カーディの町と新しい武器8
(崖…)
高さは10メートルちょっとで、降りれないことはなさそうだが、気づかなかったら落ちるところだった。
「どうしました?」
「んーー」
今の私のHPでは、飛び降りたら死んでしまうだろう。レイレイもわからない。
しかし、足跡は崖の下に続いている。
(落ちたのか降りたのか…)
とにかく進んで見なければわからない。
「降りるね」
私は足を段差に掛け、そっと崖を降り始めた。時々手を掛けた箇所が軋んでドキッとする。
(コントローラーで良かった……)
そうして、なんとか崖の下の地面に足を着けると、息を吐いた。
「レイレイ、ちょっとそこにいてね。」
「はい!」
(…)
このNPCの子は、はい!と言うけれど、ちゃんとわかっているのだろうか。
なんていう思いが頭を掠めた。
「ルイルイー」
猫を探すでは無いけれど、とりあえず名前を口にしながら進む。
すると、すぐに反応があった。
「あの…だれか居るのですか…?」
かすかに聞こえた声に安堵する。
「ルイルイ!」
しかし。
「待って、待ってください…!こっちにはスターウルフが…」
(スターウルフ?)
モンスターの一種だろうか。
そう考えながらも、今の私にはルイルイを無事に救出することが第一優先だったので、なんとか逃げれば大丈夫だろうと思っていた。
それに、ルイルイの近くにモンスターがいるのならば、急がないと彼女に襲いかかる可能性がある。
(大声あげちゃってるし……)
そして、私は駆け足で足跡を辿った。
「で……なにこれ。」
洞窟のような穴が空いた、岩の山。というか、上を見ればそこにも地面があるようなので、私が降りて来た崖のようなものだろう。
それはいい。が。
その岩壁の穴の前にたむろした、角の生えた狼の群れ。
(ないわ…)
もはや数が多すぎて向こうが見えないレベルである。
しかし。
「行くしかない、か…」
私は棒を両手で構えてスターウルフとやらの前に姿を現した。
ちなみに、足跡はその先の、そう、洞窟へと続いている。
(ひとまずルイルイは無事のようで…)
狼たちの視線が私に集まる。
途端に響く、獲物を狙うモンスターの唸り声。
(とりあえず、突っ切る!)
「はぁぁ!!!」
棒を振りかぶって、全速力で走る。
そして、次々と、私に襲いかかってきた狼を叩く。微量だが、ダメージは入っているようで、一旦は怯んで引いてくれる。
しかし、私にこそ相手の攻撃を防御するすべはないわけで、引っ掻かれたら引っ掻かれた分だけ、噛まれたら噛まれた分だけ着々とダメージは溜まって行く。
つまり、僅かしか残っていなかった私のHPでは、すぐに尽きてしまう…。
(ダメだ、やばい)
今纏わりついていた狼をなんとか蹴りで引き剥がすと、全速力で逃走した。
狼の見えないところまで。
幸い、知能はそこまで高くはないようで、追ってくることはなかった。
「はぁ、はぁ、」
いくらゲームだと言っても、指は痛いし精神的にバトルは疲れる。
そして、今死ぬぞと言わんばかりに真っ赤に染まったHPバー。
どうしろと。
「回復ポーションでもあればなぁ、」
(ん?)
私は、すぐにウィンドウを操作して、アイテム欄に書かれたそれを取り出した。
「やった!」
(HP回復ポーション…!二本も!ああ、カナザワさん。あなたは神か…)
私のHPは当然ポーション一つで全快した。
「よし。いくぞー!」
パンと現実で自分の頰を叩き、気合いを入れる。
再び狼の群れの元へ向かうと、さっきとほぼ同じ状態で迎えられた。少々違ったのは、狼たちが最初から警戒心丸出しなところだろうか…。
「まずは、[正面突き]!」
スターウルフ(コイツら)の、強さ調べだ。
駆けて行ってからの真正面からの私の攻撃。狼は、避けることもできずにその攻撃をまともに食らった。
しかし、まだ倒れない。
「まだまだっ、[横薙ぎ]!」
狼はまたも食らって素直に吹っ飛ばされた。
(でもまだ死なないのか…)
私はすかさす駆けて行ってその腹を思い切り蹴りつけた。
狼の体は霧散する。
「三回か…」
群れでいるにしては手強い。
「全部倒すのは無理かな」
ならば、ほとんどダメージを負わないで、ここから洞窟までを往復する手立てを考えなければならない。
(一気に駆け抜ける?いや、行きはともかく、ルイルイと一緒には難しそう…)
そう考えたのだが、
(それなら、とりあえずルイルイのところに行ってから考えればいいんじゃ、)
という考えに及んでしまい、私は棒を横向きに構え、AGIにモノを言わせて狼の群れに突っ込んで行った。
しかしあまりに纏わりついてくるので、途中でその勢いも削がれてしまう。
上から飛びかかって来たかと思えば、今度は足を噛む。
そこで考えついた技。
小学校のとき運動会でやったなぁ思いつつ、棒の端だけを持って体を回転させた。
「一人台風の目〜!!」
つまりは遠心力を利用して棒を振り回しているだけである。しかし、かなり勢いがつくので攻撃力があるし、私に近づくと棒に打たれるので防御にもなる。
(いい技!)
そこで、スキル獲得の声が響いた。
《スキル[台風の目]を獲得しました。》
運営とネーミングセンスが丸かぶりの私であった。
多少道は開けて来たものの、なかなか狼の数は減ってくれない。
「よし、[台風の目]!」
獲得したばかりのスキルを発動させる。
すると、私が棒を振り回すと同時に、その周りに大きな風が巻き起こった。私を取り囲むように、小さな竜巻のような旋風が。
「おおお…」
振り回すのをやめると、風が嘘のように止み、狼はほとんどがやられて素材やアイテムになっていた。
「強ぉ、」
まあなんにせよこれで道は開けた。
私は、わずかに残る瀕死の狼を殴りながら進み、ついに洞窟(?)までたどり着いた。
「ルイルイ…?」
「あ、さっきの声の人ですね!無事でよかった……」
私が洞窟の中に呼びかけると、すぐに近くの岩の陰から反応があり、続いて、可愛らしい巻き毛の女の子が顔を出した。
「私がルイルイです…!」
カーディの「町」です
※間違ってた