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放課後と休日は異世界に行ってます!  作者: 時永 ショウ
第1章 始まり
5/5

第4話 ミューサの森で…(中編)

―――土曜日の朝。部屋に朝日が差し込み、圭は目を覚ました。外からは小鳥のさえずりが聞こえるいい朝だ。

圭は起き上がり、窓の外を見た。

「もう朝か…。ふぁ…。」

圭はまだ少し眠そうな顔をしていた。少し寝ぼけながら部屋の中を見渡すと、明らかに昨日は無かったドアがあった。

(ドアがある…。って、ドア!?え、もしかして………。)

圭は昨日見た夢のことを思い出していた。

『元の世界と行き来したいか?』

『…できるのなら。』

『良かろう。では、そなたのいる部屋にそなたの家のドアを転送しておく。』

『あ、ありがとうございます。』

という会話をした。それはただの夢ではなかったことに圭は気付いた。だが、それと同時に元の世界とこの世界を行き来出来るようになった喜びと驚きがあった。そこで圭は元の世界とこの世界の時間のズレを確認するために、持って来ていたカバンからスマートフォンを取り出し、時間を見てみた。スマートフォンの画面に出ていた時間は午前6時30分を示していた。

(6時30分か…。それだと、そんなに時間はズレてないのかも…!良かった…。)

俺はスマートフォンの充電を無駄にしないようにと、電源を切り、カバンに閉まった。圭は部屋を出て、キッチンにある流しに行き顔を洗った。圭が顔を洗い終えるとミアレムがキッチンに来た。

「ケイ、おはよ!」

「うん!おはよう!」

ミアレムは朝の挨拶が済むと、圭と同じように顔を洗った。

「よし!朝ごはんでもつくるか!」

「うん!あ、でも、何を作るの?」

「朝ごはんは基本的に簡単に済むものだから、パンとジャム、あとはサラダかな?あと、木の実のジュースとかを合わせたりするな。」

「そうなんだ!」

(人間とあまり変わんないのかも。だって、朝は簡単に作れるものとかの方が多いから。)

圭はそんな安心感からか、微笑んでいた。

「ケイ、何笑ってんだ?」

「あ、えっと…、エルフも人間みたいに朝ごはんはやっぱり簡単に作れるものなんだなって思って。」

「そうだったのか!まぁ、確かに朝は眠かったりして、手を抜きたくなるんだよな。」

「分かる!俺の家でも、短時間で作れる簡単なものが朝は多かったからすごく分かる!俺自身も朝は少し眠いし。 」

「だよな!じゃあ、眠気覚ましも兼ねて、一緒に朝飯を用意するか!」

「うん!」

「じゃあ、圭にはパンを切って、ジャムを出してもらっても大丈夫か?」

「分かった!」

圭はミアレムが出したパンをナイフで6枚に切り分け、小皿にジャムを入れた。その間、ミアレムは野菜を切り、サラダを作っていた。

「ミアレム、終わったよ!」

「じゃあ、パンとジャムを先に運んでおいてくれ。」

「分かった!」

圭はパンの乗った皿とジャムを入れた小皿を持って、リビングのテーブルに置いた。そして、ミアレムもサラダを盛った皿を置いて、再びキッチンに戻り、木の実のジュースの入ったコップを持ってきた。

