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第151話、地に眠る臆病もの

 両断され、地面に落ちた雪少女からは光は消えている。流石に倒したよな?


 剣を振るった後、振り上げたまま硬直していたレスミアが振り返る。トドメの一撃を入れたせいか、〈不意打ち〉で両断出来たせいか、晴れ晴れとした良い笑顔だった。


 しかし、ホーンソードを鞘に入れようとした時、その刀身が砕け散る。魔力を切ったウルフテイルも、ふにゃりと柔らかくなると同時に毛が抜け落ちてしまった。



「え?! なんで?!」


 両手に残った柄を見て、オロオロとするレスミアだった。見ていて和むし、壊れた原因は光っていた腹を切ったせいだろうが、次の戦闘の準備をしないといけない。

 シュンと尻尾を垂らして落ち込むレスミアの手を引き、その場から離れる。小走りに皆と合流しに向かう。


「すみません。折角、作って貰った剣を壊してしまいました……」

「気にするなって、材料があれば作り直せるから。取り敢えず、俺のウルフテイルを使ってくれ」


 ストレージから予備を取り出して渡しておく。そして、俺も準備を始めた。マナポーションを2本飲み、喉に引っかかるのをポーションで流し込んだ。槍の先に魔方陣を出し〈プラズマブラスト〉を充填していると、槍が少し重くなった。〈ムスクルス〉の攻撃力アップの強化(バフ)が切れたのだろう。

 筋力バフの追加を頼もうとしたが、フノー司祭はオルテゴさんのバフの掛け直しで忙しそう。


 ポーチに入れてあったエンチャントストーン(筋力値)を使ってみる事にした。赤い四角柱を持ち魔力を流すと石が崩れ去り、一瞬だけ身体が赤いベールに包まれる。

 うん、槍が少し軽く感じられる様になった。体感では攻撃力アップの奇跡と似ているな。


 準備を進めていると、地鳴りが聞こえ始めた。そして、それは地面の揺れに変わる。

 それに驚いたレスミアが、俺の腕にしがみついてきた。


「きゃあっ?! 地面が揺れてる?!」

 プラズマランスを杖代わりにして揺れに耐えながら、全員に聞こえるように大声を上げた。


「本体の球根が出てくるぞ! 」



 揺れが酷くなってきた時、広場の地面の下から何かが飛び出してきた。それもアネモネのいた場所の周囲を広く囲むように何本も。土砂を巻き上げながら太く長い大木が起立する……いや、根っこか?


 太い根が外側に曲がり地面に着くと、踏ん張るように力を入れる。その中央から巨大な球根が土砂を吹き飛ばし、持ち上がった。

 その姿は巨大なカボチャだった。蜘蛛の脚の様に、外側の根っこを地面に付いて自立している。いや、真下にも地下に向かって沢山のヒゲ根が生えているので、蜘蛛のように俊敏には動かないだろうけど。


 そんなカボチャが動き出す前に、充填が完了している槍を向け、先制の一撃を放つ。


「〈プラズマブラスト〉!」


 魔方陣から放たれた極太のレーザーは、紫電を纏いながら直進し、太い根を1本巻き込みながらカボチャに直撃した。



 閃光が収まると、少しだけ()()()カボチャが姿を表した。巻き込まれた筈の太い根も、当たった部分だけ焦げているが健在だ。


「弱点の雷でも効かないのか?!」


 雪女アルラウネには絶大な効果があったのに……慌てて特殊アビリティ設定を変更し、〈詳細鑑定〉を掛けた。



【魔物、幻獣】【名称:娘樹精花(こじゅせいか)アネモネバルブ】【Lv32】

・アルラウネの球根。蓄えたマナで人型の花を咲かせる。本体が受けるダメージは花の方に転化出来るため、実質無敵状態。先ずは花を倒そう。主に根を触手のように操り、木属性魔法を多用する。

 ※※※を取り込んでいるため、各種木属性魔法を複数同時に操れる程に強化された。周囲に植物を生やす事が出来、それを自身で吸収して傷を癒し、根を増やす。

・属性:木

・耐属性:雷

・弱点属性:氷

【ドロップ:アネモネの球根】【レアドロップ:モスアゲート、※※※】



 バルブ? 名前が変わっているというか、別物じゃないか!!!

