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第27話、ネズミ検証

 消えていくヒュージラットを確認して、息をつく。


「お疲れ様です。思った以上に素早いネズミですね」

「ああ、それに盾で受けた感触でも重かった。犬くらいの大きさでも体重は倍くらいありそうだ」


 ヒュージラットが消えた辺りにドロップ品が落ちていた。〈詳細鑑定〉すると



【素材】【名称:ネズミの皮】【レア度:F】

・耐久性は低いがよく伸びる皮。庶民の日用品や農具などに使われる。



「あ、ネズミの皮ですね。私のダガーの鞘や、革のドレスの一部もネズミ革製ですよ」

 革のドレスが気になったので聞いてみた。レスミアによると、なんでもネズミ革は柔らかいので関節部などに使われているそうだ。ただ説明文にある通り耐久性はないので、破れたら修繕に出して張り替える前提らしい。ただ動き易い代わりに防御力も無いので、硬革製のプロテクターをベルトで外付けするのだとか。今のレスミアはプロテクターを着けていないが、魔物が強くなる前には欲しいそうだ。



 ネズミの皮談義も面白いが、ヒュージラット対策も話し合う。


「ヒュージラットの説明文には隅を好むとあった。だから壁際を走り回っていたのだろう。ヒカリゴケが壁の上の方にあるせいで床付近が暗くて見落とす可能性もあるが、こちらを向けば赤い目が反射して光るので見つけるのは容易いと思う。さらに言うなら、赤い目に向けて〈エアカッター〉を撃てば終わりだ」


「それなら私の耳で発見して、ザックス様が魔法を撃てば楽勝ですね!」

「あ~いや、ちょっと魔法を使いすぎたようでMPは4割ってところだ。いつでも魔法が使えるわけでもないし、MPを節約ついでに物理攻撃で倒す練習をしたいな」


「え、それってパペット相手にバンバン使っていたせいじゃないですか!」

「それもあるけど、パペット君は〈ファイアボール〉で倒すとレアドロップの木炭くれるし……」

「木炭も大した値段じゃ売れませんよ、もう!」

 楽に倒せると意見を出した後だったためか、レスミアの機嫌を損ねてしまった。



 取り敢えず休憩という事にして、ストレージからお菓子を出して進呈(ご機嫌取り)した。


「あら、これは中々……美味しいですねぇ」

「ああ、アドラシャフト家のメイドさんから餞別に貰ったアップルパイだよ。訓練の後に食べるアップルパイが美味しくてね、何度か頼んでいたんだ」


 今回の物は出立間際に貰った焼き立ての物で、移動中も食べやすいよう棒状にしたアップルパイだ。

 レスミアは一瞬複真顔になったが、続きを食べると笑顔に戻った。そして食べ終えると、


「これ、蜜リンゴの蜜が使われていますよ」

「え、でも蜜リンゴって火を通すと溶けてしまうんじゃなかったか?これリンゴの形は残っているぞ」


「ええ、そっちは普通のリンゴですね。リンゴを煮る際に砂糖ではなく蜜リンゴの蜜を使ったのでしょう。


 このアップルパイはホールではなく棒状なので、中に入るリンゴやカスタードクリームの容量は少なくなります。お菓子なのにパイ生地ばかりになっては甘みが足りなくなるので、代わりに蜜リンゴの蜜で甘めに仕上げたのかと」


「凄いな、そこまで分かるのか。確かに屋敷で食べたホールのより、リンゴが甘い気がする」


 レスミアは得意そうに笑みを浮かべたが、次第に耳をしゅんとさせて謝ってきた。


「さっきはすみません。魔法やMP管理の仕方なんて知らないのに怒ってしまって……」

「いや、俺の方こそごめん。レスミアとパペット君を交互に倒せたおかげでMPの減りは少なかったから、つい横着をしてしまった」


 すれ違いのままでは嫌なので、レスミアの目を見て今後の方針を話しておく。


「今後も新しい魔物が出た時や、新しいスキルを覚えた時は色々検証しておきたい。〈不意打ち〉で色々試したみたいにね。

 魔物を〈詳細鑑定〉すれば弱点属性が分かるから魔法に頼りたくなるけれど、魔法が使えない状況や、実は物理の方が楽に倒せるなんて場合も出てくるだろうから」


「〈不意打ち〉で散々突き合わせてしまったので、断れませんよぅ。分かりました、検証するときは事前に言ってくださいね」

 

