第727話、ハイなレシピと、超振動と豊穣の魔道具
錬金術師協会からのサポートと言って、テーブルに取り出したのは、レシピの紙と薬瓶が数セット。それと、変な形のツルハシ?と、甲の部分に宝玉が付いたグローブ?だった。
ツルハシの方は、ピックの部分が稲妻のようにギザギザになっていて、中二的ではあるけどちょっと格好良い。
「こちらの2つはダンジョンの必需品、傷を治すハイポーションと、MP回復のハイマナポーションのレシピ。そして、登録用の現品です。錬金釜の登録には、このセットでしか出来ませんので、アイテムボックスに入れる際は他の同名アイテムと混ざらないように保管してください」
フィナフィクスさんが解説してくれたのは、レシピとそれに付随する薬品10本ずつだ。レシピにも目を通してみたが、一度に10本の調合が出来る物の様だな。
【薬品】【名称:ハイマナポーション】【レア度:B】
・MPを大回復させる薬品。本来ならば鉱物化している魔結晶を荒らしマンドラの効能で分解し、走りメイジキノコの幼体のMP回復効果を増幅させている。高濃度のマナを人体に取り込みやすく調合されているが、回復には少し時間が掛かる。MP+60%(3分)
・錬金術で作成(レシピ:走りメイジキノコの幼体+魔結晶+氷結樹の実+荒らしマンドラ+魔法瓶)
【薬品】【名称:ハイポーション】【レア度:B】
・傷を癒しHPを大回復させる薬品。服用するか、患部にかける事で傷の治りをかなり早める。事前に服用しても、効果時間内に怪我をすれば効果は出る。癒しの奇跡に匹敵する程の回復力をみせるが、骨折や古傷は治すのには時間が掛かる。患部に何度も練りこむ様にして使用すると良い。
ただし、神経を断裂するような大怪我には効き難く、外側の怪我は治せても、内部の神経には効果が薄い。また、手足などの欠損も再生出来ない。HP +60%(1分)
・錬金術で作成(レシピ:癒し草+踊りなめこ+ザフクヴェレの樹液+魔法瓶)
ハイマナポーションは何本か持っているが、これで自作が可能となる。材料も全部手に入れているので、直ぐにでも量産が可能だ。MPを気にせず大技を連発出来るようになるのは、非常にありがたい。
まぁ、今後も低コストで敵を倒す戦術は研究し続けるけどな。いや、『〈無充填無詠唱〉をセットして、弱点魔法を連打しよう』は攻略でなく、ごり押しだから。
ハイポーションは初めて鑑定したが、確かに回復が早いな。服用して1分とか、〈キュア〉の充填時間を考慮すると良い勝負である。『古傷は治す』効果は〈キュア〉にはない効果なので、女性にも人気がある……いや、フロヴィナちゃん経由で聞いたのだが、肌のシミを消すのにも使えるらしく、白銀にゃんこで取り扱わないかと稀に相談があるらしい。1本5万円もするので、高級化粧品扱いだな。
ま、それは兎も角、パーティーメンバーに持たせている緊急用の常備薬も更新出来る。別行動中や、俺が状態異常とかで動けなくなっても、各自で回復出来る訳だ。
テーブルに乗せられているレシピカタログで確認したところ、レシピ代が凄い。ハイポーションは1千万円、ハイマナポーションは3千万円。計4千万円分をタダで頂けたのである。ありがとうございます。
今回の物はヴィントシャフトの街で採れる素材を使った基本レシピである。カタログには他のバリエーション(素材違い、効果違い、個数違い)もあるが、後回しで良いな。基本レシピなら〈量産品の意地〉による、効果アップも見込めるのだから。別バリエーションは、使い勝手に問題があったり、もっと強い効果が欲しくなったりした時で良いや。
「それで、こちらはダンジョンの採取地で使う栄養剤です。植物系と鉱物系で別れているので、使うときは間違えないように注意してくださいね。採取地でこの薬品を撒くと、素材が生えてきたり、元々生えていた物の品質が良くなったりします。これで、沢山ミスリル鉱石を掘ってきて下さいね。
……あっ!こっちの鉱物用栄養剤の素材である『ザフランケの樹液』は、レア度Bの物を入れてください。素材のレア度が低いと、効果も薄くなるそうです」
植物系の黄緑色と、鉱物系の茶色、属性による色なので、ぱっと見で分かる。こちらの2種類も10本分のレシピのようだ。
【薬品】【名称:植物用栄養剤】【レア度:B】
・植物系採取地に撒くことで、素材の成長と再生を促す。撒いた箇所から円周囲にある素材に対して有効であるが、小部屋程度の広さまで。大部屋の場合は、間隔を空けて撒くと良い。
ただし、同一箇所に連続使用しても効果は1回分のみ。再使用まで数時間は空けよう。
地上で使った場合でも効果はあるが、ダンジョンの採取地で使った場合の1割程度なので、深緑晶石を使った方が良い。
・錬金術で作成(レシピ:走りメイジキノコの幼体+荒らしマンドラ+深緑晶石×10+薬瓶)
【薬品】【名称:鉱物用栄養剤】【レア度:B】
・鉱物系採取地に撒くことで、素材の成長と再生を促す。撒いた箇所から円周囲にある素材に対して有効であるが、小部屋程度の広さまで。大部屋の場合は、間隔を空けて撒くと良い。
ただし、同一箇所に連続使用しても効果は1回分のみ。再使用まで数時間は空けよう。
・錬金術で作成(レシピ:ザフランケの樹液+強欲マンドラ+魔結晶×10+薬瓶)
超大部屋の場合は、採りたい素材が生えていた所で使えば良いのかな。ベルンヴァルトが「筒竹の所で使ってくれ」と言ってくるのは間違いないな。個人的には『走りメイジキノコ』が生えているところに使って、原木栽培用の成体が欲しいところである。
それに、鉱物系の方でミスリル鉱石を掘るチャンスが増えるのも良い。
……ただ気になるのは、栄養剤が売っている所を見た事が無い点だ。採取量が増えるならば、広く販売されても良いのに?