 弱点が変わるとか予想外過ぎだ。しかも、焦げただけとか被害がやけに少ないと思えば、雷が対属性になり、ダメージが半減されたせいか。

 切り札だったプラズマランスが紙屑(ブタ)に成り下がってしまった。どうする?氷属性なんて、当てがない。一時撤退も視野に入れるか? いや、その間に雪女アルラウネが復活したら、次は凍結を防ぐ手段が無い。



 カボチャ野郎が動き出す。俺の方に向き直り、()()()()()。胴体がギザギザに割れたかと思えば、上下に開いていく。そして目の様な位置に亀裂が2箇所開いた。

 それはまるで、ハロウィンで見かけたカボチャの……ジャック・オー・ランタンだった。


 開いた口の中には多数の小さい魔方陣が、既に完成している。その奥の黄緑色の光が瞬き、魔法が発動する。咄嗟に動けるように身構えたが、杞憂で済んだ。俺とジャック・オー・ランタンの中間点くらいに、蔦が絡まって出来た様な壁が地面から生えるようにせり上がってくるのが見えた。それも、魔方陣の数だけ多重に。


 その様子にデジャブを感じた。首を捻り記憶を探る……あれだ! 聖剣の試し切りした時、ノートヘルム伯爵が使った〈ストーンウォール〉。その木属性版に違いない。

 あれ? 登場して始めにやる事が壁作り? 一度に多数の魔法を操れるのに……もしかして、花を散らされて、開幕で〈プラズマブラスト〉食らって怖気付いている?


 なんか、撤退を考えるほど気弱に成りかけていたが、それは相手も同じだったらしい。カボチャのお化けを怖がるとか、まるで子供だ。カボチャ改めジャック・オー・ランタン……それなら、ランタンらしく火を付けてやろうじゃないか!!


 弱気な心に叱咤を入れ、気合いを入れ直した。



 蔦の壁でジャック・オー・ランタンは半分以上隠れて見えない。それは相手も同じ事。この場に居るパーティーメンバーに鑑定結果を話しながら、特殊アビリティ設定を設定し直す。

 鎧を着脱している暇は無いのでミスリルフルプレート(10p)、氷属性の光剣を使う為の聖剣クラウソラス(20p)、外せないストレージ(5p)。アビリティポイントの上限は40pなので、残り5pしか余らねぇ……

 少し迷ったが、保険の〈緊急換装〉2枠で3p、HP管理用の〈パーティー状態表示〉で1p、追加スキル1枠〈フレイムシールド〉で1p。


 複数ジョブに割り振るポイントさえ足りなくなるとは……ジョブが1つだけとか、いつ以来だ?ステータス補正は、村の英雄のお陰で普段とあまり変わらないので、いつも通りに動けるけど。



「〈フレイムシールド〉! レスミア、先ずは根っこを燃やして、引きずり下ろすぞ!」

「さっき、オルテゴさんがやっていた戦法ですね。任せて下さい! 範囲魔法でもなければ、避けるのも簡単ですしね!」


「ザックス、俺にも〈フレイムシールド〉をくれ。メイスで殴るより、そっちの方が良さそうだからな。

 ここまで来たんだ、あのデカブツを倒して村を救うぞ!」

「了解! ただ、同士討ちには注意して下さい。具体的に言うと、お互い2m以上離れて戦いましょう」


 フノー司祭にも〈フレイムシールド〉を張り、ジャック・オー・ランタンの元へ向かった。途中に作られた蔦の壁は迂回して進むと、巨大なカボチャ+蜘蛛の脚のような太い根が見える。アネモネも大きかったが、本体はその数倍はありそうだ。向こうもこちらに気付いたのか身をよじり、口を開く。ギザギザの口の中に5個の魔方陣、それらが一斉に光り、何かが射出された。


「〈カバーシールド〉!」


 少し後ろを走っていたオルテゴさんが滑るように躍り出ると、飛んで来た細長い物が、俺達の周囲に降り注ぐ。

 しかし、距離があったのと直線に飛んで来ただけなので、その軌道を見切る事が出来た。軽く横にステップを踏んで回避する。伊達にダンジョン攻略に明け暮れていた訳じゃない。

 そんな中、オルテゴさんだけは躱さずに大楯を構えていた。飛んで来た物は〈フレイムシールド〉を貫通して、大楯に着弾する。難なく受け止めたと思いきや、


「うおっ! 何だこりゃ?!」


 着弾したのは蔦が絡み合った棒……いや、ランク4魔法のジャベリンか!? それも木属性!

