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第113話、料理研究と新手の妖怪?

 名前に黒豚とか入っていると、美味そうに見えていかん。

 冷静になり改めて見ると、見た目も槍の先端に角が付いただけだ。なんて言うか、棒に刺さったタケノコのようでイマイチ……

 もっと角が大きければ馬上槍のランスのようにカッコよく……重くて持てないな。今でもちょっと重いのに。

 まあ、これ以上は魔物相手に使い勝手を試してから考えるか。



 昼食後、レスミアも家事がひと段落したので、午後はバフ料理を研究するそうだ。ついでに、以前から言っていた揚げ物もお願いしてみた。


「分厚いシュニッツェルみたいの、でしたっけ? 大量のラードを使うとか……」


「トンカツ以外の揚げ物も出来るぞ。衣を着けて野菜を揚げるとか、細切りの芋を揚げたフライドポテトとか、お菓子ならドーナッツとか」


「お菓子にも使えるなら、丁度良いかもですね。バフにも使えるかもしれません」


 しかし、レシピを聞かれても、お菓子系はサッパリ覚えていない。ドーナッツは家庭科の授業で作った記憶もあるけれど、細かい分量? お菓子は店で買うものだったから……

 取り敢えず、簡単そうなフライドポテトと、野菜の天ぷらを勧めてみた。



 早速、料理研究を始めるそうなので、手伝う事にした。揚げ物用の道具も無いので代用出来そうな物を探す。鍋は色々あるので、ちょっと深めの奴。油切りトレイの代わりに、パスタ湯切り用の金属製のザル。すくい網の代わりに、穴開きお玉。こんなところかな。


「ザックス様、ラードはどれくらい入れますか?」


 レスミアはラードの袋にハサミで切れ込みを入れてから、鍋に袋ごとポイポイ放り込んでいる。


 一瞬、あ! 袋のままじゃ……と、驚いてしまったが、ドロップ品だから問題無かった。鍋の中を覗き込むと、袋が霧散して白いラードだけが積み上がっている。なるほど、消失する袋ならではの使い方だな。


「鍋の半分くらいで、いいんじゃないか。あまり上まで入れると、油ハネするだろうし」


 鍋を火にかける前に、揚げるジャガイモや野菜の下拵えをしておく。切り方はフライドポテトの細切り以外にも、くし切り、薄切りに切って貰った。俺も皮剥きは手伝ったのだけど、包丁で薄く切るのは難しい。ピーラーが欲しいな。


 他の野菜も切っておいたが、人参や玉ねぎはかき揚げくらいしか思い浮かばないので細切りに。小麦粉に卵と水を混ぜた衣も作って、野菜を混ぜておいた(分量は適当)。


 後、ジャガイモは水にさらしておくと、ぬめりが取れて、変色もしないそうだ。知らなかった。


「ふふふ、ジャガイモ料理の基本ですよ~」

「……食べる専門だったからな」


「お貴族様じゃ、しょうがないですよね」と、軽く流された。そう言えば、元貴族としか言ってなかったな。ちょっと迷ったけど、転生者と暴露するタイミングじゃないな。また今度にしよう。



 鍋を熱し始めたが、鍋用の温度計など無い。ラードの香りがキッチンに広がる頃、天ぷら衣を数滴入れてみると、パチパチと音を立てて、浮かび上がってきた。


「そろそろ、いいと思う。ジャガイモから入れてみよう」


 トングで数本掴んでそっと、落とし込んだ。途端にシャーと、小気味よい音を立てて揚がり始める。猫耳をピンっと立てて驚いていたレスミアだったが、直ぐに我に返り、残りを投入した。


 数分後、ジャガイモが浮かんで来る。キツネ色に変わり切ったところで、穴開きお玉で引き上げ、金属製のザルに入れた。


「これで余分な油が落ちれば、完成かな」

「面白いですね! 次のくし切りジャガイモも入れましょう!」


 次々と揚げていき、最後のかき揚げは崩れないように、穴開きお玉でそっと油の中に入れる。それでも広がるように形が崩れてしまったが、なんとか揚げる事が出来た。


 味付けは、ピンクソルトをおろし金で削って振り掛けただけ。

 最初に揚げた物を味見で一口頂くと、カリっとした歯ごたえに、内側はホクホクで美味い。ラードで揚げたせいか、記憶にあるフライドポテトよりも旨味がある気がする。洋食の付け合わせを思い出して、くし切りポテトにケチャップを付けてみたが、酸味が合う。


「うわぁ、美味しいですね。特に、このパリパリするのが好きです!」

「うん、ポテトチップスは人気のお菓子だったね」


 でも、ポテトチップスだったら、コンソメが好きだったなぁ。アレ、どうやってフレーバーにしていたんだろう? 固形のコンソメもあったけど、スープを作ってから水分を飛ばすのか? フリーズドライとかインスタント食品ではよく聞くけど……



 ピコンッと脳裏にアイデアが浮かんだ。水分を飛ばすだけならアレがあるじゃないか!

