第一章8 家族の約束
「ちょっ!ちょっと待ってください!!この子……アランは自我があります!!」
ユンがヒステリックな声を上げる。
「ん……?いやいやいや!別に殺そうってわけじゃねぇよ!!この短剣は護身用!」
「い、いや……だって天国へ送るとかなんとか……」
「あ……いやそれはなんというか……まあ気にするな!!……ん?」
ハルドがアランの顔を覗き込むように見つめる。
「自我があるようには見えないが……?」
「ち、違うんです!アランが倒した3rdの感染者は彼の母親だったみたいなんです……そのショックで……」
「ん……?なんで一般ピーポーのお前が3rdなんて言葉知ってんだ……?」
キンバルトが2人に秘密に教えていたが、この情報はトップシークレットだ。
「い、医療班の方がそう言ってました!!」
咄嗟に思いついた言い訳……
「お!今日は医療班Dが行ったんだってな!!金髪のかわい〜い女の子がいただろ!?」
「(な、なんとかごまかせた……?)」
妙にテンションが上がってる……金髪……あの場に金髪の女性は……
「ミナさん……のことでしょうか?」
「そう!ミナ!俺の娘だ!すげえ仕事ぶりだっただろ?」
「は、はい!すごかったです!」
「なぁ……!!」
アランが鉄格子を掴み、低く呟く。
「!?」
「おっさん……俺のこと早く殺してくれないか……?もう生きてたって誰も救えやしない……それどころが傷つけてばっかりだ……」
「アラン……」
そこまで思いつめていたとは……
「あぁ……すぐにお前らは処理される。でも俺の仕事は処理じゃない。[天国へ送る天使]だ!」
「「……?」」
「まぁよくわかんねぇよな……よし!お前らは3rdを倒したりミナを褒めてくれたりしたからな!特別に話してやろう!!」
「「ええ……いらない……」」
だがアランもユンも牢屋の中……聞くことしかできない。ハルドが話し始めた……
■
あれは7年前……
「ただいまーーおかあさーんおとうさーん」
まだミナがお前らと同じくらいの歳だった時……
ファー……
俺の女房……ミナの母親はヴェロウイルスに感染した。
「おがあざぁぁん!!」
そりゃあ泣いてたなぁ……俺らは仲良し家族なんて呼ばれてたからなぁ……
でもミナは絶望しなかった。
「お父さん……私……もうあのウイルスで苦しむ人は見たくない……」
あの子は頭が良くてねぇ……
「でも私はウイルスを治すことなんてできない……もうあのウイルスに感染するのは[仕方ない]んだって思う……」
あの時のミナの言葉は、俺を絶望から救い出してくれた。
「だから……!私は感染した人を笑顔で天国へ送りたい……みんなの[天使]になりたい……!」
「じゃあお父さんもやってやる……!約束だ!みんなの笑顔を、天国のお母さんへ見せてやろう!」
だからミナは医療班……俺は理想郷の待機所での仕事を選んだ。感染した人を笑顔で送る[天使]として……
■
「今やミナは医療班Dのリーダー!!絶望を乗り越えて立派に育ってくれたよ」
「絶望を……乗り越える……」
アランが血槍を放った右手を見つめる……
「ってわけで!今から処理されるお前らの話もとことん聞いてやる!それが……俺たち家族の約束だからな!」
「「……」」
「おいおい!うーん……じゃあ思い詰めてそうなお前から!!」
ビシッ!とアランを指さす。
「どんな話でも聞いてやるさ!どんな夢があって……どんな人が好きで……なんでも良い!全部吐き出してスッキリしようぜ!」
「おれ……は……」
アランが口を開く……
バタン!!!!
が、遮るように一人の男が入ってくる。
--絶望は克服できない。
「た、大変です!!」
「どうした?ケイト……お前はまだここに入っちゃ……」
ケイトと呼ばれた若い男が慌てて話す。
「今!医療班Dの処理部隊10名の内……一名が帰ってきました!」
「ん……?1人だけ?」
--だってあいつらは……
「はい……そしてその一名が言うには……」
ケイトは震える手でハルドの肩を掴む。
「医療班D……9名が感染……!!そしてそのうち1人……ミナ・スミスが……」
ハルドから笑顔が消えていく……
「感染度2ndに到達……!!今、メディクス候補生、ディナ・ローズベルトが交戦中と……」
--何度もやって来るから……
この話が第一章の中間地点です!残り半分もよろしくお願いします!