第3話ミューサの森で...(前編)
圭は草原に足を踏み入れた。そして、そよ風が気持ち良かったのか、寝転がった。
「すごくいいところだな~!」
圭は呑気にくつろいでいたが、ふとここに来た目的を思い出し、立ち上がった。
「のんびりしてる場合じゃなかった!でも、そよ風とか草の感触が気持ち良かったなぁ~!」
圭は伸びをして、体を少し起こしたところで、周りを見渡した。
「な、何もない...。」
周りには町や森は見当たらなく、ただ草原が広がるだけだった。圭は試しに方角を気にせず、歩き出した。
(どの方角なんだろ...?上に向かって歩いてみたけど...。)
そして、10分ほど歩いてみたところで立ち止まった。改めて、周りを見渡して見ると遠くに森のような面影が見えた。
(森だ...。もしかして、朝の森かな...?よし。行ってみよう。)
圭は一歩踏み出した。すると、後ろから何かが走ってくるような足音がしてきた。圭は恐る恐る後ろを向いた。すると、黒い毛深いイノシンのようなものの群れが圭の方に向かって走って来ていた。圭は怖くなり、走って逃げた。
(うわぁぁぁ~!!なんなんだあの群れ~!!俺に向かって走って来るよ~!!)
圭は必死に走って逃げている。だが、距離を詰められるばかりで、圭は体力を消費するだけだった。
(も、もうそろそろ限界...。誰か...、助け...て...。)
圭が失速してきたところで、馬の走る音が聞こえた。
「そこを走ってる少年!手を上に伸ばしてくれ!」
圭はその言葉を信じ、手を上に伸ばした。すると、その時、馬に乗ってる男(?)は圭の手首を掴み、気が付いたら体が浮いて、馬の上に乗せられた。
「大丈夫か?」
「は、はい!」
「そうか。おい!俺は、アルドルに追われてた子を助けた!とりあえず、先に村に戻る!」
「「わかった!」」
その男は仲間のように思われる奴らと離れ、森へ入っていった。
「あ、あの...、どこに向かってるんですか...?」
「どこって...、俺が住んでる村だけど。」
「村...?」
「そう!このミューサの森の中にあるから、着けばどんなところかわかるよ。」
圭は男の言うことを信じ、村に着くのを待った。そして、馬に乗ってから8分ぐらい経った頃、開けた場所に出た。開けた場所には家などがあり、ここが村であることはわかった。すると、男は馬を止めた。
「着いたから、降りるぞ。」
「は、はい!」
男が馬から降りた後に、圭も馬から降りた。
「ここが村...。」
圭は周りを見た。周りには家や工房、店といった建物があった。家は普通に地面に建てられてるものもあるが、森の中ということを利用したツリーハウスのような家が多かった。
「いいところだろ?」
「はい!」
男の顔を見ると人間よりも長い耳をしていた。多分、それは物語などで言うエルフなのだろう。
「あ、あの!」
「ん...?」
「さっきはありがとうございました!その...、危ないところを助けてもらって。」
「あれぐらいは大丈夫だ。それよりも、無事で良かったよ。」
男は圭の頭に手を置き、微笑んだ。
「そういえば、行く宛はあるのか?」
「...ないです。」
「なら、俺の家に来いよ。」
「いいんですか?」
「あぁ。これから暗くなってくるからな。」
「あ、ありがとうございます!」
圭は男に向かって、思い切り礼をした。
「礼なんかいいよ。困ったときは助け合うだろ?」
「はい!」
「んじゃ、そろそろ家に行くぞ。」
男は家に向かって歩き出した。圭は男についていくように歩き出した。
「あ、一旦、馬を小屋に入れて来るよ。」
男は馬を馬小屋に連れて行き、小屋に入れた。そして、男は小屋のすぐ隣にある梯子を登った。それを見た圭は、男続いて梯子を登った。登った先には立派なツリーハウスがあった。圭はあまりの凄さにそのツリーハウスを指差していた。
