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第709話、囮のゴーレム

 呪縛師は、敵を妨害するスキルを多数習得している。ただし、魔法やスキルを2つ使えなくする〈行動技封印〉といった強力な効果の物は単体にしか効果がない。効果が弱めな範囲タイプの妨害スキルもあるが……相手が動物系や亜人系だったら、刺激臭の〈マスタードミスト〉や、閃光と爆音の〈フラッシュバン〉で意表は突けるかも知れないが、ゴーレムなアイシスパペットには無意味だろう。


 対ボスとしては強力なジョブであるが、道中の雑魚相手には費用対効果がイマイチ……そんな評価の呪縛師のスキル群において、俺が選んだのはこれだ。


「来い! 〈スタンロッドドール召喚〉!」


 手に持っていた発動コスト、『低級ゴーレムコア』がふわりと浮くと、勝手に地面に落ちる。そして、地面にぶつかる直前に、石畳が隆起した。液体の如く盛り上がりゴーレムコアを飲み込むと、更に大きくなって行く。地面から質量を取り込んでいるようで、地面が擂り鉢状に凹んでいった。


 そうして出来上がったのは、人型のストーンゴーレムである。背丈は俺よりも少し高く2m程の、相撲取りのようなずんぐりむっくりした感じの体系をしていた。丸い目が2つ空いただけの、シンプルな顔。そして、一番目を引くのが、その長い両腕だ。いや、正確には武器だろうな。肘から先がこん棒のようになっており、立っている状態で地面に付くどころか腕を前に出し、斜めに構えている程に長い。ゴリラに見えなくないな。


【スキル】【名称:スタンロッドドール召喚】【アクティブ】

・ゴーレムコアを1つ消費する事で発動可能、護衛人形を召喚する。コアのレア度によって、強さと効果時間が延び、更に身体を作る為の素材……周辺の岩や土、木材等……でも強さは変動する。事前にレア度の高い素材を用意しておくと良い。

 その両腕は長く、雷属性魔法〈スタンショック〉を秘めており、主に近付く敵を攻撃して麻痺させる。



 今まではゴーレムコアが貴重だった為、試し打ちもしていなかった。しかし、ここのダンジョンではアイシスパペットが1戦1個のペースでドロップする程度のレアである。消耗品として使うのは勿体ないと感じるが、補充できる当てがあるのだから問題ないだろう。

 ついでに、〈詳細鑑定〉で調べてみると……



【スキル/使い魔】【名称:ストーンゴーレム】【レア度:D】

・〈スタンロッドドール召喚〉により作り出された石の使い魔。防衛用のゴーレムであり、術者が敵と認識した者を寄せ付けない様に戦う。その身を盾として術者を守る事も。長い腕には雷属性魔法〈スタンショック〉を施す事も出来、殴った敵を麻痺させる。ただし、魔法を使う度に稼働時間も減る。

 コアのレア度が低く、難しい命令は理解出来ない。味方を巻き込まない程度の頭はあるので、防衛用のオートに任せよう。



「そんな訳で、こいつを囮に突っ込ませて、〈ブリザード〉を空撃ちさせようって作戦だ」

「面白い事を考えるわね。確かに、誰かを囮にするよりは、心が痛まないもの。

 それにしても、只の石では見栄えが良くないわね。何か他の素材はなかったの?」

「ストレージに保管してある魔木とか、余っているチタンならあるけど……どうせ使い捨てなんだから、地面の石で十分だよ」


 メタリックなゴーレムとか、憧れるものはあるが、コアが低級な時点で過度な期待はしない方が良いと思う。貴族的には全身宝石のゴーレムとかが受けるだろうか? 全身金だと成金っぽいかな? そんな素材は手持ちにないので捕らぬ狸の皮算用だけどな。



 ゴーレム君に、軽く指示を出して動作チェックを行った。

 相撲取り型なだけあって動作は遅めであるが、長い腕の叩きおろしは石畳にヒビが入る程の威力である。ただ、振り下ろした腕の方にもヒビが入ったけどな。同じ素材なので、相打ちだった訳だ。

 そして、指示は1個ずつしか、理解してくれない。

 『前進』だと、延々と前進して行き、突き当りの壁にぶつかってUターンして戻ってきた。

 『10m前進、その後10m右方前進』だと、最初の10mで止まってしまう。止まった所でキョロキョロしていたので、索敵というか、防衛モードに入っていたのかも知れない。


 面白がったベルンヴァルトが「ちょっと、手合わせしてやろうか?」なんて提案をしてきたが、『そこのヴァルトと戦え!』、『目の前の者と戦闘!』とか指示してみたものの、首を振るだけで戦闘にはならなかった。パーティーメンバーは巻き込まないと書いてあったから、対象外なのだろう。



 そんな、動作チェックを終えてから、アイシスパペット6体の部屋に放り込んでみた。指示は「部屋の中の魔物を倒して来い!」だ。


 ズシン、ズシンと地面を揺らしながら、走っていく。両腕も地面を突いて走るので、よりゴリラっぽい。その地響きの音はアイシスパペットにも伝わったようで、早々に魔方陣を向けられた。白い魔方陣が次々に光り、ゴーレムを〈ブリザード〉の吹雪のドームに包んでいく。6連掛けなので、猛吹雪どころか、中に入ったゴーレムの姿も見えないくらいである。