「これでよしと!」

「ねぇ、ミアレム。サラダを食べるためのフォークは…?」

「あ!忘れてた!今、取ってくるから少し待ってろ!」

ミアレムは急いでフォークを取りに行き、走って戻ってきた。

「持って来たぞ!」

「う、うん…。」

「ケイ、どうしたんだ?」

「いや、あんなに走らなくてもいいのになって思っただけで…。特には何もないよ。」

「そうか?なら、早く食べようぜ。」

「うん!」

圭とミアレムは椅子に座った。

「んじゃ、いただきます!」

「いただきま〜す!」

圭はジュースを1口飲み、サラダを食べた。一方、ミアレムはパンを1口台にちぎり、ジャムを付けて、食べた。

「この世界の料理、昨日もそうだったけど、すごく美味しい!」

「ケイがこの世界の料理を気に入ってくれたなら良かった!でも、今日の夜のレストランはまたすごい料理があるから楽しみにしてろよ!」

「夜のレストラン…?あっ!シャルガドさん達との約束だよね?」

「そう!あと、多分、シャルガドたちはさん付けて呼ぶのは嫌だと思うから、普通に”シャルガド”って呼んでやってくれ。」

「わ、分かった!頑張ってみる!」

「おう!」

そんな話をしながら、圭とミアレムは朝ごはんを食べ進め、そして、朝ごはんを完食した。

「「ごちそうさま!」」

圭は皿をまとめ、立ち上がった。

「じゃあ、この皿持って行くね!」

「おう!ありがとな!」

圭は皿を持って、キッチンに行った。ミアレムもコップをまとめて持ち、キッチンに行く。その時、圭は皿を洗っていた。

「な、なんか、皿を洗ってもらって悪いな…。」

「え?これぐらい大丈夫だよ!それにミアレムにはお世話になってるんだし!」

「ケイ…!ありがとな!」

「お礼を言うのは俺の方だよ!俺をこの家に泊めてくれてありがとう!」

「どういたしましてだ!」

ミアレムは親指を立てた右手を満面の笑みと共に突き出した。

「……っははは!」

圭は思わず笑い出した。圭の笑いにつられたのか、ミアレムも笑い出した。そして、圭とミアレムが笑い合っていると突然、キッチンに誰かが入ってきた。

「朝っぱらから楽しそうね。2人共。」

キッチンに入ってきたのは、フィリアだった。

「あ!フィリア!おはよう!」

「ケイ、おはよう。」

「なんだ。フィリアだったのか。」

「なんだとは何よ!ミアレムは失礼わね。」

「し、失礼じゃねぇだろ!」

「失礼わよ。ね、ケイ?」

「え、えと…、女の子に向けて”なんだ、○○だったか”とかはちょっと失礼かもしれない…。あ、でも、実際のことは分からないからね!」

圭は自分自身の回答に自信が無く、少し焦っていた。

「まぁ、そうね。本当のところは本人がどう思うかになってるから、実際に失礼かどうかは分からないわよね。」

「そうだな。まぁ、フィリアにとって失礼なら、言うのはやめとくよ。」

「ミアレム、ありがとう。ケイ、朝から困るような質問してごめんね。」

「ううん!全然、大丈夫だよ!」

「んで、行くんだろ?ケイの服を買いに。」

「えぇ。でも、その前に1度着替えたら?」

「あぁ。じゃあ、ケイにはまた俺の服を貸してやるよ。」

「ミアレム、その必要はないわよ。」

フィリアは持ってきていたカバンから、服を取り出した。その服は現実世界のような服で、デニムのジャケットやベージュのパンツだった。

「えっ?なんでそんな服が…?」

「なんでって、この村の服屋で売ってるんだから当たり前でしょ。」

「そ、そうなんだ。」

「それよりも早く着替えたらどう?ミアレムも着替えに行っちゃってるし。」

「う、うん。そうする。」

圭はフィリアから服を受け取ると、使わせてもらっている部屋に行き、着替える。そして、圭が着替えに行ったすぐ後にミアレムが戻ってきた。

「あれ、ケイは?」

「ケイなら着替えに行ったわよ。」

「そうか。それで、あの服はどうやって揃えた?」

「え?昨日の帰りにラティーユの所に寄って、買ったのよ?」

「ふーん。でも、これからラティーユの店に行くのにいいのか?」

「いいわよ。だって、出かける時ぐらいはオシャレにしないともったいないもの。」

「ま、それもそうだな。」

ミアレムとフィリアが話している間に着替えを終えた圭は、部屋から出た。

「あら、ケイ。着替え終わったのね。」

「う、うん…。」

ケイは少し恥ずかしそうにしていた。

「ケイ、何恥ずかしそうにしてんだよ。すっごく似合ってるぞ!」

「あ、ありがとう…。」

圭は頬を赤く染め、うれしそうに微笑んでいた。

「ケイ、すごく似合ってるし、とても可愛いわよ。」

「えっ!か、可愛い…?!」

「えぇ。可愛いわよ?ミアレムもそう思うわないかしら?」

「まぁ、可愛いけど。でも、男っぽさのある服だから女にみられることはねぇよ。」

「ミアレム、フォローしてくれてるんだよね?」

「あぁ。そうだけど。」

「…ミアレム。ごめん。さっきのは、俺にとってはフォローじゃなかったよ。」

「え、そうだったのか…?」

「そうね。『女にみられることはない』っていうことは、女の子に見えるとかいろんな勘違いをうむわよ。」

「あ…、確かにそうだな。すまない、ケイ…。」

「い、いいよ!そんなに怒ってるわけじゃないし…。」

「ほ、ほんとうか…?」

ミアレムは不安そうな表情を浮かべていた。

「本当だよ。それに…。」

圭は何かを言いかけ、辛そうな表情を浮かべた。

「ケイ…?」

「大丈夫…?具合悪いの?」

「えっ…、だ、大丈夫だよ。ただ、嫌なことを思い出しただけ。」


―――圭の記憶を遡る《さかのぼる》こと、4年前の中学1年の頃だった。圭はシャイで幼馴染の匠斗ぐらいしか友達がいなかった。そんな時、クラスの他の男子たちは圭の髪型を女っぽいとからかっていた。

『おい、浅間!その髪型はなんだよ〜!』

『女子みてぇだし!』

『や、やめてよ…。』

男子達は圭のことを指差しながら笑っていた。圭は少し泣きそうに泣きそうになりながらも、涙を堪えていた。そんな圭を見た匠斗は、キレ気味に『お前ら、圭のことをからかって楽しいのか?』と男子達をすごい形相で睨みつけていた。

『ほ、本当のことだろ!!』

『ふーん。じゃあ、髪の長い男は全員女っぽいってことなんだな?』

『そ、そこまでは言ってねぇだろ!』

『た、匠斗…。もういいから…。』

圭はオドオドしながらも匠斗を止めようと声をかけた。だが、匠斗はイラついていた。そのとき、偶然、圭を訪ねて教室に来ていた上の学年の1人の男子がそれを見て、教室に入ってきた。

