第129話、調査メンバーで、初めての6人パーティー
朝一でダンジョンギルドを訪れると、村長とフノー司祭が待ち構えていた。
「お早うさん。 やっぱり、そちらから来てくれたか。
ホラ、呼びに行かんでもよかったろ?」
フノー司祭は笑って村長に顔を向けると、当の村長はこめかみを手で押さえてしまう。
「依頼をお願いするのに、誠意くらいは見せるべきだというのに……
ザックス殿、依頼を前向きに考えて下さり、ありがとうございます。昨日、ムッツが持って来てくれた話がなかったら、儂らはどうなっていた事か。首の皮一枚で繋がった気持ちです」
「俺もレスミアも村にはお世話になっていますから、微力ながら手伝いますよ」
「ありがとうございます。
そうそう、今朝レスミアから聞きました。ザックス殿が村を出る際に付いて行きたいそうで。私としては、問題はありませんよ。レスミア本人と見習い仕事の契約をしたので、解約するのも簡単です。
まぁ、彼女の実家には手紙なり、顔を見せた方が良いでしょう」
隣のレスミアを見ると、ニコリと笑う。既に根回し済みとか、早いな。
因みに、今日は調査でダンジョンに入るだろうと予想して、午前中もレスミアが同行している。掃除洗濯は〈ライトクリーニング〉で綺麗になるし、料理は昨日の余りやストレージにストックが大量にあるから、数日くらいは大丈夫との事だ。
フノー司祭の作成した依頼書を確認した。
『ダンジョン21層以降の調査員の護衛。期限は騎士団が村に到着するまで。調査結果は同行する村の人員が確認する。報酬は金貨1枚』
俺が要求した事は盛り込まれているな。報酬は100万円……レスミアと山分けして50万。最近は1日で20万弱稼いでいるから、3日以上掛かると赤字か? いや、流石に強欲か。
「護衛依頼中のドロップ品や採取物の扱いはどうなりますか?」
「ギルドで全て買い取り、総額をパーティーメンバーで山分けだな。素材が欲しい場合は、買い取り金額と同額で売ってやるよ」
本来、ギルドから買い戻す事は出来ない。正規の値段で買うしかないが、今回はギルド長のフノー司祭がパーティーに入るから特例(内緒とも言う)だそうだ。
レスミアにも確認してもらってから署名し、依頼を受注した。
「同行者の件はどうなりましたか? フノー司祭はその格好なのでメンバーなんでしょうけど」
今日のフノー司祭は神官服ではなく、俺の物とは違う硬革製の装備を身に付けている。それも胸前や腕などは金属板で補強されているようで、防御力も高そう。腰の後ろには、以前見せてもらったバトルメイスが頭を覗かせていた。
「なかなか難儀したが、4人揃えたぞ。お前さん達に加えてフルパーティーなら、戦力的にも問題ないだろ!」
後3人は誰かと聞こうとした時、雑貨屋との扉が開いた。入って来たのはムッツさんとフルナさん夫妻。ムッツさんは旅装という感じで、フルナさんは……着飾っている?
ロングブーツに膝丈の刺繍入りスカート、胸元が空いたフリル付きのブラウスを着ていて、街に買い物やデートに行けそうな服だ。唯一、不釣り合いに見えるのは、右手に持った黒い金属製の杖……いや、でっかいマドラーか? 先端がスプーンの様な形状をしていて、地面からフルナさんの首くらいまでの長さがある。
そして、フルナさん自身は不満気な顔をしていた。俺達と挨拶してから、フノー司祭に不満をぶつけている。
「もう、何で私がメンバーに入るのよ! 子供産んでからは、低層にしか入ってないのに。お陰で昔の装備を引っ張りだす羽目になったじゃない」
「魔法を使えるのと、ドロップ品や採取物の鑑定や目利きが出来るからって昨日も言っただろ。素材だけ買い取りたいとか、虫のいい事言ってないで、自分で取りに行けばいいんだよ」
2人がバチバチと言い合っていたが、レスミアが仲裁に入った。
「まぁまぁ、私はフルナさんが一緒で嬉しいですよ。それに、その装備品可愛いですよね! 私もいつか、そういう装備が欲しいです」
「あら、ありがと。これは結婚前に着ていた装備でね。旦那を釣った装備でもあるの。
ただ、久々に着たからスカートが入らなくて焦ったわ」
女性同士でおしゃべり始めたので、レスミアに任せておけばいいか。
ムッツさんもメンバーなのかと聞いてみたが、首を振られた。
「商人がダンジョンで役に立つとでも思っているのかい?
