第2話 不確かな真実
圭は1時間目の授業から眠りについたまま目を覚ましていなかった。各教科の担当教師達も起こそうとしたが、圭は眠ったまま起きなかった。そして、昼休みに入り、圭をそろそろ本気で起こさないといけないと思った1人の男子が圭の席の傍に行った。
「おい、けーい!圭ってば〜!」
その男子が声をかけても、圭は起きなかった。
その頃、圭は夢を見ていた。どこか懐かしい夢を。だが、そこには知らない男の人がいた。知っているはずなのに知らない男の人。
『圭。』
圭を呼ぶ声は、どこか聞いたことのある声だった。
『圭。こっちにおいで。』
圭はその声が呼ぶ方に行った。すると、そこには知っているはずなのに知らない男の人がいた。
『朝ぶりだね。』
そう。その声の男の人とは朝、圭に指示した声の主だった。
『あなたは…?』
『俺の名前はトウマ。よろしく。』
『よ、よろしくお願いします。その…、朝はありがとうございます。』
『あれぐらいは大丈夫だよ!それよりも、圭。君は今、魔力切れで眠りについている。だから、俺の魔力を少し分けるよ。』
トウマは圭に向け、手を伸ばし、魔力を与えた。
『これで目覚められるよ。』
トウマは圭に背を向け、その場を去った。そして、圭は目を覚ました。
「ここは…?トウマさん…?」
「圭!お前、いつまで寝てんだよ!」
「えっ…?匠斗…。」
圭の傍にいたのは、幼なじみの徳森 匠斗だった。
「あれ、トウマさんは…?」
「トウマさん?誰だそれ?寝ぼけてんじゃねぇのか?」
「そうなのかな…?」
圭は寝ぼけてる頭を覚ますために、お茶を1口飲んだ。そして、時計を見ると時間は12時50分だった。
「ねぇ、匠斗。俺、どれぐらい眠ってた?」
「お前…。」
呆れた表情をした匠斗は、圭の目を本気で覚ますために頬を引っ張った。
「痛いよ…!匠斗!」
「我慢しろ!お前、実際は1時間目から眠ってたんだから!」
匠斗は思い切り引っ張っていた圭の頬を離した。
「ってて…。俺、そんなに眠ってたんだ…。」
「あぁ。だって、各教科の先生達がお前を起こすために開始5分間は奮闘してたからな!」
匠斗はその光景を思い出し笑い出した。
「そんなに面白かったの?」
「面白かったぜ!というか、クラスのほとんどがあの光景を見て笑ってたぜ!」
「そうなんだ…。」
圭はそんなことがあったのにも関わらず、眠っていた自分に呆れていた。
「なぁ、圭。お前、いつもは寝不足じゃないかぎり居眠りはしないのに、なんで今日はあんなに寝てたんだ?」
「それは…、ある人によれば魔力切れで起きれなかったらしい…。」
圭は少し言いにくそうにしていた。それに気付いた匠斗は、『そっか。話にくいことなのに話してくれてありがとな。』と圭をフォローした。
「信じるの?」
「まぁ、どうして魔力切れになんかなったのかは分からないけど、圭は嘘をつかないって信じてるから。」
「そっか。ありがとう、匠斗!じゃあ、そんな匠斗だからこそ、話せることがあるんだけど、聞いてくれる?」
圭は真剣な眼差しで匠斗を見つめていた。匠斗は圭のその姿を見て、『いつの間にこんなに強くなったんだろう…』と思い、微笑んだ。
「俺で良ければ、なんでも聞く。」
「ありがとう。実は……。」
朝、森に迷い込んだことや転移魔法のこと、そして、トウマのことを匠斗に説明した。
「なるほどな。信じ難いけど、何故かつじつまが合う。それに圭は昔から嘘だけはつかないから、俺は信じる。」
「匠斗…!」
圭は嬉しくて泣きそうになっていた。
「圭、泣くなよ〜!」
「う、うん!ごめん。」