 

 何とかレスミアの機嫌を直して、探索の続きとなった。途中で出会ったパペット君を、ついショートソードで両断してしまった。レスミアにジト目で見られているが、下手につつくと藪蛇になりそうなので気付かない振りをして探索を続けた。



「通路の奥から足音が。ネズミが来ます」


 レスミアが前に出て、俺はその後ろ斜めで待機する。赤い目が通路の奥から走ってきて、レスミアに飛び掛かった。


「フッ……タァッ!」

 レスミアは飛び掛かりを避けつつ、その脇腹にダガーを突き入れる。ヒュージラットは着地の衝撃で腹の傷が痛んだのかキーキー鳴いて動きを止めた。

 俺はその隙を狙って剣を振り下ろし、ヒュージラットの首を両断する。ただ、勢い余って地面まで叩いてしまい、腕が痺れた。


「やっぱり突き入れた方が有効でしたね。ダガーが半分ぐらい刺さりましたよ」

 レスミアはそう言いながら、ヒュージラットの死体でダガーに着いた血を拭っている。それに習って俺もショートソードの血糊を拭っていると途中で消えてしまった。仕方がないので端切れ布をストレージから取り出して残った血糊を拭い、ついでにドロップのネズミの皮をしまった。地面を叩いてしまった切っ先は無事のようで安心する。


「俺の方はちょっと目測を誤って地面まで叩いてしまったな。いくら普通のネズミより大きいと言っても四つ足着いていると低いから、下段攻撃はちょっとやり難い」



 途中で出会うパペット君は、下段攻撃を意識して両足を脛辺りで切り飛ばす。当然パペット君は倒れてくるので胴体に膝蹴りを入れると、仰向けに転がる。そこにレスミアが追撃して、首にダガーを突き刺して止めを刺した。意図してやったわけではないけど、いい連携だったのではないだろうか。取り敢えず、サムズアップして「ナイス追撃!」と言ったら、笑顔でサムズアップを返してくれた。

 後で気付いてレスミアに確認したが、サムズアップが良い意味で通じてよかった。中東みたいに逆の意味だったら不味い。



 次に出会ったヒュージラットには、俺が前に出る。小部屋の隅を走ってくるのを見て、飛び掛かってくる位置を想定し剣を上段に構える。以前見た限りだとヒュージラットの飛び掛かりは獲物の首辺りを狙って来るはず。

 その予想通りの位置に、飛んできたヒュージラット目掛けて剣を振り下ろして肩口から尻に掛けて両断した……が、切った半身がそのままの勢いで俺の肩に当たり、その重さで押し倒されてしまった。


 半身からこぼれる臓物と血にまみれて倒れ込む。慌てて体を起こそうとするが、俺の上に乗った半身の重さで起き上がれない。30kgはありそうな重さだ。

 レスミアが手伝ってくれてようやく横に退けたら、消えていった。半身や溢れた臓物、地面に垂れた血は消えていくのに、俺の鎧や服に着いた血糊はそのままだ。


「大丈夫?怪我はない!?」

「ああ、倒れただけだから大丈夫。血生臭いだけだ」


 ストレージから汚れもの用の水桶と雑巾を出して、血糊を拭いていく。レスミアも手伝ってくれて、俺の顔を拭きながら、

「もう! なにか変なことをするときは、先に言ってくださいって言いましたよね!」

「ごめんなさい。両断すれば切った間をすり抜けられると思ったんだが……あの重量と速度では無理だったみたいだ」


 パペット君を唐竹割りしたときは左右に分かれたんだが、あれはパペット君が中身空洞で軽いのと、踏み込みパンチ程度しか動かないからだろう。推定50~60kgの肉塊が飛んでくるのを、軽量で薄手に作られたショートソードで斬っても左右に押し広げるのは無理だったようだ。

 もう少し肉厚の剣や、魔法剣みたいなエネルギーフィールドを纏っていれば左右に押し広げる事が出来たかも? いや、唐竹割りでなく、斬る角度を少しだけ斜めにしていればいけるかも?


 そんな事を考えていたが、水桶が真っ赤なのを見て思い直す。失敗したら又怒られるな。血まみれになるのもごめんだし、少し自重しよう。

 汚れた水を捨て、〈ウォーター〉の魔法で水を追加すると血糊を落とすのに専念した。

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