僕は騎士団への連絡係さ。元々街とフルナの実家に商品を卸しに行く予定だったしね。
それじゃあ、フノー、ザックス君、ダンジョンではフルナの事頼んだよ」
ムッツさんが出入り口に向かうと、フルナさんが呼び止めて抱擁した。身長差があるので、胸の谷間に顔を埋めているのが、ちょっとだけ羨ましい。なんて見ていたら、脇腹を小突かれた。いつの間にか隣に来ていたレスミアに、腕を引かれて回れ右。あ、ハイ。ジロジロ見るのは駄目ですよね。
ムッツさんが出発していくと、入れ替わりにオルテゴさんが入って来た。左手に金属製の大楯を持っている。下側が尖っているからカイトシールドと言ったか。その他の装備は俺と同じ硬革製だった。まぁ村の最強装備だしね。
「オルテゴには山や森を歩くのが得意だから、メンバーに入ってもらったんだ。現役を引退してずいぶん経つが、レベルはそこそこで臨時の盾役には十分だろ。
難点として、いつコシを痛めるかわからんが……まぁ、その時は俺が〈ヒール〉して、無理矢理動かすさ」
「ハッハッハ!そればっかりはどうしようもねぇな!
現役の頃の金属鎧じゃないから大丈夫だろ。息子の革鎧を借りてきたが、こっちはこっちで軽過ぎていかんな!
おっと、あんちゃん! これ、うちの母ちゃんからの差し入れだ。昼飯に食べようぜ」
豪快に笑う姿は、カイトシールドと相まって心強く見えた。
大きな弁当箱を受け取りストレージにしまっていると、後ろの扉が再度開き、最後の1人がやって来た。
顔を青くした、白髪混じりの初老の男性だ。硬革装備に弓を肩に掛けている。
昨日の会議で「(誰も)おらん」と呟いた事で、よく覚えていた。彼は俺の元にまで来て頭を下げて言う。
「ザックス殿、我々の不始末の対処に協力してくれて、ありがとう。本来なら、儂の様な年寄りよりも、現役の孫を寄越した方がいいんじゃろうが……」
「ローガン、お前の孫は戦士なうえ、レベル15しかないから選考外だ。
それに、〈オートマッピング〉が使えるトレジャーハンターのお前は、地図係として最初からメンバー入りだ。自警団の団長ならケジメを取ってみせろ!」
やはり自警団長だった。なんか覇気の無い人だけど、団長が務まるのだろうか?そんな疑問が浮かぶが、肉狩り勢しか居ないゆる自警団じゃなあ。
フノー司祭が周囲を見回し、全員揃った事を確認してから話し始めた。
「この6人でパーティーを組んで調査を行う。リーダーは、恐らく1番強いザックスに頼みたいが、どうだろう?」
「ハイ! 私とザックス様は護衛役です。今も音頭を取っているフノー司祭がリーダーでいいんじゃないですか? 少なくともフィールド階層が初めての私達より経験豊富ですし」
レスミアが元気良く手を挙げて発言する。パーティーを組む際に、リーダーは簡易ステータスを皆に見せないといけないので、それを避けるためだ。
種族、転生者の事は、フノー司祭に知られているが、他の人にまで見せる必要は無いとレスミアに注意され、なるべく隠す事にした。その為、事前にレスミアとはパーティーを解散済し、小芝居の内容も決めている。
「俺もフノー司祭の方が良いと思います。騎士団に報告する際に、村主導という事が分かった方が良いでしょう?」
「俺もリーダーは、やった事が無いんだがなぁ。ただ、村主導と言うのは最もだ。
他にリーダーをやりたい奴はいるか? 居ないなら俺になるぞ」
