かつてノストラダムスを信じた子供達は、しれっと大人になって
それでは、只今よりQ輔のエッセイが始まります。
あんたぁ! 知っとる?! もうすぐ氷河期がくる! 人類は火星に移住する!
ある朝、僕がスマートフォンをいじりながら、ゆっくりコーヒーを飲んでいると、妻が、いきなり血相を変えて、そう報告してきた。
へ~そいつは大変だ。
そう言って僕は、スマホの音声検索で、「OKグーグル! ここから一番近い、頭の病院!」
と検索しかけたのだけれど、よ~く話を聞くと、どうやら妻の頭がパーになった訳ではないらしい。
妻がレンタルした都市伝説を紹介するテレビ番組のDVDを観ていたら、何か知らんけど、そんな内容のことを放送していたらしい。
信じるか信じないかはあなた次第です。
と言ってますからねぇ、あの番組。
信じるのも自由。
信じないのも自由。
でしょ?
だから、妻をはじめ、ああいった番組に翻弄される多くの人達のことを、僕が、どうのこうの言うつもりは毛頭ありゃーせんが……。
あなた次第つってんだから……、
僕は、信じない。
理由?
んなこと信じて、暗~い顔して生きていたら、
今日が、楽しくない。
明日が、勿体ない。
未来に、申し訳ない。
僕は元来、自分の頭や心の調子を悪くするような情報は、真っ向から信じない性格なので、実は心の奥底では信じてはいるけど、表面上は信じないよう平常心を保っている、というような中途半端なレベルではないのよね。
うーん、あのタレントの、まるで催眠商法や悪徳商法の売人そっくりの語り口調が生理的にダメなのかなぁ。何かね~、微塵も信じられないのです、これっぱっちも、ダニほども。ポジティブシンキングもここまでくると、逆にネガなのでしょうか? 頭の病院へ行かなければならないのは、僕なのでしょうか?
今の若い子人たちは、ひょっとしてピンとこないかもしれないけど、僕が中高生の頃は「ノストラダムスの大予言」の大ブームでした。
1999年7月、空から恐怖の大王が来るだろう、うんぬんかんぬん。人類は滅亡するだろう、どうたらこうたら。
もうねぇ~、クラス中のみんなが信じてたよ。あと数年で自分は死ぬ! なんつって、馬鹿も秀才も番長もマドンナも。飽きれることに、教壇でぼやいてた教師がいたからね、「どぉ~せ死ぬんだしぃ~」なんつって。ったくトホホだよ。
もうね、今の都市伝説ブームなんて比じゃなかったね。日本中の老若男女の大半が、ノストラダムスに翻弄されながら生活していた。けっこーな社会現象だった。
え、僕?
信じる訳ねーじゃん。
ご想像の通り。
そういえば、中3の時かな。クラス中を敵まわして、大激論したことがあったな。
ノストラダムスなんて絶対に嘘! 人類は滅亡せん! 僕が命を懸けて断言する! 僕を信じてくれ!
どれだけ僕が力説してもダメだった。ノストラダムス信じない派は、僕一人。
クラス全員、目の前で「明るい未来」を力説する、現世を意気揚々と生きる僕より、ノストラダムスなんちゅう、会ったこともない数百年前に死に晒したどっかの爺さんの「絶望的な戯言」を信じるという。
「命懸けで断言つってさぁ~、君の意見が間違ってたって時は、地球上に誰も存在しないじゃんねぇ~」と秀才に揚げ足とられたりして。
なんかよぉー、みーんな、あと数年で死ぬ気なんだってよ! 夢も希望もないんだってよ! あは、あは、あははははは。……あーあだ、もう。
だからつって、自暴自棄になるかっつーとそうでもなくて、勉強、恋愛、やるこたぁーしたたかに継続してやがる。
いったい何なのさ、あーたたちゃ。
僕には、どうしてもクラスメイトの頭の仕組みが理解出来なかった。
みんなの前で、ただもう、悔しくて、情けなくて、メソメソと泣いた。
そんな記憶がある。
でさ。
数年後。
ふえ?
ふっつーーに新世紀がはじまりましたけど?
ぎりっぎりまでテレビや雑誌で、不安を煽りに煽ったマスコミ・メディアが、正式に国民に謝罪する訳でなく……。
かつてのクラスメイトが、菓子折り持って、僕に謝罪に来る訳も当然なく……。
あいつら、みんなどこ行った?
今も懲りずに、不安や恐怖をねつ造して、まわりを煽っているのかね?
どいつもこいつも……。
かつてノストラダムスを信じた子供達は、しれっと大人になって。
次は、氷河期、火星移住。
まったく解せん。
どーーーーしても、解せん。
僕には、解せんよ。
最後までお読みいただきありがとうございました。