「もしかしてだけど...、ここが家...?」
「そうだけど。」
「す、すごい...!」
「...そうか?普通だと思うけど。」
「そ、そうなんですか...。」
圭は価値観の違いに戸惑いを隠しきれずにいた。
「まぁ、ここで立ち話も何だから、中に入れよ。」
男はドアを開け、圭を招き入れた。内装は洋式の家のようで、くつを脱がずに入れる家だった。
「イスに座って話すか!まだ自己紹介もしてないし。」
「はい!」
リビングだと思われるところに木で作られた長椅子があった。圭と男はその長椅子に座った。
「んじゃ、自己紹介でもするか。俺はミアレム!見ての通りエルフだ。お前は?」
「お、俺は浅間圭です。人間です...。」
「へぇー!じゃあ、ケイって呼ぶな!あと、堅苦しいのは無しだからな!」
「はい...、じゃなくて...、うん!」
ミアレムは圭を見て思い切りニッと笑った。そんな、ミアレムを見て、圭は誰かに似てるなと思い、気がつけば笑みがこぼれていた。
「今のケイ、笑ってたぞ。」
「あ...、本当だ!ミアレムのおかげだよ!ありがとう!」
「このっ...!」
ミアレムは笑いながら圭の髪をわしゃわしゃした。圭は『やめろよ~!』と言いながらも、笑っていて、楽しそうにしていた。そんな姿に打ち解けてきている様子が見えた。
「髪、すごいことになったな!」
「だって、ミアレムがわしゃわしゃしたからじゃん!」
圭とミアレムは互いに顔を見合わせて笑っていた。
「ケイ。俺たちはもう友達だ!」
「うん!」
互いの拳を合わせて、『もう友達だ!』という儀式みたいなことをした。
「なぁ、圭。さっき、なんでホノの大草原にいたんだ?それとアルドルにも追われてたけど。」
「ホノの大草原...?アルドル...?」
「ホノの大草原は圭のいた場所。アルドルは圭が追われていた獣だよ。」
「あ!それか!」
「そう!それだ!」
「思い出した...。ホノの大草原にはなぜか家のドアが繋がってたから、いただけ。アルドルは...、なぜか追われてた。」
「なるほど...。となると、ケイは異世界から来たのか?」
「うん...。」
「そうか。なら、この世界での衣食住は俺が保証してやる!」
「ミアレムっ!ありがとう!!」
ケイは嬉しさのあまり、勢いでミアレムに抱きついていた。
「おう!んじゃ、今日はアルドルの肉でごちそうするか!」
「え...?アルドルって食べれるの...!?」
「食べれるぞ?」
「マジ...?」
「マジだ。アルドルは基本食用だ。」
「......」
圭は驚きのあまり無言になっていた。
「ケイ!大丈夫か?息してるか?」
「えっ!?あ、だ、大丈夫!ただ、アルドルって美味しいのかなって思ったから...。」
「そんなことか!アルドルはすごく美味いぞ!」
「そうなの?」
「あぁ。なら、今日の夕飯として、アルドルの肉を使った料理をたくさん作ってやるよ!」
「う、うん!ありがとう!」
圭はアルドルの肉がどんな料理になるのか少し怖くなってる。
「怖がらなくて大丈夫だよ。アルドルの肉はちゃんと食える味だから。」
「う、うん...。わかった。」
そんな話をしてるとグゥ~っとお腹がなった。圭は少し恥ずかしがりながらも、お腹のあたりをおさえていた。
「そろそろ腹が減ってきたようだな。んじゃ、急いで用意するから、待っててくれ。」
「え?俺も手伝っちゃダメ?」
「...手伝ってもいいけど、ケイは客人だから...。だから、必要な時に言うから、キッチンにはいてくれないか?」
「うん!わかった!」
