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第150話、雷砲輝いて

「この雑草がぁ! 大人しく伐採されていろ!!」


 オルテゴさんの〈ヘイトリアクション〉で、 蔦の攻撃が集中する。雪女の残骸から生まれた太く長い氷の蔦だけでなく、周囲には切り落とした蔦からも再生して数が増えていた。

 太い蔦を1m未満で切った筈なのに、細長い蔦として再生してしまったのだ。どうやら、再生するかどうかの基準は長さではなく、質量だったようだ。

 ただ、残骸から生まれた2本は手強く、太い蔦を短く切り刻むのは難しい。切れる隙に切り落とし、細長く再生してから倒した方が楽であった。


 オルテゴさんは大きな盾で耐えているが、蔦の数が増えると受け止めてきれない攻撃も出てくる。HPバーが徐々に削られている。そんな時、横合いから光が見えた。


「〈ホーリーシールド〉!」


 オルテゴさんの体が一瞬だけヴェールに包まれる。防御力アップの奇跡だ。次いで、俺も充填していた魔法を、オルテゴさんを指定して発動する。


「〈フレイムシールド〉!」


 オルテゴさんの前方に、燃え盛る炎の盾が現れる。非実態なので、攻撃を受け止める事は出来ないが、〈ヘイトリアクション〉で集めた攻撃を〈ホーリーシールド〉で強化した盾で受け止め、〈フレイムシールド〉で焼く。手数が足りないなら、自動反撃で燃やしてやろうじゃないか。



 細い蔦は次々と燃えていき数を減らしていく。後は太い蔦を適当に刻んでいくだけだったが、そこに吹雪の魔法が叩き込まれた。火属性の〈フレイムシールド〉があれば、魔法の着弾も誘導出来る。

 誤算だったのは、俺とフノー司祭が毛皮のマントを無くした事だ。雪少女が魔法を放つ前に、効果範囲から逃げなくてはならない。更に、吹雪の魔法で〈フレイムシールド〉が掻き消されるのも予想外だ。〈フレイムシールド〉を張り直し、フノー司祭の〈ヒール〉でオルテゴさんを回復させ、戦い続けた。



 太い蔦を倒し切り、ようやく雪少女と直接戦闘に入る……前に、また予想外の事が起きた。

 雪少女が腕を振ると、アネモネの外側の黒い花弁が3枚外れて飛んで来る。空中で太い蔦3本に姿を変えて、再度俺達に立ち塞がった。アネモネの花は巨大なだけあって、花弁の数も多い。流石に切りがないと考えかけたが、フノー司祭の発破が掛かった。


「どれだけ蔦を出しても、対処法は同じだ! 花占いの様に毟ってやるぞ!」

「おう!!」「了解!」




 魔方陣を掲げた雪少女の真上で爆発が起き、巨大なアネモネごと炎に巻かれた。雪少女は堪らず魔法を中断して、自身の身体やアネモネの火を消していく。

 弓矢で援護してくれていたローガンさんだったが、最初の3本以外は尽く弾かれていた。普通の矢では雪少女どころかアネモネの花弁にも刺さらないので、その後は爆炎ボム改での援護に切り替えている。ただ、残弾は少なかった。丘の上からローガンさんの声が途切れ途切れに聞こえる。


「玉切れじゃ……フル……補充に……」


 援護は無くなったが、花弁から変化した太い蔦は倒せた。既に8枚花弁が無くなり外周部が空になった。後は内側の小さめの花弁のみ。

 小さめの花弁から変化した蔦は、その分細い。さっさと障害になる氷の蔦を排除しようと光剣と聖剣を振るっていたが、蔦の向こうで雪少女がお腹を撫でるのが見えた。


 その様子を訝しんで見ていると、失った外側の花弁が生え、爆炎ボム改の炎で損傷した所も治っていく。振り出しに戻った?……いや、雪少女が更に幼くなっている。最初は女子大生くらいから、高校生、そして今は中学生サイズか?


 オルテゴさんに〈フレイムシールド〉を張り直してから、〈カームネス〉を発動する。剣を振るい、光剣を操作し、次の魔方陣に充填しながら違和感を考える。


『上の花が倒されると、本体が姿を現す』鑑定文にあった内容だけど、上の部分を雪女の事と捉えていたが、実は違うのではないか?

 お腹を触り、花の損傷を治す度に雪女が幼くなっている。つまり雪女=補修用の貯蓄タンク、人間で言うところの脂肪? 胸とか脂肪の塊とか言うし、実際巨乳がちっぱいに萎んでしまった。

 そうなると『上の花』って文字通りアネモネの花の部分か?


