第708話、プラズマブラスト連打と、まとめて全員殴り倒す
アイシスパペットとのソロ戦を終えた以降、道中の大部屋の中を確認する際には、アイシスパペットの数が多くても殲滅する方針に変更する。他の戦術も試してみたいからであり、出来るだけダメージの少なく、リソースが少なくて済む方法を模索したい。なにせ、魔物は大抵、登場してから5層分は出てくるからだ。最初に対処法を確立した方が、残りの階層もスムーズに攻略出来る訳だな。
そうして見付けた次の相手は、アイシスパペット5体にブリッツホルン1匹だった。このパターンだと、流石に1匹に5体は乗せられないようで、大部屋に陣取っていた。中ではアイシスパペットが整列し、ブリッツホルンだけが気ままにうろうろしてるようだ。
レスミアに中を偵察してもらった後、俺達は新しく試す戦術を話し合い、役割を決める。
「私はブラックカードで魔法を打った後は、ブリッツホルンの相手だな。撃った後はジョブを戻してくれよ。
迂回して接近し、脇腹に突撃してみせよう」
「〈プラズマブラスト〉を連打するけど、〈オフセットマジック〉で〈ブリザード〉を相殺する分と、ブリッツホルンは雷耐性持ちだからダメージが減る事を計算すると、生き残る筈です。後衛に突撃される前に止めを刺して下さい」
ブリッツホルンは殆どオーバーブラストで瞬殺してきたので、交戦経験は少ない。ただ、突進してくる獣系としてはオーソドックスなので、騎馬である聖騎士なら対処は楽だろう。〈ルミナス・チャージ〉で側面から突撃するとか、〈シールドバッシュ〉で聖馬ごと体当たりするだけでも良い。
ベルンヴァルトとレスミアの役割は同じなので、問題なし。
そして、後衛メンバーとしてフィオーレにも〈プラズマブラスト〉のブラックカードを渡しておく。
「フィオーレは、俺達の魔法が相殺された後に指示を出すから、充填して待機していてくれ。それと、〈プラズマブラスト〉だから、敵全員に当たるように横に動かしてな」
「良いけどさぁ。本業でもないんだし、あんまり効かないんじゃない?」
「それを確認する為でもあるんだよ。倒せれば良し。そうでなくとも、どれだけ弱るか、麻痺するか?ってね」
先ずはアイシスパペットの弱点である雷属性〈プラズマブラスト〉で、力押しする作戦だ。
編成は俺とソフィアリーセがメインであり、追撃要員としてルティルトさんを魔導剣士に変更、フィオーレは剣舞姫ままブラックカードを使用してもらう。これで4発の〈プラズマブラスト〉が使える訳だ。
ただ、〈プラズマブラスト〉は中級属性だから、連携魔法で威力アップする事は出来ない。その為、敵の〈ブリザード〉×6を何発で相殺出来るのか? 更に、相殺後の残り数発で倒せるか?が焦点となる。
因みに、レスミアとベルンヴァルトにも使わせて6連発にすれば、と考える人も要るかも知れないが、費用対効果が薄いと判断したのである。2人の習得ジョブの内、後衛ジョブに変えたとしても知力値のステータスがD止まりだったからだ。
〈フェイクエンチャント〉で作った魔道具は、その素材によって威力と使用回数が減衰する。
今まで検証した分や、騎士団からのフィードバック情報を合わせると、ゴールドが9割(10回使用可能)、ブラックが8割(5回)、シルバーが6割(3回)だ。ここに、使用者の知力値による補正が入って威力が増減するのだ。
その為、ブラックカードでも威力が減るのに、サードクラスとしてのステータス平均値なCに到達していないと、威力が減り過ぎると判断した次第である。(参考:ソフィアリーセはS、俺はA、ルティルトさんとフィオーレはC)
さて、準備と戦術を確認した後、またしても俺一人で部屋に侵入した。ただし、今度は姿を消さずに堂々と走ってである。
いや、万が一相殺出来なくて〈ブリザード〉を5連打喰らっても、俺なら耐えられるのが実証済みだからだ。魔法に弱めなベルンヴァルトだと1.5倍喰らうと推定すると、下手すると死にかねないからな。
大部屋の中心辺りに居る魔物達に向けて走って距離を詰めると、向こうも俺に気付いて動き出す。
アイシスパペット共が、〈ブリザード〉の魔方陣をこっちに向けたのに合わせて急停止し、俺も充填済みの魔法を敵に向けた。
「お前ら、俺を狙えよ! 〈魔攻の増印〉〈プラズマブラスト〉!!」
「……〈魔攻の増印〉〈プラズマブラスト〉!」
敵味方ともに魔方陣を光らせたのは、俺が一拍早い。紫の魔方陣から、俺の背丈ほどもある巨大な紫電レーザーが放たれる……その直後、足元に白い魔方陣が光った途端に、レーザーが霧散化して消えていき、紫の魔方陣が粉々になった。〈オフセットマジック〉の効果で相殺したのだろう。アイシスパペットの方では3つの魔方陣が砕け散っていた。
……3つ消して、残りは2つ!
