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第730話、53層開始と仲の悪いトカゲ共

 朝からひと悶着あって疲れたが、今日のダンジョン探索は始まってもいない。

 準備を終えた者には広場に集まるよう声を掛け、留守番メンバーが入手してきた53層の新魔物の情報を共有する。

 どうやら、トカゲ型の魔物らしく、ドロップ品の鱗付きの皮も提出された。


「肉は付いていないんですね」

「これだけ大きかったら喰いでがあったのにねぇ」


 などと残念そうにしていた猫耳&食いしん坊が居たが、スルーしておく。いや、下手に反応すると、「次の休みに食べに行きましょう」となりかねないからだ。一度喧嘩し掛けたからなぁ。レスミアは食に関しては研究熱心なので、どんな食材にも物怖じしないのだが、俺としてはデートする時くらい普通のお肉が良いのだ。


 おっと、話がズレた。取り敢えず、ドロップ品を試し切りする事で、魔物の防御力を事前に体感する事が出来た。アイシスパペットと同様に硬めではあるが、ミスリル武器なら問題なく斬れる。ただ問題は、アイシスパペットも同時に出てくるので、武器を持っていてはコピーされる。どう対処するかだな。


「おお! こりゃあ、デカくて良い剣だ! この鱗も真っ二つだぜ!

 あの、微妙に使い難かった斧とはおさらばだな」


 試し切りで喜んでいたのは、新武器としてミスリルフランベルジュを支給されたベルンヴァルトである。彼の言っている斧とは、50層ボスのミノタウロスがドロップした『雷のラブリュス』の事だな。アイシスパペット相手には素手の方が戦いやすいので、殆ど使っていない。もう、使わないなら、鍛冶親方の新スキル〈インゴット・リダクション〉でバラしても良いな。



【スキル】【名称:インゴット・リダクション】【アクティブ】

・金属製の武具にのみ使用可能。対象を分解し、金属別のインゴットへと還元する。インゴットにするだけの量が無い場合は、金属塊になる。

 ただし、金属以外の素材は霧散化して消滅してしまい、付与スキルも引き継げない。



 つまり、これで分解すれば、ミスリルとウーツ鋼の合金で作られた『雷のラブリュス』から、ミスリルを取り出す事が可能なのだ。(※後日分解してみたのだが、ミスリルインゴット0.5個分しかなかった事を追記する)




 留守番メンバーが戦ったのは、採取地に行くまでの2戦のみ。その情報を元に仮の戦術を話し合ってから、ダンジョンへ向かった。現在時刻9時半。色々やっていたお陰で探索可能時間が短くなってしまったが、必要な事だったのでしょうがない。


 53層へ降りて来た。ここからはダンジョンの様相が一変していた。天井は青空に替わり、石壁は立ち並ぶ太い木々に、石畳は背の低い枯れ草が生えただけの土になっていた。前も似たような階層はあった覚えはある。カブトムシ魔物が出た辺りだったかな? 林のように見えるだけであり、木々の奥には透明な壁があるので、基本は遺跡型と変わりがない。

 ただ、拡張ダンジョンなのは相変わらず。壁代わりの木々が枝を張り出しているが、通路が広すぎて真ん中には青空が広がっている訳だ。


 フェルスラーフさんは、地面に生えていた枯れ草を蹴って散らす。


「この枯れ草には注意だな。魔物と戦うときは出来るだけ生えていない場所が良い。

 それじゃ、俺達第2分隊は昨日の続きから見ていくから、こっちだな」

「四方に通路が伸びているから、階段が見つかるかは完全に運ですね。

 今日のところは新しい魔物に慣れる事と、マッピングを広げる事にしましょう。

 では、第3部隊は右の通路へ出発!」


 他の分隊リーダー達と拳を掲げ合って検討を祈ると、階段部屋で別れた。

 階段部屋は階層の壁際になく、部屋から四方に通路が伸びていた。階層のどこにあるのか現在地が把握できない、面倒なパターンである。

 通路の奥を見ても判断出来る程の情報は何もない。仕方がないので、今まで通り北へ向かうことにした。

 幸いなことに枯れ草の背丈は短いので、バイクや馬で走る分には問題ない。新魔物に注意しつつ、距離を稼ぐために走り出した。




 青空の下、街路樹が立ち並ぶ道を走る。ダンジョン内なので気温も常に春の陽気であり、ツーリングするには良い階層だ。〈聖騎士の行軍〉の効果で罠も消えていくので、気にしなくても良い。難点は、横道や部屋の入口が木々に紛れて見付け難いくらいだろう。遺跡階層だと、目印に角が柱になっていたので分かり易かったのだが、ここは全部同じ木だ。ダンジョン側も気を利かせて、角の木は紅葉させるくらい目立たせても良いだろうに。