 思考がまとまり掛けた時、雪少女が魔方陣を掲げた。不味いキャンセルしないと……左手のワンドを向け充填待機させていた魔法を発動させた。


「〈フレイムスロワー〉!」


 巨大なアネモネの花を丸ごと、地面からの火炎放射が襲う。しかし、その炎は花の裏側から花弁を焦がすだけで、雪少女には届いていない。掲げられた魔方陣が白く光った。


 くそっ! 延焼していないから、中断しない!

 〈フレイムシールド〉の近くにいたので、咄嗟に離れるように飛び退いた。着弾点が分かっていて、効果範囲は半径にして2.5m。全力で逃げれば、範囲外に出られる。


 しかし、飛び退いた先で猛吹雪に包まれた。〈フレイムシールド〉じゃなくて、俺が狙われた?!


 顔をスモールレザーシールドで隠しながら、蹲み込んで表面積を小さくする。昨日とは違い、ヴァルムドリンクのお陰で身体が冷える事はない。ただ、毛皮のマントが無いため、装備品ごと氷漬けになるだけだ……不味い。

 〈フレイムシールド〉と〈ヘイトリアクション〉で攻撃を受け止め、3人がかりでなんとか押していたのに、俺が復帰するまで持つか?

 光剣はオートで戦ってくれるが、無闇に蔦を切ると分裂して数が増えてしまう。そのため、負担ではあるがカーソルを動かして直接操っていたのに……オートではむしろ足を引っ張る可能性もあった。


 身体に当たる雪と風が消えたのが分かる。それに体の各部が凍り付いて動けない事も。

 唯一、顔は隠していたので、口は動く。魔力を込め、切り札を切った。


「〈緊急換装〉!」


 その瞬間、凍り付いた硬革装備が消え、金属鎧に置き換わる。身体に自由が戻り、立ち上がって軽く腕を動かしてみた。フルフェイスの兜なため、視界がちょっとだけ狭くなるが問題無い。ミスリルフルプレートは一式着ても、その特性のお陰で軽く動きやすい。

 万が一にと考えた〈緊急換装〉、特殊武具なら自動で着替えさせてくれるのを利用した装備交換だ。氷漬けになった装備品はストレージに格納されている。



【武具】【名称:ミスリルフルプレート】【レア度:B】

・軽くて魔力伝達率が良い金属、ミスリルで作られた全身鎧。関節部の内側にはミスリルチェインなどが使われ、動きやすさも両立している。更に、着用者の体型にサイズが自動調整される。また、足裏には〈接地維持〉が付与されており、どんな悪路でも足を滑らすことなく踏み締めることが出来る。

 ミスリル武具の特徴として、魔力を通していると魔力で鎧全体が保護され、抗魔力状態となり魔法攻撃のダメージを和らげる。

・付与スキル〈堅固〉〈接地維持〉〈緑閃光の揃え〉



 そして、同じく特殊武器のプラズマランスを携えて、戦線に復帰した。


 ランスと名が付いているだけあって長く、その切っ先は大剣の様に幅広な刃が付いている。魔力を流すと、柄に並ぶ宝石から中央の宝珠、そして刃の装飾へ光が延び、雷を纏った。

 ミスリル合金で軽量化されていると言っても、2.5mはある大きさで総金属製、重くない訳がない。片手で振り回すのはどう考えても無理、両手でなんとか扱えるか……


 ただ、グネグネ動く氷の蔦は、槍の突きでは捕らえ難い。刃は付いているので、振り回せば斬撃も出来るが、重さがネックになる。


「フノー司祭! 筋力アップの強化下さい!」

「おお、待ってろ!

 夜の神にして戦の神よ、我が祈りを聞き届けたまえ、魔を祓う力を彼ものに……〈ムスクルス〉!」


 事前の打ち合わせ通り、攻撃力アップの奇跡で補う。プラズマランスが少し軽くなり、振り回しやすくなる。大振りに振るうと、雷を纏った刃は易々と蔦を断ち切った。

 まぁ、聖剣クラウソラスでも楽に切っていたし、光剣が無くなった分だけ殲滅力は落ちているが。


 それでも、このセットを切り札にしていたのは、付与されたスキルにあった。


「あんちゃん、不味いぞ! また、あのデカい魔方陣だ!」


 その声に雪少女に目を向けると、大きな魔方陣を掲げていた。毛皮のマントを粉々にした魔法だ!