ミアレムと圭はキッチンに行った。キッチンはコンロというよりは釜戸に近い感じだが、水は水道に近いものがあった。冷蔵庫はクローゼットのような空間に野菜などを入れ、桶に氷を入れて涼しくしている感じのものだった。そして、ミアレムは冷蔵庫から野菜などを出し、切り始めた。圭は邪魔にならないように椅子に座った。
「何ができるのかな~?」
「それはできてからのお楽しみだよ。」
「え~!少しだけでも教えてよ~!」
「やだ!教えなーい!」
そんな会話に笑いがこぼれる2人。そんな時、ドアをノックする音が聞こえた。
「ケイ。誰が来たか見てきてくれないか?」
「うん!」
圭は玄関の方に行き、ドアを開けた。そこには1人のエルフの少女がいた。
「あ、あの...。」
「あの、ミアレムはいる?あと、あなたは誰?」
「俺は浅間圭です...。ミアレムなら、キッチンの方にいますけど...。」
「そう。」
話していると、ミアレムが釜戸の火を消し、キッチンから出てきた。
「誰かと思ったら、フィリアだったか。」
「まったく...。はい、これ。りんごのジャム作りすぎたからお裾分けにきたのよ。」
「そうだったのか。ありがとな。」
ミアレムはジャムの入ったビンを受け取った。
「あ!そういえば、こいつを紹介していなかったな。」
「ケイくん、でしょ?」
「な、なんでわかるんだ...?」
「だって、さっき名乗ってもらったもの。ね?ケイくん。」
「は、はい。」
「そう言うことだったのか...!」
「そう言うことよ。」
ミアレムは何故か1人悔しがっていた。それが面白かったのか圭とフィリアは笑っていた。
「わ、笑うな~!」
「ご、ごめん...!でも、本当に面白いから...!」
圭は謝りながらも堪えきれずに笑い続けている。
「ケイくん...。わ、笑いすぎ...よ...。」
「ふぃ、フィリアさん...こそ...。」
圭とフィリアは所々堪えながらも、笑っていた。それに対し、ミアレムは恥ずかしさからか顔を赤くしていた。
「ミアレム、どうしたの?」
「何もない...。」
「ミアレム、顔赤いわよ?」
「うるさい。というか、2人共。お前ら、本当に笑いすぎだ!!俺は普通のことしか言ってなかっただろ!」
「え?知ってるけど。」
「そんなこと、最初から知ってたわよ。」
「え...?じゃあ、なんで...?」
圭とフィリアは平然としているのに対し、ミアレムは1人で困惑していた。
「なんか、ミアレムが困ってるから教えとくね。ミアレムが何故か1人で悔しそうにしてるところやそのときの表情とかが面白かったから、笑っていたんだ。ね、フィリアさん!」
「えぇ。だって、私もケイくんも、あなたを騙したり、悔しがらせようとしていたわけじゃないもの。」
「あ、でも、俺はフィリアさんの名前を知ったのはミアレムがフィリアさんを『フィリア』と呼んでたからだけど。」
「そう言えば、ケイくんに直接名乗ってなかったわね。改めて、私はフィリア。さっきは一緒に笑えて楽しかったわよ!」
フィリアは微笑んだ。圭は一瞬、その微笑みにドキッとトキメいた。そんな圭を見て、ミアレムはいかにも仕返しみたいにニヤニヤしていた。
「ミアレム。あなた、何、ケイを見てニヤニヤしているのかしら?」
「え、いや...。ただ、ケイがフィリアの微笑みにトキメいていたから...。」
「ふぇっ!?そ、それはその...。」
「ケイ、隠すなよ。」
「か、隠してない...!!」
「ねぇ、ケイ。本当にトキメいていたの?」
「す、少しだけ...。」
圭は頬を赤くし、俯いた。
「ケイ、ありがとう!正直に言うと嬉しいわ。」
「そ、そっか...。」
「ケイは純粋で正直だな!それに正直に思ったことを言うことはいいことだ!だから、照れんな!」
ミアレムは圭の背中をバシッと1回叩いたが、圭にとっては力が強すぎたのか、圭は背中のあたりをおさえて、痛そうにしていた。
「い、痛い...。」
「ケイ、大丈夫?