 見落とさないように途中の部屋を覗きつつ先に進むと、魔物の反応を見つけた。全員に停車を指示してから、地図を拡大して見ると……アイシスパペット2体に、弱点情報が出ないのが4体。新種の魔物で確定だ。フェルスラーフさんから貰った情報で新魔物の弱点は知っているが、〈マッピングリンク強化〉による弱点表示は自身の鑑定スキルで調べないと反映されないからな。


 ……さて、初見の敵なので情報収集からだな。

 事前に情報は貰っているが、主観の入った情報も多い。実際のメンバーで戦うのも重要なのだ。先ずは前衛陣がタイマンで戦える舞台を作ろう。

 地図上の赤い光点は、聞いていた以上に足が遅い。前の階層までだったブリッツホルンとは雲泥の差である。こちらへ向かってくるが、速度に変わりはないので、俺達に気付いていないのだろう。新種4体が先を歩き、後ろをアイシスパペット2体が付いていく。

 これらの情報から即席の戦術を組み立て、指示を出した。


「俺とレスミアが先行して、木の上から奇襲を掛ける。先にアイシスパペットを倒すから、残ったトカゲを1人ずつ相手取ろう。

 ヴァルトは鬼侍ジョブに替えたから、そのつもりで。万が一〈ブリザード〉が打たれた場合は〈ミラーシールド〉で反射して良いから」

「おっ! それなら早速、こいつの出番だな!」


 ベルンヴァルトは、バイクの側面に取り付けられたミスリルフランベルジュの柄を握ると、小気味良い鞘鳴り音をさせながら引き抜いた。移動中は運転の邪魔なので、バイクに括り付けていたのだ。反対側には『ミラーサークルシールド』も載せているので、敵の編成によって武装を切り替える事が出来る。この辺は、武装ラック付きの鞍を持つ聖馬の真似である。

 そんな聖馬の鞍から、自前のカイトシールドを取り外し装備したルティルトさんは、聖馬をメダルに戻してから俺に問い掛けて来た。


「私も下馬して戦ってみるが、〈ミラーデルタシールド〉は使っておいた方が良いか?」

「念の為にお願いします。トカゲ相手には意味がないかも知れませんけど。

 皆、先に倒すのは赤い頭の方からね。枯れ草が燃え移るかもしれないから、先に潰してしまおう。

 攻撃の合図は俺が出すから、それまでは左右の木に分散して隠れていてくれ」


 この他、後衛のソフィアリーセには『暫く様子見。苦戦する様なら〈エクスプロージョン〉の魔方陣を使った〈エレメンタル・ヴォイドオーバーブラスト〉』を頼んでおく。フィオーレは宮廷楽師のジョブに替え『トカゲの頭が減るまで様子見、ダメージが大きそうなら祝福の楽曲〈生命のララバイ〉を使う』様に指示した。



【スキル】【名称:生命いのちのララバイ】【アクティブ】

・聞いている者の怪我と疲れを癒す祝福の楽曲。回復効果は高く、回復の奇跡に匹敵する。

 ただし、効果が高い分だけMP消費が多い。状況に応じて、他の曲と使い分けよう。



 楽師で習得した〈癒しのララバイ〉の上位互換だな。劇団で教わってきたフィオーレ曰く、歌い始めに〈ヒール〉と同じ効果を仲間全体に与え、曲を弾き続けていくと更にHP継続回復+スタミナが回復していき、最後まで弾くと〈キュア〉と同程度の回復量になるそうだ。

 範囲回復なら〈キュアサークル〉でも十分だが、曲が聞こえる範囲に居ればいいのとスタミナ回復効果がありがたい。戦闘中に全体回復を掛けるなら、こちらの方が使い勝手は上だろう。



 さて、指示はこれぐらいで良いとして、自分の準備もしないと。〈モノマネ芸〉を使用し、レスミアの〈無音妖術〉をコピー。更に光属性魔法〈インビジブル〉で姿を消した。後はカポ・ニンジャの〈壁天走り〉で木の幹を走り上り、枝伝いに移動するだけである。本当なら足場にした枝や、身体に当たる枝葉がガサガサ音をだしてしまう所であるが、〈無音妖術〉のお陰でその音も消してしまうのだ。流石に枝から落ちた葉っぱは、どうしようもないけどな。敵が気付かない事を祈る他ない。


