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第710話、52層への到達と失策

 「柵みたいな物を発見しました。多分、下への階段です!」


 大部屋の中を偵察してきたレスミアが、弾んだ声で報告してくれた。中に居るのはアイシスパペット6体なのに、階段部屋か。フェルスラーフさん達から忠告を受けていてよかった。本来は魔物が寄り付かない筈の階段部屋にも、魔物が居たのだからな。


 魔法の準備を整えてから部屋に押し入り、〈オフセットマジック〉による相殺からの〈瞬刃・朧風車〉でアイシスパペット6体を殴り倒した。止めは手分けしてだけどな。仲間の皆も大分、手慣れてきた。


 魔物を手早く片付け、部屋の中央にある柵の元へ向かうと……確かに、それは下へと続くスロープだった。舗装もされておらず土が剝き出しだが、馬車が2台並んでも通れそうな大きなスロープである。そこへ落ちないように、コの字型に柵が並んでいるのだ。中を覗くと、結構下の方に明かりが見える。階層自体が大きくなり、天井も高くなったせいで、下へのスロープも長くなっているようだ。

 一緒に下を覗いていたソフィアリーセは、安堵の溜息を突く。


「1日目で51層を攻略出来るなんて、幸先が良いわね。心配していた魔物とも戦えているし、この調子なら60層なんて直ぐだったりしてね」

「そうだと良いんだけど……51層は楽な階層だったかも知れない。ほら、地図で見ると……」


 ソフィアリーセに、〈マッピングリンク〉で共有している地図を見るように促した。

 地図上だと、入口であるボス戦後の休憩所と、ここのスロープは直線状にあるのだ。51層が長方形の階層と仮定した場合の、一番分かりやすい位置に出口のスロープが出来ていた訳である。無論、ずっと通路が直線だった訳ではなく、行き止まりや迂回路を経た上での話であるから、楽だった訳でもないけどな。

 それでも、分かりやすい位置で早く見つかったのは確かだ。


「あら? この横の方にある四角いマークは……」

「ああ、〈サーチ・ストックポット〉で見つけた鉱石系の採取地だと思う。インゴットのマークだからね。

 近くを通れば見に行くつもりだったけど……どうしようか?

 52層の様子見をするか、寄り道してミスリル鉱石を掘りに行くか?

 個人的にはミスリルを採りに行きたいが……」


 集まってきていた他のメンバーにも話を振って意見を募るが、苦笑を返されてしまった。隣に来たレスミアには、頬を突かれる。


「あはは、いつもの事ですから採取に行きたいのは分かってますよ」

「だな。鉱石採取は時間が掛かるから、そこ行って今日は終わりでも良いんじゃねーか?」

「それ、賛成!

 バイクに乗ってたから移動は楽だったけど、歩くのとは違う筋肉使うから、みょーに疲れた気がするんだよね~。

 52層は明日にしてさ、早めに上がろ!」


 多数決と言う訳ではないが、理解あるメンバーでありがたい。

 ここから鉱石系採取地までは、まだ距離はある。往復するのは面倒なので、一旦俺だけ52層へ降りる事にした。そうすれば、ダンジョンのエントランスにある鳥居型転移ゲートで52層へ降りられるようになるからだ。態々全員で降りる必要もない。その後で採取し、そのまま〈ゲート〉で脱出すれば良い。


 大きなスロープなので、バイクで駆け下りた。距離があるといっても、バイクで走るなら直ぐだ。

 52層が見えてきたので減速しつつ、チラ見で地図を確認……魔物が入り込んでいる可能性もあったけど、魔物の反応は無い。そのまま、石畳へ走り入った。52層も51層と同じく、遺跡型の階層のようである。


 バイクを止めて、周囲を見回していると、不意に地面が揺れた。


 ……地震か!?

 こちらの世界に来て初めての体験だ!……いや、ダンジョンの中で地震って起きるものなのか? 火山フィールドでも地震は起きなかったのに。


 取り敢えず、地震が起きた際のセオリーを守って、何かに隠れようと考えたが、周囲には何もない。仕方がないのでバイクをしまって、体勢を崩さぬよう地面に片膝を突いた。

 ……体感だと、震度4程度かな? 驚きはするが、立つのが困難な程の大地震でもない。

 念の為、揺れが収まるまで周囲の石壁や柱、天井が崩落しないか見回していると、背後から地響きが聞こえて来た。

 後ろにあるのは、舗装もされていなかったスロープだ。地震で土砂崩れでも起こしたかと心配になり、手を突いて身体ごと後ろに向き直る。


 すると、予想外の光景が目に入った。

 馬車でも通れそうな大きいスロープが、物理的に狭くなって行っているのだ。そして、土が剝き出しだった坂も、上から順に石の階段へと変形していく。


 ここまで見て、ようやく思い出した。

 『探索者が通って下の階層に行くと、攻略したと見做され、上の階層の大きさや階段が元に戻る訳だな』

 フェルスラーフさんに教えてもらったのに、うっかりしていた!