ミアレム、強く叩きすぎなんじゃないの?」
「...そうだな。ケイ、ごめん!力加減してやれば良かったよな...。」
「だ、大丈夫だよ...!時間が経てば痛みはひくと思うから。」
「そうか...。」
ミアレムは『力加減すべきだったな...』と今さっきのことをすごく気にしていた。
「はぁ...。ミアレム。そんなに気にするのなら、最初から手加減できるように、手加減というものを覚えなさい。」
「あぁ。そうする...。」
ミアレムは少し考え込んだ。その時、圭のお腹がグゥ~っと鳴った。
「あ、あはは...。」
「そろそろ夕飯にでもするか。フィリアも食ってくだろ?」
「2人の邪魔じゃないなら、食べて行こうかしら。」
「んじゃ、急いで作ってた料理を仕上げたり、温めたりするから適当にそこら辺にある椅子にでも座っててくれ。」
ミアレムはキッチンに行き、料理の仕上げなどを開始した。その間、圭とフィリアは椅子に座って話すことにした。
「そう言えば、さっき話してる際に私のことをさん付けしていたよね?」
「う、うん...。ダメだった...?」
「ダメというわけじゃないけど、ミアレムと同じようにさん付けとかは無い方が嬉しいかな?」
「じゃあ、フィリアって呼んでいくよ!」
「ありがとう!私もケイって呼ばせてもらうわね!」
「うん!」
圭とフィリアは普通に話していた。フィリアは圭の服に少し目を向けた。すると、圭の服はうっすらと汚れていた。
「圭、服が少し汚れているようだけど、替えはあるの?」
「な、ないけど...。」
「じゃあ、明日、服を買いに行きましょ!」
「え...、いいの?」
「いいわよ。だって、いつまでも薄汚れた服じゃ嫌でしょ?」
「う、うん。でも、本当に買ってもらっていいのかな?」
「大丈夫。そうじゃなかったら提案してないもの。」
フィリアの優しい笑みを見て、圭の中の『本当に買ってもらっていのか?』という不安が少しずつなくなっていった。
「そう言えば、圭はこの世界のお金は持ってるの?」
「え?持ってないけど。どうして...?」
「ケイはこの世界に住む人間とはちょっと違うような感じがして。」
「そっか。ねぇ、フィリア。俺...、実はこの世界とは別の世界から来たんだ。」
「そう。」
「何も思わないの?」
「思わないわよ。だって、ケイはケイだから。」
「...ありがとう。」
「おーい!料理できたぞー!」
ミアレムが料理を持ってキッチンから出てきた。そして、次々とテーブルに料理を並べていった。
「わぁ~!すごく美味しそ~!!」
圭は目を輝かせ、今すぐにでも食べたいという雰囲気を出していた。
「ケイ、食べていいぞ。腹減ってたんだろ?」
「うん!それじゃあ、いただきます!」
圭はアルドルの肉を焼いたものをフォークで1つ取り、1口食べた。
「ケイ、どうだ?」
「すごく美味しい!これ、アルドルの肉なんだよね?」
「あぁ。アルドルの肉を軽く味付けして焼いたやつだ。」
「そっか!アルドルは追いかけてくるとすごく怖いけど、こんなに美味しかったんだ!」
「そうだ。だから、俺たちはアルドルをたべるんだ。」
「うん!あ、ミアレムとフィリアも食べよ!」
「そうだな。」
「えぇ。」
圭に続き、ミアレムとフィリアも食べ始めた。ちなみに、テーブルにはアルドルの肉を焼いたものの他に、スープや木の実を使ったパン、サラダが置かれていた。
「相変わらず、ミアレムの料理は上手いわね。」
「そうか?普通だと思うけど。ケイはどう思う?」
「俺は...、こんなに美味しい料理が作れるミアレムはすごく料理が上手いと思うよ!」