 その隙に、俺とソフィアリーセは、こっそりと部屋の中に侵入すると、横合いに移動。吹雪のドームが射線に入らない位置にまで移動してから、充填していた魔法を撃ち放った。


「「〈魔攻の増印〉! 〈プラズマブラスト〉!!」」


 部屋の外からはフィオーレの奏でるギターが聞こえる。知力値アップの〈魔道士のラプソディ〉だ。そのバフを受けた二本の紫電レーザーは、アイシスパペットの群れを薙ぎ払う。レーザーがデカ過ぎて前が見難いが、〈マッピング〉表示から赤い光点が消えたので、無事倒せたようだ。

 予想通りの戦果に喜んだものの、〈ブリザード〉が止んだ地点には、雪が積もったバラバラの岩が散らばっていた。こっちも予想通りに耐えられなかったか。短い付き合いだっので、愛着が湧くほどでもない……ふと、思い付いた。


 アイシスパペットの残骸(といっても5体満足)の元に駆け寄り、ストレージから取り出したゴーレムコアを背中に置く。そして……


「〈スタンロッドドール召喚〉!

 良し! 発動した!」


 アイシスパペット残骸が液体の様に盛り上がり、ゴーレムコアを中心として再構成されていく。質量が足りなかったのか、近くにあった他のアイシスパペットの残骸も吸収した。

 そして、3体分の残骸を使った、腕の長い騎士型ゴーレムが完成する。アイシスパペットが材料なので、真っ白で真珠のような光沢のある身体は、まるで美術品のようだ。何故か、フルプレートメイルを着た造形になったので、余計にそう見える。



【スキル/使い魔】【名称:アイシスメタルゴーレム】【レア度:B】

・〈スタンロッドドール召喚〉により作り出されたアイシスメタル製の使い魔。防衛用のゴーレムであり、術者が敵と認識した者を寄せ付けない様に戦う。その身を盾として術者を守る事も。長い腕には雷属性魔法〈スタンショック〉を施す事も出来、殴った敵を麻痺させる。ただし、魔法を使う度に稼働時間も減る。

 この個体はアイシスメタルを材料にしており、強度が高く、氷属性魔法に強いが、雷属性には滅法弱くなる。また、強度の高い関節を動かすのに魔力を多く使うため、稼働時間も短くなる。

 コアのレア度が低く、難しい命令は理解出来ない。味方を巻き込まない程度の頭はあるので、防衛用のオートに任せよう。



 レア度によって、造形が見栄え良く変わるのかね?

 石だとレア度Dでゴリラ型、アイシスメタルだとレア度Bで騎士型である。両腕が長い棒なのは一緒だが、腕を斜めに広げて立っているので、二刀流でも構えているかのようだ。

 俺の後を追って付いてきたソフィアリーセも、騎士ゴーレムを見て感心したような評価をする。


「なかなか良い石像ね。もう少し格好良いデザインの鎧にすれば、伯爵家のインテリアとしても使えそうよ。

 下級貴族や平民街なら、このままでも十分でしょうけど。

 そうね……白だけど、白銀にゃんこには似合わないと思うわ。カフェなのだから、可愛らしい人形の方が…………え?! 消えていくわよ?!」

「ああ、ワンチャン行けるかと思って試したけど、駄目だったか」


 戦力ではなく、見た目で評価をしていたソフィアリーセだったが、急に霧散化して消えていった事に驚いていた。

 俺としては、十中八九駄目だろうと覚悟して〈スタンロッドドール召喚〉を使ったので、残念なだけだ。

 魔物がドロップ品に代わる前に、角とか肉とかを切り取って回収したとしても、霧散化して消えてしまうのがダンジョンの仕様なのである。

 ストーンゴーレムの残骸は倒されても残っていたので、スキルで加工してしまえば、ワンチャン残るかも?と実験してみただけだ。


 残されたのは、アイシスメタル3個……素材にしなかった、少し離れた位置のアイシスパペットの分もアイシスメタル3個で計6個。使用したゴーレムコアは、効果時間は残っていたけど跡形もなく消えてしまったようだ。残念。

 まぁ、サプライズでソフィアリーセの驚き顔が見られたので、良しとするか。




 ともあれ、〈スタンロッドドール召喚〉は囮として使える事が証明された。ゴーレムコアが使い捨てになるが、安全で楽に倒せることには変わりがない。戦術のローテーションに組み込む事にした。

 今のところ、魔法連打で押し切るか、魔法で相殺してから前衛が突っ込むか、囮を使うかの3種類だな。この中から状況に応じて使い分けて行こうと思う。MPの減り具合とか、メンバーの疲れ具合とか、ゴーレムコアの在庫数とかも考慮しないといけないからな。


 楽に戦える様にはなってきたが、50層以下の戦闘と比べると、手間が掛かるのはしょうがないか。





 そうして戦い、バイクで進む事(朝から)6時間。お昼休憩を過ぎ、更に進んだ14時頃になって、ようやく下の階層へのスロープを発見した。

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