『おい。そこのお前ら、何やってんの?』

『あ、・・・さん。実は、こいつらが圭をからかっていて…。』

『・・・お兄ちゃん?』

圭の表情を見た…はため息をついた。

『お前らさ。圭をからかうのはやめたほうがいいぞ。それに圭は圭のままが1番だ。それを馬鹿にするのはよせ。』

『う…。わ、わかりました…。浅間、わるかったな。』

『う、うん…。』

その後、男子たちは圭をからかわなくなった。


色々と思い出している圭の肩を、ミアレムが掴んだ。圭はそれに一瞬驚いたが、我に返ったようにやわらかな普通の表情をしていた。

「ケイ。話したくないことは無理して言う必要はないからな。」

「そうね。それに過去に何があったかは知らないけど、今ここにいるケイはケイ本人なんだから。」

「ミアレム…。フィリア…。…ありがとう!」

圭は涙を流しながら、微笑んでいた。

「ケイ、何泣いてんだよ。」

「な、泣いてなんかないよ!」

圭は慌てて涙を拭いた。そして、涙を拭き終えた圭の顔には笑顔が広がり、何かが吹っ切れた顔になっていた。

「よし!ケイの表情とかが元に戻ったことだし、そろそろ出かけようぜ!」

「そうね。ケイ、行きましょ。」

「うん!」

圭たちはミアレムの家を出て、服屋に向かった。

「この村の服屋ってどんなかんじなの?」

「ん?普通の服屋だぜ?」

「ほ、本当に?」

「あぁ。ほんとうだぜ。なぁ、フィリア?」

「そうね。それに今ケイが着てる服は最近入った新人さんの影響らしいわよ。」

「そうなんだ。じゃあ、俺と同じ世界から来たのも考えていいのかな?」

「多分、そう考えていいかもしれないわね。」

「そっか。」

圭は思った。『もしかすると、この世界に来れるようになった原因について何か知れるかもしれない』と。

「ケイ!あそこがこの村の服屋だ!」

ミアレムが一軒のオシャレな店を指さした。

「ね、ねぇ、ミアレム。」

「なんだ?」

「あそこが服屋なのはわかったけど…、普通のお店よりオシャレなんだけど…。」

「そうか?」

「そうだよ…。それに値段とかは大丈夫なの…?」

「大丈夫だぞ。気にするほどの値段じゃないからな。」

「そうなんだ。」

「まぁ、見ればわかるよ!」

ミアレムが服屋のドアを開け、圭たち3人は店の中に入った。

「いらっしゃいませー!あ、フィリアさんに、ミアレムさん!今日はどのような服を探してるんですか?」

「今日は俺たちじゃなく、ケイの服を買いに来たんだ。」

「そうだったんですか!じゃあ、はじめましても込めて、自己紹介と他の店員の紹介をさせていただきます。」

その店主のエルフは店の奥にある工房に他の店員を呼びに行った。

「ねぇ、ミアレム?」

「なんだ?」

「他の店員さんって、どんな人たちなの?」

「それは来てからのお楽しみだ。」

店主のエルフは他の店員を連れて戻ってきた。

「お待たせしました。それでは…、僕はこの服屋の店主であるラティーユと申します。そしてこちらが。」

「俺はふくのデザインを担当しているキョウ。たぶん、君と同じ世界から来た。」

圭はキョウの一言に驚きながらも、心の中で『やっぱり、そだったんだ…。』と思っていた。

「僕らも自己紹介するから、ボーっとしてないでよ。」

店員の一人が含蓄を含みながら圭に厳しそうな態度をとっていた。

「あ、ご、ごめんなさい…。」

「まったく…。とりあえず、ボクはウェル。」

「ボクはメノン…。」

「え、えっと…、浅間圭です。よろしくお願いします。」

「浅間圭か…。本当に俺と同じ世界から来たようだね。」

キョウは何かを考えながら、圭に声をかけた。

「やっぱり、そうだったんですか。」

「うん…。ちなみに、俺のフルネームは岡本恭。」

「えっ!!キョウくんって異世界から来たの!!」

キョウの雇い主兼身元保証人であるラティーユが驚いてるのを見て、ミアレムとフィリアは呆れた表情をしていた。

「な、なぁ、ラティーユ。」

「なんですか、ミアレムさん。」

「キョウと一緒に暮らしてるのに何も聞いてないのか?」

「き、聞いてないです…。」

申し訳なさそうにしているラティーユを見たキョウは『待ってください!』と言い出した。

「すみません!!このことはラティーユさんには言うべきでしたよね…。」

「キョウくん…。大丈夫だよ。だって、話しやすいことじゃないのは分か

るから。」

「ラティーユさん。ありがとうございます。」

「うん!」

ラティーユとキョウの様子を横目に見ながらミアレムとフィリアは圭に似合いそうな服をいくつか選んでいた。話し終えたキョウは圭に歩み寄った。

「圭だったっけ?もしよければだけど…、俺と友達にならないか?同じ世界から来たということで相談に乗ったり、何か力になることが可能かもしれないから。」

「…ありがとうございます!」

「あぁ。そう言えば、服を買いに来たんだろ?」

「あ、はい。」

「なら、新作があるんだけど、それをもらってくれないか?」

「新作ですか…?」

「あぁ。持ってくるか少し待ってて。」

キョウは新作の服を取りに工房に行く。一人になった圭にラティーユ、ウェル、メノンの3人が歩み寄った。

「ケイくん。キョウくんの友人になってくれてありがとう。」

「えっ…?」

「ボクたちからもお礼しておくよ。」

「うん。キョウはいつも一人になろうとする。でも、友人ができることによってそれが変わる。」

「だから、ケイくんにはすごく感謝してる。本当にありがとう!」

「「ありがと。」」

「い、いえ…!俺は全然、なにもしてないですよ。」

ミアレムは謙遜している圭の肩を掴んだ。

「ケイ。そんなに謙遜するな。それにケイのしたことはこいつらにとってはお礼するぐらいのことなんだからな。」

「う、うん…。」

圭は少し自信なさげに小さくうなずいた。

「少しは自信を持ってください。僕たちにとっては本当に嬉しいことなので。」

「ラティーユさん…。はい!俺、少し自信を持てました!」

「…自信持てたようで良かったです。」

「何、俺がいない間に盛り上がってるんですか?」

気が付くと服を取りに行っていたキョウが戻っていた。

「あ!キョウくん!戻ってたんだね。」

「はい。」

「じゃあ、ケイくんの相手はキョウくんに任せるよ。」

「…わかりました。」

ラティーユは接客に戻った。

「あ、そう言えば、圭。これを試着してみてくれないか?」

「はい!」

「それなら、これも試着してもらえるかしら?」

「あ!なら、俺の選んだ服も試着してくれ!」

「う、うん…。」

圭は両手いっぱいに服を持ち、試着用の部屋に行く。そして、1着ずつ試着していく。その度に、ミアレムとフィリアから『ケイ、似合ってるぞ(わよ)!』という言葉が出てくる。圭は1回1回言われることが恥ずかしく、頬を赤く染めていた。

「これって…。」

圭が最後に試着しよと手に取った服は、キョウが持ってきた服だった。その服は学校の制服をもとにデザインしたように思われる服だった。圭はその服に着替え、試着用の部屋を出た。

