カーディの町と新しい武器7
そして同じことを繰り返すこと十数回。
ついにゴーレムが地上に降りて来た。
ゥウゥ…という呻き声のようなものを発しながら。
そこで、一つ思い出したことがある。
(剣があれば[飛ぶ斬撃]が使えたのか…それならこんな時間食わなかったのに。)
今考えても仕方ないことだった。
ちなみに、既に私のHPは4分の1ほどしか残っていない。
しかし、私も体術や棒術(槍術?)のスキルを少しばかり獲得し、戦えるようにはなっていた。
体術の場合、素振りというか、エアー体術をやってもスキルは得られないらしい。先ほど木を殴ったらあっさりと獲得できた。
(これで、ゴーレム倒してなんの意味もなかったら悲しいな)
軽く息を吸って吐くと、私はゴーレムに向かって駆け出した。
「[正面突き]!」
見事命中。そして、怯んだところを、
「[足払い]、と、[胴薙ぎ]!」
足払いはもちろん自分の足でやった。コントローラーでもある程度バリエーションあったからできたことだ。
現実でも体術をかじっていた私なので、これだけは脳操作でも問題なく出来るな、と少し関係のないことを考える。
ともあれ、これでゴーレムに少しではあるがダメージを与えることができた。
(私がドジさえしなければ、倒せる…!)
そこで、突然ゴーレムが奇行に走った。
いや、レイレイに向かって走った。
「はぁ?」
「大変!ゴーレムがこっちに来ます!」
レイレイはそう言って、持っていたポーション(モンスターの動きを遅くする効果のある)をゴーレムに向けて投げた。
当然ポーションの瓶はゴーレムの体にあたって砕け散り、中身の液体がゴーレムへ降りかかる。
そしてゴーレムは。
「レイレイ逃げ、あ、いや、ちょっとそこにいて」
「は、はい!」
(ポーションの効果?いや、そんな。たかがハンデでしょ?)
私は考えた。
リアルにスローモーションと化した動きをするゴーレムを見つめながら。
すすす…と歩み寄って、棒でその体を突つく。
「うーん」
ゴーレムは、多分瞬時に振り向いたつもりだったろだろうが、実質、たっぷり10秒かけて、こちらを向いた。
「…うん!」
その後、不思議そうに私を見ていたレイレイを視界の隅に置いて、私はナメクジの如くのっそりと動くゴーレムを棒で叩き、突き、時には蹴りを入れながら順調にダメージを与えていった。
なにしろ、動きが遅すぎて攻撃を気にする必要がないのである。
側から見たらヤバい人に見えなくもないが、そこはゲームだしモンスターなので良しということで…。
「ありがとうございます!これでおばあちゃんに花を届けられますね!」
レイレイは、私が倒したゴーレムからドロップした〈癒しの千寿草〉を大事そうに抱えてそう言った。
「うん、でもルイルイも探さなくちゃ。ゴーレムのいた辺りにはいなかったから、何処にいるかさっぱりなんだけど…」
そう、第一の目標であった花を手に入れた私たちは、そこからはなんの当てもなく森をぐるぐると彷徨っていた。
「そっか、お姉ちゃんがまだ…」
レイレイが途端に悲しそうな顔をする。
けど、私は言いたい。
(もしかしなくても忘れてたな…自分の姉なのに。)
心の中で、そっとルイルイを慰めた。
「こういう時[探知]とかできると楽なんだけど、」
そんなスキルあるのだろうか。ありそうではあるが。
「お姉さん!それなら、いいものがありますよ!」
レイレイはそう言って私の手に小瓶を握らせた。
「飲むと人が通った3日以内の足跡が見えるようになるポーションです」
「なんでもありか」
ゴーレムのことで、ハンデはありがたく受けておくべきだと学習した私は、大人しくそのポーションを飲んだ。
そして、それを飲み干した私の眼に映るのは、地面に浮かぶ黄色い足跡。
(ひとつだけ、か)
「行こう、レイレイ。」
「はい!」
(効果切れがあるのかは知らないが、)ポーションの効果が切れる前にと急ぎ足で足跡を追う。
途中遭遇したモンスターは棒で叩くか蹴りで退かして、先を急いだ。
その、走っていた私の足が、急に地面を崩す。
「っっ……」
(崖…)