圭は制服の裾で涙を拭った。その時、『浅間くん。生徒会長の人が呼んでたよ?』とクラスの1人の女子が圭に教えた。
「う、うん!」
圭は慌てて立ち上がった。
「お前、何かしたのか?」
「いや、してないけど…。それにたぶん…。あ、行かないと!匠斗、話聞いてくれてありがとう!」
圭は生徒会長である紅亜の待っている廊下に向かった。
「あ、浅間くん。突然、呼び出してごめんね。」
「いえ!全然、大丈夫です。それに…、朝のことだと思ったので…。」
「そう。それじゃあ、話す前に移動しましょ。」
「え?どこに…?」
「ついて来て。」
紅亜は歩き出した。圭も紅亜について行くように歩き出した。
(一体、どこに行くんだろ…。)
少し不安がありながらも、紅亜について行く圭。そして、辿り着いたのは誰もいない屋上だった。
「ここなら、話に割り込んで来る人はいないから気軽に話せる。だから、朝のこと説明してもらえるかしら?」
圭は1度、息を呑んだ。それから、1度深呼吸をして、口を開いた。
「は、はい。朝、迷い込んだ場所は森だったのは分かりますよね?」
「えぇ。それは分かるわ。」
「たぶん、あの森はこの世界のものではないです。」
「…なるほど。」
紅亜は圭のその発言に動じることなく、冷静でいた。
「それと、あの時、脱出できたのは…、トウマさんという人のおかげなんです。」
「トウマさん…?」
「はい…。あの時、トウマさんの指示通りに転移魔法をやらなければ、俺と藤見先輩は今、ここにいなかったと思うので…。」
「そうだったの。」
「はい…。それに、トウマさんがいなかったら、俺は今も眠っていたかもしれないですし。」
圭は苦笑いをしているが、紅亜は何のことか分からずにいた。
「ねぇ、浅間くん。眠っていたかもしれないってどういう意味?」
「あ、それは……、俺…、1時間目から昼休みの最初までずっと眠っていたようで…。」
「そんなに眠っていたの…?というか、授業をちゃんと受けなさい。」
「す、すみません…。でも、起きられなくて。そんな時に、トウマさんが夢に現れて、魔力を少し分けてくれたんです。そしたら、起きられたんです。」
「魔力を分けられて起きたというのは、つまり…。」
紅亜が何かを言おうとした時、閉まっていたはずの屋上の扉が開いた。そして、1人の少女が入って来た。
「それは魔力切れ。転移魔法はかなりの魔力を使うから、ほとんどの魔法使いはいざという時にしか使わない魔法よ。」
「あなたは誰?なんでそんなに詳しいの?」
「俺にもなぜそんなに詳しいのか、教えてください!」
圭と紅亜は真剣な表情で、その少女を見た。
「いいよ。私は穂乃村 梨香。ちなみに、そういうことに詳しい理由は言えない。これは私の正体に関わることだから。」
「じゃあ、穂乃村さんは…、人間じゃないの…?」
「それは教えられない。」
軽々しく答える梨香にイラついたのか、紅亜が『じゃあ、何なら教えられるの?』と少し怒り気味に聞いた。
「うーん、じゃあ、いいことを1つ教えとくよ。君は何くんだったっけ?」
「浅間 圭です。」
「圭くんね!圭くんの中には秘められたすごい力があるんだよ!」
「俺の中に秘められた力…?」
圭は分からなすぎて、きょとんとしていた。
「それに気付かないなんてもったいないよ!!すごくすごくいいものなのに!!」
「そうなんですか…。」
圭はそれが何なのか分からず、少し不安になっていた。
「浅間くんに秘められた力…。もしかして、朝の転移魔法も…。」
「ピンポーン!正解だよ!だから、こっそり聞いていたってわけ!」
「そうだったの。でも、盗み聞きは良くないわね。」
「そ、それは…、し、仕方ないと思って…!」