 ミスリルフルプレートだから大丈夫なんて保証は無い。もっと蔦を減らしてから使いたかったが……一瞬だけ葛藤したが、槍の穂先に魔方陣を出し充填を開始した。


 魔方陣はかなり大きく、ランク3範囲魔法の倍以上の大きさだ。その分だけ魔力を大量に注ぎ込まなくてはならない。〈緊急換装〉でセットしている〈充填短縮〉の効果があっても、時間が掛かる。


 雪少女の掲げる魔方陣も大きく、完成速度も同じくらい。

 しかし、雪少女が右を上げて充填しながら、左手を振るい花弁を振りまき始めた。氷の蔦が次々と増え、雪少女の姿を隠す様に防壁と化す。


 それを見た時、昨日の事が脳裏をよぎる。光剣4本を射出して暴れさせても、多重に組まれた蔦の防壁を突破する事は出来なかった。

 今充填している魔法でも、突破出来ないかも……その考えに冷や汗が流れた。


「蔦の防壁を削ります! 援護を頼む!」


 返事は聞かずに吶喊(とっかん)する。

 槍の付与スキルのお陰か、身体が軽い。フルプレートメイルを着ているとは思えないほどの速度で駆け抜ける。そして、先端に魔方陣がくっ付いたまま、充填をしながら、蔦の防壁を槍で薙ぎ払った。


 スキルではないけど、フルスイングをして、纏めて数本を両断する。槍の重さと長さに、振り回されそうになりながらも、ミスリルブーツの接地力で踏み止まる。その間にも切った蔦が分裂して数が増えた。ただ、短く細くはなっている。槍を構え直して、もう一閃、薙ぎ払った。


 ようやく1列目を伐採するが、防壁は3重、4重へと厚みを増している。細い蔦が鞭のように振るわれ、ミスリルフルプレートに当たるが、対して痛くもない。蔦の攻撃は無視して槍を振るい続けた。


「どっっせぇぇぇい!!」

 気合いの入った声と共に、オルテゴさんが大楯と〈フレイムシールドを構えて体当たりを掛けた。大楯の体当たりは蔦に受け止められていたが、〈フレイムシールド〉は蔦の防壁の内側に入り込み、中から燃やしていた。


 その手があったか!

 蔦の防壁の様に密集しているからこその戦法だ。


「〈ヒールサークル〉! お前ら無茶し過ぎだ!」


 後ろからフノー司祭の回復の奇跡と、お叱りの声が飛んできた。しかし、そのフノー司祭も一緒に蔦の防壁を破壊し始める。

 更に防壁の奥、雪少女の上で爆発音が響き、炎が撒き散らされた。レスミアかローガンさんの爆炎ボム改の援護だ。


 皆の援護を受けながら、蔦の防壁を破壊していく。そして、魔方陣の充填が完了すると同時に、全力で槍を突き出した。その一撃は正面の蔦1本分だけ、防壁を貫通する。蔦が倒れた先の雪少女と目が合う。驚愕に歪む顔の上、向こうの魔方陣はギリギリ完成していない。

 雪少女が手を振って、花弁を飛ばそうとするが、もう遅い。


「〈プラズマブラスト〉!!!」


 槍の穂先の魔方陣から、閃光が走る。身の丈以上の極太レーザーがアネモネと雪少女を丸ごと飲み込んでいった。



【武具】【名称:プラズマランス】【レア度:A】

・アダマンタイトとミスリルの合金から作られた馬上槍。各金属特有の特徴は失ったが、硬度と軽量化、魔力伝達率が両立している。柄には多数のアメジストが絢爛な意匠と共に埋め込まれ、槍自体が雷属性と備えている。更に、魔力を通すことで穂先が帯電して、敵を麻痺させることが出来る。また、〈プラズマブラスト〉による遠距離攻撃も可能。

・付与スキル〈黒雷〉〈雷精霊の加護〉〈電光石火〉〈プラズマブラスト〉



 光が収まると、前面が黒こげになったアネモネの花と、両腕を失くしボロボロになった雪少女が目に入った。

 倒したか?

 ……いや、撫でていたお腹が光っている!また再生する前にとどめを刺さなければ!


 蔦の防壁も槍の付近は、余波で消し飛んでいる。焼け焦げた地面を走り、アネモネの花に近寄った。前面の花弁が焼け落ちた事により、初めて地面に繋がっている太い茎が見えていた。


「〈ブレイブスラッシュ〉!」


 光輝く槍の一閃が、地面スレスレのところで茎を切断した。アネモネの花を支える物がなくなり、横倒しに倒れる。

 その時だ。

 いつの間にか接近していたレスミアが、両手を交差するように構え、〈不意打ち〉を仕掛ける。右手のウルフテイルと左手のホーンソード、その二つが雪少女の光る腹を挟み込む様に切り裂き両断した。

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