「そ、そうか!ケイがそう言うなら、俺は料理が上手いのかもな!」
ミアレムはフィリアに言われるよりも圭に言われる方が嬉しそうだった。しかし、フィリアはそれを見逃さなかった。
「ねぇ、ミアレム。ケイに褒められた方が嬉しそうだったのはなんで?」
「それは、ケイが初めて俺の料理を食べたこともあるけど、1番はケイの腹が素直に鳴っていたから。」
「あ、あれは...!」
「あれは...?」
ミアレムは恥ずかしそうにする圭にいじわるをするようにニヤニヤしていた。
「ミアレム、性格悪いわよ。それにケイが可哀想よ。」
「...ごめんな。ケイ。」
「...ミアレムのバカ。俺はただお腹が減ってただけなのに。」
「そ、そうだよな。それを知っている上でからかって、本当にごめん!」
ミアレムは立ち上がって、圭に深々と頭をさげた。
「ミアレム...。頭あげてよ。大丈夫だから。」
圭はミアレムが本当に反省してると思ったのか、機嫌がなおってきた。そして、微笑んでミアレムを許した。ミアレムは顔を上げた。
「ケイ...!許してくれるんだな...!」
「うん!だって、反省してるように思えたから。」
「うぅ...。ケイの背中に天使の羽が...!」
「ミアレム。あなた、目、大丈夫?ケイは本物の天使じゃないのよ。」
「本物...?ねぇ、この世界には本物の天使がいるの?」
「えぇ。いるわよ。確か...、エンデランという島にいるらしいけど。でも、エンデランという島が本当にあるかどうかすら、今となっては不確かなことだけど。」
「そっか。ありがとう。」
(エンデラン...。聞いたことがあるようなないような...。)
圭はどこで聞いたことがあるのか思い出そうと、考え込んだ。
「ケイ。一旦、考えるのはやめて早く食べようぜ!」
「あ...、うん!」
圭たちは料理を食べ進め、約10分後ぐらいに完食した。
「「ごうちそうさま!」」
ミアレムは立ち上り、皿を重ね始めた。圭も手伝うために立ち上がった。
「ミアレム、俺も手伝うよ!」
「ありがとな。じゃあ、この皿を持って行ってくれ。」
「わかった!」
圭は平たい皿が6枚重なったのを持ち、落とさないように慎重にキッチンへ運んだ。
「仕方ない。私はお皿を洗うわ。」
「フィリア、ありがとな。」
フィリアは立ち上がって、キッチンの方へ行った。すると、圭が水で皿を洗っていた。
「あ、フィリア。どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ。まったく...。とりあえず、洗ったお皿ちょうだい。拭いていくから。」
「うん!」
圭は洗った皿をフィリアに1枚ずつ渡し、フィリアはそれを近くに皿を拭く用をタオルで拭いていった。
「この皿も頼む。」
ミアレムは残りの皿を持ってキッチンにきた。
「うん!任せてよ!」
「おう!って、フィリアが洗うんじゃなかったのか?」
「そのハズだったんだけど、圭が先に洗ってたから。」
「そうだったのか。」
「ご、ごめん...。」
「大丈夫わよ!ね、ミアレム?」
「あぁ。だって、ケイは素直な気持ちでやってくれてんだから。」
「ありがとう!」
圭は微笑み、皿を洗っていった。そして、フィリアが皿を1枚ずつ拭いていった。
「...終わった~!」
「ケイ、お疲れさん!」
ミアレムは圭の頭を撫でた。
「あ、そう言えば、ミアレム。明日はケイを借りるわね!」
「なんで?」
「それはケイが持っている服が今着ているのしかないから、服を買いに行くのよ。」
「...なら、俺もついて行く。」
「でも、ミアレムは仕事があるわよね?」
