光菜ちゃんと倉木くん
「私、死にたいの。でもね、死にたくないから今日を生き抜くので精一杯なの。」
柚木 光菜は、まるで「昨日のドラマ面白かった」でも言うようなトーンでそんなことを言う。冗談で返すにはあまりに重くて、真剣に返すにはあまりに軽かった。僕は頭の中でぐるぐると、あーでもこーでもないと考えては、ただ、彼女の顔を見つめた。
光菜と知り合ったのは、つい最近で、同じ本を読んでいたのがきっかけだった。僕は本にカバーをかけないで読むタイプだから、その本に気づいた光菜が声をかけてきた。それから互いに好きな本やジャンル、作家に至るまで好みが似ていることが判明し、仲良くなるのに時間は掛からなかった。
光菜という子は独特な女の子だった。クラスで特に孤立しているという事もなく、目立たない方の部類で、かといって、こうやって仲良くなってみると別におとなしい女の子という感じでもなかった。内気なわけでもないし、積極的でもない。普通な女の子のようで、今みたいに不思議なことを言う。
「倉木君は、そういう感じ持ったことない?」
ないに決まっている。と、言いたいのをぐっと堪えたせいで、鏡を見なくても自分の顔がおかしなことになったのは分かった。だけど、光菜は「ふーん」と、つまらなさそうに教室の窓へ目を向けるだけだった。僕もつられて窓をみる。
窓の向こう側で、オレンジと青が混じった空に橙味がかった色の雲が流れて、大きくなったオレンジ色の太陽が僕らを見つめていた。
「僕にはよく分からないかな」
目の前に座る光菜に目を戻して、正直に答える。さっきの表情で僕がどう思ってるかなんて、どうせ光菜にはバレている。それでも隠したら、光菜は誤魔化されてくれるだろうが、きっともう僕に2度と心を開いてくれないだろうから。それは、少し寂しい。