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「血の英雄」  作者: 高丘
第一章 人々は彼をこう呼んだ
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第一章1 夢のまた夢

 ーー言ってくれ……



 トントントン……静かな朝に鳴り響く音。


 「(もっと……もっと……)」


 凄まじい集中力で朝食を作っているアラン。その包丁さばきは、もはや職人。


 ドンドンドン!と階段を駆け降りる音。


 「ちょっと!朝食はアタシが作るから!」


 慌てた様子で彼の母……カンナ・ロバーツがアランへ駆け寄る。だがアランは見向きもしない。


 「ちょっと!?聞いてるの!?アラン!」


 ーートントントン……


 「アラン!!」


 「!?」


 プスッ!と包丁が指に傷をつける。タラーっと血が垂れ始める。


 「か、母さん!?びっくりした〜」


 「なにがびっくりした〜よ!ほら!血で出るじゃない!」


 どれほど集中していたのか、何も耳に入ってこなかった。母はささっと一枚の布を取り出し、俺の指の血を止めてくれた。


 「母さんは寝てていいって!俺が全部やるからさ!」


 ーー言ってくれよ……


 「母さんのご飯も作るし、お金だって稼ぐ!病気だっていつかは俺が治す……!悪い奴らがやってきたって……」


 「アラン!!」


 「!?」


 「何をそんなに焦ってるの?」


 「え……」


 話す口が一瞬止まる。


 「あ、焦ってる!?お、俺はただ母さんを安心させたくて……」


 「やめて!」


 言葉を遮られながらぎゅ〜〜っと抱きしめられた。


 「か、母さん……?」


 「あなたは頑張ってる!こんなダメな母の代わりに……だからお願い!無理しないで……あの人に合わせる顔がなくなる……」


 胸に何かが当たって少し痛い……母の胸にはRの刻印が入ったペンダントが掛かっていた。


 ーーちがう……そんなこと言って欲しいんじゃない


 「ごめん……母さん……もうキンじぃのとこ行かなきゃ」


 抱きしめる腕をほどき、俺は出かけていった。


 「もどってきて……あの頃のアラン……」


 独り呟く。



 家を飛び出した俺は、キンじぃ……キンバルト・ウォーレンの元へと駆けていた。


 「おお!今日もキンさんのところかい?精がでるねぇ!」

 

 近所のおじさんだ。確か名前はダニエルって言ったかな?1人娘のワズって子が同い年で、昔からうちの家族とは仲がいい。俺は一度立ち止まり、挨拶した。何もいつもと変わらない朝だ。


 「はい!あれ?ワズいないんですか?」


 いつもおじさんとワズは仲良く畑にいるんだけど……


 「そうそう!あいつまたひとりで森に行きやがった!危ねえからやめろってあれだけ言ってるのによぉ」


 「いいじゃないですか!やりたいことがあって、それに妥協せず突き進む!カッコいいですよ!」


 ーー比べて俺は?どうなんだよ?……


 嫌に胸がざわつく。嘘をついてるわけじゃない……本心からそう思っているのに……


 「なんだそれ!カッコいいなぁ!おじさん震えたぜぇ!」


 よくわからないポーズで喜んでる……やっぱりおじさんと話してると嫌なことも忘れられそうだ。


 「それじゃ!俺急がなきゃ!」


 俺は再び駆け出す……


 「がんばれよぉ〜」


 おじさんが手を振ってくれていた。



 「遅い!37秒遅刻じゃ!」


 キンバルト・ウォーレン。御年70歳。元々はオスピタル……メディクスなどを従えたこの国を収める組織に所属していたらしく、まあ簡単に言えば定年した元お偉いさんだ。だからたんまりお金持ってる。そして何より……


 「ユンも朝食を残したな!?2人とも廊下水拭き五十往復じゃ!」


 ちょ〜厳しい!怖い!


 「じ、じぃちゃ〜んそれはないよ〜」


 このなよなよしたやつがユン・ウォーレン。キンじぃの孫。そして俺の幼馴染で親友。父が亡くなった後、お金に困った俺の家族のために、この豪邸、ウォーレン家のお手伝いとして俺を紹介してくれた。


 「うるさい!なよなよするな!仕事だ!仕事!」


 「「は、はい!」」



 そして時は流れ夕方……


 「よし!キンじぃ!今日もお願いします!」


 キンじぃはメディクスと一緒に仕事をしていたらしい。だから俺は仕事が終わった後、毎日修行つけてもらっている。


 「よ、よろしくお願いします!」


 何故かユンも一緒だけど。


 修行の内容はユンと俺で徒競走や高跳び、棒投げなど……その他合計20科目で勝負する。


 「今日も19-1!アランの圧勝じゃな!」


 俺が勝つ。これもいつもとまったく変わらない。


 「はぁ……また……高跳びだけ負けたぁ……はぁ……」


 何故かユンは高跳びにだけ長けている。理由はわからんけど。


 「あ!そうだ!早く帰って晩ごはん作らないと……」


 完全に忘れていた。母さんを安心させなきゃ……


 ーー頼む……誰か言ってくれ……


 「あ、ちょっと待て!アラン!」


 「な、なんだよ〜急いでるんだよキンじぃ」


 「前々から思ってたんじゃが……お前、なんのために修行してるんじゃ?」


 ドクンッ!!


 何か自分の中で隠していた部分を見られた様な感覚だった。なぜ……?そんなの決まってる……


 「こ、この修行をしてれば!能力が芽生えて!メディクスになれるかもしれないだろ!?」


 そうだ……俺は努力して……能力を手に入れて……


 「あ、そうか。じゃあもうお前は修行を受けなくていいぞ」


 ドキッ!……とした。


 「向上心のないものに稽古をつける必要はない」


 またドキッ!とした。


 ーー言ってくれ……頼む……


 「ちょ、ちょっとまってよじいちゃん!一番頑張ってるのはアランだよ!どうしてそんなひどいこと言うの?」


 ーー言ってくれ……


 「ユン……こいつはとっくに諦めてるんじゃ」


 やめてくれやめてくれやめてくれ!


 ーーよし!言ってもらえるぞ!


 「なぁ……?アラン。ずっと誰かに言って欲しかったんじゃろ?」


 ーーそうだ!言ってくれ!


 やめろ!言わないでくれ!


 「お前はよく頑張った。もう諦めていい。[仕方ない]んじゃ」


 別に苦しいとは思わなかった。なんなら解放された様な気分だった。


 「あ、あぁ……」


 うまく言葉が出ない。


 そうだ……俺は自分が気づいていないだけでずっと言って欲しかったんだ……[仕方ない]って……


 家事を無駄にやりすぎるのも……修行なんてあんな意味のないことを本気出してやるのも……


 頑張ってるってアピールしたかった……だって気づいてしまったから……[俺はメディクスになれない]って……無力なただの一般人で、誰かを守ることなんてできないって……俺は……俺は……



 「俺は……英雄になんかなれない……!」

 






  



とりあえず、一章完結までは毎日投稿しようと思っています!

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