「そ、それは...。なら、フィリアの方はどうなんだよ!」
「私は夕方からだから、大丈夫わよ?」
「じゃあ、俺は班の奴らに頼んでみる...。」
「そう。」
「あ、なら、今日は俺の服を貸す!」
「でも、ミアレムの服だと大きいんじゃないかしら?」
「少しぐらいなら、大丈夫だろ!」
「う、うん。多分、大丈夫だと思う...。」
圭は自分とミアレムの体格や身長から、本当に大丈夫か不安になっていた。
「...あ!そう言えば、ミアレム。あなた、着れなくなったから誰かに譲ろうとしていた服があったわよね?」
「あー!そう言えば、あったな!んじゃ、それをケイに貸すよ!」
「ありがとう!」
「んじゃ、持ってくるな!」
ミアレムは圭に貸す服を取りに行き、服を持って戻ってきた。
「一旦、着てみるか?」
「うん!」
圭はミアレムから服を受け取り、試着のために空いている部屋に入り、着替えた。
「ケイ、着替えられたか?」
「うん!大丈夫だよ!」
圭は部屋から出てきた。服のサイズは少し大きめだったが、普通に着れるぐらいの大きさだ。
「あまり大きすぎなくて良かったわね!」
「フィリアとミアレムのお陰だよ!」
「俺よりもフィリアに礼をしてくれ。着れなくなった服のことを思い出させてくれたんだから。」
「でも、ミアレムが思い出して持ってきてくれなかったら、ぶかぶかの服を着てたはずだから、ミアレムにもお礼したいよ!」
「ケイ...!ありがとな!」
「ありがとうは俺の台詞だよ!」
「...そうだな!」
「話してるところ悪いけど、私、そろそろ帰るわね。」
「あぁ。」
「フィリア、今日は本当にありがとう!」
「えぇ。それじゃあ、また明日。」
フィリアはミアレムの家から出て、帰っていった。
「さてと、俺たちは温泉にでも行くか!」
「えっ?この世界にも温泉ってあるの?」
「あるぜ!自然に湧き出たやつだけどな。」
「そうなの!?すごく気になる!!」
「なら、行くか!」
「うん!」
圭とミアレムはタオルなどの必要なものを持って、家を出た。圭はミアレムの案内に従いながら、温泉へと向かった。すると、一本道に出た。
「ここからはまっすぐだ!走るぞ!!」
ミアレムは走り出した。『あ!ミアレム、待ってよ〜!』と圭も走り出した。
そして、走った先に薄っすらと明かりが見えてきた。
「はぁっ…はぁっ…。ミアレム、早いよ…。」
圭は段々とバテてきていた。
「ケイ、大丈夫か?」
「む、無理…。もう…走れない…。」
圭はその場に立ち止まった。ミアレムは圭に駆け寄った。
「温泉まであと少しだから、歩くか。」
「う、うん。」
圭とミアレムは歩き出した。そして、少し歩くと開けた場所に着いた。そこには温泉と脱衣等のための小屋があった。
「ケイ、小屋行って、服脱ぐぞ!」
圭はミアレムの言う通りに小屋に行き、服を脱いだ。圭は服を脱ぎ終えると腰にタオルを巻いた。
「ケイ。なんで、タオルを腰に巻くんだ?」
「少しでも露出を減らしたいから…。あ、でも、入る直前には取るから大丈夫だよ!」
「そうか!なら、俺も真似しようかな?」
ミアレムは圭のように腰にタオルを巻いた。
「こんな感じか?」
「うん!そんな感じだよ!」
「そっか!じゃあ、温泉に入るか!」
圭とミアレムは小屋から出て、温泉の近くにいった。そして、腰に巻いていたタオルを取り、温泉の中へと入った。圭とミアレムはある程度中まで行き、肩まで浸かった。
「温かいし、気持ち良い〜!」
「だろ!ここは俺たちにとっての憩いなんだ!」
「そうなんだ!あ、でも、女性の方とか来ないよね…?」