 それが着弾点から解け、大楯に絡み付くように蔦を伸ばしていた。ジャベリンで貫通して、倒せなくても蔦で拘束するのか。流石、中級属性。雷(麻痺)や氷(凍結)と同じく、動きを阻害する追加効果があるとは……

 幸いだったのは、すぐ前に〈フレイムシールド〉が張られている事だ。追い越すついでに声を掛けておく。


「大楯を前に突き出して〈フレイムシールド〉で蔦を焼き切って下さい!」

「つっ、それがあったか!先に行け、直ぐに追いつく!」


 その声を背に受け、前進した。


 2発目のジャベリンを躱し、ジャック・オー・ランタンを支える大木のような根に辿り着く。本体は5m程の高さにあり、届きそうにないので、先ずは支えている根を切り倒しにかかった。

 しかし、聖剣切り裂いても〈ブレイブスラッシュ〉で両断しても、断面が直ぐにくっ付いてしまう程に再生力が高い。結局、〈フレイムシールド〉3枚で燃やす事にした。理由は分からないが、切断面を焼き潰す事で再生しなかったからだ。〈フレイムシールド〉をめり込ませるように押し付けると、そこを起点に火が徐々に上に燃え広がっていく。


 3人が根を囲んで燃やしていると、それを嫌がっているのかジャック・オー・ランタンの下部から伸びるヒゲ根が襲って来た。それを俺は、聖剣と白の光剣を振るって迎撃している。3人は動けないし、弱点の氷属性の光剣も使えば、手数2倍で楽に伐採出来るからな。ただ、こちらのヒゲ根も切っても、切っても伸びてくる。切り落としたのは再生しないし、分裂もしないので気分的には楽だ。


 光剣を根元近くに飛ばして斬撃指示すれば、伸びてくるまで休憩時間にもなる。上を見上げてジャック・オー・ランタンを見ると、角度的に口の中の魔方陣は確認できないが、光っている。燃やし始めてからジャベリンも飛んで来ないのが不穏だ。コイツは魔法を充填する時は口を閉じるようなので、高ランクの魔法を充填している訳ではなさそうだが……


「ザックス様、ここは十分に燃えました! 次に移ります!」

 後ろから聞こえた声に手を振って応え、ヒゲ根の伐採をしながら次へ移った。


 2本目を燃やしている途中、左右から大きな音が響く。ヒゲ根を大きく伐採してから音のした方を見渡すと、燃やしていた1本目の根が根元から切れて落ちていた。地面に落ちた根の8割ほどが火に包まれている。本体にまで火が届きそうになったから、切り離したのか? パージと言うとロボっぽいけど、魔物だからそれくらい出来るのだろう。


 更に反対側は、もっと分からない状況だった。こちらも根元から切れて地面に根が落ちているが、何故落ちたのかが分からない。

 その答えは、隣の根の近くで矢を射っているローガンさんだった。その矢が最後だったのか、打ち終えた後に、こちらへ走って来る。


「ザックス殿! 毒矢の在庫はありませんか!」


 なんでも、雪女アルラウネには鉄の矢が効かなかったので、フルナさんの所に爆炎ボム改を補給しに行ったついでに毒矢に入れ替えて来たそうだ。そして、毒矢の方を試してみると、刺さったうえ出血毒が効いたのか樹液が溢れ出した。なるべく上の方に5本、撃ち込んでみると、根元から切れて落ちて来たらしい。


「毒が効くなら好都合ですね。〈フレイムシールド〉で燃やすのと並行して、根を落として本体を……そう言えば、上の本体に直接毒矢を撃ち込んでみては?」


 ストレージから残りの在庫、20本を渡しながら聞いてみたが、首を振られた。


「既に打ってみたが、刺さらなかったんじゃ。カボチャみたいな形をしとるからの、かなり硬いのかもしれんぞ」


 俺も手隙の時に、白の光剣を射出して本体を攻撃してみたが、直ぐに傷が塞がってしまったので、それ以降は攻撃していない。切断面を焼き潰す以外にも、毒を使う方が効くか?

 弱点が光剣以外無いので、決定打に欠ける。色々試してみるしかない。




 8本目の根が燃え上がっている。ジャック・オー・ランタンを支える根の内、既に半分以上無くなり、徐々に高度も下がって来た。魔物といえど、あの高さから墜落するのは嫌なのだろう。燃えている根を支えに、本体に燃え移る前に地面に軟着陸した。


 その直後、ギザギザの口が開き多数の魔法陣が光を放つ。すると、雪の積もった地面の下から、草が生えだした。それも、下草のような雑草だけでなく、細い木が生え、ぐんぐんと成長し太い木へ変わっていく。


 ジャック・オー・ランタンの周囲の雪原が、21層本来の森へと復活していった。

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