「ど、どうですか…?」

「うん。イメージ通り。」

「ほかの服よりもしっくりくるな。」

「えぇ。違和感とか本当にないわ。」

冷静に見ているキョウとは逆に、圭のことを嬉しそうに見ているミアレムとフィリア。その中、圭はというと、一人照れ臭そうにしていた。

「……。」

キョウは真剣なまなざしで圭のことを見ていた。

「な、何か変ですか?」

「いや。ただ、この服ならちょっとしたワッペンとかあったらいいと思って。」

「ワッペンですか?」

「あぁ。制服イメージだからワンポイントになると思うんだ。まぁ、この世界では手に入らないかもしれないけどな。」

「…それなら、家に帰った時に探して、今度持ってきましょうか?」

「いいのか?というか、帰れるのか?」

「たぶん帰れます。俺なら…。」

確信のない不安を持ちながら圭は俯いた。

「そうか。なら、いくつか注文いいか?」

「注文ですか…?」

「あぁ。この世界では手に入りにくい素材の入荷を頼みたいんだ。」

「で、でも、俺なんかでいいんですか?」

「いいよ。それに、確信がないのに帰れると言ったお前を信じたいしな!」

キョウは微笑んだ。キョウの笑顔を見てうれしくなった圭は『はい!じゃあ、帰れたらお伝えします。』と元気よく返答した。

「ありがとう。じゃあ、お礼にその服あげる。圭に似合ってるから。」

「ありがとうございます!大事に着させてもらいます!」

「うん。それじゃあ、俺は工房に戻るよ。」

「あ、はい!」

キョウが工房に戻った後、圭はもらった服が気に入ったのかすごく嬉しそうにしていた。

「ケイ、なんか嬉しそうだな?」

「ミアレム!」

「なにかあったのか?」

ミアレムは意地悪に圭を見てニヤっとした。

「え、えっと…、この今着ている服を恭さんからもらったから。」

「そうか。良かったな!」

「うん!そういえばフィリアは?」

「フィリアならそろそろ会計を済ませて戻ってくると思うぞ。」

「会計…?」

「あぁ。お前のために選んだ服のな。」

ミアレムは会計を済ませて戻ってきたフィリアを指さした。

「ケイ、ミアレム!お待たせ!」

「い、いえ。それよりも…、ごめんね。服を買ってもらって。」

「大丈夫よ。あ、それとはい!ケイの服。」

フィリアは買った服が入った袋を圭に差し出し、圭はそれを受け取った。

「うん!ありがとう!」

「よし!服買ったし、この後は村案内でもするか!」

「いいわね!それにみんなにケイのことを紹介できるわね!」

「えっ?紹介…?」

「紹介かー!いいな!」

「えっ…、えと…、俺は紹介とかは別に…。」

「大丈夫だ。俺とフィリアがお前を友人として紹介したいだけなんだから。」

「う、うん…。」

俯いている圭にミアレムは『下ばかり見るなーー!!』と言いながら、圭の髪をくしゃくしゃにした。

「ちょっ…⁉ミアレム…!」

「下向いてるケイが悪い!!」

「ごめんってばー!!」

ふざけながらも圭とミアレムは笑っていた。それと同時に、二人を見ているフィリアの顔にも笑みがこぼれていた。

「も~!髪がくしゃくしゃだよ~!」

「別にいいじゃねぇか!それに変にうじうじしていてもなにもはじまらねぇ。だから、笑ってろ!」

ミアレムはニッと笑った。

「ミアレム。ケイ。そろそろ行きましょ?」

「そうだな!」

「うん!」

三人は歩き出し、村の中を見ていった。

「最初はどこに行こうかしら?ケイは気になるところはないの?」

「気になるところ?…あ!じゃあ、少しお腹空いてきちゃったから、カフェとかないかな?」

「カフェなら何か所かあるけど、私の知り合いのカフェでもいい?」

「うん!いいよ!」

「おい、フィリア。お前の知り合いのカフェって…。」

「え?普通にお姉ちゃんがやってるところだけどなにか問題かしら?」

「い、いや、別に…。」

「フィリアって、お姉さんいたんだね!」

「えぇ。私より5歳ぐらい年上のね。」

「そうなんだ!」

「あ!なら、フィリアにお姉さんがいるようにケイにも兄弟がいるのか知りたい!」

「俺の兄弟…?」

圭は立ち止まり俯いた。

(俺の兄弟…。いたような、いないような…。思い出せない…!)

圭は考えるのが辛くなり、頭を抱えて座り込んだ。

「「ケイ!!」」

「ケイ!大丈夫か?」

「う、うん…。」

「大丈夫そうじゃねぇようだな。」

「そうね。とりあえず、お姉ちゃんのカフェが近いから、そこまで行って休みましょ。」

「…うん。」

圭はゆっくり立ち上がり、ミアレムに支えられながら歩き出した。そして、フィリアの後について歩いて約2分ぐらいでフィリアの姉がやっているというカフェの前に着き、中へと入った。