「来ねぇよ。だって、女用は別であるし。」
「そ、そうなんだ!良かった…。」
圭はホッとしたような表情をしていた。
「なんだ?もしかして、美女が入ってきた方が良かったのか?」
ミアレムは圭を見てニヤニヤしていた。
「ち、違うよ!ただ、そうだったらタオル巻いたまま入るとか配慮しないとって思ったから…。」
圭は顔を赤くして、口が隠れるぐらいまで浸かった。
「そうか。なら、気兼ねせずに裸の付き合いができるな!」
「う、うん!」
圭たちが裸の付き合いで盛り上がろうとすると誰かが入ってきた。
「なんか盛り上がってるな!おふたりさん!」
入ってきたのは4人の男性エルフだった。
「ん?あ、シャルガドたち!」
「お!ミアレム!お前だったのか!」
「あぁ。」
「じゃあ、そっちは今日助けた子かな?」
「そうだ。ケイ、こいつらは俺の仲間だ。」
「え、えっと、浅間圭と言います!よろしくお願いします!」
「よろしく!って、名乗らないとな!俺はシャルガド。」
「僕はアリキナと申します。よろしくお願いします!」
「私はドラ。よろしく。」
「オルトン…。よろしく…。」
「よ、よろしくお願いします!」
圭はシャルガドたちに頭を下げた。
「そう言えば、さっきの様子を見てるとすごく仲が良さそうだったけど、どうしてかな?」
「どうしてって…、ミアレムが馴染みやすい雰囲気を作ってくれたからです!」
「ケイ…!」
「なるほどね。でも、本当にそれだけ?」
「えっ…?」
シャルガドは圭のことを疑っていた。1日で仲良くなることにどんな手を使ったかもわからないからこその疑いをかけていた。だが、一方でミアレムの機嫌は少しずつ悪くなってきていた。
「……。」
「答えられないんだ。」
「おい!やめろよ。ケイは俺の友人だ!!」
「ふーん。友人ね。」
シャルガドは嘲笑うかのような表情をしていた。
「なんだよ、その顔。」
「いや、興味深いと思って。」
「このっ…!」
ミアレムはシャルガドに殴り掛かりそうになった。
「やめて!ミアレミュ!」
「ミュ…?って…、あはははっ!」
ミアレムは圭の顔を見て笑い出した。
「ケイ…。お前、その顔…!」
ミアレムは笑い続けた。
「ん?なんだろ?」
気になったシャルガドは圭の顔を見た。すると、圭は面白い変顔していた。シャルガドはこらえきれずに笑い出した。
「なんでしょう…?」
気になった他の3人も圭の顔を見た。そして、見事にその3人も笑い出した。
「よーし!これで全員笑った!」
圭は変顔を止め、満面の笑みを浮かべていた。シャルガドたちは心の中で『なんて良い奴なんだ!!』と圭のことを認めていた。
「ケイと言ったか?さっきは疑ったりしてすまなかった!」
「大丈夫だよ!怒ってないから!」
「そ、そうか!」
「良かったな、シャルガド。俺の機嫌もケイのおかげで直ったしな!」
「そうだな!ケイ、もしよければ、お詫びをさせて欲しい!」
「えぇっ!?だ、大丈夫だよ!」
「ケイくん。素直にお詫びを受けてください。それに、私達としてはケイくんを客人と言うよりは、友人としてもてなしたいんです。」
「わ、わかりました。」
「ありがとうございます。」
アリキナは圭に向けて優しく微笑んだ。
「というわけで、明日はケイを含めた6人で飲むぞ〜!」
「え、俺はお酒飲めないんだけど…。」
「ケイ、大丈夫だ。シャルガドはあぁ見えて酒に弱い。だから、基本、全員、酒は飲まねぇよ。」
「そうなんだ!良かった!」
「おい、ミアレム!俺は本気で酒を飲むぞ!」
「はいはい。」
「はいは1回にしとけ!」
そんなやり取りを見ていると、圭は笑っていた。
