第一章5 天から地へ
怪物の撃退。捕まっていた女の子は無事母親に保護された。
「ママぁー!!怖かったよぉ……」
「ごめんね……ごめんね……ママが不甲斐ないばっかりに……!」
怪物の死体はオスピタル到着までそっとしておくことになった。
避難した町の人たちも戻ってきた。
「すごいじゃないのアンタ!」
「ダニエルさん!流石です!」
「い、いや……それほどでも……へへ」
おじさんたちはもうすっかり英雄だ。
その様子を眺める、アラン、ユン、キンバルト。
「なぁアラン……見えるか?あの人たちの笑顔が」
「あれはお前が守ったんじゃ」
「!!?」
「(あの厳しいキンじぃが褒めた!?)」
「(あの厳しいじいちゃんがほめた!?)」
「お前は憧れからかけ離れた自分を嫌っていたじゃろ……?だが今見てみろ」
ピシッ!と町の人たちを指さす。
「能力なんかなくたって……メディクスじゃなくたって……お前は守った。これを英雄と呼ばずしてなんと呼ぶ?」
「キンじぃ……」
「そ、そうだよ!アラン!立派な英雄だよ!立派だ立派!すごく立派!またあの頃の笑顔になりなよ!」
空元気を隠すために作っていた偽物の笑顔。母さんを苦しませないために作った笑顔。もう……お別れだ。俺はもどる……あの頃のキラキラした純粋な笑顔に!!
「ありがと……ユン、キンじぃ」
アランの顔がほころんでいく。
「俺は……」
「ヴァァァァ!!!!」
「「!!?」」
--この世に神様がいるんなら……言ってやりたい。
怪物がプルプルと全身の筋肉を震わせる。
「あぶな……」
キンバルトがアランとユンを庇うように覆い被さる。
ビュン!!
怪物の全ての大針が飛散する……
グサッ!ジャ!ゲシャ!グサッ!ベシャ!ザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!
勇敢な男たち……戻ってきた町の人たち、俺らで助けた女の子。そして……おじさん。全ての人に突き刺さる……
--お前は残酷過ぎないか?
「キンじぃ!!!」
「じぃちゃん!!」
辺りは血の海。
「グフッ!……」
腹に一本、大針が刺さった……血が止まらない……でもそんなことより……
あたりを見渡すアラン……
みんな死んだ。守ったつもりだった……でも守れなかった。やっぱり俺は……英雄なんか向いてないのかもしれない。
「じいちゃん!じいちゃん!返事してよ!!」
キンバルトの体には……何本もの大針が刺さっていた。とても助かっているとは思えない。
「待ってよ!!じいちゃん!!僕が一人前になるまでは死ねないって……まだ全然ダメダメだよ!!待ってよ……行かないでよ……」
キンバルトが庇ってくれたおかげでユンは無傷、アランは一本の攻撃で済んだ。だが……
「はぁ……はぁ……」
「(血が止まらない!!まずい死ぬ!キンじぃが助けてくれたのに!)」
「ヴァァ……」
「アイツ!……ずっと狙ってたんだ……人が集まるタイミングを……死んだふりして!!」
ハリネズミ人間……いやもはやただのネズミ人間と化した怪物。ニヤニヤと周りを見渡している。
「(アイツまだ動けるのか!?まずい!ユンが!)」
「ユン……」
「(だめだ!うまく声が出せない!)」
怪物がアランたちの存在に気づき、近づいてくる。
「アラン!?ひどい怪我!!」
ユンにはキンバルトしか見えていなかった。当然、怪物にも気づかない。
「うし……ろ……」
「(やばいやばいやばい!!でてくれ!声!)」
「ヴァァ……」
怪物は再び両腕を大針へと変化させる。
「大丈夫……?アラン!君と僕だけが生き残……」
■
数時間前。オスピタル官邸。
「大変です!!オッド(アランたちが住む町)に[3rd]の感染者が!」
「な、なんだと!!?検査ミスか!?いやそれでも3rd!?何かの間違いじゃないのか!?」
「間違いありません!全身がハリネズミのような姿をしていたと……!」
「しかしどうする?メディクスはあと6時間は帰ってこないぞ!?」
「彼女に……頑張ってもらうしか……」
「あの娘はまだまだ子どもだぞ!?能力も精神力も!?3rdなんかと戦ったら死んでしまう!ただでさえメディクスは国民によく思われていないのに女の子どもを犠牲になんかしたら……ビルトゥー教団……奴らになんと言われるか……」
「しかし!オッドが壊滅しては元も子もありません!!メディクスまでの時間稼ぎを……!」
「わ、分かった!彼女に戦ってもらう!医療班Dも連れて行け!危なくなったら避難しろと言っておけ!」
「はい!今すぐ!」
■
「……と言うわけだ。頼んだぞ!」
「命令すんなよ……アンタらに従ってんじゃない、金稼ぎに来てんだよ……」
--ヴェロウイルス感染者[ステージ1st]、能力・ゴリラ。メディクス候補生、ディナ・ローズベルト。
「ぶっ倒せば金くれんだよな?」
とりあえず、第一章完結までは毎日投稿しようと思っています!
よければ評価をお願いします!