 そうして枝を蹴って移動し、魔物の群れから15m程の位置で待ち伏せる事にした。この距離なら、まだ葉っぱが落ちても気付かれないだろう。と思ったら、不意に腕を引っ張られた。


「(ザックス様、もう一段下の枝に行きましょう。太いから、通路の方へ寄れます)」

「(了解)」


 同じく姿を消したレスミアである。一時期、枝の上からの奇襲を得意としていた彼女の言葉は信じた方が良い。葉っぱを落とさないようにゆっくりと太い枝へ移動する。そこから下を眺めると……ゆっくり歩く4体のデカいトカゲと、アイシスパペット2体を発見した。


 アイシスパペットが人間大なので比較しやすい。トカゲの方は、4つ足で歩く全長4m程の巨大トカゲである。しかし、目立つのは大きさだけではない。肩口から左右それぞれに長い首(2m程)が生えており、頭も2つあるのだ。右側が真っ赤な鱗、左側が緑色の鱗をしている。その色違いは胴体にも続いており、上から見ると身体の左右も色違う変なトカゲだ。



【魔物】【名称:ツインヘッドリザード】【Lv53】

・双頭の大蜥蜴(トカゲ)型魔物。それぞれの首が別の属性を備えており、対応する火と風属性ブレスを吹いて攻撃する。この時、2属性のブレスを同時に混ぜて吹くと連携効果で威力と範囲が上がり、ファイアストームブレスへと変化する。

 ただし、2つの頭は互いに仲が悪く、身体の主導権争いをする程なので、余程の窮地でもなければ連携しない。

 片方の頭を倒すと、残った方が身体を掌握し、身体能力がまともになる。この状態になると近接攻撃主体に変わり、相方の頭を倒した敵へ突撃する。鋭い爪撃と噛み付きは威力が高く、ウーツ鋼の盾でも破壊してしまう程だ。

・属性:火/風

・耐属性:水/土

・弱点属性:風/火

【ドロップ:ツインヘッドリザードの鱗皮(赤、緑)】【レアドロップ:ツインヘッドリザードの大爪(赤、緑)】



 鑑定文を見ても変なトカゲである。首の色ごとに弱点が違うのだが、属性の相関とは少し違い、互いの属性が弱点になっているのだ。(本来なら火属性の弱点は水の筈) その為、弱点属性の範囲魔法で攻撃したとしても、片方は生き残ってしまう。フェルスラーフさんからの情報で、ランク7魔法2発で片方の頭を倒せる事は分かっているから、魔法だけだとランク7を4発必要になる。ブリッツホルンと比べると、明らかに手間が掛かる魔物だ。


 それと、上から見ていて分かったのだが、移動が遅いのはコイツのせいだな。4匹とも、歩く姿がぎこちないのだ。

『2つの頭は互いに仲が悪く、身体の主導権争いをする程』

『片方の頭を倒すと、残った方が身体を掌握し、身体能力がまともになる』

 もしかすると、今も主導権争いをしながら歩いているのかも? なんと言うか、二人三脚で左右がぎくしゃくしている様な感じなのだ。


 暫く観察していたが、頭上の俺達には気付かなかったようで、通り過ぎて行く……ぼちぼち奇襲を仕掛けるか。


「(レスミア、俺は左のを倒す)」

「(私は右のですね。先に行きますよ)」


 小声で相談した直後、不意に枝が揺れた。〈ステルス迷彩の術〉姿を消しているので見えないが、レスミアが飛び降りたようだ。俺も続いて飛び降りる。

 そして、俺が着地する前に、右のアイシスパペットが痙攣して動きを止めた。背中には大きな刺し傷……ミスリルサーベルの〈不意打ち〉で一突きだったのだろう。そいつが崩れ落ちるのと同時に、俺が着地、背中側が大爆発した。ニンジャの〈着地爆破演出〉だ。魔物の群れが音に驚き、全員振り向く(トカゲ共は頭だけ×8)。


 振り向いたアイシスパペットに向かって〈縮地〉で接近、肉薄し、胸の心臓部に掌底を叩き込んだ。


「〈発勁烈波〉!」


 崩れ落ちるアイシスパペットを蹴り上げて、ツインヘッドリザードの1体にぶつける。その反動も使って後ろに逃げたのだ。何故なら、首だけ後ろに向けていたツインヘッドリザードの内、赤い頭×3が大きな口を開いたのである。

 次の瞬間、火炎のブレスが噴き出し、周囲を焼き焦がした。


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