足元の白い魔方陣は残っている。下から吹雪が舞い上がろうとした時、今度は後ろから紫電レーザーが俺の居る場所に直撃した。一拍遅れて後ろから聞こえた、ソフィアリーセの〈プラズマブラスト〉である。
足元の魔方陣を粉々に砕いたレーザーは相殺した分だけ細くなり、半分の細さになってアイシスパペットの数体に直撃した。そのまま横に薙ぎ払われる事で、5体のアイシスパペットと、1匹のブリッツホルンを巻き込む。
その様子を見てから、後ろに向かって指示を出す。
「ルティも撃て!
フィオーレは、ルティの分が半分収まってから!」
「行くぞ! 〈魔攻の増印〉〈プラズマブラスト〉!」
3発目が背後から撃たれた。敵味方識別はあるので、範囲内に居ても問題ないが、レーザーで視界が悪いので斜め前に移動して敵を観察出来る場所へ移動しておいた……敵はまだ全員健在のようだ。ざっくり計算すると、〈プラズマブラスト〉1.3発分は耐えるようだ(0.3は相殺された残り)。
ルティルトさんは魔導剣士レベル50であり、中級属性の適正も判明している。
属性適正:水、土、雷、氷、木属性
中級属性が全て使えるので、魔導士や魔導剣士としても申し分ないのだよな。レベル10アップ毎のステアップで知力値が上がっていないので、後衛としては弱めであるが。
おっと、ジョブを聖騎士に戻しておかないと……
「いっけ~、〈プラズマブラスト〉!」
続けて放ったのはフィオーレである。魔法使い系は育ててないので、〈魔攻の増印〉は使えないし、中級属性の適正も分からない。まぁ、少なく見積もって0.5発分くらいかな? レーザー自体も細目である。
これで推定1.8発分のダメージが入った……しかし、まだ全員健在なのが歯痒い。
ただし、アイシスパペット達は弱点属性を喰らったせいで、硬直している(麻痺かも?)。ブリッツホルンも雷属性に耐性があるとはいえ、〈プラズマブラスト〉を2発弱当たったせいか、その場で伏せていた……一瞬麻痺ったかと思ったが、よろよろと立ち上がったので、状態異常にはならなかったようだ。ダメージは大きそうだが。
「レスミア! ヴァルト!