「いらっしゃいませ!って、フィリアとミアレムくん?どうしたの?」

「お姉ちゃん。ケイを休ませてあげてくれないかな?」

「ケイくんって、ミアレムくんが支えている子かしら?」

「うん。いいかな?」

「いいわよ。さあ、席に案内するわ。」

フィリアの姉は圭たちを窓際の席に案内し、三人は席についた。

「ケイ、大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ。」

「…無理すんなよ。それと話しにくいこととかは話したくないで済ませてくれ。」

「ミアレム…。二人とも、ありがとう。でも少し休めば元気になるから。」

「そう…。」

「あ、なら、少しでもうまいもの食って、元気になろうぜ!」

「そうだね。」

圭の様子は少し落ち着いたようだった。

「フィオナさん!」

「はーい!」

「注文なんですけど。紅茶とサンドイッチをそれぞれ3つずつお願いします。」

「分かったわ。ツェン、サンドイッチ3つお願い!私は紅茶を用意するから。」

「わかった。任せて。」

フィオナは『ちょっと待っててね』と言い残し、カウンターの方に戻った。

「ねぇ、あのフィオナさんとツェンさんって誰?」

「フィオナは私のお姉ちゃんで、その旦那さんがツェンさんよ。」

「そうなの⁉夫婦でやってるんだ…!」

「そうよ。すごいわよね。」

「うん。」

圭はどこか寂しそうな表情をしてフィオナたちの方を見つめていた。

「大切な人とか…。」

圭は一人ボソッと何かを呟いては辛そうにしていた。

「お待たせしました。紅茶とサンドイッチになります。」

「あ、ありがとうございま。」

「ゆっくりと休んでいってくださいね。」

「はい。」

圭は紅茶を一口飲み、ㇹっと一息つく。

「ミアレム、紅茶とサンドイッチを頼んでくれてありがとう。」

「いいよ、これくらい。それよりも、サンドイッチ食おうぜ。」

「うん!」

圭とミアレムはサンドイッチを食べ始めた。その一方、フィリアは、フィオナのところに行っていた。

「お姉ちゃん。」

「フィリア、どうしたの?」

「ありがとう。気を使って、窓際の席にしてくれて。」

「これぐらい大丈夫わよ。だって、あなたの新しいお友達の為でもあるから。」

「うん…。」

「フィリア。そろそろ戻ったらどうかしら?お友達が気にしちゃうかもしれないわよ。」

「うん。じゃあ、そろそろケイたちのところに戻るね。」

「えぇ。」

フィリアが圭たちのところに戻っていくのを優しく、そして、どこか寂しそうな瞳をして見つめていた。

「フィオナ?」

「あ、ツェン…。」

「どうしたの?そんな顔して。」

「フィリアももう子供じゃないって思うと少し寂しくなって。」

「…そうだね。」

ツェンはフィオナの肩を抱き寄せた。

その頃、フィリアは圭たちのところに戻っていた。

「あ、フィリア!どこ行ってたの?」

「お姉ちゃんの所に行っていたの。」

「まぁ、フィリアのことだからそうだろうと思ってたけどな。」

「えっ?ミアレム分かってたの…!」

「あぁ。結構、分かりやすかったぞ。」

「そ、そうなんだ。」

「ケイ、気にしないほうがいいわよ。付き合いの長さではミアレムのほうが長いんだから。」

「あ!確かに!なんだ、今までのフィリアを知ってるからわっかたことなら、しかたないやなんて!」

「ま、確かに仕方ないな。それに俺もフィリアも友人としてケイともっといろんな時間を過ごしてみたいしな!」

「そうね。なら、こんどはこの近くにある湖とかに一緒に行くのもいいかもしれないわね。」

「おっ!それいいな!」

「お、俺も行ってみたい。どんな所なのか気になるし。」

「じゃあ、決まり!じゃあ、いつに行こうかしら?」

「え、えと…、一週間後でもいいかな?」

「私はいいけど、ミアレムは?」

「大丈夫だぜ。その日は俺な班は仕事入ってないし。」

「そう。なら、一週間後にすけど。どうしてケイは一週間後がいいの?」

「そ、それは…。」

圭はこの時思った。『学校があるから』と言っても学校がわからないかもしれないと。でも同時に、素直に伝えたいという気持ちがあった。

「「ケイ?」」

「あ、ごめん。実は俺がいた世界と行き来が出来るかもしれなくて…。それによっては、俺、学校に行かないといけないから。」

「そうか。なら、ケイの都合に合わせながら、出かけようぜ!」

「そうね。」

「ミアレム、フィリア、ありがとう!」

「これぐらい、別にいいよ。」

「ケイ。行き来できるといいわね。」

「うん!」

圭は嬉しそうに微笑んでいた。

「でも、どうやって行き来するんだ?」

「ドアがあるかもしれない…。」

「「ドア?」」

「うん。夢かもしれないけど、『そなたのいる部屋にそのたの家のドアを転送しておく。』という言葉が聞こえたから。もしかしたら、ミアレムに貸してもらってる部屋にあるかも…。」

「確認してみようぜ!」

「うん。あ、でも、本当にあるかは不安だけど…。」

「大丈夫だよ。それに無かったら、俺が一生養ってやるし!」

「そ、それは迷惑なんじゃ…。」

「迷惑じゃねぇよ。」

「そうね。私がミアレムだったとしても迷惑だとは思わないわ。だから、確認が終わるまでは変に不安にならなくていいわよ。」

「…ありがとう。俺が出会った相手がミアレムやフィリアでよかった!」

圭は満面の笑みを浮かべ、心の底からの感謝が顔にあふれ出ていた。

「俺もケイに出会えてよかったと思ってるぜ。」

「私もそうよ。」

「うん!あ、そうだ!行き来できるって分かったら、俺の友達を連れてきていいかな?」

「いいぜ!ケイの友達は俺たちの友達も同然だ。」

「ありがとう!」

「それで、その友達はどういう子なのかしら?」

「えっと、匠斗といって、俺が7歳の時ぐらいからの友達なんだ。言い換えると、幼馴染みたいな感じかな?」

「「そうなんだ!」」

「それに匠斗は運動が得意で、俺のことを本当に友達と思ってくれている凄くいい奴なんだ。」

「そのタクトという奴は本当に圭にとっても大切な友達だって、わかる。」

「本当にその子を連れてくるときは紹介してほしいわ。」

「うん!紹介するよ!」

「よし!なら、俺はその時にパーティーでもできるようにしてやる!」

「いいわね!私も協力するわ!」

「二人とも!ありがとう!連れてくるときは言うね!」

「「おう!/えぇ!」」

ミアレムとフィリアはやる気が出たのか、匠斗が来たときどのようなサプライズをしようかはし始めた。圭はそんな二人を見て、『本当に行き来できたらいいな。それで、休日は色んな所に行ってみたいな。あ、他にも、俺の部屋に招待するのもいいな。』と思っていた。