残りの面々から立候補が居るわけもなく、フノー司祭がリーダーに決定した。それから、順にフノー司祭の出した簡易ステータスを触ってパーティーを組む。
【人族】【名称:フノー、36歳】【基礎Lv32、司祭Lv32】
・パーティー:オルテゴ、フルナ、レスミア 【追加】
・ボス討伐証:AL372 20層⚫️、SL342 30層⚫️
【追加】を押すと、俺の視界にパーティーメンバーの名前とHPMPバーが表示された。特殊アビリティ設定の〈パーティー状態表示〉の効果だ。リーダーでなくとも、表示されるのか……最後のローガンさんの表示が追加されると、縦に6人分のゲージが並んだ。
今まではレスミアと2人で気にならなかったけど、積み上がると邪魔だな。数秒間睨むと言うか注目していると、表示箇所を掴んで移動させる事は出来る。ただ、大きさが問題なのであって、場所じゃないんだよなぁ。
コンフィグとかないのかと悩んでいたら、掴んでいた表示が小さくなった。その後も何段階かにサイズが変わり、1番小さいのはイニシャルのアイコンだけのシンプルな物になる。丸いアイコンの上の半円がHP、下の半円がMPゲージを表している様だった。
視界の邪魔にならないのでこれにしよう。視界の左下に再配置していたら、声が掛けられた。
「ザックス、なんか難しい顔をしているが、何か問題があるのか?」
「いえ、ただの考え事ですよ。続けて下さい」
「まあ良い。
今回は21層から調査し、魔物を倒しつつ、素材も回収して行く。フィールド階層だから、採取場所もかなりの数になると思うが、それも地図に記録したい。ローガン、頼んだぞ」
「〈オートマッピング〉では地形と、階段しか記録されん。普通の〈マッピング〉の方で採取場所を覚えていられるはずじゃが、試した事が無いでのう。出来れば、小まめに地図に起こしたいな」
〈オートマッピング〉という単語が気になるが、我慢、我慢。トレジャーハンターはスカウト系のセカンドジョブなので、然程時間は掛からずに到達するから。
「森を歩くなら、小休止は多めに取った方がいいな。
そして、階段を見つけた場合は先に進む。先に何層まで増えたのか確認したいからな。その上で、騎士団が来るまでに時間があれば、残りの地図埋めをする」
その後、各自の自己紹介とパーティーでの役割を話し合った。最終的には下記の通り。
・フノー司祭:僧侶レベル32、基本は前衛で戦い、必要な時に各種回復やバフ。
・フルナ:錬金術師レベル28、〈初級属性ランク1魔法〉、採取物の鑑定と目利き。
・オルテゴ:重戦士レベル25、前衛で盾役〈ヘイトリアクション〉で魔物引き寄せ、森歩きのアドバイス。
・ローガン:トレジャーハンターレベル13、地図係、弓矢での援護。
・レスミア:狩猫レベル21、〈猫耳感知〉の索敵と、〈不意打ち〉狙いの遊撃。
レスミアはスカウトだと、ローガンさんと被るので狩猫で自己紹介した。それで、俺の番になったのだけど……
「俺は戦士レベル20、魔法使いレベル20、スカウトレベル17、罠術師レベル21です。基本的に魔法を撃ち込んで数を減らしてから、槍で前衛しつつ、罠術スキルで拘束します」
レスミア以外のメンバーがざわめき立った。
あれ? フノー司祭やフルナさんは複数ジョブの事知っていたはずなのに、何か驚く事あったか?