「はいはい。」
圭は紅亜と梨香のやり取りに目を向けずに秘められた力について考えていた。
「あの…、穂乃村さん…。俺の中に秘められた力って具体的にはどういうものですか…?」
「それは……。」
梨香は何かを言おうとしたが、それと同時に、その場にはいない別の存在の気配を感じ取った。
「ごめん…。それは言えない。と、とりあえず、私はそろそろ予鈴が鳴るから戻るね!バイバーイ!」
梨香は屋上から出て、教室に戻った。
「なんだったのあの子…。」
「穂乃村さん、すごかったですね…。」
何故か、気まずい雰囲気になっていた。それは、たぶん、圭の中に秘められている何かは、言ってはいけないようなものであるからだろう。
そして、丁度、予鈴が鳴った。
「そ、そろそろ、私達も教室に戻りましょうか。」
「は、はい。」
2人は教室に戻った。
その頃、教室に戻った梨香は1人で考えていた。
(なぜ、あそこで魔王の気配を感じたの…。もしかして、圭くんを狙っているのか…?)
梨香はこの瞬間、圭は魔王に狙われている。そう確信した。だが、それを圭に言うのも、不安与えるだけになるため、言わずにいた。
そして、5時間目が始まり、圭は授業に集中した。そこから2時間が経ち、午後の授業も終わり、圭は朝のことなどを自分自身で、確認しようと、急いで家に帰った。家に着くと、素早く、動きやすい私服に着替えた。その後、圭はクローゼットから使っていないカバンを取り出し、飲み物や軽食、日時確認用のスマートフォンなどの必要そうなものをいれた。
(今日は金曜日だから、明日、明後日もあの世界にいよう!そのために母さんには『友達の家に泊まって来る!』とでも、言っておこう!)
そうして、圭は考えた通りにして、朝のように玄関のドアを開けた。すると、そこには朝と同じ草原が広がっていた。圭は拳を握り、勇気を出して、草原に1歩、足を踏み入れた。
その草原は、そよ風が吹く、物静かなところだった。
「いい場所だなぁ。」
そう思った時、ドアを閉めていなかったことに気がつき、急いでドアを閉めた。
そして、圭はその場に1度、寝っ転がった。
その頃、圭を見ている3人はというと…。
「とうとう、足を踏み入れてしまったか…。もう後戻りはできないよ、圭。でも、いつか圭に危険が及ぶ時は圭の前に現れよう。大切な俺の弟を守るために。」
そう圭に危険が及ぶ時に助けに行くと決意する、トウマ。
「この世界に来たか!さぁ、力を解放していけ。本当に解放された時は、迎えに行こう。」
圭がこの世界で力を解放していくことを望み、そしてそれを狙う者。
「この世界で、近い未来に起こる災難を食い止めてくれる者が来た…。さぁ、その時までに力を強めよ。」
圭の成長と、圭のもたらす奇跡を信じる者。
この3人がどのように圭へと接触していくのか。そして、これから圭の出会っていく者たちとは…。
2話からの新キャラ
・徳森 匠斗
圭の幼なじみであり、親友である。
性格は明るく、誰とも親しくできる。
運動部に所属しているため、運動神経抜群!
・穂乃村 梨香
圭の隣りのクラスの女子。
男子から、人気があるようだが、本人は興味がないらしい。
性格は結構明るいが、普段はクールに振舞ってる。
ここで圭の幼なじみの匠斗から一言。
「俺は徳森匠斗!
今回は圭の寝すぎなところなど気になるところは多いんだけど。でも、色々聞いてみると、なんか苦労してそうだった。異世界とかはあんまりわかんないだけどな!(笑)
それでも、俺は圭の話を信じてやろうと思う。この先もずっと。皆さんも圭のことを信じ、応援してやってください!」