「ケイ!」

「…!な、なに?」

「そろそろ行かないか?」

「えっ?どこに?」

「どこって、村の案内にだけど。」

「あ…。」

「忘れてたな?」

「う、うん…。」

「まったく。とりあえず、フィリアはこの後は仕事だから、案内は俺がする。」

「えっ?フィリアは仕事行っちゃうの?」

「そうなの…。ごめんね。」

「ううん、大丈夫。仕事だし…。」

「あ、でも、ミアレムが何かした時は頼ってね!」

「俺は何もしねぇよ!!」

「フィリア、大丈夫だと思うよ。ミアレムはそんなに嫌なことしてこないし。」

「そうね。意外と大切な友達に対しては人情が厚いからね。」

「意外は余計だ!」

「だって、ミアレムの場合、所々勢いだけでいきそうなんだもん。」

「あ、でも、言われてみれば俺もなんか心当たりあったりして…。」

「ケイもか⁉」

「いや、だって、出会った後のミアレムは勢いもすごかったけど、優しかったから。」

「あ、そういうことか。」

「そういうことだよ!それにミアレムのそういうところ匠斗になんか似てるんだよね!」

「似てる?そんなに似てるのか?」

「うん!勢いでぐいぐい来るのに優しいところとか特に似てるよ!」

「そうか。ありがとな!」

「うん!」

楽しそうに話しているとフィリアが立ち上がり、『私、そろそろ行くわね。あ、会計は済ませておくから安心してね。』と言った。

「フィリア、仕事頑張ってね!」

「頑張れよ、フィリア。」

「うん!ありがとう!頑張ってくるわね!」

フィリアが会計を済ませ、仕事に向かい、その場には圭とミアレムの二人だけになった。

「ケイ。俺たちもそろそろ行くか?」

「うん!あ、でも、どこに行くの?シャルガドたちとの約束にはまだ早いよね?」

「そうだな。まぁ、それなら普通に村中を見て回ろうぜ。」

「うん!」

「ついでに、いざという時ようでケイでも使えそうな剣でも作るか!」

「え、剣?」

「そう!護身用みたいなもんだけどな。」

「そ、そっか。でも、俺…、剣使ったことないけど…。」

「それなら、俺が稽古つけてやるよ。」

「ほんと!」

「あぁ。」

「じゃあ、剣作りに行こう!」

「あぁ。でも、実際は、俺たちが作るんじゃなくて、武器職人の奴が作るんだけどな。」

「知ってるよ!俺が、剣作れるわけないから!」

「まったく…。」

「ねぇ、ミアレム!早く行こうよー!」

気が付くと、圭は立ち上がりミアレムの腕を何かをねだる子供のように引いていた。

「分かったから!落ち着けって!」

「ご、ごめん。なんか、剣持ったりするの初めてで、楽しみで…。」

「まぁ、初めてのことが楽しみなのはわかるけどな。」

「うん!」

「さ、行くか!」

ミアレムも立ち上がり、フィオナとツェンに『ありがとうございました!』と言い、カフェを出た。

「よし!鍛冶屋に行くぞ!」

「鍛冶屋?って、鉄を打ったりするところ?」

「そうだ。」

「気になるなー。俺のいた世界には鍛冶屋とかあまりないから。」

「そうなのか?だとすると、ケイの世界には魔物とかいないのか?」

「ま、魔物?い、いるわけないよ!いるとしたら、動物だけど…。」

「動物?なんだそれ?」

「魔物とは少し違う生き物だよ!今度、写真を見せてあげるよ!」

「写真?」

「えっと、多分、実物見たほうが早いから、今度持ってくるよ!」

「おう!あ、もう着くぞ!」

ミアレムが大きな煙突のある工房を指さした。

「あそこが鍛冶屋…。」

圭は少し緊張してきた様子を見せた。そして、二人は鍛冶屋の前に着いた。

「あ、リコス!トーヤンはいるか?」

ミアレムは工房の手前で革などを扱っているエルフのリコスに声をかけた。

「トーヤンなら奥。呼んで来る。」

「ありがとな!」

リコスは工房の奥に行った。

「ねぇ、ミアレム。」

「どうした、ケイ。」

「なんか、リコスさんっていう人。変わった人だなって思って。」

「そうか?」

「うん。なんかつかみどころがないというか…。」

「誰がつかみどころがないんだ、お二人さん!」

「あ!トーヤン!」

「お!ミアレムか!今日はどうした?」

「今日はケイの護身用の武器を作りに来たんだ。」

「ケイ…?」

「あ、圭は俺です。」

「ふーん。…なんか、ひょろっちい体してんな。」

「そ、そうですよね…。俺、全然運動しないから。」

「おい、トーヤン!ケイが気にしちまってるだろ!」

「だ、大丈夫…。どうせいつものことだから…。」

圭はため息交じりに苦笑いした。

「まぁ、ひょろっちいのも別にいいんじゃねぇのか?」

「えっ…?」

「まぁ、一言でいえば、優しい体つきをしているということだ。」

「優しい体つき?」

「優しい体つきは力加減や本人の性格・人柄の現れでもある。だから、落ち込むな。自信を持て。」

「…はい!」

ミアレムは圭とトーヤンのやり取りを見て、”やっぱ、トーヤンの言葉はうまくできてるよな。というか、それを嘘だと疑わない圭の純粋さは一体…?”とちょっと呆れながらも二人の会話を邪魔しない程度に見ていた。