そんな疑問を口にすると、ファイリーナ叔母様は微笑んで教えてくれた。
「それは単純な話よ。50層以下では費用対効果が薄いの。栄養剤の市場価格は1本10万円だから、それ以上の収穫が見込めないとね。それに、50層以下は魔物も強くないのだから、採取要員を増やして採取地巡りさせた方が収支は良いのよ。
それに対して51層以降の魔物が強い階層だと採取要員も増やせない。採取地を巡らせて魔物と戦うリスクを増やすより、1箇所で沢山収穫して貰った方が効率は良いのよ」
成程、調合素材も51層以降で採れる物であるし、妥当な判断なのだろう。40層代の小部屋で10万円稼ぐとしたら、大量のウーツ鉱とか、宝石でも掘り当てないと採算は取れないだろうからな。
因みに、協会やギルドの売店で販売していないのは、サードクラスの人にしか販売していないから。店員にサード証を見せて注文したら買えるそうな。
カタログで調べて見ると、この2種類の栄養剤のレシピ代は、各1千万円。販売した場合の相場は、1本10万円なので、100本売れば元は取れる。タダで貰えた俺には関係ない話であるが、ここまでで6千万円分タダで貰ってしまった訳だ。
残りの2つはレシピでなく、ツルハシとグローブの魔道具の様である。順番に〈詳細鑑定〉を掛け、フィナフィクスさんからの商品説明も聞いた。
【魔道具】【名称:超振動ツルハシ】【レア度:B】
・ミスリル合金製のツルハシに、雷属性魔力で超振動する機構を取り付けた魔道具。ダンジョンの鉱石が採れる土山に対し、ピック部分で打撃した瞬間に超振動を伝播させ粉砕する。力の弱い人でも、軽々と土山を壊し、採取が出来るだろう。
作動には魔力が必要であり、柄の真ん中に付いたタイガーアイの宝石に魔力を流す。魔力が少ない人は、ピックの反対側に魔結晶を取り付けなければならない。
「発破職人が居ないパーティーの必需品でございます。
魔力を込めたコレで土山を叩くと、砂山の如く崩せる優れものなのですよ」
「へ~、砂山に変える……〈パルベライズ〉みたいなものか」
「え?! ザックス様は〈パルベライズ〉も使えるので?
ええと、聞いた話ですが、〈パルベライズ〉よりは荒い砂くらいだそうです」
得意気に話したフィナフィクスさんの腰を折ってしまった。狐耳がちょっとヘタレてしまったのは、悪い気がするな。
ともあれ、採掘が楽になるのは間違いない。力自慢なベルンヴァルトには必要ないので、他の分隊に貸し出しても良いかもな。
因みに、地上の村を開墾する時にも使われるそうだ。工事でも畑作りでも、硬い土をコイツで叩いてやると、周辺が粉砕されて掘り易くなるそうだ。お値段300万円(レシピではなく実物)。採取道具にしちゃ、ちょっと高いな。
そうそう、ミスリル合金とあるが、含有量は少ないので武器転用は微妙だそうだ。
【魔道具】【名称:豊穣の採取手袋】【レア度:B】
・モスアゲートの宝玉を、甲の部分に取り付けた特殊な手袋。宝玉経由で魔力を流しながら採取すると、植物系素材に木属性マナを与えて品質を上げる。また、植物の幹や茎に触りながら魔力を流すことで、成長させる事も出来る。ただし、〈グロウプラント〉より効率は悪い。
「はい、こちらは熟練採取師が居ないパーティーの必需品でございます。〈採取の心得上級〉が無いパーティーでも、採取しながら品質も上げて、同程度の素材になるのです。
先ほどの栄養剤を使った後とか、少し成長が足りない植物を育てるのも良いですね。左右の手袋を2人で分けて使うのも有りですよ」
「はい、〈採取の心得上級〉があるパーティーなら、もっと品質が良くなりますか?
後、〈自動収穫〉に効果が乗ったりは……」
「ええと、品質は良くなる筈ですけど〈自動収穫〉は効かないので、熟練採取師が居るパーティーは殆ど買いません。皆さん『今更手作業はないでしょ』って、よく断られるわぁ」
またしても自慢気に魔道具を紹介するフィナフィクスさんの話の腰を折ってしまった。狐耳がペタンと垂れてしまったのは、可愛い。綺麗なお姉さんキャラの、ちょっと凹んだ姿も可愛く見えるもの……なんて見ていたら、ファイリーナ叔母様から鋭い目線を向けられる。『ウチの職員を虐めないでよ』なんて言われた気がしたので、「ああ、水筒竹の類は〈自動収穫〉が効かないので、この手袋を付けて収穫したいですね!」とフォローしておいた。
まぁ、実際のところ、筒竹に〈グロウプラント〉を使って酒に育てるなら、この『豊穣の採取手袋』も有用だろう。筒竹に一定量以上のマナが充填されると上位に変異するので、採取しながらマナを注げるのは良い。『〈グロウプラント〉より効率は悪い』とあっても、後で〈グロウプラント〉でマナを注ぐ時が楽になるのだからな。
ベルンヴァルトへのお土産に丁度良いか……と思ったが、『豊穣の採取手袋』のお値段300万円と聞いて、貸出に替えた。