 成程、俺が52層に降りたから51層が攻略済みになった訳だ。石階段が52層の石畳まで降りてくると、地震も徐々に収まっていく。

 完全に揺れが収まってから階段を覗き、見上げると、上からもレスミアが顔を見せた。

 あれ? 距離が縮まったというか、普段の階段の長さに戻ったな。


「レスミア! そっちは大丈夫か!」

「大丈夫! 揺れは怖かったけど、部屋の真ん中に居たから巻き込まれていません!」


 階段を駆け上がる。バイクでなくとも、レベルアップとジョブで強化された身体なので、階段5段飛びで駆ければ直ぐだ。

 そうして、上の階段部屋に戻ると、景色が一変していた。大部屋だった筈が、小部屋に変わっていたからである。皆の無事を確認すると、お嬢様コンビは聖馬にしがみついており、他の面々は地面に座り込んでいる。いや、フィオーレは地面に寝転んでいるな。俺と目が合うと、手をバタバタ振って怖かったとアピールした。


「いきなり地面が揺れるとか聞いてないって~!

 慌てて柵にしがみついたら、急に小さくなり始めるしさ。手が挟まれるかと思った~」


 階層の収縮に巻き込まれそうになったようだ。確かに大きなスロープから通常の階段に変化したせいで、周りを囲っていた柵も小さく、幅も狭くなっていた。

 ……運がよかっただけかも知れないが、収縮中は人が巻き込まれない様になっているとか?

 知っていそうな学園生の2人に聞いてみると、ソフィアリーセは頬に手を当てて考え込んだ後、ルティルトさんと顔を見合わせた。


「怪我をするとか、被害にあったとは読んだ覚えはないわ……そうよね?」

「いや、私も兄上に話を聞いただけだったからな。地面が揺れるとは思わなかったよ。一瞬、崖崩れのように崩落すると考えて〈聖騎士の護り〉を無駄に使ってしまった」

「もう少し詳しく聞いておくべきだったわね……51層攻略出来たのが嬉しくて、階層が元に戻るって話を忘れていたわ。

 ザックス、採取地の方がどうなったか気になるから、見に行きましょう。ちょっと、嫌な予感がするのよね」


 そう、ソフィアリーセに促され、階段部屋から移動することにした。

 ただ、部屋を出ると道幅が半分になっている事に、再度驚く。いや、こんなに狭かったかな?

 バイクで走ることは出来るだろうけど、2台並ぶと狭く感じるだろうな。地図を見直すと、今まで移動してきて地図表記された部分まで狭くなっている。結構遠かった筈の入口も、やけに近くに感じたのだった。

 1日かけて移動してきた結果が半減されたようで、ちょっと物悲しい。攻略後なので気にする必要はないのだけどな。


 採取地の位置も確認すると、収縮したせいか近くに移動して来ていた。バイクで移動すれば、10分程度で行けるだろう。

 と、出発したのはいいが、通路の直線も短くなっており、速度は出し難い。カーブは連続するし、行き止まり当たると、引き返すのにも一苦労(地面に穴をあけるせいで)。結局、途中からバイクを降りて歩き移動に戻してしまった。歩きの速度なら、罠を除去(回収)するのも、大した手間ではないからな。



 途中で、ワンダリングモンスターなブリッツホルン達と遭遇した。今日1日で何度も戦い、数によって対応する戦術も決まった相手なだけに、敵の編成を周りに伝えれば、指示することなく各自で配置に付ける。ブリッツホルン3匹、アイシスパペット3体の編成なら、オーバーブラストで水牛を焼き払い、敵の〈ブリザード〉を〈ミラーデルタシールド〉で跳ね返すのがセオリーだな。

 ただ、通路が狭くなったことにより、弊害が出た。今回は通路が狭く、囮の前衛どうしが距離を取れなかったのである。その結果、後衛にも1発〈ブリザード〉が飛んで行ってしまった。

 凍結の状態異常対策もしてあるので、少々のダメージで済むが、完封出来ると思っていた相手に裏を掛かれると、ちょっと腹立たしい。即座に〈発勁烈波〉でゴーレムコアを破壊して殲滅した。


 戦闘が終了してから後衛の2人に〈ヒールサークル〉を掛けに行ったが、「心配し過ぎよ」と笑われてしまった。


「範囲魔法のダメージくらい覚悟しているって、今朝も言ったでしょう?

 それに、狭い通路で戦う事自体がイレギュラーなのだから、対策とか考えなくてもよくってよ。

 明日は52層で、また大きい階層を攻略するのだからね」


 対策というか、配置をどうしようと考えていた事を見抜かれてしまった。まぁ、確かにダンジョンコアがある階層まで全てが拡張されている筈なので、狭い場所でのパターンを考えても、報告書のネタにしかならないか。

 ただ、ソフィアリーセは吹雪の雪で髪が濡れた事を気にしていたので、〈ライトクリーニング〉で乾かしてあげた。サファイヤのような宝石髪が濡れているのは綺麗であるが、風邪を引いても困るからね。




 その後は戦闘することなく、採取地まで辿り着けた。ただ、期待して覗き込んでみると……狭い小部屋だった。中には……10個程の土山が壁沿いに並んでいるだけである。一緒に覗き込んだソフィアリーセは、溜息を突いた。


「……52層に降りるより前に来るべきだったわね」

「ああ、降りる前だったら、最低でも大部屋だったかも知れなかったのか」


 鉱石系採取地は出現した部屋のサイズによって、土山の数も変わる。

 大部屋だったら、この数倍はあっただろうに、惜しい事をしたな……


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