「ケイ、笑ってる!なら…。」
ミアレムは圭の脇腹をこちょこちょし始めた。
「っははは…!!ははっ…!!」
圭は思い切り笑った。それを見ているシャルガドたちは微笑んでいた。
「ミ、ミアレム…!そろそろ…、出たいから…!やめっ!!」
「す、すまない。なら、そろそろ出るか!」
ミアレムはこちょこちょするのをやめ、立ち上がった。
「え…?ミアレムも出るの?」
「あぁ。そろそろいい感じに温まったからな。」
「そっか!」
圭も立ち上がった。そして、上がろうと歩んでいたが、一旦、ミアレムは立ち止まり、シャルガドたちの方を見た。
「明日、俺はケイの方に付き合うから、仕事出れねぇ!」
「おい!俺たちは明日と明後日は担当じゃねぇぞ!!」
「あ、そうだった。」
「忘れんなよ!あと、集合場所は分かるな?」
「あのレストランだろ?」
「そうだ!そこに、夕方、ケイと来いよ!」
「わかった!」
ミアレムは向き直して、圭について行き、小屋に戻った。圭とミアレムは持って来ていたタオルで体を拭き、服を着た。
「ケイ、服着終わったか?」
「うん!」
「じゃあ、帰るか!」
圭とミアレムは小屋を出て、来た道を戻り、家に帰った。
「そう言えば、ケイの泊まる部屋だけど。空いてる部屋でいいか?」
「うん!ありがとう!」
「あぁ。んじゃ、明日のためにゆっくり休めよ!」
ミアレムは自分の部屋に入ろうとした時、『ちょっと待って!』と圭が引き止めた。
「どうした?」
「今日は本当にありがとう!それじゃあ、おやすみ!」
圭は微笑み、借りた部屋に入った。圭の言動に一瞬、ポカンとしていたミアレムも、休むために部屋に入った。
圭は1人、ベッドに寝転がり、今日の出来事を振り返っていた。そして、1時間くらい経った頃にはスヤスヤ眠っていた。
そして、また圭は夢を見た。真っ暗な空間に圭が1人立っている状態だった。
「ここ、どこだろ?」
圭はキョロキョロしていた。すると、『浅間圭。そなたに1つ聞こう。』と言う声が聞こえた。その声は、男というよりは女の声だった。
「な、なんですか?」
「元の世界と行き来したいか?」
「…できるのなら。」
「良かろう。では、そなたのいる部屋にそなたの家のドアを転送しておく。」
「あ、ありがとうございます。」
お礼を言うと、その誰なのかわからない声との通信みたいなのが切れていた。
(なんだったんだろ…?)
そんなことを考えながらも、少しずつ深い眠りへとついていったのだった。
第3話目での登場人物
一人目はミアレム
男性エルフで、元気な奴。
友人を大事する。特に圭を気に入ってる。
アルドルを狩る班に所属している。
二人目はフィリア
女性エルフで、元気で優しい美少女!
ミアレムとは長い付き合いのようだ。
そして、エルフの村のレストランで働いてる。
三人目はシャルガド
男性エルフで、普段はお調子者だが、疑い深いところもあってしまう。
酒に弱い。
アルドルを狩る班の1人。
四人目はアリキナ
男性エルフで、丁寧な口調が特徴的な、紳士。
アルドルを狩る班の1人。
五人目はドラ
男性エルフで、ミアレム5人の中では1番大人っぽい性格をしている。
アルドルを狩る班の1人。
六人目はオルトン
男性エルフで、普段は物静かだが、シャルガドたちと絡むようになってからは少しずつ喋るようになった。
ミアレムたちには心を開いていて、圭にも心を開いた。
アルドルを狩る班の1人。
備考
アルドルを狩る班は3班あり、ミアレムたち5人はそのうちの1班だ。
また、エンデランとは天使が住んでいる島である。ちなみに、その逆の悪魔の住む島もある。