「それで、どんな感じの武器がいいんだ?」

「え、えーと…。」

「ケイでも扱いやすい軽めなものがいい。」

「なるほどな。わかった。いくつか候補を作っておくから、完成したものを見て決めてくれ。」

「ということは、今日中は無理だな。」

「そ、そうだね。」

「ま、その分いいもん作り上げっから気を落とすなよ?」

「うん!」

「んじゃ、俺は仕事があるから、工房に戻る。また用があったら、呼んでくれ。」

「はい!ありがとうございました!」

「トーヤン、ありがとな。」

トーヤンは軽く手を振り返し、工房の奥へと戻っていった。

「さ、俺たちもそろそろ行くか。」

「うん!」

「ん?ミアレムにケイ?」

歩き出そうとした瞬間、声をかけてきたのは見覚えのある顔だった。

「「あ!シャルガド!」」

偶然通りかかったのはシャルガドだった。

「二人とも、こんなところで何やってるんだ?」

「圭の護身用の武器をトーヤンに頼みに来たんだ。」

「そうか。どんな武器を頼んだんだ?」

「ケイでも扱いやすい軽めの武器。」

「なるほど。でも、トーヤンならいいもん作ってくれるかもな。」

「あぁ!だから、直接頼んだんだ。」

「ふーん。いいもんできるといいな。」

シャルガドは圭の頭に手を置き、微笑んだ。

「うん!でも、いいものを作ってもらえるのはミアレムがここに案内してくれたからだよ。」

「だってさ。」

「ケイ、俺はただ案内しただけだぞ?」

「それでも、ミアレムのおかげだよ。だって、俺一人だと迷ってたから…。」

「確かにそうかもな。なぁ、シャルガド。」

「そうだな。それに、ケイはまだ村のことあまり知らなさそうだからな。」

「だよな。」

「そ、それはそうだよ。昨日来たばっかりなのに。」

「ま、だから、案内してるんだけどな。」

ミアレムが二っと笑うと、圭は『もう…。』と言いながらも笑っていた。

「おい。それよりもそろそろ行くぞ。」

「ん?まだ早いだろ?」

「えっ?行くってどこに?」

「「集合予定の場所。」」

きょとんとしていた圭に向け、二人は声をそろえてそういうと、『息ぴったりだね!』と圭は笑っていた。

「何笑ってんだ!」

ミアレムは圭のわきに手を突っ込み、くすぐり始めた。

「あははは!!はは!!や、やめっ!!」

「やめてほしいか~!!」

ミアレムは笑いながらくすぐり続ける。

「やっ、やめ!!あははは…!!!」

「おい、ミアレム。そろそろやめてやれ。」

「仕方ないなぁ。」

ミアレムは圭をくすぐるのをやめた。

「は、はぁ…。」

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫…。ありがとう、シャルガド。」

「ミアレム、やりすぎはよくないぞ。」

「…ごめん。ちょっと調子に乗りすぎた…。」

「いいよ。それと、俺もなんかごめんね。」

圭とミアレムがお互いに謝りあっているのを、シャルガドは『この二人、いがいとばかなのか?ミアレムは元々馬鹿だけど。』と心の中で思いながら二人を見つめていた。

「おい。仲直りは済んだか?」

「喧嘩じゃねぇよ。」

「うん。喧嘩はしてないから。」

「そうか。なら、いくぞ。早めに始めたほうが長く楽しめるだろ?」

「お!そんなら早くいくぞー!」

「えぇ!ちょっと待ってよー!」

圭は走って、先に行こうとするミアレムとシャルガドを追いかけた。

『なんかこの感じ…。楽しいな…。』と思いながら、笑顔で走る圭。そして、約5分後…。目的地である集合場所に着いた。

「来たか。」

「もうお前ら来ていたのか。」

「当たり前。」

「そうですね。だって、シャルガドが集合時間を早めたのですから。」

「なるほど。だから、シャルガドは俺たちをここに連れてきたんだな?」

「まぁ、別にいいだろ?なぁ、ケイ?」

「う、うん!それに、みんなといっぱい話したい!」

圭のその一言により、その場にいる全員が少しテンションが上がった。その中、一人無言のオルトンが圭に近寄った。

「ケイ…。これ…。」

オルトンが圭に向け差し出したのは、小さい水色の鉱石を使ったペンダントのようなものだった。

「わぁ!すごくきれい!でも、もらっていいの?」

オルトンは無言でうなずき、圭はそのペンダントのようなものを受け取った。

「オルトン。これをいつ用意したのですか?」

「今日…歩いてたら…偶然…。」

「そうですか。」

「ケイ、つけてみろよ?それ、男物だし、結構似合うと思うぜ。」

「そ、そうかな…?」

「貸してみな?つけてやるから。」

「う、うん…。」

圭はシャルガドにペンダントを渡し、シャルガドは圭の首にペンダントを付けた。

「よい、できた。」

「ありがう、シャルガド。」

「あぁ。」

ペンダントを付けた圭を見て、ミアレムは『超似合ってる!』、アリキナは『よくお似合いですよ。』、ドラは『普通に似合ってる。』、オルトンは『選んで…良かった…。』とそれぞれ思い思いにコメントしていた。

「みんな、ありがとう!」

「お礼はまだ早いぞ。」

「そうですね。」

「早く…行く…。」

「行って仲を深める。」

「ケイ!一緒に行こうぜ!」

「うん!」

圭はミアレムに手を引かれ、6人はその近くにあるレストランへと入った。

「いらっしゃいませー!って、ケイにミアレム?」

「あ!フィリア!ここで仕事してたんだ!」

「う、うん…。まぁね。」

「そういや、忘れてたな。」

「はぁ…。まったく。とりあえず、席に案内します。」

フィリアは圭たち6人を席に案内した。

「フィリア、ありがとう!」

「席に案内しただけでお礼言わないの。」

フィリアは人差し指で圭の額をつついた。圭はぽかんとしていた。

「なぁ、ミアレム。もしかして、ケイって、純粋さに合わせて天然とか持ち合わせてないよな?」

「さ、さぁ…?どうなんだろうな?」

「おいおい。そこは認識しておいてくれよ…。」

ミアレムとシャルガドがこそこそと話していると、圭が『あ!そうだ!何か注文しようよ!せっかくフィリアがいるから。』と話を切り出した。それに対して他の奴らは、『そうだな。/そうですね。』や『賛成…。』と反応した。

