしていたら、女騎士さんのまつ毛がピクピク動いた。そろそろ気が付くのだろうか。
このくらいならR15にもならないですよね?
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