 レスミアに一言断ってから、ストレージに預かっている大鍋を取り出し、白濁とした蟹のコンソメスープを1杯、スープ皿に移した。

 興味津々といった目で見られながら、スキルを発動させた。


「〈フォースドライング〉!」


 スープが一瞬で干上がり、皿には白っぽい粉末が出来上がった。指でひと舐めしてみると、蟹の風味とコンソメのような旨味が感じられる。これをポテトチップスに振りかけて、レスミアと一緒に味見した。


「美味しい! スープの旨味が詰まっているみたい!」

「うん、煮込んで水分を飛ばすのは大変だけど、スキルを使えば楽にフレーバーが作れるな」


「良いですね! スープが余ったら粉末にして調味料にすれば、料理の幅が広がりますよ。あ、蜘蛛の脚のスープから作った粉末なら、バフ効果もあるかも〈初級鑑定〉!」


 意気揚々とスキルを使ったレスミアだったが、カニコンソメチップスにはバフは付いていなかったようで、肩を落とした。


 そして、ポテト系が満足な結果になった反面、かき揚げはイマイチな出来だった。衣がボロボロと剥がれ落ち、衣自体もベチャッとしている。

 うろ覚えの記憶を、絞り出すように思い出そうとすると……料理漫画のネタにあったような。ビールをいれるのだったか? いや、マヨネーズだったっけ?


 そんな風に頭を悩ませていたら、肩を叩かれた。


「ザックス様、ありがとうございます。一通りの揚げ方は分かりました。後は私が試行錯誤しますから、ここまででいいですよ」


 両肩を押されて、リビングまで連れて行かれた。休みなのだし、手伝うと言ったのだが、


「駄目です~。もう十分手伝って貰いました。料理はメイドの仕事なのですから、後は任せて下さい。それに、失敗作を味見して貰うより、美味しい自信作を食べて欲しいですから。

 いつもダンジョンで頑張っているのですし、休日ならのんびりとしていて下さい」


 そのまま、リビングテーブルの椅子に座らされた。キッチンに戻って行く尻尾を眺めながら考える、のんびりと言われてもねぇ。連日ダンジョンで運動しているが、夜が暇でさっさと寝るため、睡眠時間はタップリ有るんだよな。お陰で疲れを持ち越す事は滅多にない。暇潰しが、報告書の作成とか、図鑑用の資料まとめとか、ストレージのフォルダ整理って時点でなぁ。


 レベル上げして新スキルを覚えるのが、一番のモチベーションな気がする。先程の〈フォースドライング〉も面白かったしな。


 ふと、外を見ると雨が上がっているのが見えた……そこでハッと気が付いた。


 レスミアに外に出ると伝えてから、玄関へ向かった。扉を開けると、曇天だが雨が止んだ空、それに泥濘(ぬかる)んだ地面が目に入る。要は水分過多なだけだ。地面に手をついて〈フォースドライング〉を使用した。


 すると、手をついた所から1m四方の水分が飛び、乾いた土に戻る。範囲はちょっと狭いけど、上手くいったな。玄関から乾いた地面に踏み入れ、その先の泥濘んだ地面に再度スキルを使う。こうすれば、泥濘んだ地面を歩く必要が無い。


 ただ、いちいち屈まなくてはならないし、手が泥だらけになるのは頂けないな。手を〈ウォーター〉で洗いながら考える。



 蜘蛛の巣解体や、錬金術の練習で魔力の扱いには慣れてきた。スキルを右手と左手で、交互に発動させる事は出来る。


 なら、足でも発動出来るんじゃないか?

 論より証拠、魔力を右足先に集めてみる。今までとは逆に上半身の魔力を下半身に流す。慣れている手と違い、少し時間は掛かったが、


「〈フォースドライング〉!」


 右足先を中心に、地面が乾いた状態になる。成功だ!

 続いて左足でも試す。その次は右足と、交互に使い続ければ、ゆっくりだけど歩きながら乾かせるな。

 そのまま、庭先を歩きまわりながら、足でスキルを使う練習をした。地面に手をつかなくていいなら、色々と絡め手に使えそうだからな。悪巧みを思い付いて、思わずニンマリとしてしまう。おっと、その為には練習しておかないと。



 庭先の泥濘みが足りなくなったので、村の広場への道を歩きながら、地面を乾かしていく。ついでに雑貨屋でも冷やかしに行くか。


 高台にある自宅から村の広場までは、他に民家も無いので人と出会わない。でも流石に村の中心となる広場は、雨上がりでも人通りがある。振り返ると、俺の歩いた場所だけ乾いている。新手の妖怪かな?

 〈フォースドライング〉と連呼して行くのは、ちょっと恥ずかしい。特殊スキルの〈無充填無詠唱〉をセットして、心の中で念じて発動して行くことにした。

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