「それで、何頼むんだ?ジュースと酒は決定だとして。」

「あ!俺、このお店のおすすめ料理食べてみたい!」

「おすすめかぁ…。フィリア、なんかあるか?」

「おすすめは、アルドルのお肉の燻製と野草パスタかしら?」

「野草パスタ?」

「そう。食べられる野草を使ったパスタよ。」

「そうなんだ!食べてみたいなー!」

「じゃぁ、アルドルの燻製を6人前と野草パスタは5人前でお願いします。」

「フィリア!あと、このサラダを6人分頼む。」

「わかった。それじゃあ、注文の確認だけど、ジュースは圭の分だけで、他の5人はお酒。それと、アルドルの燻製とサラダが6人前と、野草パスタを5人前で大丈夫かしら?」

「おう。大丈夫だ。」

「じゃあ、私は戻るわね。」

「うん!」

フィリアは受けた注文を厨房に伝えに行った。

「そう言えば、ケイってどういう経緯で来たんだ?」

「実は、家の玄関がこの世界につながってたのが気になって踏み込んだんだよね。」

「すごいな。」

「探検気分や好奇心って本当にすごいですね。」

「いや、すごくないよ…。行く方向分からないし、結果的にミアレムに助けてもらっちゃったし…。」

「そうか?俺は今、圭がここにいてよかったと思うぜ。だって、すげー楽しいし!」

「俺もミアレムに賛成。」

「それなら、僕も賛成です。」

「私もだ。」

「俺も…。」

「みんな…!俺、この世界に来てよかったよ!」

圭の満面の笑みを見た、ミアレムたちは微笑み一人ずつ圭の髪をわしゃわしゃした。

「な、何するんだよ…。」

圭は少し男口調で、頬を膨らませ、怒っていた。それに対しては、それぞれ謝るが、圭の男口調がちょっと圭の雰囲気からは珍しいと思い、心の中で『やっぱり、ケイも男だ…!』となぜか感動していた。

「ねぇ、なんか失礼なこと考えてる?」

「か、考えてない!」

ミアレムのその一言に続けて他の4人はうなずいた。そして、同時に、圭のごくまれに鋭い何かに気づかされた。

「ふっ…!ははは…!ちょっと男口調にしてみただよ。」

「えっ?」

「なんだ。ケイが男として成長したのかと思った。」

「俺は元々男だよ!」

「そうだよな!」

「でも…、似合ってた…。」

「そうですね。若いからこそのいい雰囲気がありましたよ。」

「ありがとう!また、やれそうなときにでもやるね。」

「や、やるのはいいけど…。今度はからかうことはするなよ。」

「はーい!」

ワイワイ話していると注文していた料理が来た。

「わー!すごくおいしそう!」

「男口調よりもこっちのほうがケイって感じがするな。」

「ん?」

「俺もケイは圭らしくいたほうがいいと思う。」

「シャルガドも!!ねぇ、俺らしいって何?」

「ケイのいつも通りじゃないのか?」

ミアレムとシャルガドの言葉が何なのかわかっていなかった圭に、ドラが救いの手を差し伸べた。

「いつも通りの俺…。なんかわかった気がするけど、なんかごちゃごちゃしてきたから、考えるのやめて食べよーっと!」

「そうだな!」

圭たちはいただきますをして食べ始めた。圭はまず初めにアルドルの燻製を一口食べた。

「…!おいしい!!」

「だろ!ここの料理っていつもうまいんだよな!」

「そうなんだ!俺、他の料理も食べてみたいな!」

「ケイはやっぱり食べ盛りだな!」

「た、食べ盛りじゃなくて、成長期だよ!!」

「どっちも同じだろ?」

「同じじゃないよ!」

「そうですね。食べ盛りは一番食べる成長期のことで、成長期は普通に成長する時期のことですよ。」

「……やっぱり同じような…?」

「ま、そんな話は放っておいて、食って、飲もうぜ!」

「うん!」

そんなこんなで時間が過ぎていき、解散したのは二時間後だった。圭たちは別れ、圭とミアレムはミアレムの家に帰った。家に着くとミアレムは『圭が本当に元の世界に戻れるか確認してみようぜ。』とやる気満々に提案した。

「うん!俺もそれは本当に気になるから。」

「よし!早速、圭の部屋に行くぞ!」

圭とミアレムは圭の部屋(ミアレム宅)に入った。すると、その部屋の奥にあるはずもないドアがあった。

「これが例のドアか…。」

「うん…。」

「よし!開けよう!」

「えっ…?」

「何事もやってみろだろ?」

「そ。そうだね…。」

圭はドアの前に行き、一度深呼吸をし、ドアを開けた。

「えっ…?俺の家の玄関だ…。」

「良かったな,ケイ。」

「うん!あ、そうだ!また明日も来ていい?」

「いいぜ!来たいときはいつでも来いよ!」

「うん、ありがとう!それじゃあ、おやすみ!また明日!」

「おう!おやすみ!」

圭は玄関に入り、ドアを閉めた。

そして、圭の去った部屋でミアレムは、『ケイが行き来できてよかった。せっかく、友達になれたのにな…。』と少し寂しそうな表情を浮かべていた。

圭の方は、圭が帰ってきたことに気づいた母親が『あら、圭。おかえりなさい。』と出迎えた。圭は『ただいま!』と笑顔で答えた。母親が『ご飯は?』と聞くと、『あ、ご飯は友達の家で食べてきたから大丈夫だよ!』と答え、圭は自分の部屋に行った。

そして、圭は未使用のノートを取り出し、そこにミューサの森での出来事を書き記した。

「今思い返せば、ミアレムたちとの思い出が少しだけだけどできたな…。また明日も、楽しいことがあればいいな。ミアレムたちと一緒に…。」

圭は明日以降のことに関して思いを深め、風呂に入るなどをして眠った。


(まぶた)の裏に描かれるのは昨日今日の思い出。圭の異世界への旅は始まったが、これはまだまだ始まりに過ぎないことを今の圭は知らない。

登場キャラ紹介

一人目はラティーユ。丁寧で優しい。キョウの雇い主であり、キョウと共に暮らしている同居人。


二人目はキョウ(岡本 恭)。クールで、真面目な性格。服作りに対するこだわりが強く、元々の世界ではアパレル関係を目指していた。


三人目はウェル。ちょっと天邪鬼だったりする。


四人目はメノン。シャイな、純粋な男のエルフ。


五人目はフィオナ。フィリアの姉で、おしとやかで、優しい。旦那はツェン。


六人目はツェン。フィリアの義兄で、親切で誠実。妻はフィオナ。夫婦でカフェを営んでいる。


七人目はトーヤン。サバサバした性格をしている。武器作りを専門にしている。


八人目はリコス。無口だが、口を開くときは開く。防具作りを専門にしている。


時永ショウです。

更新遅くなってすみません。色々と忙しく、作成時間が取れなかった関係でおくれました。

一応、今後の予定としては5話投稿後に5.5話として圭を見ているトウマたちの視点を描こうと思います。

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