1体残して、他は倒せ!」
指示を出しながら、俺も〈縮地〉前に飛ぶ。そして、棒立ちのアイシスパペットの1体の心臓を〈発勁烈波〉で打ち抜いた。
隣のアイシスパペットも倒そうと目を向けるが、急に胴体に穴が開いた。サーベルを突き入れたような傷跡なので、レスミアの〈不意打ち〉だろう。
〈プラズマブラスト〉を撃っている間に、こっそりと中に入ってきていたヴァルトも、どたどた走ってきては、1体を〈発勁烈波〉で倒す。同じく、聖馬で〈ルミナス・チャージ〉してきたルティルトさんは、担当だったブリッツホルンが走り出す前にくし刺しにしていた。
後2体……いや、レスミアが追加で倒したので、残り1体。皆に手出しをしないよう指示をしてから、しばし様子見をする。
すると、しばらくして動き出し、ファイティングポーズを取った。体感的に、最後の〈プラズマブラスト〉が消えてから1分くらいか。長めのスタンなのか、短い麻痺だったのか判断に困る。
最後は、打ち終わってから充填していた5発目の〈プラズマブラスト〉で倒した。ちょっと勿体ないけどな。〈魔攻の増印〉は付けなかったので0.9として、大雑把な計算だと2.7発で倒せた事になる。バフとかで強化していれば2発分で倒せるか?
敵の〈ブリザード〉3発分を〈魔攻の増印〉付き〈プラズマブラスト〉で消せた事も踏まえると、計4発で一方的に倒せる可能性ありっと(ただし、バフ強化は必須)。
ゴールドカードを使えば威力の減衰も減るのだけど、流石に王家からの発注分しかないので、俺達が使える代物ではない。金鉱石も51層から採れるらしいので、自前で作る方法もあるが……流石に金を使い捨てにするのは勿体ないよなぁ。
この結果を元に、何度か戦って検証を進めた。
知力値アップのバフ盛り盛りにすれば、〈プラズマブラスト〉4発で、アイシスパペット6体を一方的に倒す事にも成功する。
ただ、『ブラックカードが勿体ない』&『前衛が暇だ』、なんて意見も出てきた。楽は楽なんだけどね。
その為、〈プラズマブラスト〉は相殺する2発に止め、殴りかかる戦法も試してみた。俺とベルンヴァルトが囮として部屋に入り、相殺する〈プラズマブラスト〉の光に紛れて近接戦闘を仕掛けるのである。
〈ヘイトリアクション〉を掛けつつ各個撃破を狙うのだが、流石に6体はキツかったかな? 素人状態のアイシスパペットとはいえ、他の仲間が数を減らしてくれるまで、防戦一方だったのだ。ちょい、ストレス。
なので、その次の機会では全員を殴り返すことにした。
「全員まとめて掛かって来い! 〈瞬刃・朧風車〉!!」
魔法を相殺した後、接近しつつ、カポ・ニンジャのスキルを発動させた。次の瞬間、俺の元から分身が6体出現し、それぞれのアイシスパペットに〈縮地〉で飛んで殴りかかった。
【スキル】【名称:瞬刃・朧風車】【アクティブ】
・集団戦用の必殺スキル。術者を中心とした〈縮地〉の射程範囲内に居る敵全てに対し、幻影を飛ばして攻撃する。
この時、幻影は術者の装備している武器と同じ攻撃力で戦い、数回攻撃を仕掛けてから消える。
ただし、対象が多いほど消費MPも増える。
スキル名に『瞬刃』なんてあるが、『幻影は術者の装備している武器と同じ攻撃力で戦い』とあるように、素手の場合は幻影も素手で戦ってくれるようだ。その為、アイシスパペットも武器コピーが出来ない。俺の幻影がボコっている間に、背中から仲間達が攻撃すれば、楽勝なのだ。
全員で戦いつつ楽に勝てるのは、この戦法かな?
相殺した後に〈雷光閃・裂雷〉で全員ぶった切っても楽だけど、俺のMP負担だけ大きいのは如何ともし難い。
開幕の〈ブリザード〉さえ防げれば、使える戦術も増えるのだが……
反射の〈ミラーデルタシールド〉か、相殺の〈オフセットマジック〉か、もしくはダメージ覚悟で耐えるか。
色々検証しながら進み、ジョブのスキル一覧を見直して見たところ、一つ面白い案も浮かんだ。
ああ、新入りの呪縛師の、あのスキルを試していなかったな。